表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/88

.望まない力-3-






「…わりぃな。」


リコの頭を撫でながらロンが礼を言うと、ラキはリコから外に視線を移した。


「…。ううん、やっぱりリコのこと考えたら迂回した方がよかったよね。ごめん。」


「はっ。今さらおせえよ。…ま、相談されても多分山道選んでたとは思うけどな。どっちにしろ、だ。」


ロンも笑って外を見た。雨は音を立てて地面に落ち、小さな流れを作って坂を下っていく。木々は濡れて艶やかに光り、雨音のみが洞穴の中に響いていた。


「…昨日さ、聞いちゃったんだ、リコに。君たちは本当の兄妹じゃないだろう、って。」


「―――…そうか。」


目を見開き驚きはしたものの、ロンは怒るわけでもなく、外を見つめたまま静かにラキの話を聞いている。


「いつか話すから、今は聞かないでって言われた…。」


「………そうか。」


体育座りをして腕を膝の上で組んでいるラキは、目を閉じてゆっくり開けた。


「余計なことだよね、ちょっと後悔してるんだ。」


「…ちょっとかよ。朝、様子がおかしかったのはそのためか。リコを悩ませたんだ、大いに後悔しろ。」


ロンが意地悪そうに言うので、ラキはクスッと笑って頷いた。


「……正直、リコがここまでなつくのは俺以外初めてなんだ。リコが…―――話したくなったときに、聞いてやってくれ。俺はそれしか言えねえからな。」


静かさのせいだろうか?いつもより素直なロンの言葉が、ラキの中にすうっと入ってくる。ロンは本当にリコのことを想っている、それはラキにも伝わってきた。


ふと、ある顔が浮かんでくる。ベッドに横たわり、静かに優しく微笑むあの笑顔が。ラキは目頭が熱くなり、顔を伏せることでそれを隠した。





「――――…ハアッ…!」


しばらくしてリコが突然呼吸を乱し始めた。


「――――リコ!?」


うたた寝していたロンはハッと目を覚まし、うなされているリコの肩を揺すった。


「リコ!?おい、しっかりしろリコ!!」


「ッハ…ハアッ…アァア゛ー…。」


唸り声をあげ、冷や汗をだらだらと流し、苦しそうに喘ぐリコの姿に、ロンは取り乱していた。


「…熱は…ないみたいだけど…?」


ラキがリコの額に手を当てるがそんなに熱くはない、熱が出ているわけではないようだ。しかしリコは苦しそうにロンの服を掴み、体を震わせている。


「なんだ?リコ…!」


原因がわからずラキは何かないかと鞄を漁って考えていると…。



一瞬、リコの目がしっかりと開いて動きが止まった。


「あっ―――――…。」


動いたかと思うと、リコはゆっくり目を閉じてすぐにまた瞼を開いた。そして、リコの髪の毛がうっすらと光り始める。


「…――――――――っダメ!!」


突然リコが叫んでラキを手で押した。


「見ないで…ラキちゃんっ、お願いっ!!」


呼吸を乱しながら、リコは頭を押さえた。ラキは訳がわからず目を点にしていると、ロンがリコを隠すようにラキの前に立ち塞がる。


「っおい!!聞こえたろ、見るんじゃねぇ!!」


リコを庇いながらロンはラキに向かって怒鳴りつけた。ロンの向こうでは光りの強さが増していく。


「な、リコ!?」


ラキが立ち上がろうとすると、リコが悲鳴に似た声でラキに言った。


「イヤ―――――!!お願い、見ないで!!ヤダヤダヤダ…見ないで――――――――!!」


「リコ!!しっかりしろ!!リコ!!」


ロンは必死でリコを押さえていたが、リコは兄の手を振りほどいて洞穴から出ていってしまった。ラキは走り去るリコの姿に目を疑った。リコが押さえている髪の色は淡い緑色の光りを煌々と放ち、眩しさでラキは目を細める。


「リコ―――――!!」


ロンがリコを追いかけて雨の中に飛び出した。ラキも一瞬遅れて外に出るが、雨が強さが増していて視界が悪い。



「っ…リコ―――――!?ロン―――!!」


二人の向かった方向に急いで向かうと、森の真ん中でロンの踞る姿が目に入った。


「リ…!」


「来るな!!来んじゃねぇ!!」


ラキに気づいたロンが叫んでいるが、ラキは一歩足を進めた。すると、ロンの中で震えているリコの姿が見える。


「リコ!?どうしたのさ!?」


「っお願いです!!見ないでください!!もう…ラキ―――――!!」


必死でリコが訴えている、そのとき、リコの声は途絶えてしまった。



「…リコ?」


「ダメだリコ!?ラキ、頼むからリコの言う通りにしてくれ!!頼む―――――!!」


ロンの泣きそうな顔を初めて見た。雨のせいで本当に涙かはわからないが、二人の気迫が異常なことをラキは肌で感じていた。


「――――…っ!!」


二人の元に駆け寄るのを抑えて、ラキが一歩下がろうとした。


「…お兄、ちゃん…!」



リコがロンを呼んだ瞬間、リコたちの周りが光りで包まれた。そして強い風が吹き荒れ、ラキは体勢を崩さないよう足に力を入れる。


「リコ!?ロン――――!!」


ラキが二人の姿を探して光の中に目を凝らす。そして最初にロンの影を見つけて、横にいるはずのリコの方へ視線を向けると…。




ひとつに結んでいたはずの髪留めは外れ、宙に浮くように緑色に輝く髪がなびいている。リコは膝をついて上体を反らし、空を見上げていた。異様な光景に、ラキは立ち尽くすしかない。ロンはリコの横で動けなくなっているようだった。


光を纏ったリコは、空を仰ぐような体勢のまま、静かに口を開いた。




「……――――東に向かいし一行に見えるは影、散らばる獣はやがて鋭い牙を立て、黒の勇者は己に流れるものの温かさを知る…片翼をもがれた鷹は知らない、知っているのは…真実を握った者だけ…真実は…安らぎの先―――――…。」




次第に光は小さくなり、リコの髪も元の色に戻っていった。


「――――っリコ…!」


気を失ったリコはそのまま後ろに倒れ込んだところを、ロンは優しく受け止め、ギュッとリコを抱き締めた。



光に包まれた間止んでいた雨は、またロンたちに降り注ぎ始め、ラキは二人を見つめて立っていた。頭の中に雨音が響く。雨は強さを弱めることなく、三人を濡らしていた。


頬から、眼鏡の下から流れる雨の中に涙が混ざっていたことを、ラキ自身も気づいていない。まるで雨以外の時間が止まったように、三人はそのまま動くことが出来なかった。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