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.黒髪の勇者-4-





「…………あの、ら、ラキ…さん?」


泣いていた少女は手で目を擦りながらラキを呼び掛けた。歩く足を進めながら、ラキも耳を傾けた。


「うん、何?」


「ラキさんは…その…さっきの魔物を追ってたんです、よね…?えっと…。」


濁る言葉を察して、ラキは遠くを見つめながら言った。


「父がね…父さんが、あの魔物のせいで死んだんだ。だから追ってた。」


魔物とのやり取りで予想はしていたものの、少女は口をへの字に曲げて俯いた。


「ごめんなさい…。」


「なんで?いいよ、これは僕にとっての事実なんだ。君が謝ることなんて何もない。…僕の方がよっぽど酷い。」


「…敵討ち、だったんですか。」


「…まあ、ね。もう十年ぐらい前のことだから、あまり期待はしていなかったんだけど。本当にしぶとかったらしい、あの魔物。倒せて良かったよ、もう…あんなのに喰われる人間はいなくなるんだから。」


「―――…お父さん…も?」


「父さんは足をね、出血多量で間に合わなかった。僕はただ見ていることしか出来なかったんだ。まさか魔物も覚えていたとは思わなかったよ。…あの声、父さんのだった。嫌な能力だよ、食べた人間の記憶や声を覚えるとか。珍しい能力だけど気をつけた方がいい。君も何か言われた?湖で。」


「わ、私は湖の中に入っていく人影が見えたから…えと、だからあのとき声は聞いてない、です。追ってきてしゃべったからびっくりしたけど。」


「え?人影…っていうより人形見ただけで引っ掛かったの?」


「だって霧が深かったし、み、水の中入っていくから、身投げ…だったらどうしよって…。」


「それだけ?…――――あ、あはは!それはチョロすぎだよ!」


ラキは思いの外ツボに入ったらしい。肩を震わせながら大声で笑った。


「だ、だってぇえ――――!ふ、あははっ。」


少女も顔を赤らめて反論しようとしたが、笑うラキを見て緊張がほぐれ、一緒になって笑った。



「あはは…―――――助けてくれてありがとうございます。私もう怒ってないです。だから、ラキさんも謝らないでください。」


少女がそう言うと、ラキは静かに頷いた。


「ありがとう…。」



そんな話をしている間に、二人はようやく森を抜けて元の湖の近くまで来た。


「ええと、君はこのあたりの人間?家とかは?」


ラキが尋ねると少女は首を左右に振った。


「私は今お兄ちゃんと二人で旅してて。お兄ちゃんが近くの宿屋さんを見てくる間に湖を散歩してたんです。」


「え、そうなんだ?大変だね。」


「ラキさんの方が大変じゃないですか!それに私にはお兄ちゃんがついてるので大丈夫なのです。」


ニッコリ笑った少女を横目で見て、ラキは軽く微笑んだ。すると少女はいきなり何かを思い出したようにピョコッと動いて固まった。


「――――ハッ!そいえば私まだ名乗ってないですか?」


「ん?ああ、そういえばそうだね。」


「はわわわ、ごめんなさい!私、リコって言うです!」


「うん、リコだね。わかった。僕の名前はまあ、魔物が言っちゃったけど、ラキです。」


「…なんか照れます。」


「確かに。」


変なタイミングでの自己紹介で、二人はまた笑いあった。そのときだ。



「―――――――リコっ!」


その声に振り返ると、遠くから金髪の男が息を切らしながら走ってくる。見た目は十七歳ほどだが背はラキとそう変わらないように見える。左側半分の前髪をピンで止め、反対に右側は少し長めの髪を下ろしていた。


「お兄ちゃん!」


リコはラキの背中から乗り出すようにして顔を上げた。ラキはゆっくりリコを降ろして少年が来るのを待った。


「ハアッ、ハアッ…リコ!どこ行ってた!?バカ野郎!」


少年は息切れしながら膝に手をついて少女を怒鳴った。その目にはじんわり涙が浮かんでいる。少女もひょこひょこ痛めた足を庇いながら兄の元に近づいた。


「ごっ…ごめんなさぁい――――!」


ぽろぽろ涙を流しながら、リコは兄に抱きついた。兄もギュッとリコを抱きしめ、必死で涙を堪えてるようだった。そんな二人を見て、ラキはゆっくり後ろを振り向きこの場を去ろうとした。



