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.邂逅-1-









朝になり、ラキたちは活動を始める。眠気のとれないリコの手を引っ張りながら、マシューの父親で村長のカイドの元へ向かう。昨日は強い雨が降る夕暮れに到着し、すぐ借りた家に入ったのでよく見なかったが、この村は本当に小さな村だった。十三軒ほどの木造の家が点々とあり、小さな教会のような祈り場がある。村から山の頂上方面は削られて土が見えており、反対に下山方面は草木が生い茂っていて、家との間には低めの木の塀があるだけだ。


ラキたちは村の外れから中心へ向かい、一軒の家の前に着いた。


「おはようございます、皆さん。お待ちしておりました。どうぞお入りください。」


扉を開けたマシューはラキたちを家の中へと招き入れ、少し広めの部屋に案内した。


「やあラキ!元気にしてたか?」


マシューの父、カイドがラキの顔を見てニカッと笑った。背が高く色白でほっそりしているマシューとは対照的に、カイドは小麦色の肌にガッシリした体型をしている。白髪の混じった黒髪で、襟足だけ長く一つに結んでいた。


「お久しぶりです、カイドさん。僕はいつも通りですよ。カイドさんもお変わりなさそうでなによりです。」


カイドの前に置かれた敷物の上に座りながら、ラキは笑いながら言った。


「はっはっは。まったくな。…君たちがラキの友人か。」


ロンたちに視線を向けて、カイドは優しく強い眼差しを送った。


「ど、どうも。」


「はっ、はじめまして!」


カイドは二人を見回して、ラキに紹介を求める。


「こっちがロン、で、妹のリコ。二人ともこの間出会ったばかりだけど、僕の仲間だよ。」


「―――…そうか、仲間か。二人とも、こいつは難儀だが仲良くしてやってくれよ。」


カイドが言うとロンはあっさりと返す。


「知ってます。」


「お兄ちゃん!」


すかさずリコがツッこむが、カイドに笑われてしまった。


「わはは、なかなか正直だな!いい仲間だ、大切にしなさい。」


そう言ってラキに微笑むカイドは、まるで父親のようだ。ラキはペコッとお辞儀しただけだったが、少しだけ笑みがこぼれる。


「――――…さて、ラキ。今日はわざわざ友人を連れてきたんだ、もう…終わったんだな?お前の旅の目的は。」


カイドやマシュー、ロンやリコも静かに見つめる中、ラキはゆっくり頷いた。


「この国…リンドンのアザルに。ギジナ湖に住み着いていたようです。僕が三日ほど張っていたとき、ここにいるリコが襲われ、湖から出てきたところを仕留めました。…かなりの人間を食べたようですが、これでもう被害が増えることはありません。」


淡々と答えるラキの話を、皆は静かに聞いていた。カイドがゆっくり背筋を伸ばしてラキを見据える。


「…そうか…。」


呟いたカイドの瞳には、涙が溜まっている。


「―――よくぞこの一年で…よかった、これで…これであいつもようやく安心出来るだろう。立派な子供を持って、あいつは幸せものだ。間違いない。」


目に溜まった滴を払いながら、カイドはラキに優しい笑顔を見せた。リコやロンは少しずれて座っていたため、あまりよく見えないが、ラキの顔が歪んだように見えた。まるで、涙を流さないよう堪えているかのように。


