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.邂逅-12-







「ぶわっはっはっは!!食べろ食べろ!!あー、愉快愉快!!」


カイドの大声が部屋中に響き渡る。だがそれ以外にもガチャガチャと皿が鳴る音やパタパタと歩く音がひしめき合い、大声を出さないと聞こえてこない状況だった。


この村には村人全員が入れるような大きな建物はない。よって、ご馳走はカイドの家に持ち寄られ、リビングから玄関、さらには外にまで人が次々に行ったり来たりを繰り返し、ラキたちに挨拶したり、料理自慢をしたりしていた。すぐに帰る人もいれば、狭い部屋の中に居座ろうとしたり、テーブルや椅子を持ち寄って外で宴会を開いたりと、村中が大騒ぎになっている。


ラキたちはカイドと共にリビングの中央に居たのだが、ラキやロンはひたすら食べたり飲んだりで、リコだけがあまりの状況に呆気にとられていた。


「はわわわわ…。」


「リコちゃん、食べてる?」


料理が一段落し、台所からニルーニャが人混みをかき分けてやって来た。


「な、なんだかもうお腹も気分も一杯です!」


大きな声でしゃべっているつもりだが、周りにいるおじさんたちの笑い声の方がはるかに大きい気がする。


「もう料理も作らないから、あと一時間くらいで終わると思うけど、一緒に二階でちょっと休もうか?」


ニルーニャの助け船のような提案に、リコは救われた気がした。


「はい、行きます!」


ロンにそのことを伝えてからリコとニルーニャは二階に消えていく。徐々に人は減ってきたが、まだまだ宴会は終わりそうになかった。


「はあー!こんな風に騒ぐのは久しぶりだ!仕事も一段落ついたし、酒は美味いし、最高だな!!」


カイドは顔を赤くしながらラキに笑顔を向けた。ラキも大分満腹に近づいてきたので、ようやく手を止めてカイドを見る。


「本当に美味しいです。ありがとうございます。」


「そりゃ良かった!なぁマシュー!」


満足そうに笑顔を見せるカイドの隣で、マシューは淡々と料理を口に運んでいた。


「そろそろ夜中もいいとこだし切り上げてもいいんじゃない?明日も早いんだから。」


「お前なあー!気分が下がるようなこと言うんじゃない!」


「はいはい、悪かったね。」


和やかな親子の会話にラキは思わず微笑んだ。横にいたロンは反り返ってお腹をポンポン叩いている。


「だあー!腹いっぱいだ…もう食えね…。」


ラキたちの周りには高く積み上がった皿がいくつもある。すべて見事なぐらいに空だ。


「確かに明日も早いし、リコも呼んでそろそろおいとまする?」


「んを…あー、ちょっと待て…まだ動けね…。」


ロンは顔だけ動かすが、食べ過ぎて体は動かないようだ。


「あらら…。ということで、まだもう少しいます。」


ラキはカイドとマシューを交互に見ながらぺっこりと頭を下げた。するとカイドは大笑いする。


「ぶわっはっは!!いい、いい、好きなだけいろ!なんなら今日は家に泊まっていけ!!」


「いや、そこまでは…。」


ラキの言葉を静止したのはマシューの方だった。


「そうですね、この時間ですから…そうしてください。この人もまだ宴を止める気はないみたいですし、僕一人で相手をするのもちょっと疲れるんで。」


「おい、最後のが本音だろマシュー?生意気な!」


笑いながら息子の頭を撫でくり回す。マシューは止めるように言うが、力は父親に敵わず、結局髪の毛はボサボサになってしまった。その様子を見てラキもロンも心が温かくなる。お言葉に甘えて、ラキたち三人は今晩はカイドの家にお世話になることにした。


日にちが替わろうとするころ、ようやく大宴会が終わり、村人たちは自分たちの家に帰宅した。奥さんたちが片付けもやっていってくれたので、今まで騒いでいた部屋はきれいになっていて、ガランとしている。静かになった部屋には、椅子に座るラキやロン、カイドとマシューが余韻に浸っていた。満腹になり、次第に眠気がゆっくりやってくる。すると二階からニルーニャが静かに降りてきた。


「リコちゃんは二階の角部屋に寝かせました。よっぽど疲れていたみたい。ぐっすりですよ。」


「ありがとうございます。すんません、見てもらっちゃって。」


ロンが礼を言うと、ニルーニャはにっこりしながら首を振る。


「いいえ、なんだか妹みたいで私の方が嬉しかったです。弟しかいないから憧れてたんですよ。」


「あー、そういえば大丈夫っすか?その弟放っておいて…。」


実はニルーニャの弟、デンは昨日の雨で風邪をひいていた。なので今回は留守番していて参加できなかったのだ。


「いいんですよ、言うこと聞かなかったあの子が悪いんですから!無理してでも来ようとしてたんでかなり手こずりましたけど、皆さんに風邪をうつすわけにはいきませんからね!もうひっぱたいて――――…やだ、忘れてください!!」


