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イケニエ勇者の物語-第1部- ~勇者と呼ばれた少年~  作者: 青の鯨
。弱点、ライバル、新たな真実
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。弱点、ライバル、新たな真実-2-






昼も沢山食べていたため、夕食時はそんなにお腹は減っていなかった。しかし、城の料理人たちはこれまた豪華に大量のご馳走を用意してくれていた。シャーロットはなんなく昼と同じくらいの量をペロリと平らげ、使用人たちが拍手し笑っていた。ウルキは無理はしなかったが、ラクトは頑張って胸が苦しくなるまで食べた為に、部屋へ戻るのも体が重く大変だった。ベッドの上で苦しそうに唸るラクトは、夕食が終わりシ ャーロットがネタばらししたときを思い出す。


やはりラクトが考えたように、シャーロットはセミールに大体の話をしていたことを知り、ウルキはラクトに目で合図して笑顔を見せた。予想が当たったことよりも、ウルキの笑顔を見れたことが嬉しいと感じ、ラクトは恥ずかしそうに一人で布団の中に頭を突っ込む。にやにや顔を抑えようとしながら、シャーロットの話の続きを考える。


ネタばらししたあと、シャーロットはこう続けた。


「いいか?当分城にいることになるが、お客様気分も今日までだ。二人にはしっかり働いてもらうからな。働かざる者食うべからず!自分が出来ることをひとつでも見つけて考えて実行すること、いいな?お前らも甘やかすなよ?」


使用人たちにも牽制し、シャーロットはピシッとラクト視線を向ける。


「特にラクト、お前は毎日特訓することになるからな!!勿論今までよりもさらに厳しくだ!そのゆるゆる顔も今日までだぞ、覚悟しとけよ!?」


…という会話を思い返し、ラクトはブルッと布団の中で身を震わせた。


(か、覚悟はしてたはずだろ!?…でもどんなことするのかな…。あああ、弱いな俺。しっかりしろ!!変わるんだろ!?…うぅ゛…。)


自問自答を繰り返していたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ふと目を覚ますと、城の中はしんと静まり返った真夜中だった。


「…ああ…今何時だろ…。トイレ…。」


用をたして、なんとなく扉に目を向けた。カチャリと開けて辺りを見回すが、夜の城の中は静かすぎて少し怖いくらいだ。廊下に飾られている絵画や骨董品が不気味に見えてしまう。寝ぼけた目でうろうろとしていると、窓の外の月が真ん丸でこちらを覗いているのに気がつく。


(満月なんだ…。)


ぼんやり眺めるラクトめ目の端に、何かが動くのが見えて、ゆっくりと振り向く。廊下の先にいたのは、月明かりに照らされたウルキの姿だった。


「…へ?う、ウルキ?」


「あれ、ラクト?どうしたの?こんな真夜中に…。」


驚いた表情でウルキはラクトに近づく。


「や、ちょっと目が覚めちゃって…ウルキこそ、こんな時間に出歩いていいの?もしかして迷った?」


「うふふ、違うわ。なかなか寝付けなくて…ちょっと散歩してたの。私の部屋、この先の角を曲がったところなんだ。そしたらほら、月があんまり綺麗だったから…ついつい魅入っちゃった。」


