SS風リプレイ@下僕たちプレ01(後編)
日時:7/27
システム:SW2.0
シナリオ名:いちごパンツ
キャンペーン名:ヴァイトと愉快な下僕たち(プレセッション)
GM:upi氏
PL:4名
自PC:ブロウ(ラルヴァ/1女/拳士5*神官5*斥候5*学者5*錬技2*騎馬1*軍師3)
相手PC:
ヴァイト=クロイゼル(ドレイク/男/戦士4*神官5*学者4*錬技1)
ジャスミン(ルンフォ/女/戦士6*野伏5*錬技5*占者2)
ナルザス・ルーザー(ナイトメア/変態/真魔5*操魔5*斥候1*学者1)
内容:
その夜は満月だった。
煌々と明るく夜空を照らす月の灯りで、街は仄かに明るい。
部屋の中に差し込む月灯りに背中を押されるように、ソレはムフフっと怪しい笑みを浮かべていた。
身体に纏うマントをバサリと翻したソレは、軽く腕を組んで、徐にピンっと髭をはじく。
「さぁって、全国津々浦々、やり場のない迸りに悩む青少年達よ! 今夜もまた、待望の夜がやってきましたよ!」
囁くよりも小さな声を張り上げ、ソレの気分は舞台に上がった役者。
芝居がかった仕草で、胸に左手を当て、右手を空に掲げる。
窓から差し込む月の灯りが天然のスポットライトと化し、ナルザスを照らしていた。
「今日の寝起きドッキリは、巨乳美女の女王様か、はたまた、筋肉カチカチ乙女のメイドちゃんか……さぁ、いざ行かん」
マナスタッフを持ち、ナルザスが廊下に通じる扉を開けると、窓のない廊下は暗く、闇に覆われていた。
暗視を持たないナルザスが、光源を求めてライトを唱えようと口を開く。
その途端、耳をつんざくような悲鳴が廊下に響き、慌ててナルザスは開いた扉の陰に隠れた。
その悲鳴が聞こえたのは一瞬で、すぐにくぐもった微かな音となり、静寂の闇の中に消えて行く。
ごくりと息を飲むナルザスが、ジッと廊下で辺りを窺っていると、三か所の扉が開いた。
ナルザスも今、部屋から出たばかりだと言う風に、扉の陰から飛び出し、部屋から出て来た仲間たちと顔を合わせる。
悲鳴が聞こえたためだろう、厳しい顔をした彼らは顔を見合わせ、示し合わせたように廊下の奥を向く。
四人が見た廊下の突き当たりから、月灯りが漏れたのだ。
廊下には窓が無い。
廊下に漏れるはずが無い月灯りが差していると言う事は、部屋の扉があいていると言う事で、それぞれが頷くと、静かに動き出した。
素早く動いたブロウが、微かに開いた扉をソッと覗き込む。
「っ!!!」
息を飲んだブロウは、バッと扉を勢い良く開いた。
部屋の中には、いちごパンツを口に詰められ、両手両足を抑えつけられたミミの姿があったのだ。
ミミは服を身に着けておらず、幼い白い身体が月灯りに照らされていた。
「ミ、ミミちゃんっ!」
ブロウの後に続いたジャスミンも、その余りの異様さに慌てて部屋に飛び込んだ。
「ヴァイトは廊下で待機していなさいっ!」
「は、はぃっ!」
後ろから聞こえる足音に、反射的にブロウは叫ぶ。
寝起きのヴァイトは幼女の一糸まとわぬ姿を見ることなく、ブロウの指示に従い、部屋に背中を向け、廊下に立ちすくむ。
「なんだ、ボガ?」
縄で括られたミミの両手両足を抑えた2人のボガードと、斧を振りあげたボガードが乱入者の姿に驚いたように声を上げた。
ミミが何かを叫ぶが、もごもごと声にならない。
「その子を離しなさい」
油断なく構えながら、ブロウがボガード達に告げるが、ボガード達が何か答えるよりも早く、能天気な声が後ろから響いた。
「幼女と素敵な夜を過ごせる会場はコチラですね♪ ボガードさんたち、貴方たちのヤりたいことは分かります! えぇ、十二分に分かりますとも」
場違いな程明るい声を出して、鼻息荒く部屋に飛び込んできたナルザスだったが、四肢をベッドに磔にされ、斧で両手足を落とされんとする状況に、ポムッと手を叩く。
「なるほど! 斧を使った特殊なプレイですね! フフフッ、それも大好物です!」
「何を言ってるボガ?」
