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.望まない力-8-






三人は椅子に座り、ロンとリコはラキの方に視線を向けた。ラキはフウと息を吐くと、真剣な表情を見せる。思わず二人もピシッと背筋を伸ばし、話を聞く体勢になった。


「…リコ、君が目覚める前にロンから少し話を聞いた。もちろん…君が『魔人』だということだ。」


リコは悲しそうな、暗い顔をしたが、ラキの目をまっすぐ見て頷いた。


「ロンと君が本当の兄妹ではないこともね。…それでも僕は君たちと旅を続けることになんの不安も不満もない。―――ここまではいいね?」


ラキが優しく微笑むと、リコは泣きそうな目を擦りながら、二回大きく頷く。ロンも少し微笑んでいるように見えた。


「…ただ、このまま旅を続けるにあたって、ある程度の情報を僕にくれないかな?君たちが秘密にしたいのもわかってる。だけど、何も知らずにいるより知っていた方が、何かあったときに対処も早い。わけもわからないまま危険になる行動をとってしまったら、取り返しがつかないんだ。僕より長く旅をしている二人ならわかるよね?」


ラキの言葉に下を向くも、リコとロンは顔を見合せ、目で合図を送った。


「わかりました。話します。…出来る限り。」


すべてを伝えてはくれないことをラキは理解して頷く。少しだけ寂しい気もしたが、ラキは静かに耳を傾けた。


「私たちはある国の少し栄えた町に住んでいました。私とお兄ちゃんの家は家族ぐるみで仲が良く、私たちはその頃から本当の兄妹のように育ちました。…幸せなはずでした。私のこの力に気づくまでは――――…。」


リコの肩を叩いて、今度はロンが口を開く。


「リコは普通の女の子として育った。だがあるときリコの魔力が突然のように溢れて…お前が今日見たようなことが起こったんだ。リコの魔力の特性は―――『予言』だった。」


ラキは今日の場景を思い出していた。魔力の光に包まれ、空を仰いで言葉を発していたリコの姿を。


「最初は何が起きていたのか解らなかった。リコが魔力を持っていたことも、魔力に予言する特性があったことも誰も知らなかったからだ。だが、俺の親は魔力に関する仕事をしていて、リコが魔人であることに気づくと…リコを監禁した。」


ブルッと震えたリコの手を握りしめ、ロンは続ける。


「リコは何日もの間、また魔力が溢れるまで…閉じ込めたあと、親父は研究機関に連れていくと言い出した。俺はなんとか隠れてリコの元にたどり着いたが…リコは精神的に限界がきていた。だから俺はリコを連れて逃げることにした。そしてそれをリコの両親に伝えた―――――リコが苦しんでいると、確かに伝えたんだ!」


リコの手を握る力が強くなる。リコは必死で涙を堪えているようだった。


「――――魔人なんて知らない、私たちは関係ない…その一点張りだったよ…。目の前が真っ暗になった…。」


力が抜けていくように、ロンは息を吐いた。


「俺はリコを連れて逃げた。リコの幸せを奪おうとする俺の親から、リコを見捨てたリコの親から、リコを利用しようとする奴ら全てから、逃げて逃げて――――…奴らの来られない場所まで逃げて、リコが笑って暮らせるような場所を見つけたかった…。」


「…お兄ちゃん。」


リコはロンの手を両手で握り返した。ふるふると震える手で。


「だから人間を信用しないよう…裏切られることを恐れていたんだね。」


ラキは無表情のまま、二人を見つめている。


「でも、逃げてきたのならなぜカードの登録が抹消されていないの?それにカードの使った位置情報の履歴は、調べようと思えば調べられる。君たちにとっては危険なはずだ。」


「…――――確かにな。だから俺は一人だけ、頼れる奴にカード情報の操作を頼んできた。――――兄貴に。」


「お兄さん?ロンにはお兄さんがいるの?それに…カード情報の操作って!?」


ラキは驚いてつい大きな声を出してしまった。


カードはこの世界にとって重要な個人認証、個人情報の塊だ。安易に操作しようとすれば大罪人として処罰されてしまう。そんなリスクをしてまで…?


「ロン、それはお兄さんに犯罪をさせているということ?お兄さんは危険だとわかった上でやっていることなの?」


強い口調で問いただすラキ。それほどまでに重大なことなのだ。


「…正確にいうと、カード自体に何かをした訳じゃない。カードの抹消を阻止したって言った方が正しいな。」


「…抹消を?」


ロンの言っている意味を考え、ラキは黙りこんだ。


「…親父は俺のカード情報を調べようとするのは目に見えていた。ガキ二人が町を出て生きるためにはカードを使って他の町にいかないと食料を集めるのも大変だからな。だけど足を捕まれるわけにはいかない。俺はリコを守らなければいけないからだ。」


ロンは一息ついて話を進める。


「だから兄貴に俺とリコの戸籍を移してもらった。兄貴はすでに結婚して家庭をもっていたからな。俺とリコが家族から勘当されて、兄貴のとこの養子ってことでな。」


「出来るの?そんなこと…。」


「兄貴は頭だけは良かったからな。カード情報の管理職についていて、親父との仲も悪くはないし、うまいことやってくれたよ。親父には、俺とリコの失踪を公にしないよう死んだことにした、って嘘ついてな。親父は兄貴を通してカード情報を探ってたから今のところ誤魔化せてるんだ…ま、危ないことには変わんねえけどな。」


