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.邂逅-4-






「魔力…これは普通、魔物が持つ特殊な力だ。魔物以外の動物も植物も、人間も持っていない絶対的力。特性は様々、火を操るもの、雨を降らせるもの、光を生み出すもの、心を読むもの等々…。長年の間、人間は魔力を恐れ、魔物に怯えてきた。しかしついに人間は魔力をエネルギーとして活用する術を編み出し、魔力をこめた武器で魔物を倒すことが出来るようになった。現在は生活にかかせないものになっている。ここまではわかるな?」


リコやロンは真剣にミネルヴァの話を聞いていて、小さく頷く。


「…さらに魔力には波長がある。同じような力だったとしても、威力や発動条件が違ったり、中には魔力自体を変化させたり成長するものもいる。そんな中、人間はある機械を発明し、魔力を測定することで色々な情報を得ることが出来るようになった。例えば人間には指紋がある。指紋は一人一人違うため、これで個人が判別できる。魔力も同様だ。一度でも魔力を測定されれば、その情報は世界が管理するデータバンクに送られる。その後にまた測定されデータがあった場合、あっさりそいつの情報が出てくるってわけだ。」


身分証であるカードと同じように、魔力も世界全体で情報 が見られる時代。これにより、いつどこに誰がどこからどこへ移動した、等の細かな情報まで管理でき、犯罪などが起きたときに素早い対処がとれるようになった。また、昔のようにわざわざ偉い人間から許可証をもらいに行かなくても簡単に国と国を渡り歩けるようになり、世界全体での生活水準や技術、食料などの問題が解決するようになっていった。


このシステムで世界は大きく変化した。しかしそれは魔人にとって――――…。


「まったく住みにくい世の中に変わりはない。」


ミネルヴァはため息をついてぼやく。


「あいつの―――ラクトの件が噂として世界中に流れ、魔人の存在は昔に比べてかなり認識された。が、魔人を受け入れるかどうかはまた別の話。魔人なんて滅多に生まれないし、生きていても隠れて生活しているやつがほとんどだ。魔力の研究として捕まるやつ、恐れられて殺されるやつ…そういうやつらは今でもいる。」


ミネルヴァの言葉が淡々と部屋に響く。リコは一度身震いしたが、静かに話を聞いていた。


「…そうか。やはり何か心当たりがあるんだな?ガキが二人で旅に出る…そして一人が魔人。なんにもないわけはないわな。」


ミネルヴァがリコの反応を見ながら語りかける。


「―――お前はまだ若い、が、とても幸運だ。」


目を丸くしてミネルヴァを見るリコの瞳には、意地悪そうな笑顔が映った。


「…どういうことですか?」


答え次第ではただじゃおかないとでもいう顔でロンがミネルヴァを睨む。それに気づいてさらにミネルヴァは笑顔になった。


「ほれ、こういうことが幸運だといっとるんじゃ。自分のために本気で怒ってくれる人間なんて、そうそういるもんはでない。ん?違うか?」


今度はロンが目をぱちくりさせて、少しのり出していた体を元に戻し、照れたようにそっぽを向いた。リコは兄とミネルヴァを交互に見つめ、嬉しそうに頷く。


「私などひどいもんだったぞ?この村の者に会うまでな…と、まあ魔人に生まれてしまったのは誰のせいにもできんし、受け入れるしかない。ただ、望んでいなくても力は強大で、厄介だ。自分で抑える方法を見出ださない限り、力に操られ、力に狂わされる人生を送ることになる。…仲間ができたのなら尚更、自分だけの問題ではないんだ。」


リコは自分の胸に手を当て、服をギュッと掴んだ。


「ただし、やはりコントロールする方法は体で覚えなければいけない。リコ、お前は今現在はお前から魔力は感じられないが、それは意識してのことか?」


「…違います。わ、私の…魔力は予言――――らしいんですが、私は今まで自分が言った予言なんて覚えてないんです。…突然体の中が燃えるように熱くなって、苦しくなって、頭の中もぐちゃぐちゃになるような感覚になって―――――…そこから意識が飛んじゃうらしいんです…。」


「…ロン、本当?」


初めて聞いたリコの力の発動状況と、実際見たリコの魔力を思いだしながらラキが質問する。


「…これまでリコの魔力が予言したのは五回。内容はなんかの比喩だったり、最初聞いただけでは意味がわからないこともあるんだが…そのあと起こったことを考えると、予言通りに物事が起こった。昨日のは…まだわかんねぇけどな。その予言の度にリコは自分の意識を失って、体から魔力を出しながら…別人みたいに予言を告げる。」


