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.特訓-1-







カイドの家の灯りだけ山の中で光っている。ラキが話し終えたあと、しばらく男たちは沈黙し、静かな時間が流れた。



「………―――――ヤベェ…泣いてもいいか?ってかもう涙出てんだけど…!!」


そう口を開いたロンの瞳には涙が溢れんばかりに滲んでいた。


「…嫉妬の話っていうから笑えるかと思ったのに…不覚にもラクトに泣かされるとは…!!」


クッと右手で口を覆ったカイドが言うと、マシューはこっくりと頷いている。


「…そこまで泣ける話だったかな?」


ポツリとラキが呟くと、ロンはぐわっと振り返り、涙目のまま眉間にシワを寄せた。


「お前…!!男が人生で決断するっつーのは一大事なんだよ!!人生かけて惚れた女を守るって言ってんだぞ!?強い想いがあったからこそじゃねぇか!!嫉妬したっていいんだよ…違う、これは嫉妬じゃねえ!!勇者様の決意の表れなんだよ!!」


カイドも頷いてテーブル越しに身を乗り出す。


「いいか?子供のお前にはわからんかもしれないがな…ロンの言う通り、男が一生涯をかけるっつーのは相当の覚悟がいるんだ!!生半可じゃなく、本気の覚悟がな!!」


熱く語る二人を見ながら、ラキは無表情のまま言った。


「…まあ、僕 一応女だからわからなくてもいいけどね。」


「「あ。」」


どうやら熱くなりすぎて完全に忘れてしまっていたらしい。黙っていたマシューもボソッと呟く。


「ミネルヴァにも通訳して話してたんだけど、熱くなった二人の話の方がよっぽど阿呆らしいって。」


ミネルヴァにも聞かれていたことを知り、ロンもカイドもバツが悪そうに縮こまってしまった。そんな二人を見て、ラキとマシューは顔を見合せて笑った。


話もほどほどに、今夜はこれで完全にお開きになった。ラキはリコの寝る部屋に、ロンはその隣の部屋で眠り、長い一日がようやく過ぎていくのだった。









次の日、約束したとおりリコはミネルヴァの元に魔力をコントロールする特訓を受けに行った。もちろん案内役のマシューや、ラキとロンも一緒にミネルヴァのいる神殿に向かう。


「よしよし、来たな。覚悟は出来てるな?リコ。」


神殿の中でミネルヴァは仁王立ちしながら皆を待っていた。


「はい!よろしくお願いします!!」


リコはペコッと深くお辞儀をしたあと、真剣な表情でミネルヴァを見る。満足そうに頷くミネルヴァだが、リコの後ろにいた三人の様子がおかしいのに気がついた。


「なんじゃい、揃ってパッとせん顔をしてるの?」


ロンもマシューも寝不足のように目を細めて疲れているように見える。ラキは相変わらず無表情だが、動きにキレがない。


「昨日夜遅くまでお話してたみたいです。」


「それは知っとるが…情けないのう。寝てないぐらいでうだうだと、シャキッとせんかシャキッと!!」


ミネルヴァが喝をいれるとマシューが苦い表情をしながら言った。


「…僕は二日酔いだから何も言えませんが、お二人はこの村に来てからあまり休めていないんです。大目に見てください。」


ミネルヴァはため息をつきながらリコを見た。


「まあ特訓するのはリコだからな…いいか?お前は気をつけるんだぞ!」


「は、はい!」


「とりあえず、お前たち三人は外で寝ていろ。別にお前たちに出来ることはないからな、好きなだけ休め。」


そう言う とミネルヴァは右手でシッシッと捌けるよう促す。


「…リコ。」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん!絶対身につけてみせるから!!だからそれまでゆっくり休んでね。」


にっこりと笑顔を見せるリコに、ロンも安心したのか微笑んで頷く。マシューとともに降りてきた階段をまた昇ろうとすると、ラキが動こうとしないことに気がついた。


「?おいラキ、行くぞ?」


「うん…リコ、少し休んだら僕もまた来るから。―――――リコなら出来るよ。」


ラキが励ましの言葉を送ると、リコは満面の笑みで頷いた。


「…まったく、ラキが男じゃなくてよかったよ。」


ロンが呟くと、マシューはクスクスと笑って先に階段を昇っていった。続いてロン、ラキが出ていき、部屋にはミネルヴァとリコの二人だけになった。



「…さあ、始めようか。」


「―――――はい!」


「うむ、いい返事じゃ。ではまず、魔力というものがどんなものか、感じることから始める。」


「感じる…。」


「今までの魔力を放出した状態は、溜まりに溜まったものが溢れることで一気に流れ出るようなものだった。とすると、お前が意図するわけでもなく、ただ流れるのを待つしかできなかったろう?」


「えと…意識が飛んじゃうので、よく覚えてはいないんですけど…。でも、いつも流れる前は身体がすごく熱くて、何かが私の中で暴れてるような、そんな感じはあります。」


「うむ、それは外へ出ようとする魔力を必死に抑えようとする本能がさせるものだ。まあ、どうしたって消費させる術がないと爆発させ、一度に全てを出し切ってしまう。だからこそ、魔力は自分で溜めすぎないようコントロールする必要がある。」


「はい。」


リコが頷くと、ミネルヴァはリコの胸元に手を当てる。


「今はお前の中に魔力は感じない。いや、外に流れる魔力、といった方がいいな。魔力は身体の中で生成され、放出されるまでお前の中で溜まっていく。それを少しずつ外へ出していかなければならないんだが…お前はすでに経験しているんだぞ?」


