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。シャーロット-3-






「ふふふ。ここは私の屋敷だぞ?近道して追いつくことなど簡単だ!」


ノーランは得意げにウンウンと唸っている。シャーロットは面倒くさそうにため息を吐いた。


「なんなんだよ…まだ何か用か?」


するとノーランはラクトたちににっこり笑顔を向けたあと、シャーロットの腕を引っ張り少し離れたところで真剣な表情をして小さく呟いた。


「シャーロット…お前はあの子たちをどうしたいんだ?」


「…はあ?なんだよ、なんでお前に話さなけりゃならない…。」


「トカの港が一時的封鎖になり、カードがあり身分を特定出来る人間だけが船に乗ることができた。だが許可があるにも関わらず、お前は原因となった魔物を人知れず退治し、わざわざ封鎖が解除になるまで身を潜めて出発した。…面倒事の嫌いなお前が、だ。」


「――――…何が言いたいんだ、ノーラン。」


シャーロットは鋭い眼差しをノーランに向けて、冷たい口調で話す。それを見たノーランは、じっとシャーロットの目を見たあと、こう言った。


「…それだけだ。」


「…は?」


拍子抜けするノーランの発言に、シャーロットは思わず変な顔をしてしまった。


「聞きたかっただけだ。あの子たちには許可証がない、だからそういう行動に至った。そういうことなのだろう?」


「あ、ああ、そうだよ…。」


ノーランの表情はいつもの飄々とした顔に戻っている。シャーロットはふうと息を吐いて平静に戻ろうとした。


「シャーロットにそこまでさせるだけの秘密が、彼らにはある。」


瞬間、シャーロットの瞳はノーランに鋭さを増した視線を送った。逆にノーランはため息混じりの息を吐いて、真っ直ぐシャーロットを見つめる。


「嘘をつくのが下手なのは相変わらずだな、シャーロット。そんなことじゃ折角の裏工作も水の泡だぞ。…そうか、彼らにはまだ何かあるんだな?一筋縄ではいかない何かが…。」


「なんだよ、気になるようだなノーラン。…お前の得になるようなことは何も無いぞ?」



シャーロットのその言葉に、ノーランは思わず噴き出して笑った。


「――――ぷっ…はっは!…そうか、損得は考えてなかったが。お前にそこまで言わせる存在が出来たことは、喜ぶべきことなのかもしれないな?」


「はあ?」


ノーランの言っている意味が分からず、シャーロットは変なものを見るように苦い顔をしている。気にすることもなく、ノーランは自分の話を続けた。


「シャーロット、ひとつ情報をやろう。お前がトカで倒した魔物、あれは誰かが倒した可能性があると噂されたが発見された時には既に別の魔物に身体を食い散らかされた後だった為、遂に原因分からず終い。経済的にも港の封鎖を長続きさせることが出来ないことから解除された。」



「それは知ってる。私はその魔物を倒したあと、ある場所に隠れていたが情報はもらっていたからな。」


「そうだろうな。だからこそ此処に来たのだろう?…だがな、多分これは知らないんじゃないか?封鎖が解除される少し前に、バルハミュートのトカを含める国の港にある指示が出されていたことは…『大剣を持った女と男女の子供の三人組』を見つけた場合、国に連絡を入れるべし、っていうな。」


「――――――…!!その指示は誰が!?」


シャーロットたちがひそひそと話しているのを離れたところから見守っていたラクトとウルキだったが、シャーロットが突然大きな声を出したので、心配そうな表情をしていた。それに気づいたノーランは、心配いらないというような仕草をして笑顔を見せる。


「大声を出すな…彼らに君の不安が移ってしまうぞ?」


「ったってな…落ち着いていられるわけないだろ!?どこの誰だよ、国に連絡だと…!?冗談じゃない!!」


怒りを露にするシャーロットを宥めるように、ノーランは静かな声で付け足した。


「大丈夫だ。いまのところ発見されたという連絡はない。それに指示には続きがあってな、子供たちは許可証がないため要確認すること。…安心したいのなら早めに彼らの身分をしっかりさせてやることだな。」


「…はあ…。なんてこった。」


一気に疲れた表情をするシャーロットに、ノーランは笑顔を向ける。


「まあまあ、逆に考えればトカで魔物を倒して良かったということじゃないか?でなければサイジルに戻って来られなくなったかもしれないんだからな。そういう悪運の強さも相変わらずだな。」


「…笑い事じゃねえって。」


「ん、失礼。…指示を出した正体は定かではないが、バルハミュートの位の高い人物だということは間違いない。今後はバルハミュートに行くことは避けた方がいいかもしれないな。」


「そうだろうな…。というか、お前の情報網も相変わらずだな。」


「騎士としても貴族としても、情報は命に関わる大切な武器だからな!…検討を祈る。」


「ああ…ありがとう。」


ノーランにお礼を告げ、シャーロットは不安そうな表情をしているラクトたちの元に向かい、何事もなかったように振る舞った。


「よし、出発!また船に乗るからな、ラクト、船酔いするなよ!」


「へ!?も、もうなりませんよ!!」


いつも通りのシャーロットの態度に安心して、ラクトとウルキはノーランに頭を下げたあと、シャーロットの後ろを追いかけて行った。ノーランは屋敷の入り口からその姿を見送る。