不可解だとばかりに眉根を寄せ、仲間と顔を見合わせたボガード達は、侵入者たちに向かって尋ねる。
「お前ら、大丈夫ボガか?」
「コイツ泥棒。俺ら金盗られたボガ」
「お前ら、金、無事ボガ?」
ボガード達の心底心配していると言った声に、ブロウとジャスミンは首を傾げた。
「お金?」
どうにも話が見えないと顔をしかめたブロウは、とりあえずお互い落ち着かなくてはと「チョット待って」と声を上げた。
「その物騒な斧を、その子から離して貰えるかしら?」
「出来ないボガ」
「どう見ても、アナタたちが襲ってるようにしか見えないのよ」
「離したら、逃げるボガ」
ボガード達はブロウの言葉に耳を貸さず、即座に首を振って答えた。
そして、訥々と語る。
曰く、ミミは泥棒で、自分のパンツを見せて1Gせしめたのは、財布の場所を確認していた。
曰く、酒場の客の財布をスったり、宿泊客の財布を盗んだりした。
曰く、酒場でのスキンシップは財布の場所を確認するためで、可能ならばその場でスリ、無理ならば言葉巧みに宿泊している部屋を聞きだし、夜、盗みに入った。
曰く、自分たちは被害者で、今後二度と泥棒出来ないように両手両足を切り落とすところである。
ボガード達の言葉を証明するかのように、床には十数個の大小様々な財布が散らばっていた。
「……切りっ!」
ジャスミンの口からヒュッと息が漏れた。
その後、声にならない言葉がジャスミンの口から発せられるが、パクパクと口が動くだけで、ボガード達の耳に届く事は無かった。
ブロウがブロウはフゥと息を吐き、ボガード達に呟く。
「流石にソレは見過ごせないわ」
ブロウに助けを求める様な眼差しを向けていたジャスミンの目に光がともる。
逆にボガード達はムッと表情を強張らせた。
「泥棒に制裁ボガ」
フガッと鼻息の荒いボガード達にブロウは静かに言葉を続ける。
「こんなところで、そんな事をされたら、お店の迷惑よ」
「そうか、迷惑ボガか」
「えぇ。血まみれのベッドを使いたい客は居て?」
ゆっくりと尋ねるブロウの言葉に、ナルホドとボガード達は顔を見合わせた。
考えてみれば、悪人の血にまみれたベッドで休みたい客などいない。
自分たちは、泥棒に制裁を加えたいわけであって、店に迷惑をかけたいわけではないのだ。
「忠告、ありがとボガ」
頷きあったボガード達はミミの身体を担ぎあげようとした。
「お前ら、外で切断するボガ!」
「ボガボガっ!」
ボガード達の威勢のいい掛け声は、入口に立っていたヴァイトの耳に届く。
何よりも先程から物騒な会話が室内でされていたのだ。
気になって仕方が無い。
「いったい……何の話をしている?」
ヴァイトが振り向こうとした時、ブロウの静かな声が部屋に響く。
「待ちなさい。この宿から、子供が誘拐されたって評判が立つのも困るのよ。だから、明日この子がチェックアウトしてからにしなさい」
「待てないボガ」
子供とはいえ立派な泥棒なのだ。
ボガード達は自分たちが刑を執行するのだと聞く耳を持たない。
「手足のもがれた肉ダルマ。上からも下からも、ぐっちょんぐっちょんに犯された後、ボロ雑巾のように店に売られるんですね」
「売られるボガか?」
ナルザスの言葉にも馬鹿にしたような表情を浮かべるボガード達。
「甘いボガ。切断してショック死ボガ」
「私は純愛から合体にいたる方が浪漫溢れて好みですね」
パチンとウィンクするナルザスに、ボガードは呆れた声を上げた。
「乳のないガキに興味は無いボガ」
「乳の大きさが正義ボガ」
「ガキとの合体なんて、興味あるほうがおかしいボガ」
「え? えええーーー! ちょ、おま……お前の目は白目か!! よく見給え!」
ナルザスの絶叫が辺りに轟き、ボガード達は迷惑そうな顔をして「近所迷惑ボガ」と突っ込んだ。
そんな寸劇の様な小芝居をしている間に、室内に入ったヴァイトは、ショックを受けているジャスミンに事情を尋ねる。
期せずしてナルザスが時間稼ぎになっている状況下で、ジャスミンがカクカクシカジカと騒ぎの理由を説明すると、ボガード達に向き直るヴァイト。
