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.特訓の成果-3-





すでに装備していたグローブを確認し、拳と拳をカツッと合わせた。まだバッカーニの演技の余韻が残っているのか、人々は期待の拍手をロンに送る。



「――――――フッ!」


ロンは勢いよく床に向かって右の拳を振り下げた。ボフンッと辺りに熱風が吹き上がり、観客はびっくりしたようにロンを見ている。


「ぶはははははは!!何が前のままだと思うなだ!?やっぱりただの熱風だけでねえが!!」


舞台の隅っこで大笑いするバッカーニ。リコはハラハラした様子で兄を見ている。するとラキがリコの肩をぽんっと叩く。


「大丈夫だよ、ほら。ロンってば…すっごい悪人面で笑ってる。」


ラキに言われてよく見てみると、ロンはニンマリと黒い笑顔を浮かべていた。


「…だからバカだっつってるんだよ!!」


そう言ったあと、ロンは左手を床に近づけ、右腕を真横に伸ばした構えをする。そしてゆっくり右の拳を回して熱風を纏わせ始めた。


「…――――っくぜ!!」


ロンが大声を出した瞬間、左の手のひらからボッと炎が現れた。


「―――――っんな゛!?」


バッカーニは目を大きく見開き驚いているが、ロンの技はそれだけでは終わらなかった。左手の炎に、先ほど右手に纏わせた熱風を思い切り横にぶつけた。瞬間、一気に炎は渦を巻くように吹き上がっていく。ロンはそれを撫でるように触れ、炎はまるで命を吹き込まれたように姿を変え、恐ろしい竜の姿になった。


「ななななな゛あ!?」


炎の竜は勢いをつけながらバッカーニ目掛けて流れるように突き進む。彼は恐怖で奇声を発しながらロープを飛び越え、舞台から滑り落ちてしまった。しかし竜はバッカーニに当たるすれすれで上へ登っていき、今度はロンに向かって下に落ちていく。


「きゃあああ!!」


「お兄ちゃん!?」


人々は思わず目を閉じたり、手で顔を覆う。リコも慌てて兄の元へ駆け出そうとするが、ラキが肩を掴み引き留めた。


「ロンを信じて、リコ。」


「で、でも―――――!?」


リコがラキからロンに視線を戻したとき、竜がロンを飲み込もうと口を開けていた。


「お兄ちゃ――――ん!!」


リコが叫んだ瞬間、ロンは炎の竜に飲み込まれた。


ブワワワッと辺りに激しい熱風が吹き荒れ、人々は熱さで悲鳴を上げる。リコは一瞬息が止まり、思わず自分の魔力を発動させてしまった。ラキがすぐ気づいてリコを周りから隠すようにしゃがませる。



「―――――…へ?」


小さな魔力の泡の粒が弾けたとき、リコは目をぱちくりさせた。そして立ち上がってジッと目を凝らす。舞台の中央、炎の柱が上がる中にうっすらと黒い人影が見える。


「っしゃあああ!!」


すると舞台の上からロンの声が聞こえてきたと思ったら、炎はブワッと熱風で吹き飛ばされ、中からロンのガッツポーズした姿が現れた。


「あっち!っと…どーだバッカーニ!!俺の勝ちだろ!?」


得意気に勝ち誇った表情をするロン。しかし、バッカーニも、周りにいる人々も、皆ロンを見つめて止まっている。その様子にロンはハッと我に返る。


(し…しまった。やり過ぎた…か!?)


ロンが口元をヒクッと動かして、不安そうにしていると、舞台の近くから町の少年の声がした。


「――――…す、すっげえ!!」


「お、おお!やるなお前ー!!」


「熱かったぞ、コノヤロー!!」


少年の言葉を筆頭に、観客からは歓声や文句が飛び交ったが、ロンは大きな拍手に包まれた。どうやらなんとかなったらしい、ロンは拍手を浴びながらホッとしたように舞台を降りた。


「――――…お兄ちゃん。」


リコの呼ぶ声が聞こえた方向にロンが振り返ると、そこには睨みをきかせているリコの姿があった。


「な…り、リコ?」


ロンが苦笑いしながら近づいていくと、リコはおもいっきりロンのお腹に右ストレートをお見舞いした。


「げふっ!?」


「バカ!バカバカバカバカバカバカバカバカバカ――――――!!すっごく…すっごく心配したんだからね!?」


よく見るとリコは半泣きしながら顔を真っ赤にしていた。自分の修行で精一杯だったリコは、ロンの修行の様子をほとんど知らなかったため、ロンがあそこまで炎を扱えるようになっていたことがわからなかった。なので余計に兄が燃えてしまったのではないかと心の底から恐ろしかったのだ。


リコの涙を見てロンは反省する。そっとリコの背中に手を回してギュッと抱き締めた。


「―――――…悪かった。ごめんな?」


うう゛ーと唸りながらリコはガッシリとロンの服を掴んでいる。愛おしいと感じる妹の存在に、ロンはつい微笑む。



「バッカーニさん、大丈夫でしたか?」


横で聞こえた声に反応して、ロンは振り返った。舞台から落ちたバッカーニだが、大した怪我はしなかったらしい。ラキがグイッとバッカーニの身体を引っ張り、ぺこりと頭を下げたのが見える。


「今回はロンの勝ちってことでよろしいでしょうか?僕たちは先を急ぐので失礼しますが、またどこかで会うときまで、このことはバッカーニさんの中で留めておいてください。お願いします。」


「――――…へ?あ、ああ…?」


早口で話を進めるラキに、バッカーニはまだ頭がついていかず曖昧な返事をする。そこでラキはボソッとバッカーニの横で呟いた。離れたところにいたロンには聞こえなかったが、バッカーニはハッとした表情をして小さく頷いた。


