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.邂逅-10-





「―――――…それなら…ミネルヴァの存在を知られることなく、今まで通り村の中だけで隠し通すことができる…。」


「そのとおりです!」


ラクトの話はまるで夢物語だ。うまくいく保証もないし、そんなうまい話はないと、頭のどこかでわかっていた。だが、カイドにとって…この提案を信じたい、成功させたいという想いが勝っていた。


「―――だが、どうやって村の存在を認識させるんだ?そんな簡単にいくとは思えんのじゃが…?」


ミネルヴァはしっかりとした眼差しをラクトに送る。


「…突然現れて、勝手な提案をして、さらにこんなことを言うのもどうかとは思うんですが…俺に任せていただくことはできないでしょうか?」


「任せるったって…お前一人でどうにかなるもんなのかよ?」


ミネルヴァの肩を抱きながら、カイドはジッとラクトの答えを待っている。ミネルヴァも、カイドの服を掴みながらラクトから視線を離さない。


「頼りないとは思いますが――――俺には王族にツテがあります。」


「王族に!?」


カイドもミネルヴァも目を見開き、信じられないといった表情をした。ラクトは照れた様子で頭をポリポリ掻く。


「ええと…正確にはこの国じゃなくて、サイジルとバルハミュートなんですけど…リンドンとサイジルは同盟を結んで仲がいいですし、バルハミュートは世界で一番の情報機関がありますから――――なんとかなると思います。」


「ちょっと待て!バルハミュートっていったら、世界で一番大きな国じゃなかったか!?」


「あ、はい。俺は一応バルハミュートの出身なんですが…い、色々ありまして。とにかく、信じてもらえればすぐに行動に移すつもりです!…どうでしょう?」


ポカーンと口を開ける二人。目の前にいるこの若者は、二つの国の王族にツテがあるといったが、そんなようには全然見えない。むしろ信じる方が馬鹿なんじゃないかと思ってしまう。しかし彼は、真剣な表情で、真っ直ぐな眼差しを向けている。


村のため、ミネルヴァのため…果たして何が一番いい方法なのか。しばらくの沈黙のあと、カイドはようやく重い口を開く。


「正直、お前の話には無理があると思う。いくら王族にツテがあったとしても、この村にとってそれが本当に有益と成り得るか定かじゃない。当然、ミネルヴァのことはなにがなんでも隠し通す。こいつは村に、自分の自由を捨ててまで長い間尽くしてくれたんだ。魔人がどうこうって問題じゃない。」


「…はい。」


カイドのミネルヴァの肩を掴む手に力が入る。ミネルヴァはそっと手を重ね、優しく微笑む。その光景を見つめながら、ラクトはカイドの言葉の続きを待った。


「ただ…こうも思う。―――――この機を逃せば、俺たちは山に隠ったまま、何の対策をとることなく暮らしていくだろう。外界の人間を拒み、いつ村を発見されるかわからないまま…。そして、お前のように無理な提案をしてくる馬鹿にも、もう会うことはないだろう。」


カイドは真っ直ぐラクトを見つめたあと、ミネルヴァの肩から手を離した。そしてゆっくりと、頭を下げる。


「村を…俺たちの未来を、託していいか?」



静かな部屋に響くカイドの声は、力強く、優しく、ラクトの中に入ってくる。


「―――――はい。全力で、頑張ります…!ありがとうございます!!」


「よろしく頼む…ラクト!」


ラクトも頭を下げ、しばらくの間二人が頭を下げていた。そんな中、ミネルヴァだけが上を向き、流れ出る涙を魔力の光が照らしていた。



そしてラクトはカイドたちに見送られ、村をあとにしたのだった。














「――――…とまあ、その後ラクトのおかげで、この村は新たに地図に登録されると同時に、リンドンの中でも広く知られるようになった。そして、この山の管理を国から任され、村は昔とほとんど変わることなく生活を送ることができているんじゃ。」


