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.ラキという名の-3-







「はぁ――――!?知ってるだろ?『勇者様』だよ!二十年ぐらい前に活躍した、赤錆色の髪の勇者!ラクト様だよ!」


「――――ラクト…様?」



顔をグイッと近づけて語るロンに圧倒されながら、ラキは眉を曲げた。


「っかあ―――――!知らないのか!?有名じゃねぇか!あれだよ、『イケニエ勇者』って言った方が分かるか?」


「いや…知ってはいるんだけ――――。」


「だよなぁ!知らないわきゃねえよ!すっげえことを成し遂げた人なんだぜ!カッケーよなぁ!」


椅子から立ち上がって力説するロンをラキがポカーンとした表情で見ていると、リコが耳打ちをしてきた。


「すみません、お兄ちゃん勇者様にすっごく憧れてて、勇者様の話になるとああなっちゃうんです…。」


それにしても先ほどまでのロンとは明らかにテンションが違っている。彼はさらに話を続けた。


「小さな名も知れない村から女剣士を連れて自ら魔人のイケニエとなり、その広いお心で魔人を仲間にして旅を始め、たった三人だけで次々と強い魔物をバッタバッタとなぎ倒し、人間と魔人という確執を取り除き、大きな国を救った救世主!カァッケ―――――!!」


ロンは天井に向かって大きく両手でガッツポーズをした。最初のロンからは考えられない姿を、ラキは口を開けて眺めているしかない。リコは横でため息をついている。…と。




「―――――――――ふ、ぷふっ…ふふふ、あははははははははは!」


いきなりラキは顔を下にむけて肩をふるわせながら笑い始めた。ロンは不意をつかれたようにガッツポーズの体勢で止まっていたが、我に返ってラキを睨んだ。


「…んだよ!そんなに可笑しいか!?あ゛ぁん!?」


「っいや…くく…ごめっ―――――ははははははは!!」


尋常じゃないほどの笑いに逆に引いてしまったロンは、しかめっ面のまま椅子に座った。リコはというと、ラキが悪いものでも食べたのかと思案を巡らせおろおろしている。


「ラ、ラキさん…?」


「ふぁ…はあ…はははは――――――…。はあ…。」


目に涙を溜めながらようやく笑いを抑え、ラキは息を整えた。すると今度は何故か妙に哀しげな顔をするので、二人は何と呼び掛けたらいいのかわからない。ラキはゆっくり目を閉じて、ゆっくり目を開け、二人の方に向き直った。



「…馬鹿にしてるわけじゃないんだ。悪い気分になったよね?ごめん。」


何か言う前にラキが謝ってきたので、ロンは怒るタイミングを逃してしまった。ムスッとした顔から大きなため息を一つだけ吐き出して言った。


「べっつにー。馬鹿にされんのしょっちゅうだしー、気にしてねぇよー。」


明らかに気にはしている言い方だが、ロンなりの気遣いだとラキは受け止めお礼を言った。


「はは、ありがとうロン。」


「でもどうしたんですか?何か悪いものでも…。」


「違うよ、リコ。心配させちゃった?よね。あはは…。」


二人が見つめる中、ラキは頬をポリポリ掻きながら、何かを言おうか言わないか 迷っているようだった。


「んだよ、言いたいことがあんだったら言えっつーの!そっちの方がイラつくわ。」


「お兄ちゃん!」


またリコがロンを睨んだ。ラキは笑って、右手でクシャッと髪を掴んで話し始めた。


「いやぁ…まさかこんなにも憧れてくれてる人がいたなんて思ってなかったから。色んな噂とか流れてるし、いい噂ばかりじゃないからね…。うん、びっくりしたんだ。」


「?んだよ、結局勇者様の悪口か?だったら怒るぜ?」


「いやいや…―――――んー…ねぇロン?勇者様のその後、って知ってる?」


「は?まあ、噂ではある国の用心棒になったとか旅に出たとか色々言われていたけど…―――――――十年ぐらい前に亡くなったって…!生きてる間に、会いたかったのに…!!」


