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イケニエ勇者の物語-第1部- ~勇者と呼ばれた少年~  作者: 青の鯨
。弱点、ライバル、新たな真実
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。弱点、ライバル、新たな真実-11-








「…ま、がん…?」


初めて聞いた言葉の意味を頭の中で必死に考えていると、シャーロットはラクトから手を離した。


「…今まで…どんな色の魔力を見てきた?」


「え…?と、青、黄、紫…とか。魔物によって違いますし、それに昨日のミンチェのは赤でしたよね?あとは…大体緑とか…多いですけど。…シャーロットさん、もしかして、普通じゃないんです…か?」


おどおどしながら問い掛けると、シャーロットはゆっくり頷いた。


「ラクト…普通は人間に魔力はあまり見えないんだ。強いエネルギーを発するときだけ緑の光として眼に映る。魔力の特性や個体によって魔力の色が違うというのは、魔力を持たない人間には分からないんだ。だが、例外がある。―――それが『魔眼』だ。それを持つ人間には、小さなエネルギーの魔力の色さえも見え、緑以外の光の色がはっきりと判別できるらしい。…お前のように、な。」


シャーロットの答えにラクトは目を見開き、一瞬固まってしまった。


「魔力を持たない人間…って!?お、俺は魔力なんてないですよ!?今までそんな力が出たことないですし…それに、緑以外の光が見えたのもごく最近で…?」


「…いつから見えるんだ?」


「いつから…って、村にいた頃は…緑ばっかりで…。村から出たことなかったから、それが当たり前なんだとばっかり…。」


「つまり、お前の生まれ育った村を出てから…色の違う魔力を見るようになったってことだな?お前は村の情報操作によって『魔力』という言葉さえ知らなかった。だから余計に魔力の色について疑問に感じても、そこまで不思議に思わなかったってことか…。」



まさかの事実にラクトは動揺している。シャーロットに言われて初めて気づいた自分の特異な体質。自分には特別なものは何もない…そう思っていたのに。



「…――――私の、せいだわ…。」


ポツリと呟いたのはウルキだった。


「ウルキ?どうしてそんなこと…!?」


ラクトが視線を向けると、ウルキは青い顔をしたまま涙をぼろぼろと溢していた。


「う、ウルキ!?どうしたの!?」


慌ててラクトがウルキの側に近づくと、彼女はラクトの顔にゆっくり手を伸ばした。そっと頬に触れ、両手でラクトの顔を包み込む。ラクトは戸惑ったが、ウルキの哀しげな瞳に目が離せず、黙ったまま立ち尽くす。


「…――――魔眼は…魔力を持たない人間が、強い魔力を身体に浴びて体質が変化してしまってなるものなの…。あのときのように――――…。」


「…あの、とき…?」


ラクトはウルキと出逢ったときのことを思い出す。頑なに自分の意思をねじ曲げ突き通すウルキをラクトが説得していたとき、ウルキは感情を爆発させて怒りに委せて自分の魔力を放出させた。そのときラクトの身体にも異変が起きた。溢れたウルキの魔力が怒りの矛先であるラクトを襲い、ラクトの中に魔力が大量に流れ込み、あと一歩で脳が壊れてしまいそうになったときのことを。



「…まさか…あれで!?」


「それ以外…考えられないわ。――――私のせいでっ、ラクトの体質まで変えてしまっていたなんて…!!ごめんね、ごめんなさい!!」


魔力が身体に大きな影響を及ぼしたのが原因なのだとしたら、確かにそのときしかない。それなら緑以外の光が見えた時期ともぴったり合う。


「ごめんなさい…ラクト!!」


ラクトの頬から手を離し、ウルキは自分の顔を覆い泣いた。新たに分かった自分の罪。大切な仲間を傷つけ、変えてしまったという事実がウルキの心に重くのし掛かる。泣くことしかない自分の弱さで、余計泣けてくる。



