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.ラキという名の-2-





「……へ?」


兄の言葉にきょとんとする妹。するとラキは気にする様子もなく、また無表情で言った。


「うん。」


「ぅええ――――――!?ご、ごめんなさいラキさん!私てっきり…おおおお…!」


あわてふためくリコを見てラキは笑う。


「気にしなくていいよ。こんな格好だしそう思うのもしょうがないさ。」


「はあー…やっぱりか。通りで腰が細い…。」


「お兄ちゃんセクハラ!?」


兄の言動にリコは敏感に反応した。ロンはラキを宿屋に運んだときに気がついたらしい。そのため汚れた服を脱がせるのも上着だけにしておいたのだった。


「仕方ないだろ!ってかそもそもお前も、僕ってややこしいんだよ!わざとか?男になりたいのか!?」


セクハラ呼ばわりされたのが嫌だったらしい。ロンはラキにイライラしながら言った。世に言う八つ当たりだ。


「なりたい…というより男には生まれたかったとは思うけどね。まあ女に生まれたからそこはしょうがないと思ってるよ。」


「いや…お前さ?」


あっけらかんと答えるラキを見て、ロンは思わず肩を落とす。リコは目をパチパチしているが何もしゃべれないようだ。


「あ、僕っていうのは母さんが…旅に出るなら男だと思われる方が都合がいいからって。女だとなめられるって言われたんだよね。」


淡々と話すラキとは裏腹に兄妹は一気に疲れた顔をしていた。


「…そうかよ。」


「あはは…。あ、ラキさんご飯食べてください。お腹空きましたよね?」


リコに言われて空腹だったことを思い出したラキは、いただきますと一言言うと、両手を使ってガツガツと口に食べ物を放り込んだ。その様子を見て、ロンもリコも口を開けてポカーンと見ているしかなかった。


「…本当に女か?」


小さな声で言ったロンの呟きは、ラキの食事の音に掻き消された。



「―――――っふう…ごちそうさまでした。けぷっ。」


あっという間に目の前にあった料理は、ラキの胃の中におさまってしまった。リコとロンはその光景をただただ見ているだけだった。


「生き返りました。」


ニコッと笑顔で今度は水を一気に飲み干して、ラキは二人が固まっているのにようやく気づく。


「どうしたの?何かついてる?」


「…別に。」


「あ、あはははは…。よっぽどお腹減ってたんですね。」


「うん。すぐお腹空くからいっぱい食べないともたないんだよね。お昼食べなかった余計に。あ、そっか、それで驚いてたのか。」


「…にっぶ。本当にお前魔物倒したのかよ?なんか信じらんねぇんだよなぁ…。」


ロンはため息をつきながらラキをまじまじと見つめた。


「ほんとだもん!凄かったんだからね!ね、ラキさん!」


リコはあの戦いを思い出して熱く語る。


「うーん。凄いとは言えないけど。」


ラキは相変わらず落ち着いた様子で返事をしたが、ふと二人がいるのとは反対側のベッドの脇に置かれている自分の荷物を見つめた。傷がついてボロくなったショルダーバッグと、魔物を倒した剣。ラキはジッと剣を見たまま動かなくなった。



「…その剣だいぶ古そうだよな?ま、カバンもボロいけど。」


「お兄ちゃん!」


ロンの無神経な発言にリコはキッと睨みをきかせた。ロンはプイッと反対の方に顔を向けて聞かないふりをしている。


「…元々父さんが使ってた物なんだ。その前は父さんの父さん…おじいさんってことになるのかな?が使ってたらしいよ。」


剣を見つめたままラキは無表情で答えた。


「ふーん…。じゃあ形見ってことか。」


「そうだね。そうなると思う。」


「お兄ちゃん!」


リコはプクーッと頬を膨らませて怒っているが、ロンは相変わらずそっぽを向いていた。そんな二人の様子にラキは思わず笑ってしまう。


「ははっ、いいよリコ。気を使わなくて。逆に使われた方が困るかな。」


「ほらみろ。」


得意気に言ったロンにムッとして、今度はリコがそっぽを向いてしまった。なんとも微笑ましい光景に、ラキの表情も自然に柔らかくなる。


「いいね、兄妹って。」


「知らないです!こんなお兄ちゃん!」


リコはまだプンプン怒っている。


「おい。…まあ、いいもんだぜ?こんなんだけどな。」


指を指して笑うロンに、ラキは笑って頷く。



「そういえばお前一人で旅してんのか?ってか、いくつだ?」


「十五。一人で旅してもうすぐ一年になるかな?」


「は?なんだ、俺と同い年じゃん。」


「あ、そうなの?年上かと思った。」


「思ったわりにはタメ口だけどな。へぇー、じゃあ俺たちの方が早く旅してるな。二年目だ。な、リコ。」


「…知りませぇん。」


楽しそうな二人の会話で余計に拗ねてしまったらしい。リコは体ごとそっぽを向いてしまった。



「へー…そんなに早く二人だけで?よく親が許したね?」


「ん?…まあな。どうでもいいだろ、そんなこと。」



今度はロンがムッとした表情をした。リコもピクッと肩を揺らして反応したが何も言わない。どうやら聞かれたくはないことらしい。ラキはちょっと考えて話題を変えることにした。


「ふうん。にしても大変だね、若者二人旅。僕一人でも大変といえば大変…かな?」


「ぶっ、なんで疑問文なんだよ。若者ってお前もだろ?やっぱへんな奴だな。ははっ。」


そう言ってロンは笑った。


「ま、一番大変なのは金だよな。どこいっても金がなきゃやっていけねぇし。でもな、俺だってそこそこ強いんだぜ?だから魔物ぶっ倒して魔力を売って金にしてるんだ。お前だってそうだろ?」


「まあね。へぇ、ロン強いんだ。」


「んだよ、文句あっか?確かめてみるか?ん?」


ロンはわざと拳をラキに見せるように構える。顔は笑っているので本気ではないようだが、リコはぶわっと勢いよく振り返って大声を出した。


「お兄ちゃん!」


どうやらリコの怒りが頂点に達したらしい。仕方なくロンはしぶしぶ拳を下げた。


「おーこわ。聞いたか?今のでけぇ声。兄ちゃんは心配だよ。嫁の貰い手がねえんじゃねぇかって。」


「きぃ――――――っ!」


リコはポカポカとロンを叩いたが、ロンは気にもせず笑っている。


「本当に仲がいいね。」


「良くないです!」


思ったことを言っただけなのだが怒られてしまった。リコはハッとなってラキに慌てて謝る。


「あああ、ごめんなさいラキさんっ!」


ロンはあたふたする妹を見て面白そうに笑っている。なんとなく大変なのはリコだな、と思うラキだった。



「まあ、旅人って今は多いもんね。昔に比べて。君たちみたいな若者っていうのもおかしくはないか。」


泣きそうな顔のリコの頭を撫でながら、ラキは思ったことを口にした。


「そりゃあれだろ。『勇者様』のおかげだろ?」


ロンは何故か目をキラキラさせながら、ラキの言葉に反応した。ラキは目を真ん丸にして撫でている手を止めた。



「…『勇者様』?」






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