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.ラキという名の-1-










「――――…ラキ。ラキ?」


「…何?母さん。」


「ほら見て?夕日が綺麗よ…。」



淡いオレンジの暖かい陽射しが、白い部屋に降り注ぐ中、ラキは母親と一緒に夕日を見ていた。白い肌は夕日の色に染まり、母までキラキラ光っているように見える。



「うん…綺麗だ。」


「ねぇ、ラキ?ラキがなんでラキか知ってる?」


「…言ってる意味がわからないよ。」


「どうしてラキって名前をつけたのか、ってことよ。ふふ。」


「そういうこと。…そういえば聞いたことない。」


「教えてあげる。…それはね――――――…。」



母の声が遠くなる。気がつくとまるで夜が早送りでやってきたように辺りが暗くなっていった。母の姿はもう見えない…。







「…―――――母さん?」








次に目を開けて見えたのは、少しくすんだ白い天井だった。




「……………あれ?」


ラキはベッドの上に横たわっていた。ムクリと起き上がって見知らぬ部屋を見回したが、いつ、どうやってここに来たのかさっぱりわからなかった。ただ驚いたような表情ではなく、ずっと無表情のままだったが。


「…何してたんだっけ…?あ、眼鏡…。」


眼鏡がベッドの脇の引き出しの上に置いてあるのを見つけて手を伸ばし、レンズが割れていないことを確認して装着した。



部屋にはラキが寝ていたベッドの他にもうひとつあって、脇に引き出し付きの台がひとつずつ備わっていた。窓が一つあり、小さめの絵画がベッドの横と入口近くに飾られている。二人掛けのソファーや簡易な椅子もあった。よく見るとラキの荷物の他に、他の誰かの荷物も置いてある。



「……あ、ああ――――。」


ようやく自分が倒れたことを思いだし、ラキは自分の身体をぱしぱしと軽く叩いて確かめた。


「……僕…また無理したのかな?」



そのとき部屋の外で声が近づいてきたのがわかった。すると入口の扉がガチャリと音を立てて開く。入口から入ってきたのは、ボロボロだった服を着替えたリコとその兄だ。リコは水、兄は食事を手にしている。


「あ!ラキさん、目、覚めましたか?」


ラキに気づくと、リコは捻挫した足と持っている水に気をつけながらピョコピョコと近づいて行った。兄の方は足で扉を閉めて、リコの後に続き、両手で握っていた食事の乗った盆をラキに差し出した。


「…――――メシ。」


「…ありがとう。」


ラキは無表情のままきょとんとしていたが、差し出された盆をゆっくり受け取り、胡座をかいた膝の上に乗せた。


「お水もありますよ!」


ラキのベッドの横にある椅子に腰掛けリコはにっこり微笑んだ。


「うん。…ありがとう。」


そう言うと同時に、ラキのお腹からぐうぅと音が聞こえた。


「…食べていいの?」


目の前の食事をジッと見つめて、ラキは二人に問う。パンとサラダにスープ、おかずが二品。持っていた水を差し出して、リコは元気よく答えた。


「どうぞ。私達はもう済ませたのです。全部ラキさんの分ですよ!」


しかし、ラキが礼を言ってパンに手を伸ばしたとき、リコの横から兄が口を挟んできた。


「―――の前に、何か言うことがあるんじゃないか?」


ラキを睨むように見つめる兄。そんな彼の言葉に、ラキはまっすぐ彼を見つめて言った。


「………ごめんなさい?」


「っげえよ!あるだろ他に。」


どうやら彼が望んでいた答えではなかったらしい。だがラキはさっぱりわからず、眉毛を曲げて考え、首を横に傾けた。その様子を見て兄はだんだんイライラしてきたらしい。


「つーか、なんでここにいるのか?とか、ここはどこ?とか…何か疑えよ!?聞いてこいよ!?んなさっき会った相手にもらったメシなんて、毒もられてたらどうすんだって!?」


怒鳴るようにしゃべる兄の横で、リコはあわあわと動揺していた。が、やはりラキは表情を変えない。


「そういうことか。」


と、一人納得したように頷いた。


「僕がここにいるのは倒れた僕を君たちが運んでくれたから、そしてここは君たちが泊まる宿屋。リコから話は聞いてたからね、だいたい察しはつくよ、ありがとう。」


すんなりお礼を言われて、兄はたじろいだ。


「それから、君たちが僕に毒をもる必要性がないし、僕はリコがいい子だって知ってるから。」


そう言いながらラキはリコを見て微笑んだ。


「ラキさん…!ほら、お兄ちゃん失礼だよ!ラキさんいい人でしょっ!」


妹に怒られたのもあるが、あまりのラキの落ち着きぶり兄は拍子抜けしてしまった。


「―――――…わぁーったよ。」


そう言ってリコの横に椅子を持ってきて座った。ため息を一つ吐いて、兄はあらためてラキに向き直った。


「…妹が世話になった。事情はリコから聞いた。―――悪かったよ、疑って。」


それを見つめたラキも、もう一度謝る。


「僕は君の妹を危険にさらした。頭を下げるのは僕の方だ。ごめんなさい。」


「はい、二人ともそこまで!これでチャラです!ね?仲良くしましょう?」


パンッと手を叩いてリコは二人の間に入って笑顔を向ける。ラキと兄は顔を見合せ、同時に吹き出して笑った。


「あはは、ありがとうリコ。僕こういうの慣れてなくてさ…そうさせてもらっていいかな?」


「別に、リコがそれでいいならいいさ。妹の頼みだ、まあ怒らないでおいてやるよ。」


「ありがとう。君もいい人だね。さっきも目を逸らさないで話してくれたし。」


「はぁ?んなもん普通だろ?へんな奴だな。あーと…ラキ、だっけ?俺はロインだ。ロンでいい。」


「…うん、ロン。普通だね。ふふ。」


二人の会話を聞きながらリコは満足そうにウンウンうなずいている。和やかな空気になったところで、ロンはふと気になったことを聞いてみることにした。


「あー…、そういえば…。俺から聞きたいことがあんだけどよ…その…。」


「?何?」


「いや、お前を運ぶとき思ったんだけどよ…だからなんだ…その―――――――…お前、女なのか?」





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