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TE  作者: 真杉圭
6日目
44/45

44話

 照れた香歩は御しやすく、雅が休息を取るように言うとすぐ眠ってしまった。


 雅は皐月、神奈、近藤を連れて外に出て、自分がパーフェクトであること、香歩との関係を明かした。



「確か、今回はゲームが異質だと楠木が言ってたんだよな」


「ああ、さっきセーフゾーンで話した通りだ」


「それは俺が記憶を失っていたからだ。奴らの主目的は俺の性能チェックと、戦いに身を置き力を出さざるを得ない環境を用意して記憶を取り戻すことにあったに違いない」



 雅は突然、頭を下げた。



「因縁の人間が集められ、ルールの縛りなく戦うようになっていたのもそのせいだ。俺がいたから君らは呼ばれた」


「それは違うよ」



 話を盗む聞きしていた志郎が出てきた。雅だけは驚かず、怒ることもなく、淡々と声を出す。



「まあ、この話は俺が謝りたかっただけだからいいんだ。それより、順序が逆だが先に言おう。志郎、クリア条件を見せろ」



 志郎は雅に言われ、青ざめた。その態度で何か隠しているのは丸わかりだった。それは当人もだ。



「僕はもう無理なんだ。お父さんの生存。それがクリア条件だから」



 自分に助かる見込みがないのだ、と志郎は言った。雅に看破された時の方が挙動不審で、今は怯えた様子もなく口にした。父を殺した時には覚悟を決めていたのだろう。



「共通ルールで助からないと決まった訳じゃない。確かにここのルールは悪趣味だが」



 雅は途中で口を閉じ、何やら考え事を始めた。それはすぐ終わり、また口を開く。



「志郎、やっぱり見せてくれ」



 志郎が端末を見せると、雅は鷹揚に頷いた。



「予想通りだ。いいか、志郎の条件はプレイヤーナンバー2の生存。田原和人のプレイヤーナンバーは10だ。アイツは志郎が逆らわないよう、自分のナンバーを誤魔化してたんだろう」


「口を挟んで済まない。楠木の情報だが、プレイヤーナンバー2は樋口のはずだ」


「近藤の言う通りだ。釜田の端末にあったメモ代わりのメールにもそう記載されていた。お前の行動で自分を救ったんだ、志郎」



 よかったね、と神奈が志郎の頭を撫でた。志郎は手を叩くようなことはせず、呆然と立っていた。死を覚悟していたとはいえ、幼い志郎にとって死は恐ろしいものだったのだ。


 暖かい雰囲気が漂う中、皐月が雅に向かって、嫌な笑いをしてみせた。



「それを言うなら、小松さんもクリアするつもりないでしょ?」


「僕もそれが言いたくて出てきたんだ。雅兄さん、僕と同じ感じだったから」



 雅は皐月と志郎の顔を見て、わざとらしくため息をついた。



「根拠は、と訊いて逃げたいところだが、お願いをするためにも降参だ。まあ、天ヶ瀬には個別ルールを見せたからな」



 雅が全員に、「世界を救え」というルールを見せると全員が黙った。このゲームは初めから宮田歩を逃がすつもりがなかったのだ。パーフェクトとして世界を牽引するしかない、と圧力をかけていた。


 


「小松のTEを失くすという望みは、テンポラリーはどうするんだ?」



 近藤が訊いた。彼の口調は雅が望みを諦めるとは思えない、という風だった。しかし、その考えは小松雅という人間を完全に理解していない証左だった。


 その問いに答えたのは神奈だった。彼女も雅を誤解していた。 



「大丈夫よ。今もリーダーなしで活動してるわ。でも、香歩のような窮地で他人を思いやれる子に、トップに立ってもらえらたとは思う。彼女、リーダーに相応しいと思うわ。TEにも目覚めたのでしょう?」


「僕も同意できますけど」



 皐月はちらりと雅を見て不敵に笑った。



「お二人の関係を聞いたら反対ですかね」


「ああ、俺が事情を明かしたのは香歩を巻きこまないでくれ、と頼むためだ。そして、彼女のTEを治してやってほしい」



 小松雅にとって、樋口香歩の望みを叶えることが再優先ではあるが、彼女の生存が前提としてあった。故に、香歩の身に危機が迫っているなら、まずそれを排除する。



「わかりました。散々救ってもらったもの、雅さんの意向を汲みましょう」


「安心してください。七重さんの監視は僕がしますから。こんな情報を知ったら、何もせずにはいられません。それに、こんなものに巻きこんでくれた運営を潰さないなんて無理です」


「俺も手伝おう。戦うしか能のない人間だ。どこかで戦うならこちらのほうがやりがいがある。金原もそれならば、いいや、これはエゴだな」



 神奈、皐月、近藤と雅の望みに応えることを約束したが、志郎だけは黙っていた。



「そんなのだめでしょ。兄弟喧嘩してくれるんじゃなかったの? 宮田歩なら、何だって叶えられるんじゃないの? 香歩ちゃんも僕も、雅兄ちゃんに死んでほしくないよ」



 志郎は涙ながらに訴えた。ついさっきまで死を受け容れていた少年が、人の死を悔やんでいた。



「ごめんな。すぐには叶えられない。でも、約束するよ。俺は死なない。だから、香歩と待っててくれ」



 雅は志郎に立てた小指を伸ばした。志郎も同じようにし、小指を絡ませた。

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