「へ!?」


驚いて目を見開き、リコはミネルヴァを見た。


「お前たちが村に来た日、つまりリコ、お前が魔力を放出した日、私はお前の魔力を放出する前に感じているんだ。だからマシューに様子を見に行かせた。」


「えっ!?で、でも私全然そんな…うなされてたから…。」


「まあ身体の中だけに収まらなくなった魔力が、爆発する前に滲み出ていたんだと思うが。熱くするものが魔力だとしたら、それが身体の回りから溢れ、まとわりついているような…そんな感覚はなかったか?」


「…熱くて…なんだか空気まで熱くて、息がうまくできなくて…そういえばそういうときに、私の髪の毛が魔力みたいな緑っぽい光に包まれて…それで…。」


「ふむ…。何も感じていないよりはいいな。そのときの状況を頭の中で思い出してみろ。無理はしなくていい。」


「…はい。」


リコは目を閉じて、ゆっくり深呼吸した。魔力が暴走する前の、鼓動が速くなり、身体の奥から何かが渦を巻きながら上がってくるイメージをする。頭のてっぺんから手や足の先から、その熱い何かがじわじわと蒸気のように出ていき、髪がざわざわと揺れ、頭がガンガンと痛い…。



「――――止めろ!」


ミネルヴァの呼び声にハッと我に返り、リコは自分が汗だくになっていることに気づいた。息も乱れ、いつの間にか魘されたあとのような状態になっていたのだ。


「ふわっ!?あ、れ?」


「んー…思ったよりうまくいかんもんじゃな。もっと軽く引き出せるようにならんと、これでは魔力を使う度に疲れきってしまう。」


「あぅ…。」


汗を拭いながらリコはしょんぼり肩を落とす。ミネルヴァは笑ってポンポンと頭を叩いた。


「まあ最初からうまくいけば私はお役御免だからの。つまらんつまらん!わはは!」


ミネルヴァの笑顔を見ていると、リコも少しずつ元気が戻ってきた。


「よし、では別のやり方を試してみるか。」


「別のやり方?あるんですか?」


「ふふ、これは私がいるから出来ることだぞ?…私の魔力を直接触れてみるんだ。」


「直接!?」


びっくりしたように目を丸くするリコ。その反応にミネルヴァも嬉しそうにニヤリと笑って見せる。


「私は魔力を放出し、対象を包み込むようにして能力を発動させる。だから常に魔力は身体から出したままなんだが、普段は微弱な魔力だけで十分なんだ。それは結界の至るところに私の魔力を込めた石を散らばせて、発動する力が少なくても石を経由させることで流れをつくり、魔力を固定させ余計な動きを省いたからだ。」


「魔力を込める…んですか。」


「リコ、お前は結界に入るときに何か感じたりはしなかったか?」


リコはうーんと唸って考えた。


「そういえば…昨日神殿の周りの結界を通る前に、なんとなく空気中を何かが走ったような、何も見えなくて、でもラキちゃんが気のせいじゃないって…。」


「そう、それが私の魔力だ。結界の魔力は常に右回りに流れていて、何かが結界に侵入すれば流れが止まり、場所が特定できるわけだ。」


「魔力って…そんなことも出来るですか…。でも、私には…。」


「おいおい、私とお前の魔力の特性は違うんだ。別にこんなことが出来るようになれなんて言わんし、無理じゃよ。お前はお前自身で自分の特性を見極め 、やり方を見つけないといかん。これからじゃよ。…ぷふ、今からそんな顔してどうする?ま、私は面白いからいいがな。」


ミネルヴァにからかわれ、リコは自分が無意識にひどい表情になっていたことに気づく。唇を突きだし、眉はハの字に曲がっている。慌ててぐしぐしと両手を使い顔をこすった。その様子にミネルヴァはまた笑う。


「まあ、ここからが本題じゃ。今から私の魔力を少しお前に向けて流す。リコはそれを感じて、魔力がどういうものかを感覚的に学ぶ。ただしお前の魔力と相性が悪いと、お前自身にも負担がかかる。だから早くコツを掴め。」


「あ、相性?」


おどおどしながらリコは訊ねる。


「人間と同じさ。相性が悪ければ拒否反応を起こすときがあるんだ。ひどいときには吐き気まで催すときもある。まあ、結界に入れている時点でそれはないと思うが、魔力を持つ魔人にはそういう症状が出るってことを覚えておけ。…人間に対してもそうだな…魔力を持たない人間に大量の魔力を流しても、人間には魔力を蓄える器官も、抵抗力もない。身体中に回った魔力が暴走し、脳が焼かれ、最悪の場合…体がバラバラに吹っ飛ぶ。」


「―――――っ!!」


ゾクゾクッとリコの背中が冷え、身体中に震えが走る。知らなかった事実が、魔力の恐ろしさを改めて実感させる。


「…私もそんな人間は見たことはない。よっぽどのことがない限り、な。だから魔力を暴走させる魔人は恐れられ続けるんだ。…お前だけの問題ではない、わかるな?」


静かに、真っ直ぐリコに向けられるミネルヴァの眼差しは、何かを諭すように強い光を放っているように見える。リコは唾を飲み込み、大きく頷いた。


「―――――…ミネルヴァさん、お願いします。魔力を…!」


そしてミネルヴァはゆっくり目を閉じて右手をリコの胸元に置いたあと、カッと目を見開いて魔力をリコに注ぎ込む。







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