恥ずかしそうに顔を覆うニルーニャ。ラキたちはニルーニャに叩かれるデンの姿が容易に想像できたが、あえて受け流すことにした。


「じゃ、じゃあ私もそろそろ帰ります!おやすみなさい、皆さん。」


「ニルーニャ、送っていこうか?」


マシューが立ち上がろうとしたが、ニルーニャが止める。


「何言ってるの、近いんだから大丈夫よ!今日は月も綺麗だから、外も明るいし。おじさん、皆をちゃんと寝かせてあげてくださいね!じゃあまた明日。おやすみマシュー!」


そう言ってニルーニャは玄関の扉を開けてカイドの家をあとにした。



「いい娘だろ?マシューにはもったいない。」


ニヤニヤしながらカイドはマシューを横目に見る。


「うるさい。」


マシューは一言だけ文句を言ってそっぽを向くが、耳だけは妙に赤い。ミネルヴァに似た白い肌が、余計に赤みを際立たせている。


「へえーそうなんすか。なんか怪しいとは思ってたんすよねー!」


ロンも話に乗ってマシューを見る。が、ラキは微妙に話がわからないらしい。首を傾げて黙ったままだった。


「ふはは。父親と違ってラキは感情に鈍いところがあるよな。」


「…ミネルヴァにも同じようなこと言われた。」


二度も別の人間に言われるからそうなのだろうが、ラキはちょっとだけ複雑だった。


「ははっ、ラクトはウルキ一筋だったからな。俺みたいに!」


恥ずかしさもなくカイドは自慢するようにいい笑顔をしている。そんな父親の横で、マシューはため息をついていた。


「いや、でもホントすごいっすよね!一目惚れしてずっと想い続ける、そんで相手が魔人とか関係なく一人の女性を愛する!くぅー!カッコイイっす勇者様は!!」


「…おい、俺は?」


熱く語り始めるロンに、カイドはちょっぴり不満のようだ。マシューはクスクス笑っている。


「気にしないでください、いつものことですから。」


ラキがさらりというと、ロンは口を尖らせる。


「んだと!?いーじゃねーか、勇者様のことを知ってる人になんて滅多に会えねーんだ!お前だけの話より現実味が増すだろ?」


「?なんだ、ラキから話は聞いてんのか?」


「はい、リコと一緒に勇者様の旅の話をラキに聞かせてもらってます!」


ほーっと興味を持つカイド。その目はキラキラと輝いている。


「…あの?カイドさん?」


「なあラキ…俺たちにも少しあいつの話をしてくれないか?」


「え?」


思ってもみないカイドの言葉にラキは目を丸くした。


「村長、そんないきなり…。」


「なんだよマシュー、いいじゃないか少しくらい。…考えてみりゃあ俺たちはそこまであいつのことを知らないんだ。イケニエ勇者っつう噂だって後から他の村の者から聞いたんだぞ?」


「それは…そうですけど、もう夜も遅いし皆さん疲れてるでしょう?」


「…いいですよ、マシューさん。少しくらいなら…ねえロン?」


あっさりと了承するラキ。何故なら隣にいるロンの眼差しにも、強い要望が見えたからだ。ラキは苦笑いしながらマシューを見る。すると父親を見たあと、彼も一緒に苦笑いした。


「そうだな…ちょうどこういう話がありますよ。父さんが…嫉妬する話。」


「…嫉妬?」


ぽかんとラキを見る三人。そんな様子を横目に、ラキは話を続ける。


「そう…ちょうど父さんたちが旅を始めて一週間ほど経った頃の話です。」


「あれか?ライバル出現!みたいなか!?だったらリコを起こして…。」


ラキは首を振ってロンを止めた。


「大丈夫、むしろリコは聞かなくても大丈夫だよ。よく言うでしょ?男の嫉妬は醜いって。ちょうど男だけだし、話も短く済むから…。」


淡々と話すラキだが、お前は女だよな?という男たちの心の声には気がつかない。


「しょうがないですね…ちょっとだけですよ?」


「そう言って、お前も少しは興味があるだろう?」


「よし来い!勇者様が嫉妬する相手がどんなやつか見極めてやる!!」


それぞれに楽しそうにラキが話すのを待つ三人を見回して、ラキはコホンッと喉を鳴らした。


「じゃあ…父さんたちが花泥棒を改心させて数日が経ったところから。」




夜の月はまぶしいほどに村を照らしている。村で唯一明かりが灯る家では、まだ光が消えることはないようだ。











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