ヴァイトの威圧的な雰囲気に、ボガード達は飲みこまれ、ピシリと硬直した。
「財布は本当にミミが盗んだのか?」
「そうだ、こいつが盗んだボガ」
「ミミからの証言も聞きたい」
即答するボガードにヴァイトが告げるが、必要ないと口々に叫ばれた。
ボガード達に担ぎあげられたミミは、涙でぬれた目でヴァイトに助けを求めている。
「ヴァイト、泥棒を被害者がリンチしてるだけよ」
「お、お姉さま……そんな見殺しにする様な事は!」
自業自得だと面倒事にかかわる気が無いブロウに、どうにかしてミミを助けたいと思っているジャスミンはオロオロとしだした。
ナルザスは、あっさりと関わり合いになることを避けたブロウの態度にキャァっと黄色い声を上げる。
「さすがはブロウ様っ! こうして世間の荒波をこの泥棒幼女に教えて差し上げるのですね! もう、その冷たい眼差しが素敵!」
奇妙なことを言いだしたナルザスに冷たい目線を向けたブロウだったが、ナルザスには御褒美にしかならず、無駄なことをしたと軽く首を振るブロウ。
同情するような眼差しを送るヴァイトとボガードと目があったブロウは、ふと夕食の席での出来事を思い出す。
「あぁ、そう言えば、ヴァイト。アナタも被害者になりそうだったわね」
「いちごパンツを見せられてましたからねぇ」
うんうんと頷くナルザス。
その言葉にジャスミンは「あの時のっ!」と、驚きの声を上げる。
ヴァイトは、その時の騒ぎを思い出し顔をしかめた。
「ミミ、お前のその商売でこのような事態になっている。反省する気はないか?」
ミミの目をジッと見つめて告げたヴァイト。
その言葉に答えようとするミミだったが、口の中には猿轡がされており、フガフガと音が漏れるだけで、言葉にならない。
「お前も一本切れボガ」
「頭が悪いわね……記憶能力が低いのかしら? 宿の迷惑になるって言ったでしょう?」
ボガードはヴァイトも被害者だと知るが否や、徐にミミを降ろし、ヴァイトに斧を差し出した。
その単純な思考回路にブロウは呆れたように呟くが、ボガードはサックリと無視を決め込み、ヴァイトに向かって力強く頷く。
差し出されたソレをゆっくりとした仕草で受け取るヴァイト。
「両手足切断なんてっ! そんな残酷な……まだ、こどもじゃありませんか!」
「泥棒は泥棒ボガ」
聞く耳持たないという風情のボガード達を、信じられないような目でジャスミンは見た。
斧をジッと見るヴァイト。
涙目のミミは助けを求める眼差しで、現状を打破する手段を持たないジャスミンは祈る様に、ヴァイトを見つめ続ける。
そんな中、ツツーッとヴァイトに忍び寄るウサギの姿があった。
「私がミミちゃんの猿轡を取りますです! だから、彼女の言い分をとくと聞いて下さいませ」
「出来るのか?」
「任せてくださいな―――フフフフフ……幼女の唾液付きパンツ、もろたでぇ♪」
不穏な単語が語尾に付いてはいるが、ココは信じるしかない。
そう腹をくくったヴァイトは、小さな声で「頼む」と囁く。
そして、ナルザスが動き出す直前、ボガード達に向かって声を上げた。
「話は訊かねばなるまい」
「現行犯ボガ」
「聞く必要はないボガ!」
ヴァイトの言葉に口々に騒ぎだすボガード達。
ブロウは迷惑そうな顔をしながらも、ナルザスに何かあったら対処できる位置へと移動した。
何処からか持ちだしたオーガモールを構えるジャスミンが、油断なくボガードの動きを監視する。
「何のつもりボガ?」
ジャスミンの動きにボガードの一人が警戒を強めた所で、ヴァイトの鋭い一喝が部屋に響く。
「聞くんだっ!」
ヴァイトの恫喝に、ボガード達は怯む。
その隙にナルザスがミミに近付いた。
「さぁ~、かわいい子猫ちゅぁ~~ん。このお兄さんが助けてあげまちゅねぇ」
舌なめずりするナルザスは、ワキワキと両手の指を動かす。
不穏な空気に身体を硬直させるミミは近付くナルザスに気付かず、ガタガタと震えていた。
