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.特訓の成果-2-







小さな港町、ブルワニ。三人が到着すると、町中に人だかりができていることに気がついた。


「なんだろうね?」


「気にすんな、いくぞ。」


リコがその人だかりを気にしたが、ラキとロンは気にせずに船の案内所まで急ごうとした。すると、人だかりの中から突然大声が聞こえてくる。


「おおおおまえはあああ――――――!!」


その声にロンは一瞬ピクッと反応し、チラッと人だかりに視線を向ける。すると一人の大柄な男が人混みをかき分けながら、ずんずんとロンたちを目指して進んできた。


「ああ!」


「うわあ…。」


どうやら知り合いらしい。リコは驚き目を見開いて、ロンは嫌そうに肩を落として男を睨んだ。


「ひっさしいなあああ!?おめえまだいぎでたんだな!!」


訛りが強く聞き取り辛い言葉で、男は含み笑いをしながら二人に話しかけてきた。


「バッカーニ…なんでバカがここにいんだよ?」


男をけなしながらロンはため息をついた。


「んだど!?ロイン゛てんめええ!!」


男は憤慨してかなり苛立っている。


「あ、そっか。ロインってロンのことか。」


男の怒りに触れることなくラキはポンッと手を叩いて一人で納得する。その様子にその場にいた全員がきょとんとラキを見ていた。が、バッカーニはぶるぶる首を振って我に返る。


「んだあ?あんだ、ロインの仲間か?初めて見る面だなあ?」


「ああ、はじめまして。ラキです。」


「おっと、これはこれはご親切に。バッカーニっつう者です。」


普通に挨拶しているラキの腕をグイッと掴み、ロンは小声で言った。


「何のんびり挨拶してんだよ、先急ぐぜ、こいつめんどくさいんだよ。」


「ああ゛ん!?きごえてっぞ、ロイン゛―――――!!」


でかい図体の割には地獄耳らしい。バッカーニは怒りの形相でロンに向かっていく。


「やっ、やめてください!バッカーニさん!」


いてもたってもいられず、ついにリコがロンとバッカーニの間に割って入ってきた。


「お、お!リコちゃん!」


するとさっきまでの形相はどこへやら、バッカーニは顔をポッと赤くさせ、リコの前で立ち止まった。


「げ、元気だったか?相変わらず…可愛いんだなあー!」


「え、えと、どうもです…バッカーニさんもお元気そうですね。」


もじもじしながら会話するバッカーニとは反対に、今度はロンが凄い形相に変わっていく。ラキは交互にその様子を観察し、ああ、と一つの答えを出した。リコのことを守ろうとするロンと、リコに好意を寄せるバッカーニ。この二人の経緯はわからないが、相反する立場であるということ、つまりは犬猿の仲というものなのだろう。その証拠に間に入ったはずのリコはアワアワと二人の対応に追われていた。


「あ、あの…バッカーニさん、お兄ちゃんも…あわあわ。」


見かねたラキがロン…は放っておいて、バッカーニに質問した。


「バッカーニさん、あの人だかりってなんなんですか?」


リコにでれでれしていたバッカーニは不意をつかれたような顔をしたあと、自分がいた人だかりを指差した。


「おっ、おお…。あれな、この町で毎年行われている力試し大会なんだどよ。魔武器使ってつええとこ見せ合って盛り上がるんだど。つまり、町興しだな。」


そう説明されてよく見てみると、確かに人だかりの中心で何かをやっている人たちが見える。六角形に張られたロープの中で、口元に金の輪を当てて火を吹く人、杖の先から水を出して蛇のように動かす人。中には何枚もの木の板を次々に素手で割っていく人もいる。魔武器どうこうに関わらず、そのパフォーマンスに周りの人々は拍手を贈っていた。


「なるほど…そんなのがあるとは知らなかったな。」


ラキは吹き上がる炎を見ながら、ぽそりと呟いた。何度か利用している港だが、船の乗り降りだけであまり町のことに詳しいわけではなかった。


「毎年づっても、ここ三年のことらしいがらなあ。ほれ、参加しているのも五組しかいねえだろ?見てんのも町の人間が多いしなあ?」


するとまたロンがラキの腕を引っ張り、強い視線を向けた。どうやら早くこのバッカーニから離れたいらしい。ラキはその心情を察して、ふうとため息まじりの息を吐いてバッカーニを見た。


「ええと…じゃあ僕たちは急ぎの用がありますので失礼します。」


そう言ってペコッと頭を下げ、船着き場に向かって歩こうとした。が、そんなラキよりロンの方が一足先にずんずんと前を歩いている。


「お?お゛?逃げんのか、ロイン゛?」


バッカーニのその一言でロンはビタッと動きを止めるが、無理矢理作った笑顔を向けて強がってみせた。


「はっ、逃げるんじゃねぇよ!急用だっつってんだろ!?まさか意味わかんねぇのか?そこまでバカだとはな!!」


「ふんぬー!!なんだど!?ロインでめ゛――――――!?」


挑発的なロンにバッカーニは激怒した。ラキとリコはそんな二人に呆れ顔をしている。睨み合った二人はお互い引こうとせず、町の人が回りに集まってくるほど目立っていた。あまり目立つ行動はとりたくないと思った矢先、とんだ足止めをくらってしまったらしい。ラキはヒドイ顔をした二人に、一つの提案をした。