「…―――…はあ、僕が師匠に旅に出る許可をもらうまでに時間が掛かってしまいましたが、よかったです。本当に。ありがとうございます、カイドさん。」


ラキはお礼を言うと深々と頭を下げた。カイドは頭を上げるように言ったあと、堅物だなと笑った。


「昨日、息子たちだけの出迎えで悪かったな。最近雨が多くてな、土砂崩れがあってそっちの対応をしていたんだ。」


「そうだったんですか。すみません、大変なときにお邪魔してしまって。」


「なあに水くさい!お前ならいつでも大歓迎さ!!まあ気に入らないやつは追い返すけどな!!はっはっは!!」


豪快な笑い声を上げながらカイドが立ち上がる。身長はマシューと同じくらい高いので、迫力が増した。


「さて、俺はまたあっちの手伝いをせんといかん。彼女に会うんだろう?許可は得たから、マシューを連れて行くといい。」


「ありがとうございます。」


カイドが奥へ立ち去ろうとしたとき、何かを思い出したようにラキの方に振り返った。


「…おっと、今夜も泊まるのか?」


「はい、今晩までお世話になろうかと思ってました。」


「そうか!んじゃとびきりのご馳走を用意しないとな!!じゃあまた後でな!」


ニカッと笑顔を見せたあと、カイドは部屋から出ていった。


ロンもリコも終始カイドの雰囲気に飲まれ、しゃべることもなかったが、ようやく気が抜けたようだ。


「す…すげえ豪快な村長…親父さんですね?」


部屋の隅、ロンたちの後方に座っていたマシューに苦笑いしてロンが言った。


「はは。僕はあまり村を出たことないので他の村長はどうかわかりませんが、まあ元気ではありますね。」


そう答えるマシューを見ながら、ロンとリコはこの親子が似ていないことが気になってしょうがなかった。


「さて、村長も言っていましたが、これから僕が案内します。ただ確認しておきたいことがあるので、まだ座ったままでいてください。」


ラキたちは話を聞くためにマシューの方に体を向けた。


「まず一つ。ロンさんとリコさんは、この村についてどこまで知っていますか?」


少し間を置いたあと、ロンがラキの言葉を思い出しながら言った。


「…この村の一族は神様を祀った神殿を守っていて、争い事を好まないとか、神殿を馬鹿にするとひどい目にあうとか…?」


「あはは、なるほど。確かに私たちの一族は神殿を護っています。そして争い事を嫌うのも事実です。まあ村長はどうだかわかりませんが。」


そういえば追い返すとか言ってたなとロンはカイドの姿を思い浮かべた。


「…馬鹿にするとひどい目に合う―――というより、何も出来ない。そう言った方が正しいです。それは移動してからお話します。」


ロンとリコが顔を合わせて首を傾げたが、マシューの言葉に従うことにした。


「もう一つ。これから向かうのは神殿の奥です。そこは普通に入れる場所ではありません。本当は一族以外は立ち入りを禁止している場所なのです。よって、神殿に入ってからの見たこと聞いたことは他言無用でお願いします。これを守れない場合、お通しすることはできません。」


マシューの発言にリコは目を真ん丸にして質問する。


「そ、そんなところに私たちが入ってもいいんですか!?」


「ふふふ、特例ですよ。君たちはラキさんの友人です、そしてこれはラキさん達ての願いです。『友人と一緒に相談したいことがあるから会いたい』と。神殿に入る許可もすでにとってあります。相談したいことが何かはあえて聞きませんが、問題はありません。」


カイドと同じように優しく微笑むマシュー。そんな彼は、一体なぜそこまでラキを信用するのだろうか?ロンは思いきって質問することにした。


「他言無用のことは約束します。――――でも、どうしてそこまで?ラキは別にこの村の出身じゃないですよね?」


マシューは目を細めて遠くを見つめるような素振りをした。まるで、過去に想いをはせるかのように。そして再びロンたちを見て、ゆっくり口を開いた。


「…この村は十数年前まで、誰も立ち入ることを許さない状況でした。神殿を護ることに固執し、外界からの接触を拒み、長年世界から孤立した状態だったのです。…しかし、あることがきっかけで村は変わりました。」


マシューはラキに視線を向けて微笑む。


「そのきっかけを作ったのが、世に噂されるイケニエ勇者、ラクトさんです。僕たちはラクトさんのおかげで新しい道を進むことが出来ました。いわば一族の恩人です。その実の子供であるラキさんもまた、僕たちにとっては特別な存在なんですよ。」


マシューの言葉にロンの目が輝かせウズウズしているのが、後ろにいるラキにもわかる。


「はは、興味があるようですね。良ければあとでお話しますよ?」


「是非!」


すばやい返答にリコはまたため息を吐いていた。








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