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。変化-7-






さて、セレンたちの問題が解決している頃、ラクトたちはというと―――――――。



「…。」


「…。」


「…。」



三人は屋根裏部屋を借りて、黙ったまま座っていた。


「っていうか男じゃないわよ――――!」


開いた窓からセレンの怒鳴り声が聞こえてきた。すべての会話を聞き取れはしないものの、四人が仲良くなったことは理解出来た。



「…外、楽しそうですね?」


沈黙の中、口を開いたのはラクトだった。


「…そうだね。」


「…。」


ウルキが相づちを打つものの、シャーロットは黙ったままラクトを見つめている。


「…………―――――すみませんでした…。」


家に入ってからずっとこの調子で、ラクトは冷や汗をかきながら謝る。


「………何が、すみませんなんだ?」


ついにシャーロットが口を開いたが、瞳は冷ややかだ。


「ぅえ!?あ…えと…。」


「意味もなく謝ったのか?なんだそれ、おかしいだろ?」


「―――――…はいっ…。」


シャーロットの言葉にラクトは背中を丸めてどんどん小さくなってしまった。


「シャーロット!…もういいでしょ?」


ウルキは見かねて助け船をだすと、ラクトに向かって目で合図した。ラクトは唇をキュッと結んだあと、重い口を開ける。


「…俺が、あんな風にキレるようになったのは…父親を恨んでいたから…です。」


「父親?…そういえば、お前の父親の話は聞いたことがなかったな。村にいるのか?」


シャーロットは視線は変えることなく質問した。


「……どこにいるかは知りません。知りたくもないです。」


「!」


ラクトの意外な反応に、ウルキもシャーロットも驚いていた。一瞬暗い影を落としたラクトだったが、二人の反応を見て慌てて苦笑いする。


「あ、はは。すみません、変なこと言いましたね。忘れてください。」


「…お前はすぐ誤魔化そうとするよな。」


シャーロットの厳しい指摘に言葉をつまらせるラクトだったが、深いため息をつくと、意を決したように話し始めた。


「――――俺は村の皆に嫌われていました。その原因が父親なんです。」


ラクトの目は昔を見ているように遠くを見つめていた。


「父親は、外から来た旅人でした。そして母さんと出会って、二人の間に俺が生まれました。ただ…母さんたちが一緒に過ごしたのはたった三日だったそうです。」


「み、三日…。」


ウルキは目をぱちくりさせて聞いている。


「すごいよね。その三日の間に出会って、愛し合って、別れたんだから。父親は仕事の途中で村に立ち寄ったから、すぐに村を発ったんだ。そして母さんは悩んだ末、一人で俺を産んで育ててくれた。」


母親を思い出したんだろう、ラクトは優しい顔をして話した。


「……でも、それを村の人たちは良く思っていませんでした。まあそうですよね。どこの誰かもわからない男とたった三日の間にできた子供なんて、普通じゃなかったんですよ。村でしか生活できない中で、俺は異端児だったんです。あはは、よく苛められました。子供からも、大人からも…。」


静かに話をするラクトだったが、ウルキが下を向いて拳を握っているのを見て微笑んだ。


「ウルキ、大丈夫だよ。これっぽっちもウルキを恨んでなんかいないし、責めたりもしないよ。」


考えていたことを悟られ、ウルキはコクンと頷き笑顔を作る。


「それに、隣の家の叔母さんやアイジおじさんがよくしてくれたから。叔母さんは母さんの妹で、おじさんは幼なじみなんだ。だから体の弱かった母さんをずっと支えてくれた。イルジ兄ちゃんもその妹のミルも、俺と兄弟みたいに接してくれたから…だからまだ堪えられた。―――――…でも。」


ラクトの目がだんだんと冷たさを含んで、声も低くなっていく。


「あいつは…忘れたころに…突然現れた。」


あいつとは父親のことだろう。ラクトは静かに話を続ける。


「小さいころから母さんの役に立ちたくて、手伝いもしたし、村人に頼んで雑用とかも進んでやるようにしていたら、次第に受け入れてくれる人も出てきたんだ。だから、ちょっとずつでも村に認められるよう俺も頑張った。…そんなとき、なんの知らせもなくあいつは…父親が村に戻って来た。」