養子縁組は国によって条件が違うが、どうやらその条件をクリアしてのことらしい。


「…疑うようで悪いけど、信用できるの?お兄さんのこと。」


ラキが質問すると、リコははい、ロンはさあな、と別々の回答をした。


「お兄ちゃん!…私は信用してます、すごく優しいってわけじゃないけど、でも誠実で、奥さんのことすごい大事にしてるし!」


「あれは尻に敷かれてるだけだとは思うけどな。兄貴は昔から憎ったらしい笑い方するわりにモテてたからな。…まあ、信用してるよ。親父よりイカれてないし、今まで順調に旅はできてんだ。もうカードがなくても生きていけるくらいの知識も体力も身につけることができた。そんだけの時間を作ってくれたのは…感謝してるんだ。」


ロンが珍しく素直だ。どうやら感謝しているのは本当のことらしい。実際に会わないとわからないが、とりあえず納得することにした。


「…そこまで言うなら、まあ僕も信用することにするよ。だけど、いざというときのことは常に考えておく。」


「別にお前に信用してもらわなくていいけどな。ただの機械オタクだよ。」


「お兄ちゃん!ジークさんはいい人だよ!」


二人がまた言い争いをしそうだったので、ラキは話題を切り換えることにした。


「二人の旅の経緯はだいたいわかった。じゃあ次は僕が話をする番だ。」


するとロンは目を輝かせたので、ラキは手のひらをロンに向けて制止させた。


「残念だけどロン、父さんの話じゃないよ。」


するとロンはふてくされたようにラキを睨んだ。リコはそんな兄にため息をつく。


「僕は明日村長に会いにいくって言ったよね?村長はこの村で二番目に偉い人で、マシューさんのお父さんなんだ。」


「二番目?」


リコもロンも不思議そうな顔をしている。


「うん、二番。この村には村長以上に力を持った人がいるんだ。滅多に人とは会わないんだけど…マシューさんに頼んで明日会えるよう交渉してもらってる。」


「ラキちゃんは会ったことあるんですか?」


「前に一度ね。…マシューさんが言ってたけど、僕の父さんはこの村に来たことがあるんだ。母さんも一度だけ…。」


「ええ!?そうなんですか!?」


その場にいなかったリコがびっくりして目をぱちくりさせている。その様子を見てロンはラキを睨んだ。


「…いや、うん。説明してなかったのは謝るよ。とにかく、明日二人にもその人に会ってもらいたいんだ。」


「私たちも?」


「なんだよ、何かあるのか?」


ラキは姿勢を正して背筋を伸ばす。


「まだ会えるかわからないし、本当は今回会うつもりはなかったんだけど、リコが魔人とわかった今なら話は別だ。…――――その人も魔人だからね。」




「――――――…え?」


「っ…なんだよそれ!」


動揺を隠せない二人に、ラキは静かな眼差しを向けた。嘘をついていない、本当のことだと言うように。


「…なんで会わなきゃいけないんだよ?――――…意味はあるのか?信用…できるのか?」


疑う、というよりも困ったような顔をするロン。まさかの事態に戸惑っているのだろう。


「…少なくとも、マシューさんたちが尊敬し、敬愛する人…。そういえばまだ安心できるかな?」


ラキは微笑むようにロンに語りかける。ロンは少し悩んでいたが、納得はしてくれたみたいだ。リコは落ち着かない様子でラキを見ている。


「大丈夫だよリコ。君のことを傷つけるような人じゃないし、もしかしたら君のような魔力の扱い方を知っているかもしれないんだ。それに…同じ魔人同士、何か聞きたいことが聞けるかもしれないよ?」


リコは黙ったまま不安そうな顔をしていたが、ロンに頭を撫でられ少しホッとしたようだ。なんとか笑顔を作って頷いて見せた。


「今まで他の魔人に会ったことはないんだね?」


ラキが訊ねると、リコが少し考えて首を縦に振った。本当は心当たりがあったが、確かなことではないためこの場では言わないことにしたのだった。


「じゃあ明日会えたらいいね。あ…あと、ちょっと気難しいから、ロンは言葉遣いは元に戻してね?」


ロンに向かってラキが言うと、ロンは口をひくつかせ目を大きく開いた。


「は?…何を、言ってっかわけわかんねぇな!?」


「さっきまで普通に話してたじゃないか。別に威嚇する必要もない相手の機嫌を損ないたくはないでしょ?だいたい魔力の研究してる人の息子なら、それなりの家の出身だって言ってるようなものじゃない?」


さらりと言い切ったラキに、見事に当てられたロンは悔しいやら恥ずかしいやらムカつくやら色んな感情がまぜこぜになっている。まるで百面相のように表情がくるくる変わった。


「―――――――ッチ、わかったよ、普通にしてればいいんだろ!?けどクセがついたとこは直さねぇからな!!」


どうやらラキに当てられたことが相当遺憾だったらしい。



「さあて…明日も早いし、もう寝よう。」


椅子から立ち上がりラキが言うと、ロンは物足りなさそうにラキを見た。それに気がついたリコが苦い顔をしている。


「明日…会えたら聞けると思うよ?村長も魔人さんも、直接父さんに会ったことがあるんだから。」


「!はやく言えよ!」


その言葉を聞いて機嫌は直ったらしい。ロンはそそくさとベッドのある部屋に直行していった。


「…お兄ちゃんたら…。」


兄の態度に呆れながら、リコも部屋を移動しようとしたとき、ラキが何かを呟いた声が聞こえた。


「―――…ラキちゃん?」


「ん?何、リコ?さ、僕らも寝よう。話はまた明日ゆっくりすればいいさ。今日は疲れたからきっとぐっすり寝れるよ。」


振り返ったリコの背中を押しながら、ラキはベッドのある部屋に入っていった。



リコはベッドの中でラキが呟いた言葉の意味を考えた。


『僕も聞きたいし。』


前に会ったときに聞かなかったからだろうか?それとも違うことを聞きたいのだろうか?


ラキの言った通り、思った以上に体力を消耗していた体はみるみるうちにリコの思考を止めさせ、深い眠りへ誘った。












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