柔らかく笑みをこぼしながら、ウルキは窓の外に視線を向けた。大きく輝く月はそんなウルキを照らし、ラクトはその神秘的な姿に心を奪われた。


「…ラクト?どうしたの?」


ボーッとするラクトに気づき、ウルキが尋ねると、ラクトは我に返って赤くなった。


「ききき、綺麗だよねっつ…月が…。」


男らしくウルキのことがと言えばいいのに。ラクトは自分の情けなさに涙が出そうだ。


「ね、本当に綺麗…。あ、そう言えばラクトも綺麗だったわよね。」


ラクトが女装させられたことを思い出し、ウルキはにっこり微笑んだ。同時にラクトはピシッと固まってしまう。


「…ウルキ…。もうそれは言わなくていいから…。」


「?似合ってたのは本当よ?」


「じゃなくて!!俺男だから、嬉しくない…んだよ…。」


泣きそうなラクトの表情に、やっと嫌がっていると分かったウルキは、慌ててゴメンと謝った。


「もう言わないから、ごめんねラクト?」


「…も、もういいよ…。俺もゴメン…。」


困ったように笑うラクトは、目の前にいるウルキを見て改めて思う。


「…ウルキの方が…綺麗だよ。」


「…え?」


寝ぼけているからだろうか?思っていることを口に出してしまい、ラクトは急に恥ずかしくなってアワアワし始めた。


「なななななんでもない!!じゃ、じゃあおやすみっ!!ウルキもはやく部屋戻って休んでね!!」


バタバタと部屋に戻っていくラクトをポカーンと見送って、ウルキは言われるがまま部屋に戻っていった。


「…へんなラクト。」


ぽつりと呟いてウルキは寝床に潜り込む。少しだけ火照った頬に気がつき、目を瞑って早く寝ることにした。


(…身体を冷やしたのかしら?ダメだわ、明日からちゃんと働かなきゃいけないんだから…ラクトも寝られたかしら…?)


ウルキがうとうとする一方で、ラクトはベッドの上で身悶えしていた。結局そのまま寝れぬまま、ラクトは朝を迎えたのだった。








「おはようラクト。…大丈夫?眼が真っ赤よ?」


ウルキがラクトの部屋に朝食を食べに行こうと言いに来たのだが、ラクトの眼は充血していて、髪の毛はボサボサ、疲れたように眼が虚ろだ。


「…お、おはよ…ちょっと寝つけなくて…。」


一晩中恥ずかしさで睡魔が一向にやってこなかった。本当はウルキにどんな顔をして会えばいいかなんて悩んでいたのだが、杞憂に終わる。


「んー!?なんだラクト、その顔。酷いな。」


すでに広間で椅子に座っているシャーロットは、ラクトの様子に眉間にシワを寄せて怪訝そうだ。


「すみません…えーと、緊張しちゃって。」


さすがに恥ずかしさで寝れなかった、なんて言えないので、ラクトは椅子に腰掛けながら軽く流す。この日通された部屋は昨日の大広間ではなく、食堂のような長いテーブルと椅子がズラッと並んだ場所だった。恐らく城の使用人たちの使うところなのだろう。すでにほとんどの使用人は食事を済ませ、ラクトたち以外あまり人はいない。そのため昨日のように豪華な朝食、と思いきや、うって変わってパンにスープ、サラダと、一般的なものだった。あまりお腹も減っていなかったので、ラクトにとってはとてもありがたい。


「お前なあ、もっとしっかり食えよ?これからビシビシやるんだからな?」


それぞれ三杯ほどおかわりしながら、シャーロットはラクトの皿を見て溜め息をついた。


「いや、昨日いっぱいいただいたんで…シャーロットさん、よく入りますね?」


見ているだけでラクトはお腹いっぱい、胸いっぱいだ。そんなラクトの横でウルキは自分のペースで淡々とスープを飲んでいる。


「んなもん寝れば消費されるもんだぞ?ま、今日からは逆に食えなくなるかもしれないからな。今のうちだぞ?」


ニヤリと笑みを浮かべるシャーロット。ラクトは言葉の意味がよく分からなかったが、何となく悪寒が走り背中が震えた。


「そう言えば…今日からどう鍛えていけばいいの?私も戦い方を教わった方がいいのかしら?」


スプーンを置いてウルキは真剣な表情でシャーロットを見た。シャーロットとラクトは思いがけない発言に驚きキョトンとしたが、ウルキはそれに気づかずにじっとシャーロットを見つめている。


「っぶはっ!ははは、そうだな…ウルキもある程度身体を鍛えた方がいいかもな。考えてなかったが、少し筋肉つけるか?」


「え?違ったの?」


笑われて初めて検討違いだったことに気づき、ウルキは当てが外れてぽかーんとしている。


「いや、やりたいなら付き合ってやる。ラクトは別のやつに任せるつもりだからな。」


「へ!?」


次に驚いたのはラクト当人だった。もちろん今まで通りシャーロットが鍛えてくれると思っていたからなのだが。


「シャーロットさんが…え?じゃあ俺、誰に鍛えてもらえばいいんですか?」


不安な色を隠せないラクトの表情に、シャーロットは大きく溜め息をつく。


「あのなあ?私だって久しぶりに帰って来てやることが色々あるんだよ。お前ばかりに付き合ってやるわけにもいかないんだ。確かにお前を鍛えるためにここに連れてきたのは本当だ。だから、適任者に任せるって言ってんだよ。」