シャーロットもウルキも黙ったままラクトをまっすぐ見つめている。


「当然俺が生まれる前にいなかったから、顔はそのとき初めて見ました。正直、俺は母さん似なので父親には似てなかったんですけど…あいつは、俺を見てこう言いました。『子供ができたなんて聞いてない、なぜ勝手に産んだんだ』って。」


ウルキが何か言いたそうだったが、ラクトの瞳を見て、空いた口を静かに閉じた。しばらく沈黙したあと、ラクトは再び話しだした。


「…そのとき俺は七つでしたが、言葉の意味はよくわかりました。まるで俺を軽蔑するかのように蔑んだ目が、口以上にモノを言っていましたから。ただ、あいつはそれだけじゃ気が済まなかったらしく、他の村人にまで当て付けるように暴言を吐き、終いには家を荒らして村を去っていきました…。母さんは何も言いませんでしたが…絶対に悲しんでた。―――――だから俺はあいつが許せない…!憎くて憎くてたまらなかった!!」


怒りを露にするラクトは、一呼吸して、ゆっくりいつも通りのラクトに戻った。


「…それからがまた大変でした。村人はあいつを非難するだけじゃなく俺たちに対しても一層厳しい目で見てきて…せっかくそれまで頑張ってきたことが無駄になった気がしました。…そんなときです。初めてキレて意識がなくなってしまったのは。原因は母さんの悪口を言われたからだったんですが、多分溜まっていたものが一気に爆発したんじゃないかって…。」


ラクトは二人に向かって苦笑いして見せた。


「そんなことがもう二回くらいあって、村の人も俺を怒らせない方がいいって思ったらしく。父親の悪口だけひどくなりましたが、俺たちに今度は同情したらしくて、少しずつ助けてくれるようになりました。で、なんとか村人とも打ち解けて、母さんが亡くなるまで幸せに暮らしてました。…父親はそれっきり村にきてませんし、会いたいとも思いません。というより、俺にはもう関係ないので。」



「…………ラクト。」


静かに聞いていたウルキが名前を呼んだとき、ラクトはなぜか満面の笑みを浮かべた。


「っはあ―――――。なんだか全部話したらすっきりしちゃいました!やっぱり溜め込むのは良くないですね。」


ニッコリ笑うラクトを見てウルキは少しホッとしていたが、シャーロットはずっと黙ったままだ。


「う…えーと…以上なんですが…黙っててすみません、でした。」


ラクトはまだシャーロットが怒っているのかとびくびくしている。すると、シャーロットは一つ質問をした。


「ラクト、お前今までに村で殺されそうになったことはあるか?」


「―――――はい!?」


唐突な質問に驚くラクトだが、シャーロットは真剣な眼差しをしているので、必死に思い出を探ってみた。


「――――…あ、確か…俺は覚えてないんですが、三回目にキレて暴れたとき俺を止めた人が、危なく殺しそうになったとか…言ってたような…。じょ、冗談かと思ってたんですけど…?」


「お前、村でずっと戦闘訓練受けてたんだよな?その時の前後で戦うことに対して何か変わったことはあるか?」


「へ?えーと…訓練が始まったのは七つ、ちょうどあいつが来た頃で…まあ小さかったので強くなってあいつをやっつけにいこうと思って必死にやってましたけど――――――…?確かに…そのキレたとき以降…なんでかな、ちょっとずつ戦うことが嫌いになったような気もしますけど…多分気のせいですよ。元々苦手だったんだと思います。」


ラクトが笑って言うと、シャーロットがすごい形相で睨んでいることに気がついた。一瞬、驚きのあまり息が止まる。


「…―――――はああー…マジかよ。まったくお前らは次から次へと…。」


胡座をかいてシャーロットは深いため息をはいてぶつぶつ独り言を呟いたが、顔を上げて哀れみの目をラクトに向けた。



「…ラクト、お前このままだと…死ぬぞ?」







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