「なるほど、突然の発動、それ以外は魔力が感じなくなるほどリコ自身の中に閉じられているわけだ。ふうーむ…。確かにどう対処すべきか悩むのも無理ないな。初めからいつでも魔力を引き出せるやつは力を調節し、加減を学べばいい。しかし普段は使えない、それも予言という魔力の中でも特殊な部類になると…難しいかもしれんな。」


ミネルヴァの話を聞いていて、リコの表情はどんどん暗くなっていった。魔力が、自分が魔人だと知ってから、どうにか抑えることができないか何度も考えた。しかしミネルヴァの言う通り、突然溢れる膨大な魔力が現れる度に意識を失い、どうやっても自分の意思で現れない魔力、そもそも魔力自体よくわかっていない状態で出来ることなど何もなかった。


初めて出会った自分以外の魔人、不安だったが、もしかすると自分の魔力の攻略法がわかるかもしれないという期待が思っていたより大きかった。その分、無理だと感じるごとに気持ちが深く沈んでいく。


「……―――あは…あはは。やっぱり、このままやり過ごすしかないですよね?い、今までの予言だってそんな大したこと…。」


「馬鹿いえ!最初の予言なんて親父に――――監禁されること…当たってたじゃねぇか…。追っ手がどこにいるとか…兄貴に頼ったのだって…。」


ラキは二人を見つめて思った。たった数日の付き合いだが、こんなにも二人が苦悩してきたことを知らなかった。当たり前のこと。だが、知らなかった自分が憎い、悔しいと感じてしまうこの気持ちは何なのだろう?


「…無理なのかな…私がいつか力が出ないようにするなんて…。ごめんね、お兄ちゃん…。」


えへへと苦笑いするリコ。自分のことより兄に迷惑をかけていることに謝る姿に、ロンは自身の無力さが許せなかった。


「リコ―――――…。」



「…ほい。美しー兄妹愛は結構じゃが、私の話は最後まで聞かんかい。」


ミネルヴァはため息をつきながら二人を見つめる。


「へ?」


「っむ、無理じゃないってこと…ですか?」


二人がミネルヴァに顔を向けると、満足そうに話を進める。


「完全に魔力を抑えることは無理じゃ。そんなことしたら溜まりに溜まった力が暴走し、魔力を使い果たして死ぬ。」


「―――――っな!?そうなんですか…!?」


リコは恐怖で顔が真っ青になったが、ロンは意外に冷静だった。


「…じゃあ、完全に抑えなければ…ある程度溜まらないくらい発散させれば?」


ロンの提案にミネルヴァは驚いた顔をしたあと、にやあっと笑顔を見せた。


「―――…ほお、お前見た目によらず頭は回るようだの?そうじゃ。自分の中で溜まった魔力を少しずつ消費させることで、発動に必要な魔力の限界量になることを避け、突然溢れることがないように出来ればいい。そのやり方はリコ自身で身に付けなければ始まらないが、そうなれば自分の魔力に踊らされることもなくなると思うがの?」


「――――リコ!可能性が出てきたぞ!?」


喜ぶロンとは対照的に、リコは困惑していた。


「でっ、でも…今まで私、魔力を自分で出せたことないんだよ?どうやって…発散させればいいのか…。」


ロンは再びミネルヴァに向き直って頭を下げた。


「ミネルヴァさん、お願いだ!リコが…リコの魔力をコントロール出来る方法を知ってたら教えてくれ!!頼む!!」


「お兄ちゃん…――――わ、私、もう魔力を暴走させたくないです!お願いします、教えてください!!」


ロンの横でリコも深く頭を下げた。ミネルヴァは胡座をかいたまま黙って腕組みをしている。


「…私とお前の魔力は違う。だからお前の力の扱い方はお前が見つけるしかない。…が、魔力を自分の中に感じることが出来れば…きっかけには十分なりうる。」


「勿体をつけるのミネルヴァの悪い癖だよ?」


後ろからマシューが言うと、ミネルヴァはムスッと唇を突き出した。ロンとリコは顔を下げたまま動かない。ラキもジッとミネルヴァを見つめていた。


「―――むう。わかったよ、ただしあくまできっかけ、可能性だ。完全に自分のものにしたいならリコ、努力は惜しむな!いいな!?」


ミネルヴァの言葉を聞いた瞬間、リコとロンはバッと頭を上げて顔を見合せた。そして同時にまた頭を下げる。


「「ありがとうございます!!」」


「―――――ぶはっ!!はっはっは、わはっ、わかったよ。ははっ!」


息の合ったお礼の言葉に、ミネルヴァは思わず笑ってしまった。そんなミネルヴァを見て二人も笑う。



「これで本当の兄妹じゃないっていうんだからすごいよ。」


ラキは微笑みながら呟いた。







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