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。ラクトの嫉妬-1-








セレンたちと別れてから一夜が明けていた。三人は港を目指し、一つ目の山を登り終え、下山する途中だ。天候は晴れ後雲。次第に雲が厚くなり、日差しが遮られて暗くなってきた。


そんな中、黙々と下山する三人だったが、ただ一人、ラクトだけは心穏やかではなかった。難しい顔をしたり、落胆したり、頭を振ったり、気合いを入れたりと可笑しな行動を繰り返している。


「……………ラクト、お前いい加減うざい。」


シャーロットがついに耐えかねて文句を言うと、ラクトはハッとしたように彼女の方へ顔を向けた。


「んなっ!?へ?おおお俺、なんかしました?」


動揺しながらも何がうざいと言われたのかわかっていないようだ。シャーロットはため息をついて何も言わずに進み続ける。


「ええ!?な、何がうざいんですか?シャーロットさぁん!?」


答えてくれないシャーロット、そしてウルキはキョトンとした様子でそれを見ていた。




シャーロットに弱点を克服するために鍛えてもらうことになったラクトだったが、現段階ではとにかく逃げずに魔物と闘ってみろと言われた。しかしこの山にはそれほど強い魔物はいないようで、まだラクトは魔物と闘ったりはしていない。シャーロットが言うには、海に近づくにつれ、山にいる魔物の種類は限られるらしい。だが海にいけば、海中に巨大な魔物もいるらしいが。


よって、今はまず港を目指すことが一番だった。


夕方になり、三人はこの日も野宿することになった。少し広く拓けた場所を見つけ、火の出る円盤や夕飯の用意をする。缶詰の肉を大きな葉でくるみ、焼いた石を上に置いて火を通す。さらに焼いた石を使ってスープも作った。当番のラクトは手際よく盛り付け、シャーロットたちに手渡した。


「はい、シャーロットさん。はい…ウルキ。」


「おう。」


「うん、ありがとう。」



黙ったまま三人は夕飯を終え、ラクトは近くの川まで皿をすすぎに行った。すると、ウルキも後からついてきて、ラクトの隣にちょこんと座る。


「…えっと…ウルキ、どうしたの?」


「私も手伝おうと思ってきたんだけど…ダメだった?」


ラクトの顔を覗き込むように前屈みになるウルキ。ラクトはなんだか気恥ずかしく感じて、反対の方向を向いた。


「…なんだかおかしいよラクト?どうしちゃったの?」


ウルキが質問するが、ラクトは答えないまま皿を川の水の中に入れる。


「変なラクト。」


拗ねたような反応をするウルキに、ラクトはズキッと心が痛いような気持ちになる。しかしラクトは黙ったままだった。


「セレンさんたちと別れてからだよね…なんだか…避けられてるような気がする。」


呟くようなウルキの言葉を聞いて、ラクトはバッと顔をウルキの方に向けるが、口をパクパクするだけで言葉が出てこない。


「――――…あの…別に、避けてるわけじゃ。」


「じゃあなんで?どうして私のこと見て話をしてくれないの?」


ジッと見つめるウルキの瞳が真っ直ぐラクトを捉えていた。その瞳は強く、儚い光を放ちながら、ラクトに訴えかけている。吸い込まれそうなその眩しさに、ラクトはまた顔を背けてしまう。


「…ほら…また。」


ウルキはため息をつきながらラクトから視線を離し、川の水を見つめる。


「……ごめん。」


ただ一言、謝罪するだけでラクトは皿を水から引き上げた。並んで座る二人の後ろ姿は、小さく遠く離れているように感じさせる。それだけ気持ちが離れているようだった。


「―――…ラクトと話すよりホロンたちと話していた方がよっぽど楽しいわ。」


ウルキはポツリと呟く。すると、ラクトの体が小さく揺れて固まったように動きが止まってしまった。だがウルキは気づかずに呟き続ける。


「楽しかったなあ…セレンさんもセインさんも、アーニーもホロンも優しくしてくれたし。――――…あんなふうに人間に囲まれて…楽しくて嬉しかった…。すごく…嬉しかったの…。」


小さくなるその声は震えていた。それでも表情は柔らかく、優しく微笑んでいた。


「――――――っ…。」


ラクトは胸を掴まれた気分だった。ギューッと奥が苦しくなり、一瞬息が止まる。ウルキとは逆に、その表情は苦々しく苦悶を浮かべていた。


「――――――…ごめんっ…。」


「…何がごめんなの?………わかんないよ。」


ウルキは表情を曇らせて腕に顔を埋めた。ラクトは横目でウルキを見た後、手に持っている皿に視線を移した。


「…自分でも…よくわかんないんだ。」


ウルキは顔を上げずに俯いたままだ。


「な、んでかな…なんかさ…。セレンさんたちと別れてから…ウルキが嬉しそうにしてて、俺もすごく嬉しいんだ。嬉しいんだよ…本当に…。――――なんだけど…なんかさ、なんだか…モヤモヤするんだ。」


「…?どういうこと?」


下を向いたまま、ウルキは訊ねる。ラクトは右手を皿から放し、頭をガリガリと掻き出した。


「…なんだろ、なんでかはわかんないけど…ウルキがさ、ホロンさんたちの話をするとき――――なんか、違うところを見てるっていうか…俺たちを見るときより…楽しそうっていうか…。」


「…え?」


ウルキはラクトを見るように顔を上げると、ラクトは掻いていた腕で顔を隠す。


「―――――ごめんっ、何言ってるのかわかんないよね!!俺、もよくわかんないっていうか…その…すんごく自分が嫌になるっていうか、じ、自己嫌悪なんだ!そうだよ、それでウルキに、シャーロットさんにも迷惑かけてるんだ!な、情けな――――!!」



そのときだった。ウルキはラクトの腕に手を置いて、静かにラクトの顔を見るように覗きこむ。


「――――ウルキ?」


驚いて目をぱちくりさせているラクトに、ウルキは質問する。


「私…ホロンたちの話をしてるとき、何か違った?」


「いや、た、多分勘違いだよねっ…ごめん、変なこと言って――――。」


「…すごいなあ、ラクトは。」


「――――…へ?」


少しの間が空いたあと、ラクトは目を大きくしたまま声を出す。ウルキは優しく微笑んで、クスクスと小さく笑った。


「そっか…意識はしてなかったけど…ふふ。」


ウルキが笑う理由がわからず、ラクトの頭の中はぐちゃぐちゃぐるぐる回っている。しかし、どう何を言ったらいいのか、それすらわからずにただ舌を回すだけだった。


「あ、ごめんね。」


困惑するラクトの表情を見て、ウルキは手を放してまたちょこんと横に座った。


「…えと…、俺、勘違いじゃ…?」


恐る恐るラクトが訊ねると、ウルキは優しい目のままうなずく。


「多分、勘違いじゃない…と思う。」


ドクンとラクトの心が跳ねる。鼓動が速くなり、熱い血が全身に行き渡っていくのをラクトは感じた。胸の圧迫感はさらに強まる。



「―――…懐かしかったの。」


静かに話すウルキは、川の向こう側を見るように、遠くを見ていた。ホロンたちの話をするときのように。


「…な、懐かしい?」


言葉の意味をぐちゃぐちゃの脳で懸命に考えるラクト。ウルキは頷きながら瞼を閉じた。


「思い出すの。あの雰囲気が、そっくりな人間を知っているから…。すごくね、お世話になった人なの。」







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