「…行ってしまわれましたね。」


声の方に顔を向けると、ノーランの後ろにデニが目を細めながら立っていた。


「ああ、まったくもう少しゆっくりしていけばいいものを…。シャーロットらしいといえば、らしいがな。…デニ、彼らをどう思う?」


ノーランはラクトとウルキの後ろ姿を見つめてデニに尋ねる。デニは細めた目を閉じてにこりと微笑み言った。


「とても素直で礼儀正しい方たちかと。」


ノーランはフフっと笑って笑顔を見せる。


「そうか、デニの目に狂いはないからな…。まったく、シャーロットを味方につける子供がいたとは、人生何があるかわからないな。」


そう言ったあと、ノーランは屋敷の中に入って行った。が、その表情は真剣な雰囲気を纏っている。


「デニ、バルハミュートで何かが起きる予感がする。調べておいてくれ。」


扉を閉めて後ろを歩いていたデニは頷く。


「分かりました。旦那様の勘はよくお当たりになりますからね。」


ゆっくりとノーランから離れ、デニは姿を消した。ノーランは不敵な笑みを浮かべ、自室の椅子に腰掛けた。


「さて…シャーロットの悪運は私にとって吉と出るか、あるいは…。」






そんなノーランとデニの会話を知る由もなく、ラクトたちはトルマディナに向かう船を見つけ、出港までの間に昼食をとることにした。朝からデニのお茶しか飲んでいなかったので、腹ペコの三人は無言で料理を頬張っている。


「――――っぷは。あー、もう入りません!」


満足そうに丸くなった腹をさすりながらラクトは笑顔に言った。


「初めて食べる味だけど、とっても懐かしい感じがするわ。トマトを使うものが多いのね?」


ウルキはシャーロットの前に並べられた皿の数に圧倒されながら、フォークを置く。


「ああ?ゴクンッ…トマトはこの国の特産品で、欠かせないものなんだよ。ふうー、食った食った。」


「はしたないわよ。」


ウルキにぷんすか怒られ、シャーロットは思わず笑ってしまった。


「にしてもノーランさんの家、凄かったですね。…俺、失礼じゃなかったかな。今さらですけどなんか場違いだったような…!」


あわあわとラクトが青くなっていると、シャーロットが意地悪そうにニヤリと笑みを浮かべた。


「そうだなあ…従兄弟とは言ってもアイツの家は成り上がりでも貴族だからな。ラクト、お前…ずいぶん馴れ馴れしかったんじゃないか?」


シャーロットの言葉にヒイィと怯えるラクトを見て、今度はウルキまで笑っている。


「ま、アイツはそんなこと気にするような奴じゃないけどな。…気にするんだったら別のことだろ。」


「別のこと?」


意味深な発言にラクトもウルキもきょとんとしているが、シャーロットは答えることなく話を続けた。


「とにかく、これから向かうトルマディナが、私の故郷であり目的地だ。サイジルは小さな島々が集まってできている。だからトルマディナも小さな島なんだ。着いたらもう人目を気にすることもなくなるぞ。」


「な、何だか逆に緊張する…。」


思いがけないラクトの言葉にシャーロットたちが驚いていると、ラクトは身を縮めて言った。


「シャーロットさんについてきたのがこんな弱い子供だなんて…言われたらどうしようかなって。さっきノーランさんも言ってたから…。」


弱気なラクトの姿に、呆れかけたシャーロットだったが、横からウルキが笑顔を見せる。


「じゃあ、島に着いたらおもいっきり修行をつけてもらえば大丈夫よね。」


ウルキの一言にラクトは目を開けてぱちくり瞬きをした。シャーロットはたまらず噴き出して大笑いする。ウルキの前向き発言はラクトをも笑わせ、三人は大声の出しすぎで店の人に注意されてしまった。


「…そうだね。着いたらまた特訓よろしくお願いします。シャーロットさん!


店から出たあと少しラクトは笑顔でシャーロットに言った。旅を始めて約一ヶ月が経とうとしているが、ラクトの心の持ちようは段々と変わりつつあった。












時を同じくして、とあるお屋敷の中で二人の男が会話していた。一人は大きな椅子に座り、もう一人はその男の前にある机を隔てて立っている。外は生憎の大雨で、静かな部屋の中には雨音がザーザーと響く。



「…強くなってきましたね。」


立っている男が窓に視線を向けて言った。男の右目には包帯が何重にも巻かれ、短い髪のせいで痛々しさが隠れずにいる。


「そうだねえ…ふう、外に出かけようと思っていたのだけれど、これじゃあ行く気が失せてしまうよ。」


座っている男が肩まで伸びた自分の髪を指でいじりながらため息をつく。そして立っている男を下から覗くようにじっと見つめた。


「…痛そうだね?まだ痛むかい?」


「いえ、問題ありません。」


この二人の関係は主従なのだろう。キリッとした表情で答える男に、主である男はフフっと笑って右腕で頬杖をついた。


「そんなにムキになって答えなくても…すまないね、折角君が私の元に来た途端に大怪我をさせてしまった。私は君にとっての疫病神なのかもしれないなあ?」


「何を仰っているのですか?目は完全に失明したわけではありません。それに、私は貴方の役に立つために自分から志願してきたのです。私の無理な願いを聞き入れ、こうして側において頂けるのですから、私は幸せ者なのです。」


真剣に主を見つめる男、それを見て椅子の背もたれに寄りかかった男の口元は…笑っていた。


「そしてこれは貴方を守るためにできた、何を後悔する必要がありましょう?」


「フフ…そうか、そうだったね?」


主は笑みを隠し、真っ直ぐ従者の男を見つめて言った。


「君という側近が出来て、本当に心強い。これからもよろしく頼むよ…ジール。」


「喜んで…。」


従者が頭を下げたときだった。部屋の外から扉を叩く音がする。従者が主の了承をとり、扉を開けた。



「失礼します!例の通達についてご報告したいことが―――――。」


座っていた男がにんまりと笑みをこぼす。


「早く見つかるといいねえ…私と君にとって大切な…フフフ。」


雨音はさらに増し、外は真っ黒な雲で覆われていた。ゴロゴロと雷の鳴る音が、彼らの会話を掻き消すように、静かな渦が着々と動き始めていた。












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