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.望まない力-1-







「――――…まさか勇者様がそんなつらい過去をお持ちだとは…。」


ラキの話を聞きながら、ロンは潤んだ目をして言った。


「…でも、やっぱりラクト様は優しいです。ウルキ様のことを悪く言われたから怒っちゃったんですよね…?」


リコがラキに訊ねると、にっこり笑みを浮かべラキは口を開く。


「そのときはね、花泥棒さんたちがちょうど母さんが悩んでいたことを平気でやるようなことを言ったからじゃないかって。師匠の見解だけど。」


ラキたち三人は無事宿に到着し、部屋に着いたあと夕飯を食べ、ラクトたちの話を始めたのだった。


「さ、そろそろ寝ようか。今日もいろいろあったからね。」


「そうだな…まさかウルキ様の迷子の話聞いたあとのアレだったからな。」


兄がからかうように言うと、リコはぷくっとむくれた顔をして大声をあげた。


「もうはぐれませんー!すみませんでしたあ!!」





夜、ラキとリコはベッドに、ロンは少し離れたソファーに寝ることになった。すでにロンは熟睡していて、部屋中にイビキが響いている。


「…お兄ちゃんうるさい…。」


リコはなかなか眠れず、ベッドの中でもぞもぞと動いて耳を塞ぐ。


「勘弁してあげなよ。リコを探すのに必死で走り回ってたんだから。」


「!ラキさん…起きてたんですか?」


毛布から顔を出してリコがラキのベッドを見ると、ラキは仰向けになって目を閉じていた。


「ちょっと考え事しててね。…眠れない?」


目を閉じたままラキが訊ねると、リコは小さく頷きながら、はいと答えた。


「…今日はすみませんでした。ラキさんにまでご迷惑をおかけして…。」


「無事で会えたんだからいいじゃない。ただこれからは気をつけてね。もうロンに振り回されるのは勘弁かな。」


「あわわ…お兄ちゃんたら…!」


リコが申し訳なさそうに恥ずかしさで顔を赤らめていると、ラキがうっすらと目を開けた。


「…いいお兄さんじゃないか。本当の兄妹でもなかなかあそこまで必死になれないよ。」


ラキのその言葉に、リコは一瞬頭が真っ白になった。



「――――…ラキさん…気づいて…?」


震える声でリコはラキに尋ねた。暗がりに微かな月明かりが照らす部屋で、ラキの表情はハッキリと見えるわけではない。それでもリコはラキの僅かな変化を見逃さないよう、ジッと彼女を見つめた。


「…やっぱりそうなんだ?カマをかけたつもりなんだけど、リコは嘘がつけないね。そんなに警戒してたら本当のことだって言ってるようなもんだよ?」


「――――…。ラキさん…!」


リコはしまったというような顔をして悔しそうにラキを見た。


「はは、ごめんごめん。まあ、似てないなあとは思ってたけど…あまりにもロンの態度が過剰っていうか…君たちの旅に目的地がないのも引っ掛かるし――――ま、深くは聞かないよ。気を悪くしたらごめん。」


そう言ってラキはリコに背を向けるように寝返りをうつ。リコはその背中を見つめて、静かに言った。


「…いつか…話します。だけどまだ、聞かないでください。」


掠れる声を背中で聞きながら、ラキは目を閉じて答えた。


「…わかった。おやすみ、リコ。」


「おやすみなさい…。」







朝がやってきた。空には薄い雲がかかり、太陽の光はうっすらと辺りを照らしている。


「はあーああ。まあまあうまかったな、ここの朝食。」


朝ご飯を食べ終わって部屋に戻った三人は、出発の準備を進めていた。


「な?リコ、ラキ。……………。」


「「…。」」



朝、ロンが起きてから二人の様子が変だった。挨拶くらいはするものの、喋りはしないし相づちもしてこない。ケンカはしていないようだが二人は(ラキはいつものことだが)ぼーっとした様子で必要な行動だけしている、そんな感じだ。


「…お前ら、何があった?」


とうとうロンが我慢できずに切り出すとリコはピクッと動きが止まった。しかし、兄の方ににっこりと顔を向けて何でもないような素振りをする。


「…何言ってるのお兄ちゃん?ほら、手が止まってるよ?早く出発しなきゃ、ね、ラキさん!」


するとラキも頷き答える。


「うん、僕は準備できたよ?」


ロンは眉間にシワをよせて変な顔をしたが、二人はそれに触れずにさっさと支度を済ませた。



宿を出てある程度の食料などの買い物を済ませて、三人はミデムの町をあとにした。ミデムから海を目指し歩いていくと、大きな森が見えてきた。ここから山一つ越えなければならない。しかし、山には小さな村落があるため、うまくいけば野宿しないですむ、とラキが説明した。


