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大好きな笑顔
三日後。
夫は静かに意識を取り戻した。
わずかに動く指先で私の服を引っ張って知らせた。
私は夫が帰ってきたことに喜びながらお医者さんの診断を待っていた。
でも私を待っていたのはまたしても絶望だった。
交通事故で頭をぶつけた時に残った後遺症。
奇跡的に身体には後遺症が残らなかった。
でも脳に残った。
重度の記憶障害だった。
夫は事故があったことは勿論、自分の事も私の事も何も覚えていなかった。
夫は私の大好きな笑顔で
「君は誰?」
そう訪ねてきた。
再び絶句した。
本当に何も言えなかった。
同時にこれからの事を考えずにいられなかった。
でも夫は変わらない笑顔でずっと私を見つめていた。
私にしか夫は支えられない。
そんな思いがふと浮かんだ。