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TE  作者: 真杉圭
4日目
18/45

18話


 女性たちのシャワーが済み雅が皆がいるところに戻ると、福田が雅に駆け寄ってきた。


「どうだった?」

「何が?」

「はあ? 雅さん、あんたそれでも男かよ。あ、わかったぜ。意地悪な人だなあ。もしかしてドS?」


 福田はそう言って、わかりましたよ、と笑う。そして雅に密着し、耳元でこう囁いた。


「覗いた感想に決まってるじゃないっすか」


 覗いた前提で雅に聞いてくる福田。濡れた髪の女性らを見て下品に緩んだ彼の顔から、決して冗談などではないことはわかった。


「見てないし、しようとも考えなかったよ」


 雅は福田から離れ、男性陣にシャワールームへ行こうと促した。

 男性は数が多いので、半分は外で待機し、半分は中で待つことになった。

 マコト、福田、楠木、近藤がまず入り、残りが外で雑談している。


「夏でもこの島がまだ涼しいからマシやんな。じゃないと学ランなんか着てられへん」

「瓜生の学校は制服が自由なんですね」


 そう言った皐月はかなりしっかりと制服を着ていた。フィールドを練り歩いているので汚れはあるが、気品なようなものを感じる装いである。それに対し、謙二郎は学ランにTシャツと正規の制服とは言い難い恰好だった。


「せやで。だから制服じゃなくて、標準服って言うんや。私服OKやけど、選ぶんダルイし、大体標準服着てるで」

「僕の学校も服装自由だけど、夏はポロシャツだね。カッターシャツ着ないのはそっちの流行りなの?」


 春人がよれたポロシャツをつまんで笑う。


「そんなことないなあ。夏はポロシャツも多いけど。俺はカッターシャツというか襟付きの服が苦手やねん」


 学生トークになっているのを気遣ってか、謙二郎が雅さんはどうやった、と話を振ってきた。


「俺も謙二郎と同じだったよ。Tシャツ学ランはしてなかったけど。志郎の行く予定の中学校は?」

「多分、ポロシャツ。それにブレザーかな。公立の中学はだいたいこうだと思うけど」


 それからも雑談は止まることなく盛り上がった。その最中に、皐月が雅を呼び出した。

 少し距離を取るために待機場から歩いたが、その間に何の用かなどと訊く必要はなかった。

 皐月はいきなり、雅に端末の画面を見せた。そこには彼の個別ルールである「端末を?台破壊する」が記されていた。?を示すように指を三本立てている。

 

「別に強制ではありません。信頼を勝ち得るための行動です」

「そういっても、見せなかったらこちらの信用は薄れるだろ」

「そうでしょうか?」


 白々しい問答だったが、どちらも笑みを絶やさない。


「お前、なんか、雰囲気変わったな。俺も見せるよ」


 雅の条件である「世界を救え」を見た皐月は口をだらしなく開け、しばし黙った。


「これは慎重になるわけだ。他に知っている人は?」

「いない。お前だけだ」

「意外ですね。樋口さんには見せているものだと」


 プレイヤーの中では俯瞰的に観察できる人間である皐月に、そういう風に思われているというのは、第三者から見て明らかだということとなる。

 なので、殊更に否定はせず、雅は曖昧な表情をした。自分だけでなく、他人も自分が香歩に特別な感情を抱いている、とわかるのだと自覚した。

 

「何のいたずらかそういうルールだ。ルールの変更はないらしいし、個別は難しいだろう」

「ですね。こちらも何かわかれば知らせます」


 足音が聞こえてきたので、雅たちは会話を止めた。


「交代だ」


 近藤が雅たちを呼びにきたようである。

 シャワールームに入ると先に謙二郎と春人が入っていた。何故か、入ったはずの福田もいる。

 濡れた前髪を後ろに流した状態で、じっとガラスの向こう側を注視していた。


「そっちの気でもあるんですか?」


 皐月が冗談ではない語調で訊いた。


「ばっか、ちげえよ。あの三人の肉体美を見せつけられたから、普通の体を見たかったんだよ」

「近藤は見るからにわかるが、他の二人もそうなのか」

「ああ、マコトさんもすごかったから意外だぜ」


 別に俺が貧相なわけじゃなかったな、と謙二郎と春人の裸体を見て満足した福田は外に出て行った。

 謙二郎と春人の次は皐月と雅が入ることになった。

 雅は自分の体を見て、少し感心した。鍛えていると、認識される肉体だったからだ。

 皐月よりも雅のほうが早く出たので、待っていた志郎にシャンプーを渡そうと手を伸ばす。すると、志郎は腕で自分の顔を隠すようにした。

 彼はそのまま硬直し、少しずつ腕をどけ、雅のシャンプーを受け取った。


「ありがとう」


 志郎は礼を言い、服を着たままシャワールームに入った。扉が閉まったがすぐ開き、扉の隙間から脱いだ服を落とした。


「お年頃やなあ」


 謙二郎の発言は的外れだと雅は思ったが、一々訂正しない。体に見られたくない痕でもあるのだろう。彼らは志郎が好戦的プレイヤーである和人の子である、と知らないのだから無理もないのだが。

 皐月が上がりまた雑談をしていると、皆の端末の画面が一斉に点灯した。



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