一気に話したあと、ミネルヴァはふうと息をつく。



「―――――――か…カッケェエー!」


目をキラキラと輝かせるロン。その姿にミネルヴァはクスクス笑い、ラキの方に視線を向ける。


「よかったのぉ?ラキ、お前のとーちゃん見事に慕われているじゃないか。」


「あったりまえですよ!!はああ、いつだって勇者様は想像以上にスッゲエ…!」


ラキが反応する前に拳を握りながら熱く語るロン、妹はただただ恥ずかしさを覚える。


「そ、そういえば…勇者様って王族と知り合いだったんだね。すごいね!」


リコは話題を変えてラキに言った。


「ん?ああ…まあね。」


ラキは無表情で答えるが、なんだか歯切れが悪い。


「?どうしたの?」


リコが尋ねると、ラキは苦笑いしながらリコを見た。


「…あ、いや。僕も詳しく聞いたことなかったからさ。そんなことがあったんだな…って。」


「そうなの?」


リコが少し驚いていると、マシューが微笑みながら説明してくれた。


「ラクトさんが再び村に来たのは一年後でした。そのとき初めてウルキさんと一緒に、二歳のラキさんを連れて来ました。多分ラキさんは覚えていないと思いますが。…そしてそのあと、ラクトさんが亡くなって、原因である魔物を追ってこの村を訪ねてきたのが今から半年前です。そのときもあまり詳しい話はしませんでした。ラキさんの第一の目的は…仇を討つことでしたから。余計なことを言うのは、控えた方がいいかと思いまして。」


「マシューさん…。気を使わせてしまったんですね。すみません…。」


ラキが謝ると、マシューは近づいてラキの頭を優しく撫でた。


「そんなことありませんよ。こちらこそ、何の手助けも出来なかったんですから。…本当に、ありがとうございました。ラキさん…。」


何に対してのありがとうなのか?少し意味がわからなかったラキだが、マシューの手の優しさに、気持ちは温かくなる。心の底から、安心できたのは久しぶりだった。



「ふふ、仲のいい兄妹みたいじゃの。」


遠目で二人の様子を見ながら、ミネルヴァは柔らかい微笑みを向けた。リコもにっこり笑顔だ。


「本当ですね。」


ただ一人、ロンだけは苦い顔をしていて、腕を組んで考え事をしている。


「…そういえば、勇者様とミネルヴァさんと村長の話、よく村の人たちが納得してくれましたね?いくら王族と知り合いって言ったって、証拠とかもない勇者様を信用しないといけないっすよね?実際、反対意見とか色々あったんじゃないんですか?」


ラクトのことになると我を忘れるロンだが、その癖がなければ疑り深く慎重な性格だ。もっともな質問にミネルヴァも目を丸くする。


「なんじゃ、お前ただの勇者馬鹿じゃないんじゃな。…そうだの…お前たちには言ってもいいか。のう、マシュー?」


「…そうですね、僕は賛成ですよ。」


ラキを撫でる手を止めて、マシューはミネルヴァの隣に移動した。


「確かに村人とラクトさんは直接話をしたわけではありません。ですが、ラクトさんとミネルヴァと村長の話は、同じ時間に僕の口から説明していたので皆説得してくれました。」


「…同じ時間に?」


意味がわからないといった表情で、ロンとリコはマシューを見る。ラキは無表情で静かに二人を見つめた。


「なんで同じ時間に説得することが出来るのか、それは僕がミネルヴァと意識を共有することが出来るから。ミネルヴァが聞いていた一部始終を僕が知ることが出来たからです。」


「!?共有――――?」


「ふふん、ちなみにこれは私の魔力で出来ることじゃないぞ?マシューだけが特別なんじゃ。」


意地悪そうに笑みをこぼすミネルヴァ。どう理解していいのかわからないロンたちに、マシューは静かに真実を明かす。


「答えは…僕とミネルヴァが、血の繋がった親子―――――ということです。」


「―――――親子!?」


ロンもリコも前のめりになりながら、二人を見比べ驚いている。


「へ!?あれ!?ちょっと待ってくださいっ、だってマシューさんは――――!?」


「はい、ですから…ミネルヴァと村長は夫婦ってことですよ。まったくとんでもないですよね。」


リコの質問にも平然と答えるマシューの姿に、兄妹は唖然としている。


「とんでもないとはなんじゃ、とんでもないとは。」


「だって村長になるべき人間なのに、七つで一目惚れして守るべき神聖な存在とされた魔人と子供作るとか…昔から村長のやってることは理解できないよ。それでいて村人丸め込んで信頼されてるんだから。」


「アホのすることじゃ、私だってわからん。だがその結果お前が生まれ、不自由なく暮らせている。それもあいつの為せる技、それでいいじゃろ。」


「はあ、ハイハイ。わかってますよ。」


目の前で始まった親子喧嘩を見つめながら、ポカーンとするロンたち。それを横目にラキはずっと無表情のまま黙っていた。






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