城壁破りのハッカー
【第95回フリーワンライ】
キミの築いた城塞
私はそれが欲しい
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
チカッ
アイドリング状態だったサブ・モニタが点灯し、リアルタイムでメッセージが打ち込まれてくる。
<次いつガッコくんの>
ちらりと一瞥して返す。
>行かない
<なんで?>
間髪入れず帰ってくる純粋なお節介。だからこそ鬱陶しい。
>今時,部屋だけでなんだって出来る.勉強も出来れば買い物も出来る.運動だってVRで……スペース作らなきゃだけど
<食事とトイレも部屋で出来るようになってから言いな XD>
コイツ……! ああ言えばこう言う……!
>少なくとも学校に行く必要なんてない
<あくまで部屋から出ないって言うの? 強情っぱり >:(>
コンタクトが途絶える。
ふん、と鼻を鳴らして腕を組む。今度「ありがた迷惑」を実感出来るプログラムを組んで送りつけてやろうか。
しばらくすると、サブ・モニタにファイル受信を求めるポップアップが出てきた。送り主はアイツだ。
>なんだよこれ.結構デカいけど
返答はない。
>なんなんだって聞いてんだよ.パスついてるし.捨てるぞコラ
<自力で開けてみな、ハッカーさん :p>
>なんだと
安い挑発だ。馬鹿馬鹿しい。
……………………
絶対開けてやるからな!!
*
十四桁のパスワードを解析するのは早々に諦めた。一致させるのは天文学的な確率だ。とはいえゼロじゃないため、念のため解析コンピュータに丸投げ。
表玄関が厳重なら裏口を叩くまで。圧縮されたファイルの暗号化規則さえわかればデータを復元出来る。メジャーどころの暗号化パターンを入力したお手製ソフトで探りを入れる。
該当なし。
だったら……
*
開いた! 解錠に一週間もかかってしまった。
まったくたいした城壁だった。
最新の方式ばかり目が行ってしまったが、蓋を開ければなんのことはない。今はもう廃れた昔も昔、大昔の第二次大戦中に使われた暗号化パターンを使っていた。八方手を尽くして資料を手に入れるのにも一苦労した。
ふははは。これで俺がウィザード級ハッカーだとアイツも認めるだろう。しばらくは静かになるはずだ。くだらない学校なんかじゃ絶対に身につかないスキルだ。
口元に浮かびそうになる笑みを噛み殺しながら、メッセージを打つ。
>おい,解いたぞ
書き込んでから、しまった、と思った。
有頂天になってたから気付かなかったが、今度は一週間かけたことでネチネチ言われるかも知れない。
しかし、待てど暮らせど、返事はなかった。
一方的に送りつけてきておいて、なんなんだいったい――
せっかく解いたのに――
吠え面かかせてやろうと――
結局なんだったんだ――
……………………
ああ! 気になる!!
*
「はい」
呼び鈴を押すと、存外素直に返答があった。
得意満面で迎えてやる(迎えるのは向こうだが)。きっと驚くだろう。
「はあ……はあ……はあ」
しまった。意外と息が上がってそれどころじゃなかった。それでも切れ切れに宣言してやる。
「やったぞ、解いたぞ、ファイル」
「簡単だったでしょ?」
それは完全に予想外の言葉だった。
「え?」と、思わず間の抜けた声を出してしまう。
「閉じこもったお城から出てくること」
いつぶりかわからない服を着て。靴をつっかけて。電車に飛び乗って。息を切らせて走って。
――まんまとやられた。
『城壁破りのハッカー』了
「データの防壁」と「自分の城(部屋)」を城壁(城塞)にたとえて破るというダブルミーニングをしたかっただけー。