「適任者…?」


「そうだ。さあーて、腹も満たされたことだし…そろそろかな?よし、ついてこい二人とも。」


皿を洗い場まで運び、シャーロットは部屋をあとにする。ラクトたちも慌てて皿を持ち、調理場のおじさんに頭を下げて、バタバタと出ていった。長い廊下から階段を降り、一階の中庭を通って広く拓けた場所にやって来た三人。そこでは騎士の格好をした者や、肌着一枚、中には汗だくで上半身裸の男たちが走ったり、組み合ったり、稽古する姿が見受けられる。


「うわあ…いっぱい人がいる。」


「ここは城の兵士たちが訓練に使う練習場だ。あそこにある建物には色々な武器や道具がしまってある。使いたかったら騎士団の誰かに話をして開けてもらえ。」


そう言いながらシャーロットは颯爽と練習場に足を踏み入れる。と、それに気がついた兵士たちが、一斉にシャーロットに敬礼し、次々に挨拶を始めた。


「おはようございます!!シャーロット副隊長!!」


「おかえりなさい!!副隊長!!敬礼!」


その行動にラクトたちはびっくりして目を見開いた。


「!?ふ、副隊長…!?」


「シャーロット…あなたって?」


するとシャーロットの前に一人の若者が立ち塞がり、ペコリと頭を下げてにっこりと笑顔を向けた。


「おかえりなさい、お久しぶりです副隊長!!お変わりないようでなによりです。」


サラサラのショートカットの金髪で少しそばかすのある二十代くらいのその男は、青い立派な騎士の服装をしていた。胸元には小さな金色のプレートがあり、緑色の宝石が小さく埋められている。


「おう、アイルか。相変わらず老けないな。お前今年何歳だっけ?」


「三十四です。いやあ、でも身体にはやっぱりちょっとずつ老いがきてますよ。」


あははと笑う目の前の男の実年齢に目を真ん丸にしているラクト。それに気づいてアイルはラクトに小さく微笑む。


「彼ですね?今回の旅で連れてきた少年というのは。」


「そうだ。名前はラクト。おい、ラクト。こいつはこの城の騎士団第二部隊長アイル・イース。こう見えて剣の達人だ。あとで教えてもらえ。」


シャーロットに紹介され、ラクトは緊張した面持ちで頭を下げた。アイルはじっとラクトの身体を見たあとににっこりと笑顔で言った。


「副隊長が連れてきたのはどんなスゴい少年かと思いましたが、見たところ特に変わったところはない普通の少年ですね?」


普通の少年、それは別に悪口ではないのだが、ラクトにはちょっとだけ心に刺さった。ラクトの表情が曇ったのに気づいて、アイルは更に笑ってラクトの頭をポンポンと叩いた。


「ははは!!別に弱そうだとは言っていないぞ?気にするなよ?」


ラクトは気持ちが顔に出ていたことが恥ずかしくなり、すみませんと謝りながら下を向いてしまった。


「おい、ラクト。こんなことで恥ずかしがってんなよ。アイルも、まるで私がとんでもないもの連れてきたような言いぐさじゃないか?」


「すみません、前回が前回でしたから…。おっと、君がもう一人の少女だね。よろしく。」


シャーロットの後ろにいたウルキに微笑むアイル。ウルキもにっこり微笑みを返して挨拶した。


「ウルキです。隊長さんだなんてすごいですね?」


「いえいえ、副隊長には負けますよ。」


「え?でもシャーロットは副隊長…二番目なんじゃ?」


シャーロットがこの騎士団の副隊長だということは先程の騎士たちの挨拶で初めて知った。しかし、隊長であるアイルが副隊長のシャーロットに負けるというのはどういうことなのか?