「ねえ、二人ともあの大会に参加してきたら?多く拍手をもらった方の勝ち、それで負けたら勝った方の言うことを一つ聞く。それでどう?」


思いもよらない提案に、ロンは思わず目をまん丸にしてラキを見た。


「は!?何言ってんだよ!?行くんだろ、急がなくていいのかよ!?」


「急ぎたいけどロンが意地張ってる限り進めそうにないから言ってるんじゃないか。」


呆れられたロンはウグッと声を飲み込んだ。するとバッカーニはニタリと笑みを見せてラキの提案に賛成する。


「オラはいいぞ?どおせ勝つのはオラだがらな。勝ったら、り、リコちゃんと二人っきりで話させでも、もらうかだな!」


大きな身体をもじもじさせながら、バッカーニはちらりとリコの方を見た。リコ自身は困った笑顔をしている。


「っ!!させっかよ、いいぜ、上等だ!!俺が勝ったら二度と関わってくんじゃねぇよ!!」


ついにロンも折れて、二人は大会が行われている場所に向かって行った。もちろん睨み合ったままで。大会に出る手続きを難なく終え、二人は六角形の舞台の上に上がった。すでに他の参加者はパフォーマンスが終わりつつあったので、見学していた人々の視線は自然と二人に集まる。



「ふんっ!まずはオラからだ!!びびって逃げ出すんじゃねえぞロイン゛!!」


そう言ってバッカーニはずんずんと中央へ歩み出る。ロンはケッと舌打ちしながらその後ろ姿を見ていた。黄土色の短髪を揺らし、引き締まった筋肉の大きな体のバッカーニは、両手を拡げて観衆にアピールする。急遽参加したバッカーニに人々はパチパチと小さな拍手を送った。


バッカーニが何かをごそごそと荷物の中から取り出した。青い四つの短い棒を、一本の長い棒に組み立てると、それをブンブン振り回し始める。そして頭上でぐるぐると回し、ニヤリと笑みを浮かべた。


「―――――そおら!!」


バッカーニの掛け声と共に、突如として棒の両端からブワッと煙が飛び出し、下に落ちることなく棒と同じように円を描いて浮かんでいる。


「…雲?」


ラキがそう呟いたとき、煙はもくもくと棒をも隠し、バッカーニの頭上で直径ニメートルほどの塊が出来上がった。するとバッカーニは棒を一旦下に下ろし、今度は縦に持ち換えて雲の中心に突き上げる。


「いぐど―――――!!」


そう言ってバッカーニは棒の真ん中近くにある赤い玉を握った。瞬間、辺りにゴゴゴゴッと轟音が鳴り響き、見物客は咄嗟に悲鳴を上げて耳を塞ぐ。


「雷か!」


そう、バッカーニの頭上の雲はどんどん黒く染まり、ゴロゴロと音を鳴らす雷雲に変わっていった。所々でチカッと光が走り、その度に人々の恐怖する声が聞こえた。


「おっと、これからだどー!!そうら!!」


バッカーニはまた雲から棒を抜き始めた。すると棒の先に雷のような電気の塊がくっついている。それは棒と雲を繋いだまま、バッカーニの操るままに唸りを上げながら伸びていき、まるで光の渦のような幻想的な光景を作り出した。


「きゃー!!」


「綺麗…!」


人々は恐怖や感嘆の言葉を口にしながら、光に魅入っている。


「仕上げだぞー!!」


バッカーニは作った光を一点に集め、それを雲に再び突き刺した。そのとき、バアアアアンッと雲が物凄い光と音を発して弾け飛ぶ。黒い雲はあっという間に消え去り、何事もなかったかのような顔をしながら、バッカーニは観客にゆっくりお辞儀をした。


「―――――…わ、ワアアアア!!」


驚きが冷めやらぬまま、人々はバッカーニに沢山の拍手を送った。



「おお…バッカーニさんって雷を使うんだね。」


舞台の横で見ていたラキとリコは、バッカーニの技に小さく拍手した。


「うん…でもここまですごいのは初めて。お兄ちゃん、大丈夫かなあ…?」


バッカーニが演技を終えて満足そうにロンの元に戻っていく。


「ぶふんっ!どーだロイン、オラの技すごいだろ!?おまえのただの熱風なんど、皆を熱狂させるこどなんて、とーていでぎるわげねえんだ!!今のうちに謝ったら許してやらねえでもねえど?」


ケラケラと上機嫌で笑うバッカーニにイラッとしながら、ロンは不敵に笑ってみせた。


「ハッ!おーおー、すごいすごい。…これで満足か?バカが!―――――俺を前のままだと思うんじゃねえよ!!」


「なっ!?なんだど――――!?」


バッカーニが憤慨して文句を言う前に、ロンはすたすたと舞台の真ん中に歩いて行った。深呼吸したあと、ちらりとリコたちを見る。無表情のラキと心配そうに見つめるリコ。そのギャップに思わずロンはブフッと笑った。本人たちはよくわかっていないが、とりあえず緊張していないことはわかるのでホッとした表情をみせた。



「んじゃ、いっちょやってやるぜ!!」







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