「……サービス、期待してますよぉ」
コソッと囁いたナルザスは両手をささやかな胸に伸ばし、思う存分揉みだした。
ナルザスの奇行を目にしたボガードは、訳が分からないと疑問符を浮かべる。
「何をしてるボガ?」
「あっれ~? おかしいなぁ? こっちにないぞ~♪」
「……?」
面食らうボガードを尻目に、ナルザスの指がゆっくりと少女の胸から臍へと辿りだし、片手は少女の首へと向かう。
ナルザスの唇から小さな囁きが漏れる。
「リープスラッシュ」
ナルザスの囁きはマナを纏い、力となり、少女を戒める縄へと向かって迸る。
衝撃波を受けた縄はハラリと落ち、上に伸びた手は少女の口の中からいちごパンツを抜き取った。
臍へ向かった手にグッと力が入り、小さなミミの身体を抱き寄せる。
「こぉの幼女は!この私が頂いたぁぁああぁ!!!」
ナルザスの歓喜の叫びにボガードはキョトンとし、ミミの保護を頼んだはずのヴァイトでさえ「へ?」と呆気にとられた。
ジャスミンもポカンと口を開き「え?」と一言呟いて固まる。
ただ一人ブロウだけが、氷点下の眼差しをナルザスに送るのだった。
ナルザスは歓喜に震えた。
「この『うっかり悪の道に落ちっちゃいそうですぅ』幼女の命を狙う不届き者よ!」
ビシッとカッコ良くポーズを決めるナルザスの腕の中、えぐっえぐっとウサギにしがみ付くミミ。
本来であれば非常に絵になる光景のはずなのに、ナルザスの不埒な指がミミの臀部で蠢いてるため、残念なモノへと姿を変えていた。
「この私がミミちゃんを救う! そして可愛いは正義!」
「何の騒ぎかと思えば……」
ナルザスが一人自分に酔いしれて口上を述べていると、客室の入り口から溜息交じりの声が重なる。
ナルザスに気を取られていた面々が振り返ると、そこには宿屋の主であるボルトが佇んでいた。
どうやら部屋での騒ぎに気付いた別の客から通報があったらしい。
耳を澄ませてみれば、ボルトが呼んだのであろう街の衛兵たちのたてる物々しい金属鎧の音が聞こえた。
ジャスミンは、これで最悪でもミミの命は取られないだろうとホッと胸を撫で下ろす。
「アレが泥棒。で、被害者。私刑を止めようと頑張る馬鹿」
ブロウはスッとミミを指差し、次にボガード達を、最後にナルザスを示しながら、簡単に事情を説明する。
ボルトは、ナルザスに縋りついて泣いているミミを見た。
「なるほど……この泥棒の身元引受人は、ナルザスさんですね」
頷いたボルトに気付くことなく、ナルザスは滔々と熱弁をふるう。
「あわよくばミミちゃんと一夜のランデブーをするのは、このっ私だーーー!!」
「分かりました。それでは、衛兵に引き渡す時に、保釈金も払ってください」
「は、はぃ?」
やっとボルトに気付いたナルザスだったが、話の流れが見えず、素っ頓狂な声を上げた。
間が抜けた顔でボルトを見るナルザスにお構いなく、ボルトは言葉を重ねる。
「あぁ! ボガードさんたちに払う慰謝料もよろしくお願いします。いいですか?」
「……え?」
気の抜けた声を出すナルザス。
ボルトの冷静な声が、しんと静まり返った部屋に響いた。
「合計5000Gです」
「……」
「保釈金と慰謝料が払えなければ、被害者の希望通りになります」
「死刑だボガっ!」
黙り込むナルザスにボルトが告げると、黙っていられぬとボガード達が騒ぎだした。
ナルザスはブロウを見ようと首を動かすが、すぐに目を逸らし、次にジャスミンを見る。
「……まぁ、どうしましょう?」
困ったように首を傾げるジャスミン。
ナルザスは黙って、最後の希望とばかりにヴァイトを見た。
「……」
無言で見つめ合うナルザスとヴァイト。
ナルザスの瞳が潤む。
「ヴァ……ヴァイトきゅぅ~ん。た、たちけて?」
「……助ける気なんだな、ナルザス?」
ヴァイトの質問にコクコクと頷くナルザス。
ギュッとナルザスを抱きしめるミミの腕の力がこもる。
「……あにょね。この子のお世話ちゃんとするからっ! 餌もあげるし、散歩に連れて行くからね? ねっ?」
