表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/88

.邂逅-9-






ラクトはカイドにまた手を縛られた。


「村を歩く間、我慢しろよ。一応これでも村長だからな、むやみに不安にさせたくないんだ。」


「わかってます、無理をお願いしたのは俺ですから。」


二人は扉を開けて外に出た。するとマシューがすぐ近くに立っていて、カイドに耳打ちをする。


「―――…よし、じゃあ村は頼んだぞ。」


カイドはマシューの肩をポンッと叩いた。そしてラクトを前に歩かせるような形で、村を進む。



「立派な息子さんですね。」


村を出て神殿へ向かう途中、ラクトはカイドに縄をほどいてもらっていた。カイドが前を歩き、ラクトは後ろからついていく。


「…たまに憎まれ口をたたくけどな。どこで覚えてくるんだか。」


他愛ない話をしていると、神殿の結界の前にやって来た。


「さあ、ここから先は俺たちにとって神聖な場所だ。事によっちゃ、お前を帰せない状況にもなるが…それでもいいのか?」


最後の威し。ラクトはカイドを真っ直ぐ見つめて頷いた。そして、二人は森の中に消えていく。








「ミネルヴァ。」


神殿の中にたたずむ一人の女性。カイドは彼女に呼び掛け、ラクトを紹介した。


「こいつがラクトだ。悪いな、ちょっと話を聞いてやってくれ。」


魔力の光に照らされた彼女は、銀色の長い髪を揺らしながら近づいてくる。


「…こいつか。おい、カイド…。」


ミネルヴァに呼ばれてカイドが彼女の口元に耳を近づけると…。


「何勝手に一人で決めとるんじゃ、このたわけが――――――!!」


怒鳴り声をあげながらミネルヴァはカイドの頭目掛けて、おもいっきりの蹴りをお見舞いした。


「がふっ!?」


蹴り飛ばされたカイドは床に転がり、ラクトはあまりの衝撃に驚き、ガタガタと震えている。


「で!私に用があるとはよく言ったもんだの?ん?このクソガキが!!」


ミネルヴァはラクトを睨み付け、顔を近づけて啖呵を切る。


「あわわわわわ…ご、ごめんなさい。」


あまりの迫力と展開に、ラクトは思わず謝った。すると、ミネルヴァは苦い顔をしたあとパッといたずらっ子のように微笑む。


「…ふぅむ。お前、いじりやすそうじゃの!ふはは、いいぞ?話を聞いてやっても。ただし、つまらんかったらあのへっぽこ村長のようになる!覚悟しろ!!」


「あ、ありがとうございます…。」


どうやらミネルヴァに気に入られたらしい。ラクトは目を回すカイドを起こしながら、苦笑いをした。


石の台座の上に腰かけたミネルヴァの前に、二人が座る。すぐミネルヴァに促され、ラクトは話を始めた。


「俺が話すことはあくまで提案でしかありません。実際やるかどうかはお二人と、村の皆さんで決めてください。」


ふぅ、と息を整え、ラクトは二人を見つめた。


「この村がミネルヴァさんの魔力で守られ、目に見えない結界があることにより、村人は確実に村の安全性を疑ってはいないでしょう。外界との接触を断ち、百年以上この生活を続けてきたのなら尚更です。しかし、絶対なんてこの世に存在しません。いつかはくる事態に備えておかなければ、いざというとき対処が遅れ、悪い方向に流れてしまう可能性が強くなります。」


「…お前の言っていることはわかるが、どうしたって村への危険性が高まるなら、何をしても同じではないのか?」


ミネルヴァは唇を掴むような仕草でラクトを睨む。ラクトは動じることなく話し続ける。


「確かに何をするにも危険はついてくる。ですが、今動かなければ、もっと大きな危険に変わってくるんです。魔力の研究が進む中、あなたのような魔力を大量に秘めた魔人がいるとわかれば、その力を目当てに近づいてくる者も多い。例え村がどうなろうと関係ない。どんな方法を使っても…そういった輩はいるものですよ。」


少し悲しげに話すラクトを 見て、反論するタイミングを逃したミネルヴァ。するとカイドが重い口を開く。


「…もしも…捕まったとしたら、魔人はどうなる?」


「……一概にそうだとは言えませんが、もしも権力を持った人物なら、村の存在ごと消して…魔人は魔力を吸いとられるように、あらゆる研究の対象になるか、大金を得るために死ぬまで魔力をとられ続けるか、見せ物にされるか…。普通の生活はもうできないでしょうね。」