「…。魔眼…。」


ラクトは自分の目に手をやる。見た目に変化などなかったが、魔力を浴びたときの感覚は今でも思い出せる。脳に金槌で殴られるような衝撃、電気が走ったようなビリビリと痺れるように身体が言うことを聞かず、意識さえ気を抜けばすぐに吹っ飛んでしまうような、今まで経験したことのない感覚だった。



「ラクト…お前の魔眼がどこまで見えるものなのかは知らないが、私はお前のその目が欲しい。」


シャーロットは真剣な表情でラクトを見つめていた。


「お前の言うとおり、ヤツの魔力が黒く見えて特定出来るのなら…それは私にとってとても大きな意味を持つ。見つけ出す手掛かりのない今、お前の目が一番ヤツを見つけるカギになるんだ!―――…例え途中でお前が逃げたくなったとしても、私は決してお前を放しはしないだろう…。ヤツにトドメを刺すまで、ずっとだ。」



痛いくらいの強い意思がひしひしと伝わってくる。迫力がある、だがそれは脅しではない。シャーロットの表情には、哀しみの色が見えた。言っている本人も辛いのだ。子供に自分のエゴを押し付け、縛ってしまう…これからの未来を一番憎んでいるのは彼女自身なのだから。



運命とは、一体何なのだろう?



ラクトは目の前で泣いているウルキ、横で辛そうな表情のシャーロットを順に見たあと、ゆっくり瞼を閉じた。真っ暗な視界に、微かに感じる柔らかな光。見えているわけではない。感じるのだ。



自分を心配してくれる、暖かい仲間の心を。



「…シャーロットさん…、俺はあなたのそんな顔を見たくはないです。さっきみたいに笑ってください。何も変わりませんよ、俺は自分の意思でここにいる。これからだって、逃げたりしません。あなたの力になりたい、その事実は揺るぎません。」


ラクトは微笑みを浮かべてシャーロットに語りかける。そして視線を移し、顔を覆っているウルキの手を優しく下に下ろさせた。泣きじゃくったウルキの顔は真っ赤になり、ぐしゃぐしゃの表情にラクトは思わずクスッと笑う。


「ウルキ?どうしてそんなに泣く必要があるの?ただ魔力の色が違って見えるようになった、それだけだよ?」


するとウルキは首をぶんぶん振った。


「違うっ!!それだけって話じゃないの!!―――魔眼は、魔人と同じくらい稀少な存在なの…!!だからもし悪い人間に知られてしまったら…私と同じように命を狙われるかもしれない!!だけどっ…魔力の影響を受けて変化した体質は、もう元には戻らない…ラクトは、ずっと、魔眼のまま…。わ、私のせいで…ラクトを危険な目に合わせて―――っ!?」


ウルキが喋っている途中で、ラクトは手を伸ばして彼女の体をぎゅっと包み込む。何をされたのか、ウルキは一瞬分からなかったが、次第にラクトの体温が伝わってくるのを感じ、頬から熱が生まれてくる。



「ウルキ、俺は強くなりたいんだ。何でか分かる?」


耳元で聞こえてくるラクトの質問に、ウルキは小さく首を横に振る。


「大切な…守りたい仲間が出来たからだよ。」


ラクトはウルキから体を離し、真っ直ぐ瞳を合わせる。


「君を…ウルキを。シャーロットさんは自分で守れるだろうけど、力になりたい。」


ウルキはラクトの瞳を見つめたまま、目を見開いた。


「確かに吃驚したけど…この目が、皆の力になれるなら―――嬉しいことだよ!!こんな俺でも、役に立てることがあるってことだもんね!!」


にかっと笑うラクトに、ウルキはまだ複雑そうな表情をしている。


「っ…でも、あなたまで危険な目に合わせてしまうかもしれないのよ?」


「考えてもみてよ、ウルキ。そんなこと、とっくのとうになってると思うよ?シャーロットさんがここに、トルマディナに連れてきてくれたのは…俺たちの国、バルハミュートにいたら危険だったから。そうでしょう?」