「金を貸そう。そして、ペット扱いするな」
「ヴァイトくぅ~~~ん! ありがとう! この御恩は1ヶ月は忘れないよ」
喜色を浮かべミミとダンスを始めたナルザスの答えに、ハァっと息を吐いたヴァイトは、返答を待つボルトを見た。
「決まりですね? 5000G払ってください」
「……持ち合わせが足りないのだが?」
言いにくそうに告げるヴァイトに、ジャスミンが「おいくら足りないのですか?」と控えめに尋ねる。
その金額はジャスミンのわずかな所持金を足しても5000Gに届かず、どうすべきかと二人顔を見合わせた。
「無いなら借金です」
ボルトの言葉に仕方が無いと了承するヴァイト。
酔狂な人たちだと呆れ顔を浮かべたブロウだったが、納得のいかない顔をするボガード達を見ると彼らの傍に近付く。
ブロウが不満げなボガード達の頬を撫で、耳元で優しく何事かを囁く。
薄い衣服から分かる豊かな双房に釘付けになるボガード達は、不精不精といった風体を保ちながらも、鼻の下を伸ばしてボルトの裁量に従うと明言する。
ミミは明日ボルトが詰所まで連れて行くと言う事で、位置情報探索装置(GPS)付き首輪を付けられた。
その後、衛兵は、被害者であるボガード達と身元引受人であるナルザスに、昼前に詰所へと来訪するよう告げ、ボルトの宿を後にする。
部屋に帰って休むよう言われたボガード達は自室へと戻った。
ヴァイト達も自室へと戻ろうとしたが、「待ってください」とボルトに呼び止められる。
「何か?」
「返さなくても良いですよ……今回だけですが」
ボルトはヴァイトに告げる。
どうやらミミの素行は店側も把握していたらしい。
ただし、スリや盗みが増えたレベルでの認識だった為、犯人までは分からず、また、実行犯で押さえる事も出来なかったので、ほとほと手を焼いていたのだ。
解決するために冒険者を雇うにしても、その為には金がいる。
低価格をモットーとするこの酒場の売り上げでは、長期間冒険者を雇う金を用意することは出来ず、金策に翻弄していたのだ。
そこに今回の騒ぎだ。
そろそろ冒険者に依頼して対策をしなければと思っていたところだったので、渡りに船とばかりに解決できた。
「本来なら、依頼をしていないのですから、報酬などという話には成りませんが……」
「足りない分だけで良い」
キッパリとヴァイトはボルトに告げる。
「借りると言う形にしてもよいが、それではそちらの気が収まらないだろう。ミミの保釈金と慰謝料を、店側と身元引受人側、双方で折半したということにしよう」
「ありがとうございます」
ボルトは深々と頭を下げた。
「ヴァイト様」
感激するジャスミンに頭を上げたボルトは優しく微笑んだ。
「良い主に巡り逢いましたね」
「えっ、あ、えと……」
もじもじとするジャスミンの背中をトントンと叩いたブロウは、軽く笑う。
驚いてブロウを見下ろすジャスミンに「良い主従関係ね」と告げた。
真っ赤になってヴァイトを見るジャスミンの背後から、不穏な会話が聞こえたのはその時だ。
「さあミミちゃん、もう大丈夫だよ~。こわ~い人はうさぎさんがやっつけちゃったから、これから気持ちいことをしようね~」
「ナルザスさんっ!」
ゴゴゴッと怒りに震えるジャスミンにナルザスは叫んだ。
「いぎゃあああああ! 斧っ、斧投げるのはなし!」
「教育的指導です!」
冷静に告げるジャスミンに、じりじりっとナルザスは後ずさる。
両手をジャスミンに向け、落ち着く様にジェスチャーするナルザスから、ミミが素早く離れると、ヴァイトに抱きついた。
「ありがと、おじさん♪」
ゲンナリとするヴァイトだったが、ナルへの教育的指導をジャスミンに任せるわけにいかないと動き出した。
「あえ? ヴァイトさんまで、何出しているんですか? け、剣? いやっ! だめっ! 剣で刺しら痛いでしょ? え? すぐにわからなくなる? そ、そんなーーーー」
宿屋の中にナルザスの悲痛な叫びが響いた。
-----<次話につづく>---