カイドは絶句した。わかっていたことではあるが、他人の口から、それも妻が魔人である人間から突き付けられた現実。それはあまりにも…。


「――――――っ…んなことさせてたまるかよ!!」


怒鳴り声をあげるカイド。ミネルヴァは目を背けたまま黙っている。ラクトはカイドが落ち着くのを待って、ゆっくり話を再開する。


「…あくまでこれは最悪の仮定です。カイドさんたちがミネルヴァさんのことを、一人の人間として大切に想っていることは十分伝わります。だからこそ、対策を練ることは必要だと思うんです!」


「………対策なんて、あるのか?ミネルヴァを守る方法が――――。」


弱々しいカイドの質問に、ラクトは力強い眼差しを送りながら頷く。


「問題は、この村が世界に認識されていないことなんです。」


「認識…?」


ミネルヴァはラクトの目をしっかりと見つめる。


「はい。地図にも載っていないこの村を認識してもらうこと、それが第一歩です。さっき言った最悪の状況は、村が認識されていないときほど可能性が高くなります。いくら村ごと消そうとしても、大掛かりな事態になりますが…まあ山に巨大で危険な魔物がいたからという理由をつければ、山狩りすることも変に思われませんよね?ミネルヴァさんを知っている村人がいると、後々厄介になりかねないので、何かしら理由を作って隠したいと思うのが必然的ではないでしょうか?」


「…世に知られていない村なら、簡単に理由を作って消すことができる、か…。」


ミネルヴァは苦笑いをしながらカイドに視線を移す。


「しかし、村の存在を認識させたとしても…同じ状況になりかねないんじゃないか?ひょっこり出てきた村が、実は国にとっての反乱分子だった、なんて理由も簡単につけることもできるだろう?」


カイドは冷静に考えを回らせていた。


「確かにそうですね。でも認識されているのであれば、無闇に攻撃するわけにはいかないでしょう。調査し、決定的な証拠がないかぎり、村を消すような大きな攻撃はしてこない と思います。…昔なら状況は違ったかもしれませんが、今のこの国の情勢なら、攻撃した方にも責任を問いますから。」


昔、村がミネルヴァと隠れた頃とは違う。時間の経過によって世界の仕組みも変わっていた。ずっと時を止めた村に住んでいる彼らには、その発想はあまりなかったらしい。


「国の情勢…はは。そんなもの―――――…考えたことないな。」


ミネルヴァは髪を握りしめ、歪めた顔で笑った。


「生きるだけで必死だったあのとき…何人もの犠牲が、どれだけの苦しみがあったか…。私はただ―――――その苦しみから解放したかった…!ただそれだけなんだが…今となっては…。」


「ミネルヴァ…。」


カイドはミネルヴァを自分の胸元に引き寄せた。顔を下に向け、声を圧し殺すミネルヴァを優しく包んでいる。


「…ミネルヴァさんの判断は間違ってはいなかったと思います。ここに来る前少し調べましたが、村が麓から消えたあと、そこは大きな戦場になったと記載がありました。もしかしたら、とうの昔に村は消えていたかもしれません。それに、まだ遅くはない。村を、ミネルヴァさん自身を守る、その方法があるんですから!」


ラクトは柔らかい笑顔を向けた。二人はゆっくり顔を上げ、ラクトを見つめた。


「―――…方法?」


「ここを、新しく出来た村として、世界に知ってもらいます。」


「…は?」


よく理解できないといった顔で、カイドとミネルヴァは混乱している。しかし、ラクトは確信を得たようににっこり微笑んでいる。強い眼差しをもって。


「村の皆さんはほとんど家族ですよね?だったら一族総出で新天地を求めて、この地に村を作った、ということにしてもらいます。まあ、建物とかは古いものがありましたが、百年以上経っているものは解体していただいて…五十年くらい前に村を作ったってことにしていただけますか?」


「―――…なあ、ラクト?何を言っているのか…さっぱりわからないんだが…?」


カイドがとうとう口を挟むと、ラクトはきょとんとした表情をして、苦笑いをした。


「ぅわはは。すみません、そうですよね!…つまり、この村は百年以上前に存在していなかったように思わせたいんです。ちょうど麓の村が消えた時と同時期に出来たと言えば、なぜその間隠れ続けることが出来たのか、疑問に思われてしまいます。しかし五十年ほど前なら、国同士の争いも終結し、次第に活気が戻ってきた時期になります。そして、神隠しの噂が十分浸透して、山に入る人がいなくなったときに 村が出来たとしたら…ある程度の言い訳は可能になります。」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