「…それはっ…私の…。」


「確かにウルキの魔力を狙っている人がいるのかもしれない。村が情報を洩らした可能性は十分ある。でも、俺は逃げないよ。だってウルキが強いからね。」


「え…?」


思ってもみなかった言葉にウルキは動きを止める。ラクトは優しく微笑み、ウルキの手を両手で握った。


「言ったよね…いつか、村に戻ってちゃんと謝りに行きたいって。俺、実はもう村に帰ることないって思っていた。けど、ウルキは前を向いて必死に自分を見つめて歩いてる。強くて、優しい証拠だよ。―――だからこそ、俺は強くなって君を守りたい。ウルキの願いが叶うように、ウルキと一緒に笑顔でいられるように。この目がその為に役立つなら、俺は誇りにさえ思うよ!取り柄がなかったけど、これで何かちょっと自信が出てきた…なんてね?」



温かい。握っている手も、心も…。涙でさえも。


ウルキは二、三粒の滴を流したあと、柔らかな微笑みをラクトに返した。



「…ふふ…ラクトったら…。―――…ありがとう。」



握った手を額に当てて、祈るようにウルキは目を瞑る。その心はとても穏やかで、自分の鼓動がとても心地よく感じた。


それを見守っていたシャーロットはいつの間にか自分も微笑んでいたことに気づく。



「…まったく、三人揃って変な力を持っているとは。私らは珍獣サーカスか?」


照れ隠しの憎まれ口。ラクトもウルキもシャーロットの気持ちを察してクスリと笑った。


「あはは!サーカスですか?」


「ふふ、でもシャーロットにピエロは似合わないわね。」



再び和やかな雰囲気になったことに驚いているのはフラットだけだ。眼鏡をクイッと上げて、溜め息混じりに呟く。


「…皆さん若いのに神経が図太いのですね?」
















「はあ!?魔眼―――!?なんだそれ。」


ラクトの体質の変化が発覚してから二日、ミンチェたちが仕事から帰ってきた。シャーロットにラクトたちは集められ、ミンチェとリリもその事実を知る。


「ほえー♪すごいね、そんなこともあるんだねえ?」


「うん。…まだどうしていいかよく分からないんだけど、何か役にたてないかなって模索してるところで。」


興味深げなリリに対して、ミンチェは眉間にシワを寄せてむすっとしかめっ面だ。


「アホ言ってんじゃねーよ。んなもん役に立つわけねーだろ。第一それで何か分かったとしても戦いとは関係無いね。」


するとシャーロットがミンチェの脳天にチョップを入れた。


「私には大有りなんだよ。しゃべってないでとっとと始めろ。私もこのあと仕事があるんだ。」


打たれた脳天をさすりながらミンチェは嬉しそうだ。


「くぅー♪姐さんが言うんなら仕方ねえ…オラ!!かかってこいよ、バカラクト!!」


「…バカはどっちだよ。」


「うっせえ!!俺のいない間怠けてなかっただろうな!?ガッカリさせんなよ!!」


そう言ってミンチェはラクトに向かって走り出す。これから二人の特訓が本格的にスタートするのだった。







「今頃ラクトの特訓も始まったかしら?」


一方ウルキは一人で書庫にいた。魔力の明かりを灯してじっと分厚い本を眺める。


「…私も、役に立てるように頑張らないと!」


一枚一枚ページをめくる。頭の中の隅から隅まで、知識で染めていけるように、何もない自分にならない為に。






トルマディナにやって来て、二人は自分と、自分の仲間との目標の為に確実に歩み始めた。



この先に待つ物語の行方も知らない、ただひたむきに、己に出来ることをもがきながら手に入れようと必死だった。



信じていた…明るい未来を。



信じていたのだ―――。


















「…さあ、君にも名前を授けよう。今日から君は―――――。」





例え何が起ころうとも、生きている限り進むしか道はない…。







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