「え!?知らないのか?…副隊長、また何も説明せずに連れてきたんですか?」


アイルは若干呆れた顔をしてシャーロットを見た。シャーロットはふんと知らん顔でアイルに説明するよう手で合図する。仕方がないので、アイルはラクトとウルキに向かって真剣な表情で説明を始めた。


「いいかい二人とも。このお方は騎士団第一部隊長ガーランドの一人娘にして、第二部隊副隊長シャーロット。形式的には私の部下にあたるが、本当は第一部隊副隊長補佐、この騎士団の中で三番目に強いとされる地位に立っているはずだった人だ。つまり、この島にいる人間で三番目に強いっていうとんでもないお方なんだよ。」


「とんでもない者扱いするなよ、失礼だな。」


シャーロットのつっこみに反応する余裕は、ラクトたちにはなかった。聞かされたシャーロットの真実、今まで強いと思ってはいたが、まさかの地位に二人は言葉を発せないくらい唖然として驚いていた。


「…―――――――っえー!?」


「そっ…そんなに強かった…のね?」


二人は改めてシャーロットに視線を向ける。今まで身近に感じていたはずの彼女が、急に大きく雲の上の存在になったような気分になる。しかし当の本人は欠伸をしながら全然気にしていない。


「ふっ、はは!!何も知らずにここまでついてきたという君たちも相当大物になり得ると思うよ。まあ気にするな、確かに力では勝てないが、シャーロット副隊長はこんな人だ。堅苦しくしている方が逆に怒られてな、皆尊敬しているが特別畏まる必要はない。セミール様にも会ったんだろう?うちの城の偉い人はちょっと変わってるんだ、だからなんてことないさ。」


「おい、それはそれでどうなんだ?本人の目の前で言うことかよ?」


今度のつっこみはどうやらウケたらしい。ラクトとウルキはクスッと笑って笑顔を見せた。シャーロットはやれやれと頭を掻きながら、辺りを見回してアイルに質問する。


「アイル、あの二人は今どこにいる?任務中か?」


「え?ああ、いますよ。ちょうど昨日の夜帰って来て…あなたのことを伝えたら会いたい会いたいと暴れそうな勢いで、止めるのに苦労したんですから。あの二人に何か用事が?任務ですか?」


「いや、ラクトの指導をあいつにやらせようかと思ってな。」


あいつとは誰なのか分からなかったが、ラクトにはアイルの表情に驚きと動揺が走ったことには気づいた。


「あいつって…ちょっと、本気ですか?だってただでさえあいつは狂暴というか、それに…。」


アイルがチラッとラクトに視線をやるが、眉をハの字に曲げて深刻そうな顔をする。ラクトには話の中のあいつが誰なのかは知らないが、どうやら少し厄介な人らしいことは嫌でも伝わった。しかしシャーロットはふんっと鼻で笑い、ニヤリと口元を歪ませる。


「だからだよ。いるんならいつもの場所か?ラクト、ウルキ、ぼさっとしてんな、ついてこい。」


シャーロットがすたすたとアイルの横を通り過ぎて行くので、ラクトたちは慌てて後ろを追いかける。そんな二人を見送って、アイルは大きく溜め息をついて頭を掻いた。


「…大丈夫だろうか?相変わらず副隊長の考えは読めない。ラクト君…大ケガしなければいいんだが…。」


そんなアイルの心配を余所に、シャーロットは訓練場を抜けて木が生い茂る林の前にやって来た。城から少し離れたその場所には、人はほとんど居らず、ずっと先にある畑で作業する人影が二つ三つあるだけだ。


「しゃ…シャーロットさん!あの…一体どんな人なんですか?その…さっきアイルさんが言っていた、狂暴って…すごく気になるんですけど…。」


追いついたラクトは恐る恐る訊ねるが、シャーロットはじっと林を睨み付けて動こうとしない。ラクトとウルキは顔を見合わせ不思議そうに首を傾げる。



と、その瞬間、鋭い視線と殺気がラクトの身体を貫いた気がした。恐怖で震えるよりも速く顔をその方向へ向けたはずだった、が、ラクトの視界は一瞬にして空を見ていた。










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