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イケニエ勇者の物語-第1部- ~勇者と呼ばれた少年~  作者: 青の鯨
。弱点、ライバル、新たな真実
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。弱点、ライバル、新たな真実-10-





「―――生き残ったのはいいが、それが地獄の始まりだった。魔物の言葉通り、私は奴のために生きなければいけなくなったのだからな。」


「っ!?どういう意味ですか…だって、魔物は海に消えていったんですよね?」


「…そうだよ。しかし、こいつが…この痣こそが奴なんだ。繋がっているんだよ、奴の魔力によってな。」


「――――そんなことって…!?」


「私だって信じたくはなかった…だが、あるときから私は身体に疼きを覚えた。何か力を、奪い取らなければいけない。そんな衝動に駆られて仕方がなくなった。何人もの兵士に押さえられてもそれを振り切り、私は力を欲して遂に森で魔物を狩った…。そしてその魔物の魔力の源を、自分の中に取り込んだんだ。」


ラクトとウルキは大きく目を見開いた。


「…私は、魔力を取り込まなければ生きられない身体になってしまった。この痣を通して、奴のために、奴の力になる魔力を送らなければ…私は自分の意識を保てないんだ。それを怠れば、私は魔物を貪り食うだけの…意識のない本当の化物に成り下がるんだよ。」


力が抜けたように右肩から手がぶらんと垂れ下がる。シャーロットは天井を見上げて話を続けた。


「私が毎晩酒だと言っているあれな、酒に魔力を混ぜてあるんだ。定期的に身体に取り込めるように、私なりの工夫で。普通、人間には魔力を貯めておける器官がないからな…。無理矢理魔力を流し入れるために、ある程度取り込んで吐いてしまうんだが。」


ただの酒好きかと思っていたが、シャーロットにとってはあの行為は生死に関わる重要なものだった。それを知って、ラクトたちは衝動を受けたように動けない。ふっと鼻で笑ってシャーロットは地面に落ちた布を拾った。


「これも特注品でな?こいつ自体の魔力が漏れないように、魔力を通さない加工を表面に施してあるんだ。だから普段はずっと着けたままにしなくちゃいけないんだよ。じゃないと…私も追われる立場になるだろうからな。」


ウルキに向けてシャーロットは哀しそうに微笑む。初めて見た弱々しい笑顔に、ウルキの胸は締め付けられるような思いがした。


「…もう分かっただろう?私の、本当の目的は…こいつを身体から取り除く方法を探すこと。元の、私だけの身体に戻すこと。そして―――――私を陥れた魔物を見つけ出して、殺してやること。」


言い様のない殺気が部屋中の空気を重くする。ラクトとウルキは上手く呼吸が出来なくなる気がした。


「…その魔物は、まだ見つかっていないんですか?」


「…。ああ、私が旅を始めて四年が経つが、一向に手掛かりがないんだ。あれだけ暴れておいて、音沙汰なしだよ。まったく腹立たしい。見つけ出したらズタズタに切り裂いて見るも無惨なほどにしてやりたくて仕方がないんだが。」


シャーロットの過激な言動にラクトの背筋に冷たい電気が走った。ウルキは唇に手を当てて何かを考えてからシャーロットに訊ねた。


「…言葉を喋る魔物なんて聞いたことなかったけど、それが本当ならその魔物に話を聞くのが一番早いってことよね?また…ってことは、魔物もあなたが会いに来ることを待っているのかしら?」


「さあな…そうやって私が悔しがるのをどこかで嘲笑っているのかもな。…。」


シャーロットは肩に布を巻き直し、服を戻した。


「悪かったな、昼食のあとに気味の悪いものを見せた。…お前らがどう思ったかは聞かないが、私は目的を果たすためなら何でも利用する。勿論、お前らでさえも。」


真っ直ぐにシャーロットはラクトたちを見た。


「私は恐らくお前らが思っているような人間じゃない。今まで偉そうに説教してきたが、それは全て自分の、私自身のためだ。お前らが私に逆らい、私の不利益になるようなことをしようものなら、容赦なく切り捨てる。例えそれが世間的に間違った道だとしても…私は目的の為なら手段は選ばない。そうやって生きると決めた…生きてきたんだ。 」


真剣なその表情は嘘などついていない。ラクトたちはシャーロットの瞳に迷いがないことをはっきりと感じていた。


「そして――――ここまで話してしまったお前たちを、私は易々と逃がすことはしない。お前らの気持ちがどうあれ、利用できることは全て利用させてもらう。これからずっとだ。」


シャーロットは右肩を握り締めて言葉を発する。強くしっかりした口調で。しかし…。


ラクトとウルキはお互い顔を見合わせた。そしてウルキはゆっくりシャーロットに近づき、右肩を押さえる彼女の手にそっと触れる。



「…利用するならすればいいわ。それがあなたの目的を果たすためなら、迷わずに。」


ウルキの言葉にシャーロットは目を丸くした。ラクトも二人の側に歩き、シャーロットに視線を向ける。


「何の利用価値もないかもしれないですけど、俺のことも利用してください。…シャーロットさんは利用しているって思ったとしても、俺は利用されたとか思わないし、気にしないですから。」