ロンは歯をくいしばり、本当に悔しそうに手を握りしめていた。


「…十年ぐらい前…?」


リコは今日その言葉を聞いた気がした。


「うん…でね?勇者様には実は子供が一人いたんだ。今は旅をしているんだけど。」


「ホントか!?マジで!?会いてぇ―――――!!そして色々話を聞きてぇ―――――!!噂じゃなくて、本当にあったことを知りてぇ―――――――!!」


ロンは足をばたつかせ地団駄を踏んだ。リコはそんな兄を気にも止めずに考え込んでいた。


「んんー?あれぇ…?」


「本当にあったことを知りたいんだ?どんな真実だったとしても?」


ラキはロンに問いかけたが、ロンの瞳は強い意思を示していた。


「俺は勇者様を尊敬してるんだ。勇者様が成し遂げたことには変わりないからな。どんな真実でもその気持ちは変わらねぇよ!」


「そっか…。じゃあ教えてあげるよ。」



「―――――…は?」


ラキの言葉をうまく飲み込めないロンは、苦い顔でラキを見た。


「そこまで強く真実を望んでくれた人はいないし、夕飯や宿もこうしてお世話になってるからね。」


「あ゛?ん?ちょっと待てよ…――――――それって…もしかしてまさかの…!?」


するとリコも思い出したように大声を上げた。


「あ―――――!!十年ぐらい前って!?」



二人が一斉にラキを見つめた。ラキは柔らかく微笑み、こう言った。



「ラキって名前はね、父さんの名前の最初の文字と母さんの最後の文字を合わせて名付けられたんだ。…僕の父さんはラクト、母さんはウルキ。僕は勇者と魔人の間に生まれた一人娘、名をラキ。」




兄妹は揃って大きく目と口を開けて固まっている。ラキはにっこり笑顔で言った。


「あらためて、よろしく。リコ、ロン。」



「ふあああああああ――――――――――――!?」


リコとロンは同時に部屋中に響くほどの大声を上げた。すると隣の部屋からドンドン壁を叩く音が聞こえてきたので、ロンは大声で「スンマセーン!」と言った。リコはまだ目をぱちくりさせ、口をあわあわ動かしている。


「まあ、驚くよね。こんな偶然もあるんだね。」


ラキは他人事のように笑っている。ロンはまだ信用しきれていないのか、ラキをジッと睨んで苦々しく言った。


「―――…お前…嘘だったらブッ飛ばすぞ?マジで!?」


「すぐに信じろなんて言えないからなぁ。証拠とかないし。まあ二人に任せるよ。」


そんなラキの答えにロンはガクッと肩を落とした。


「――――…んだよそれ…。つったってよぉおー…?」


「…リコは信じます。」


我に返って冷静になったリコは、真っ直ぐラキを見つめた。


「だってリコはラキさんに助けてもらいました。それに、その強さを私は見ました。あの魔物とのやりとりも…。リコは、ラキさんが嘘なんてつく人じゃないって分かります。」


「…ありがとう、リコ。」


真剣な眼差しで自分を信じてくれるリコの頭を、ラキは優しく撫でた。そんな二人を見て、ロンはでっかいため息を吐き出した。ラキに会って何度ついただろう。ロンもラキを見てこう言った。


「…今のところ信じない要素はねぇからな…。信じてやるよ、やりますよ。」


そのひねくれた答えがなんともロンらしく、リコと二人顔を見合せラキは微笑んだ。



「…――――つーか…ちゃんと話してくれんだろうな?」


どうやら早く話が聞きたいらしい。ロンは椅子に座ったまま、そわそわと落ち着きがないようだった。


「お兄ちゃん…。」


あからさま過ぎる兄の反応に、リコは苦笑いするしかなかった。そんな二人を見ながら、ラキは食べ終わった食器をベッドの脇の引き出しの台の上に置いた。そして姿勢を正し、視線をリコとロンの方に向けると、ゆっくり口を開いて語り始めた。



「じゃあ…そうだな。勇者と魔人、女剣士。三人での旅が始まったばかり、ってところから始めようか。」





外はすっかり暗くなっていたが、ラキたちの部屋の明かりはまだまだ消えそうにはなかった。








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