「だから今日は歩くよ。魔物も大きいのは出ないけど、結構いるから気をつけて。」


ラキが話しながら先頭を歩き、兄妹はラキの後ろから森の中へ進んで行った。


「ミデムからはそう遠くないけど、この森はあまり人の手が加わっていないんだ。この山に住んでいる一族がいて、その人たちが自分たちの信仰する神様の神殿を守っている。争いは好まないから皆旅人に善くしてくれるよ。ただ神殿のことになると怒るから余計なことは言わないように気をつけて、特にロン。」


名指しされてロンは少しムスッとしている。


「言うかよ!俺だって争いは嫌いなんですー、勝手に決めんな!」


「あはは、言ってみただけだよ。」


ラキとロンが話している間も、リコは黙々と足を進めた。


「リコ、疲れたか?」


心配して兄が言うとリコは首を左右に振る。


「ううん…大丈夫、ありがとお兄ちゃん。」


そのときだ。


「…―――――しっ。」



ラキが立ち止まって二人に静かにするよう合図した。歩みを止め二人が耳を澄ますと、遠くからガサガサと草の擦れる音がする。それはゆっくり近づいてくるようで、葉っぱが揺れているのが数百メートル程先で見えた。


「…魔物か?」


ロンが訊ねるとラキは頷いて腰に差した剣に手をかけた。


「ん―…三匹だね。ロン、下がってたら?リコもいるし。」


「はあ?何言ってんだよ、見てろよ。俺は強ぇってこと教えてやるよ。リコ。」


「うん。」


そう言うとリコは身に付けていたペンダントのスイッチを入れた。すると淡い緑の光がリコを包み、リコの気配が消えた。


「なるほど、魔力で気配を消していないように思わせるんだね。でも――――。」


「わかってるよ、視覚や嗅覚が特化してる魔物には効かないし、消えたわけじゃないから攻撃をよけないと危ないってんだろ?心配すんな、そのために俺がいるんだ。遠いところで派手に暴れりゃこっちに気が向くだろ?それにあいつはすばしっこいからある程度は自分で避けられんだよ。」


ロンは荷物から赤い石のついた黒いグローブを取り出して両手に装着した。


「…ふーん。じゃ、自分のことは自分でなんとかしてね、ロン。」


「言ってろ!俺だって助けてやんねぇからな!いくぜ!!」


そして二人が同時に走り出すと、魔物がすごいスピードで近づいてきた。草むらから飛び出したその姿は、狼のような顔をしているが口が大きく突き出ていて牙が大きい。体は後ろ足が発達していて前足の倍太く、しっぽは長い毛で被われている。


「ケロンか、あいつは跳ぶぜ!」


ロンがそう言った瞬間、三匹が同時にジャンプした。かなり距離があったにも関わらず、ケロンたちはラキたちにひとっ跳びして、鋭い牙を向ける。キィンッとラキは剣を使って一匹の前足を振り払うと、跳んできたもう一匹に当たった。


「うっらぁ!」


ロンは残りの一匹の顔を横から殴り飛ばした。


「どうよ!?」


ロンは自慢気にラキの方を向いたが、ラキはまだケロンたちから視線を離さない。


「まだ終わってないよ。」


ロンはふてくされたような顔をして飛ばしたケロンに視線を戻すと、ちょうど立ち上がって反撃してくるところだった。今度はロンの足を目掛けて助走なしで勢いよく突っ込んでくる。


「うっお!?」


ロンは足を上げてなんとか回避したが、相手はすぐに方向転換してまた足を狙ってくる。


「しつけえっよ!!」


ロンは体をひねりながら地面に向かって拳を構え放った。するとそこから熱い熱風が吹き荒れ、ケロンは悲鳴を上げながら体勢を崩す。それを見計らって、ロンは上から握った拳を思い切りケロンの頭に放った。


「ギャンッ!!」


地面に頭を叩きつけられ、ケロンはピクピク体を震わせ力尽きた。ふう、と息を吐きながらロンはラキの方へ目をやった。


「あ、終わった?」


ラキを見てロンは驚愕する。なんて軽々と攻撃を躱し流しているのかと。ラキはケロン二匹を相手に剣を使って操っているかのように攻撃躱していた。行動を読み、まるで踊っているように。実際すごいスピードのケロンが、じゃれあう犬のように見えてしまう。相手との距離がギリギリのところで躱しているが、ラキは余裕の表情でロンが一匹倒したことを確認するとこう言った。


「じゃ、ちょっと待ってて。」


すると素早い動きでラキは一匹の顎を剣の柄で打ち上げ脳震盪を起こさせ、その間にもう一匹の攻撃を躱したあとに切っ先を向け構えた。するとケロンはラキの気に当てられ一瞬動きが鈍る。そこへラキが踏み込み、一撃を食らわせた。


ブシャアアッ!!


あっという間の出来事だった。一匹は体がビクビクッと震わせ、もう一匹は首を横一線に斬られ血を噴き流し横たわっている。



「ロンと僕の倒した二匹はいいとして、もう一匹はこのままにしておこう。多分数時間経てば動けるから。」


そう言ってラキは剣を振って血を払い、布を取り出してきれいに拭き取った。







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