「――――――…ちょっと待てよ。」



そう言ったのはリコの兄だ。リコを抱きしめたまま顔を上げて、鋭い視線をラキに向けた。ラキは歩く足を止めて、また二人の方へ向き直った。


「あんた…リコに何したんだ?こんなに服も髪もボロボロで、身体中傷だらけで…!テメェ何かしたのか!?答えろよ!!」


荒い口調で兄はラキを怒鳴り付けた。リコは驚いて弁解しようとしたが、兄の体に顔を押し付けられしゃべらない。怒りに燃える兄に、ラキは動じず無表情で答えた。


「怪我をしていたので応急処置をしてここまで運んで来ました。ですがその怪我の原因は僕にある。すみません。」


その答えを聞いて兄はさらに怒りだした。


「――――んだとテメェ!大事な身体に何してくれたんだ!?待ってろ!今すぐぶん殴ってやる!!」


兄はラキを睨み付けながらリコから手を離そうとした。そしてようやく兄から解放されたリコは必死になって反論した。


「ぷはっ!違うのお兄ちゃん!ラキさんは私を助けてくれたの!私魔物に追われてたの!!」


「リコ!嘘つくな!!何でコイツを庇う!?さっきコイツ本人が言ったんだぞ!?原因は自分だって!!」


「それはそうだけど、い…。」


「やっぱりな!待ってろ仇はとってやるから!」


少女が言い終わる前に兄はズンズンとラキに向かって歩いて行った。


「違うの!色々あったの!も゛――――――!」


怒りで冷静さを失った兄に、リコは怒って唸りをあげた。そして片足でピョンピョンと兄の元に跳ねて行った。が、途中バランスを崩して倒れそうになった。するとそれに気づいたラキは、向かってくる兄をすり抜け、リコの体を支えるように抱き抱えた。


「はわ…ありがとうラキさん。」


「無理しないで、リコ。悪化したらどうするのさ?」


そんな様子を見て兄は口を大きく開いて固まってしまった。ようやく我にかえると兄はラキを指差しながらリコに言った。


「なななな何やってんだリコ!コイツは怪我させた張本人…。」


「違うって言ってるでしょ!!怒るよお兄ちゃん!!」


怒りの形相でリコは兄に怒鳴った。兄はさらにショックだったのかまた固まってしまった。


「…リコ。お兄さん固まったよ?」


ラキは無表情のまま、リコと兄を交互に見つめた。リコは何事もなかったようにニッコリラキに微笑んだ。


「いいんです!ああなると話を聞いてくれないお兄ちゃんが悪いんです!ごめんなさいラキさん。あ、そうだ!お詫びに夕飯一緒に食べませんか?お昼食べれなかったんですよね?ね?」


リコはラキの手を握りながらお願いした。そんな様子を見て兄は泣きそうな顔にな っている。無表情ながらラキも少し戸惑っているようだった。


「いや、嬉しいけど、リコ――――――…。」



ドサッ。



いきなりだ。なんとラキは話をしている最中に突然地面に倒れてしまった。


「―――――え?ラキさん!?」


何の前触れもなく、するりと離れる手をリコは掴むことが出来なかった。そして倒れてしまったラキを見て、とても動揺した。


「ラ…ラキさん!?お兄ちゃんどうしよう!?ラキさんが――――!」


固まっていた兄はリコの呼び掛けに我にかえり、やっとラキの倒れた姿を見て驚いた。


「…――――ぅわっ!?ぁんだ?何倒れてんだ、コイツ?」


「どうしようお兄ちゃん…!ラキさんはね、命の恩人なんだよ!?いい人なのぉ…!」


涙を浮かべて泣きそうな目でリコは兄に訴えた。ようやく冷静さを取り戻したのか、兄はリコの元に駆け寄りしゃがんで涙を拭いてやった。


「泣くなリコ…わかったから。待ってろ、今見てやる。」


そう言って兄は足を痛めてうまくしゃがめない妹に代わって、ラキの様子を確かめようとした。おい、と肩を揺すってみたものの反応がない。ただ体は小さく上下に動いて呼吸をしているのは確かだった。仕方なく兄はラキの顔を覗きこもうと頭を下げた。すると…。



「――――――…コイツ…泣いてる?」


彼の目に映ったラキは、涙を流していた。しかもとても安らかな顔で。兄は目をぱちくりさせながら妹を見た。リコも思わぬ表情に驚きはしたが、何かを悟って悲しそうに微笑んだ。


「お兄ちゃん…ラキさんを運んであげて?宿屋さんに着いたら説明するから…お願い。」


スカートを握りしめながら懇願する妹を見て、兄はやれやれという表情をしてしゃがんだままリコの頭を撫でた。


「わぁったよ。…ちゃんと説明すんだぞ?」


そういうとラキの方に振り返り、腕を持ち上げ自分の肩に回した。ゆっくり上体を起こそうとラキの腰に手を回した、そのときだ。兄はある違和感を覚え、動きを止めてラキを見た。



「…―――――こいつ…?」







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