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。初めての航海-3-








「おう、帰ってきたな。」


ラクトとウルキが帰ってくると、シャーロットは酒場のカウンターの前に座っていた。辺りはすでに赤く染まり、もうすぐ日が沈みきるところだった。


「とりあえず三人で三日分くらい買ってきました。」


「ん…よし。あ、今日はポーラさんたちの家に厄介になることになったからな。ほら今のうちに挨拶しとけ。」


「え!?そ、そうなんですか!?でも…。」


ラクトは心配そうにポーラの顔を覗く。ポーラはニコッと微笑み自分の胸をポンッと叩いた。


「気にしない気にしない。私たちは大歓迎だよ、なんだってあの魔物を退治してくれるって言うんだから、これくらいさせておくれ!それに――――…あなたたちみたいな可愛い子供と一晩過ごせるんだからね。」


「?」


少しだけポーラの表情が曇ったのは見間違いだろうか?三人はポーラに案内され、自宅の二階にある一部屋に案内された。


「あの人が戻ってきたら夕飯にするから、ゆっくりしててちょうだい。さあて、はりきって作らないと!」


ポーラが店に戻っていくのを見たあと、買ってきた荷物を下ろしラクトとウルキは背伸びをする。


「ん―…はあ…。港に行ったけど閉まってるお店が多かったわ。ちょっと奥まで行って遅くなっちゃった。」


「ここは港町だからな。物資も食糧も船を使って運搬するんだ。船に乗れないんじゃ、商売あがったりもいいとこだろう。店終いして様子を見るのは不思議じゃない。」


「なんだか港の人たち活気がないというか…どこか物足りないような感じでした。」


ラクトたちは荷物を整理しながら話していた。そしてラクトが買ってきたナイフをシャーロットに差し出す。


「あ、シャーロットさんナイフです。このくらいの大きさでよかったですか?」


刃渡り二十センチほどのナイフを二本、シャーロットは受け取って確かめたあと、ラクトとウルキに一本ずつ渡す。


「これはお前たちが持ってろ。護身用だ。」


「へ?」


「護身用?」


ラクトとウルキは顔を見合せたあとシャーロットを見る。


「でも剣なら俺ありますけど…。」


「アホ。あのくらいの大きさだといざってときに取り出せないこともあるんだよ。こいつは万が一のときに自分の身を守るものだ。いつも離さず持ち歩いていろ。ウルキ、お前もだ。お前の場合、魔力があるが必要最低限でしか使ってはいけない。そんなときこういった刃物も必要になる。怖い恐くないに関わらず、持っていることで多少の保身にはなるはずだ。いいな、服の下に隠すでもして持ち歩くんだ。」


「―――はい。」


「…わかったわ。」


二人は不安があったものの、シャーロットからナイフを受け取った。おそらく、危険に陥ったときに自分の身を守れるようになるための戒め、そしてこれからの旅が今までより困難になることの表れなのだろう。そう思うことで素直に受けとることができた。


「―――――…さて、お前たちが買い出しに出たあと、ダミルさんとジィンと話をした。私が魔物を退治する代わりにジィンがサイジルまで運んでくれることになった。しかも最短ルートで五日で着くってよ。」


「え?でも他にお客さんとか商売とかあるんじゃないの?」


「この規制のせいでお客はすっかりいなくなったんだと。あとは乗組員だけだから先に私らを運んで、それから仕事に移すらしい。」


「まあ…魔物を倒せたら、ですよね?」


当たり前だろ、とシャーロットにつっこまれラクトは苦笑いした。わかってはいてもどうにも怖い気持ちは沸き上がってくる。ウルキはその気持ちを察してクスリと微笑んだ。


「さて、重要なのはここからだ。…よく聞け。」


真剣な表情にラクトとウルキは自然に身を乗り出して、シャーロットの話を聞く体勢をとった。


「――――――私たちはすぐにでもこの港…いや、この国、バルハミュートから出た方がいい。」


「!」


ラクトもウルキも目をまん丸にしてシャーロットの目を見た。シャーロットは動じることなく淡々と話を続ける。


「どうやらこの港だけじゃなく、他の港町にも国からの監察が入っているらしい。しかも広範囲にだ。これがどういうことかわかるか?」


ラクトが一瞬悩んだ表情をすると、ウルキがすかさず答えた。


「捜してるの?…何かを。」


「そう考える方が妥当だろうな。しかも監察が派遣されたのは、どこも今から一週間以内…ラクト、私らが出会ってどれくらい経った?」


「…―――――!…一週間とちょっと…え!?でもまさか…!?」


ラクトは表情を強張らせてシャーロットを見た。隣のウルキは唇を噛みながら少し体を震わせている。シャーロットはウルキの肩に手を置いて、首を左右に振った。


「まだそうだと決まったわけじゃない。大体ラクトの村から出てすぐに王族にバレて、こんな対策がとれるなんて出来すぎている。これはただの憶測だ。…しかし、タイミング的には有り得る、という可能性が出てきた。対策を練っていて損はないだろ?」


「…そう、ね。」


シャーロットの言葉に少しだけ安堵したが、ウルキの瞳には不安の色が映っていたことをラクトは見逃さなかった。


「…それで、明日発つってシャーロットさん言ってましたよね?それは魔物を退治するために港を出るってことですか?」


ラクトの質問にシャーロットは軽く頷いた。


「そうだ。そして倒した時点でジィンの船に隠れる。」


「隠れる…?そのままサイジルに向かうんじゃないんですか?」


「あのな?魔物を倒したあと、必ずと言っていい確率で国が安全かどうかの偵察に来る。そんな中、許可も得ないで出港させてみろ。怪しいにも程があるだろ?何か隠してますって言ってるようなもんじゃないか。」