「ロン、リコ行くよ。」


バッカーニとの話を終えて、ラキは二人の元に早足で来て、急かすように港を目指して歩いていく。連れられるまま、ロンもリコもきょとんとした表情でラキの後ろを歩いた。舞台の近くでは、先ほどの興奮がいまだに冷めず、人々はわいわいと盛り上がっていた。



船着き場に到着すると、慣れた様子でラキはてきぱきと乗船手続きを終え、すたすたと船の中に入っていく。ロンとリコはそれに続くが、無言のラキに少し戸惑っていた。


船内に入ると乗客用の部屋があったが、ラキは何も言わずに通りすぎてしまった。ロンたちが疑問を感じると、ラキはいきなり側にあった扉を開き二人をその中に押し込む。そこは人気がなく、倉庫のような場所だった。木箱がいくつも積み上げられ、ロープで固定してある。


「!?ラキ…っおい?」


「ラキちゃん…?」


二人がいきなりのラキの行動に驚いていると、ラキは無表情のまま二人にデコピンをくらわせた。


「あだっ!?」


「ぅきゃっ!?」


バチンッといい音が鳴り、ロンとリコのおでこは赤く染まってしまった。


「………二人とも、僕の言いたいこと分かってるよね?」


ようやく口を開いたラキの言葉に、二人は何も言い返せなかった。


「わ…かってんよ。やり過ぎたよ…。」


「わ、私も…思わず力…使っちゃいました。ごめんなさい!」


無表情のラキだが、二人に対する威圧感は半端ではない。リコも、そしてロンまでも、すぐに謝罪の言葉を述べざるをえなかった。


「ロン、君はいくらリコのことだからといって熱くなって周りが見えなくなるのはどうかと思うよ?それにわざわざ攻撃してこないと分かってる相手をあそこまで追い込むことないよね?あんなに派手なパフォーマンスまでして、僕らが悪目立ちすることは明白だよね?」


「うう゛…。」


「リコも、心配だったことはわかるよ。でもあんな大勢の中で力を使ってるところを見られたらどうなるか分かってるよね?僕は大丈夫っていったけど信用出来なかったかな?」


「ごっ…ごめんなさい…。」


ラキに怒られ、ロンもリコも俯いて黙り込んでしまった。どちらも表情から反省していることは十分伝わってくる。するとラキはフウと一つため息をついたと思うと、自分の額にもデコピンした。バチィンッと一番いい音を放った一発に、ロンたちは呆気にとられている。


「なっ!?どうした!?」


不可思議な行動に驚いてロンが聞いてみる。ラキはぶるぶる頭を左右に振ったあと、ムスッとした表情で言った。


「…とかなんとか言って、ロンに大会に出るようけしかけたのは僕だからね。反省。ごめんね。」


「…へ?」


「―――…は、ハハッ!」


きょとんとするリコ、そしてロンはつい笑い声をこぼす。ラキの言っていたことは正論で尤もな過ちだったが、ラキは自らの行動をも理解し、そして二人と同じように罰を与えたのだった。その冷静さと潔さに、反省していたロンも思わず笑ってしまった。


「はは!お前…なんか俺より男前じゃね?」


「そうかな?…ぷっ…ははは。」


つられたようにラキも笑みをこぼす。ロンなりの誉め言葉ととれる発言が、可笑しさに変わったからかもしれない。


「…じゃあ、今回は大事には至らないとは思うけど、次はないからね。皆で気を引き締めていこう!」


「おう!」


「ハイ!」


改めて三人で反省し終わったあと、倉庫部屋からこっそりと出て、他の乗客が集まる部屋に移動した。そして暫くして船が出港する。三人は甲板へ出て、トカの港が遠くなるのを見ていた。


「そういえば…あのときバッカーニに何を言ってたんだ?」


ふと思い出したようにロンがラキに尋ねた。戸惑っていたバッカーニにちょっと話をしただけで、ラキはバッカーニに引き留められないようにしていたのだが、その内容が何だったのか気になっていたのだ。


「ああ…彼、悪い人じゃなさそうだったし、リコのこと気にかけてるようだったからさ。『騒ぎになればリコが困る状況になってしまうので』って言ったら、すんなり受け入れてくれたんだ。あ、詳しいこととかは言ってないから安心して。」


ラキの説明を聞いて、ロンはムスッとした表情をしたが、ふいっとそっぽを向いて呟いた。


「別に…悪いやつだとは思ってねえよ…。気に入らないだけだ!」


投げやりな言い方だが、ちょっとはバッカーニに対して感謝を感じているのだろう。素直じゃない兄にリコはクスクス笑っている。


「お兄ちゃんってば。…また会ったらお礼しなきゃね。」


リコがそう言うと、ロンはバッと振り向いてくわっと表情を変えた。


「ちょっと待て!だったら俺がするからお前は何もするな!!」


「…へ?」


ロンの反応に、リコもラキもポカーンとしている。すると、二人はプハッと堪えきれず笑い声を上げた。


「アハハハ!ロンったらどれだけ…ハハッ!」


「も、もー!お兄ちゃん!」


二人の様子にロン自身も自分の言葉の可笑しさに気がつき、一緒になって吹き出した。


「ぶっ…ははは!!」


三人の笑い声が響く中、船は順調に航路をたどり、青い空と海の間を進んで行く。一行が目指すはサイジル。小さな国だが、その中にある一つの島、トルマディナでラキの師匠シャーロットに会うために…。


五日ほどの船旅になるため、ラキは再びラクトの物語を語り始める。ちょうどラクトたちも魔物を退治し終わり、船の中で数日身を潜め無事出港許可が下り、ジィンの船で港を後にした。そんなところから続きが始まる――――――…。









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