ラクトはにかっと笑顔を見せる。


「私も。だってそうでしょう?私と、ラクトと、シャーロット…私たちは、仲間なんだから。助けたいって思うことも、何かしたいって思うことも、当たり前じゃない?」


シャーロットの手をとってウルキは微笑む。


「…本気か?私は―――…お前を殺そうとしたことも忘れたか?」


ウルキと初めて会ったとき、ウルキは魔力を暴走させ、ラクトを苦しめた。そんな彼女にシャーロットは刃を向け、その場で殺そうとしたのだ。ラクトに止められたが、それは変えられない実際起こった真実。


「…あなたがああして剣を向けてくれたから目が覚めたの。あのまま暴走していたら、私がラクトを壊していたかもしれない…。ずっと言えなかったけど、ありがとう。シャーロット。」


「ありがとう…だと?」


予想外の言葉にシャーロットは眉を曲げて少し困惑している。


「ねえ、覚えてる?あなたが言ったのよ、自分の目的の為に私の力を貸せと。その代わりに、私の心を鍛えてくれるのだと。…嘘ではないでしょう?その言葉も、その気持ちも。私は――嬉しかったの。私を必要としてくれる人間がいて、私と一緒にいてくれると言ってくれて。だって…そんなこと、もう言ってくれる人間はいないって…思ってたから。」


「俺も、シャーロットさんがいたからウルキに会えたし、生きてるし…目標もできた。だから、利用されたとかじゃないんです。俺たちは、俺たちの意思でここにいるんです。シャーロットさんが、引っ張ってきてくれたから!」


「…お前ら…。」


シャーロットはぽかんとした表情をしたあと、顔を伏せた。ラクトとウルキが心配して覗きこもうとすると、突然シャーロットの肩が震えだし、彼女の笑い声が聞こえてきた。


「…ふ…くく…あはっ…あははははは!!どこまでっ…お人好しなんだよ!!もう、アホ過ぎてっ…ふっ、ははははは!!」


アホ呼ばわりされてラクトとウルキは目をぱちくりさせて顔を見合わせた。キョトンとしたお互いの表情に、二人まで可笑しい気持ちになる。


「ふふ…あははっ!もう、そんなに笑わないでよ!」


「ウルキこそ…あ、ははは!!」


一緒になって笑う三人を見つめて、置いてけぼりのフラットは眼鏡をくいっと上げた。



「…まったく…こんな血だらけの部屋の中でよく笑えますね。しかし―――不思議と心地悪くはないですね。」








しばらく笑ったあと、四人は部屋から出ることにした。扉のスイッチを押しながら、シャーロットはどこかスッキリした表情でラクトたちに言った。


「まあなんだ…確かに私の目的は大事だが、とにかく今はお前たちに私のためにも鍛えまくってもらわないと!!あとでバリバリ働いてもらうからな!!」


「もう、シャーロットったら!!ふふっ。」


「が、頑張ります…!!でも、きっと大丈夫ですよ!!魔物は絶対見つかります!!そんな黒い魔力なんて見たことないですし、どこかに手掛かりはありますよ!!」


気合いを入れながらラクトは強い口調で言った。しかし、それを聞いた他の三人は何も言わずじっとラクトを見つめている。


「へ!?あ、ちょ、ちょっと調子に乗りすぎました!?ごめんなさ…。」



慌てて謝ろうとしたラクトが喋っているに、シャーロットはガシッと両手で肩を掴んだ。驚いてガチンと固まっているラクトに、シャーロットは恐いぐらいの真剣な視線を送っている。


「…ラクト、今、何て言った?」


「へっ!?ちょ、調子に乗りすぎました…?」


「違う!!その前だ!!」


いきなり怒鳴られ、ラクトはヒクッと表情が強張った。シャーロットは息を荒げてラクトの瞳から目を離そうとしない。


「あ…えーと…?」


するとシャーロットの後ろから、今度は青い顔をしたウルキが質問した。


「ラクト…黒い…魔力って…?」


「え?あ、あれだよ!?その…シャーロットさんに憑いていた魔物の…あの部分から出てた…黒かった、よね?」


それを聞いてシャーロットのラクトの肩を掴む手にますます力が入った。ウルキは両手で口を覆い、フラットは眼鏡越しに驚いていることが分かる。



「…なんてこった…。」


シャーロットはラクトの肩を掴みながら下を向いてしまう。次第に彼女の手から力が抜けていくのを感じ、ラクトは心配そうに掴まれた腕に手をやる。


「あの…俺、何か言っちゃいけませんでした!?」


一人何も分かっていない状況に、ラクトは焦っている。しかし事実を言っただけなのに、どうしてこんな反応をするのか不思議で仕方がなかった。


「しゃ…シャーロット…さん?」


「…参ったな…。」


「へ!?」


「ここまでくると、私の悪運も恨むレベルだ…これで―――本当の意味でお前たちを逃がす訳にはいかなくなった…!!」


そう言って顔を上げたシャーロットの表情は酷く複雑な気持ちを表していて、ラクトはそんな彼女の顔を見たのはこれが最初で最後だったとあとから思う。




「ラクト…お前は、『魔眼』なんだな?」








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