「え?ああ、そうですよね…そういえばもうすぐ軍が来るとか言ってましたし…。」


「そうだ。軍に見つかったりでもしてみろ、すぐにカードを提示しない者は尋問して出身や経緯など問いただされるぞ?ボロが出るのは時間の問題だな。」


「だからジィンさんの船に身を潜めて、落ち着くのを待つのね?」


「そう言うこと。下手にふらふら港にいるのも厄介の種になりかねないからな。話はもうつけてある。ダミルさんとジィンがなんとかしてくれるそうだ。」


そのとき、下からポーラの呼ぶ声がした。ダミルが帰ってきたらしい、気がつけば夕飯のいい匂いが二階の部屋まで届いていた。


「さて、よく食っておけよ。しばらくは船内で過ごすから、凝った料理は今日だけだ。」


そう言ってシャーロットは部屋を出て階段を降りていく。ラクトやウルキも続いて降りると、リビングにはパンやスープ、サラダに鳥の丸焼きがズラッと並べられていた。


「ほーら、たんと食べとくれ!腕によりをかけて作ったんだ、どうぞ召し上がれ!」


ポーラはニコニコしながらラクトたちを見た。先に座っていたダミルが椅子に座るよう手招きして、それぞれ席につくと、ダミルは食前の祈りを捧げた。


「今日、このときを海の神に感謝し、喜びを胸に、命をいただくことを噛みしめ、これからの糧にすることをここに誓う…。さ、いただこう。」


見よう見まねでお祈りをしたあと、ラクトは目の前のスープを一口飲んだ。


「…うっわあー…美味しい、美味しいですポーラさん!」


「すごくダシが出てる、私とても好きだわ!」


ウルキも手を頬において満足そうに微笑んだ。そんな二人を見て、ポーラは優しい瞳で笑った。


「ふふ、ありがとう。…さて、私は店にいかなきゃいけないけど、お腹いっぱい食べておくれね。」


そう言ってポーラは酒場の方へ行ってしまった。すでに何人かお客が来ていたのだろう、すぐに酒を注文する声が奥から聞こえる。


「…なんだかすみません、こんなにご馳走作ってもらったり、泊めてもらったりしていただいて。」


食べながらラクトがペコリと頭を下げると、ダミルは笑って飲んでいたワインを置いた。


「あははは、君はずいぶん礼儀正しい子なんだね。気にしなくていい、申し出たのはこっちなんだ。見ただろう、ポーラの張り切りようを。嬉しいんだよ、君たちみたいな子供たちを世話出来ることが。…僕らには子供が出来なかったからね。」


「え?でもジィンさんが…。」


確かジィンが溺れそうな子供とダミルを助けたと言っていた。そのことを思いだし、ウルキは首を傾げる。


「ああ 、その子は二軒先の家の子供さ。今年でもう十二歳になるかな。」


「そうだったんですか…。」


「…じゃあ、遠慮なくいただきます!」


ラクトはおもいっきりパンを頬張り、喉に詰まらせてむせた。そんな様子にダミルもウルキも笑って、ラクトもウルキから水を受け取り飲んだあと、つられて笑った。シャーロットはすでに食べ終え、その速さと量に皆が驚く。そしていつもどおり酒を飲んで吐いてしまった。


シャーロットがいち早く寝床について、ラクトとウルキは片付けを手伝っていた。ダミルは店に移動したので、ポーラと共に三人で皿を洗っている。


「ありがとう、そろそろあなたたちも寝なさい?明日は早いらしいから…。」


「あ、はい。これだけ片付けちゃいますね。」


「ポーラさん、とても料理上手ね。美味しかったわ、ありがとう。」


二人がポーラにお礼を言って二階に上がろうとしたときだった。


「…――――ねえ?本当にあなたたちも行くの?危険なのよ?いくら…あのシャーロットさんでも…。あなたたちにもしものことがあったら…。」


心配そうにラクトたちを見つめ、ポーラは目で訴える。しかし、ラクトたちは少し困った表情をしたあと、優しく微笑んだ。


「…ありがとうございます。でも大丈夫です、なんたってあのシャーロットさんですから!」


「そうそう 。」


「――――でもね…。」


一瞬、ラクトはポーラと自身の母親の姿が重なった。今は亡き母は病弱で心配性で、ラクトはいつも大丈夫と言って母親を安心させるように口癖になるまで毎日言っていたことを思い出す。


「…俺たちは、強くならなきゃいけないんです。大丈夫、きっと魔物を退治してきますから。そしたら、町も活気を取り戻すことができますよ!」


「今は無理だけど、また今度料理を教えてください。私もあんな美味しいものを作りたいから。」


ポーラはそれ以上止めることはしなかった。その代わり、二人の手を優しく握りこう言った。


「……船にいる間は多分、様子を見に行くと怪しまれて、あなたたちに迷惑かけるだろうから行けないけど――――次は新鮮な魚をたくさん用意しておくよ。またいつでもおいで!」


ラクトとウルキは笑顔で頷いた。うっすらとポーラの目に涙が見えたが、二人は何も言わずに階段を上がった。ポーラは足音がしなくなったあと、エプロンで涙を拭き、店に戻って行く。シャーロットがいる部屋の手前で、ウルキはポツリと呟いた。


「…お母さん…って、あんな感じなのかな?」


えへへと困ったように笑うウルキの顔を見て、ラクトも少し笑顔を見せる。しかし、扉を開けるとその表情はガラッと変わった。



「絶対…魔物から港を取り戻さないと!」



二人はシャーロットを起こさないよう床に寝転び、暫しの睡眠をとる。








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