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設定SS@ブロウ&ジャスミン

ライア山脈の麓にある都市デモンシティ。

その近郊には、温泉の湧き出る箇所がいくつもあり、様々な温泉施設が軒を並べていた。

コボルト温泉もその中の一つだ。

数十年前に開業したその温泉は、コボルト達だけで運営しているリーズナブルな温泉宿で、値段の安さから冒険者たちが好んで宿泊している。

異国情緒あふれる木で出来た建物に、コボルト達が着るお揃いの法被。そして、何と言っても目玉は混浴露天風呂。

風呂場にはテーブルやイスまで準備してあり、露天風呂にて食事ができるシステムになっていた。

冒険者には男性が多い。その為、露天風呂には男性客の姿が多く見受けられる。

ブロウは脱衣所の籠に服を入れると、タオルを持って露天風呂へ向かおうとした。


「……どうかしたの?」


脱衣所から露天風呂に入る扉の前で、大柄のルーンフォークがまごまごとしていたのだ。

きっちり胸までバスタオルで巻いた彼女だったが、身長のせいで、バスタオルの裾が太ももをも隠しきれず、辛うじて股の部分が隠れる程度。

ブロウが彼女を見上げれば、平時で有ればキリリとした男前といえる顔は下を向き、真っ赤に染まっていた。


「……です」


身体の割には、余りにもかすかな声にブロウは首を傾げる。

声が小さく聞き取りにくかったのだが、ブロウの行動に、彼女はますます顔を赤らめ、今度はその場に蹲ってしまった。


「ちょっと……一体、どうしたっていうの?」


驚いたブロウだったが、聞こえてきた言葉に、「あぁ」と納得して頷いた。


「あなた、ココが混浴だって知らなかったのね」


コクコクと頷くルーンフォークの女性。

扉の向こうでは、扉を開けた彼女を見たであろう男たちのはやし立てる言葉が躍っていた。

どれも酷い内容の言葉ばかりで、ブロウは眉を潜める。


「内風呂に入らなかったの?」

「うちぶろ、ですか?」


助けを求める様な碧の瞳がブロウをジッと見つめる。

ブロウは軽く頷くと、彼女を立たせて着替えるよう告げた。


「あなた、何処に泊まっているのかしら?」

「あ……本館の……」


たどたどしく答える彼女に、ブロウは「あなた、この温泉初めてなのね」と溜息をついた。

本館の部屋は素泊まり専用で、部屋に風呂は無い。

きっと、コボルト達は彼女の外見から、男性だと思ったのだろう。

筋肉質でガタイの良い身体つきだが、このルーンフォークは女性なのだ。

しかも、あまり男性には慣れてないと見える。


「ココに来る女性客は、大概(たいがい)離れを貸し切るわ。離れには部屋に風呂が付いているの」


ブロウは男性の視線など気にならないため、こうして大浴場に入りに来るが、気にする女性冒険者などは、部屋についた小さな風呂に入っていた。

受付のコボルトも説明するはずなのだが、男性と思い込んだため、希望の部屋を訪ねる際、説明を省いてしまったのだろう。

現に、彼女はビックリした表情を浮かべ「知りませんでした」と胸の前でギュッと両手を握りしめていた。


「いいわ。私の部屋にいらっしゃい」


ここまできたら何かの縁だとブロウは微笑む。

何故だか、放っておけない気分になるのだ。


「え? あの……ご迷惑じゃ……」

「大丈夫よ、どうせ私一人だけだもの」


離れはパーティで使うことを想定しているため、それなりの広さがあった。

いくら彼女が体格の大きいルーンフォークだとはいえ、一人くらい増えた所で狭く感じるはずが無い。


「逆に話相手がいたほうが嬉しいわ」


ニッコリと笑みを深めるブロウに、「ジャスミンです」とルーンフォークは名乗った。


「私は、ジャスミンと申します」

「ジャスミン……ジャス、ね。私はブロウ。よろしく、ね」


部屋着に着替えたブロウがソッと微笑むと、メイド服を身に纏ったジャスミンもニッコリと笑顔になる。


「よろしくお願いします。お姉様」


何故だか、ジャスミンの『お姉様』という台詞が、すんなりとブロウの中に入ってきた。

収まるべき所に収まったかのような、パズルのピースが上手く合わさったような奇妙な気分に陥りながら、ブロウはジャスミンを自分の部屋に案内する。

結局、ブロウとジャスミンは同じ部屋に泊まる事になり、その夜は女子会よろしく二人で色々なことを話していた。

ジャスミンが主人を求めて旅をしている事を話せば、ブロウは探索中のダンジョンを攻略するため魔術師を探している事を話す。

当たり障りのない身の上話をしたり、最近のお洒落の流行について語ったり、冒険者らしくモンスター攻略の話題になったりと、様々な話をして夜を明かした。

妙にウマが合うなとお互いに思いながらも、二人それぞれに目指すモノがあるため、翌日、二人は宿屋の前で別れるのだった。


「機会が有れば、一緒に旅をしてみたいわね」

「そうですね。お姉様との旅は楽しそうです」

「でも、あなたは、ご主人様を見つけたいのよね?」


フフッと笑ってブロウが尋ねると、ジャスミンは生真面目に頷いた。


「はぃ。私はルーンフォークですから」

「良い主人が見つかることを祈ってるわ」


ブロウが歩き出すと、ジャスミンも逆方向に歩きだす。


「お姉様の活躍を祈ってますね」


その言葉にブロウは淡く微笑んだ。

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