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。変化-5-






「あれは…本当に…ラクトなの?」


「ウルキ!」


一人でラクトを見ていたウルキの元に、シャーロットたちが合流した。


「ウルキちゃん!」


「セレンさん!セインさんも!よかった――――。」


二人の無事な姿を見てウルキは安堵した、が、心の中はザワザワと嫌な気持ちが支配している。


「――――…シャーロットッ…ラクトが…!」


ウルキはシャーロットの方に振り向いて、訴えるような目をした。


「知ってるよ、だが…私もよくわからないんだ。」


そう言って二人はラクトに視線を向けた。


「くっ…重いじゃないアーニー!」


「仕方ないでしょ!?重いとか言うんじゃないわよ!」


男たちは言い合いをしながら立ち上がってラクトを見た。


「…こうなったら手加減しないわよ?アーニー!」


「わかってるわホロン!いくわよ!」


一斉に二人はラクトの周りを走り始めた。スピードも高さもある二人の壁に囲まれ、これでは逃げることも出来ない。しかしラクトは無表情で立ったまま、ピクリとも反応しない。


「っ調子に乗るのも今のうちよ!」


二人は次第に円を狭め、徐々に間合いを詰めてきた。そして、走りながら手や足を出してラクトに向かって攻撃を始める。初めは軽々と避けていたラクトも、次第に服にかするようになり、腕を使って防御するまでに追い詰められてきた。


「ホホホホホ!どう!?手も足も出ないってまさにこのことでしょ!?」


「さあさあさあ!?どうするのボーヤ!!」


「っ…。」


防戦一方のラクトの姿にウルキは悲鳴をあげそうになったが、シャーロットが肩に手を置いて止まった。


「シャーロット…どうしよう!?あれじゃ…ラクトが!」


「落ち着け、よく見ろ。あいつの目…まだあのままだ。」




「…。」


ずっと防戦に徹していたラクトだが、ふとした瞬間に地面に向かって手をついて、足を勢いよく二人の手を蹴りつけた。


「んなっ!?」


「痛っ!?」


それによってスピードはガクンと低下し、見計らってラクトはホロンを踏み台にして飛び上がり、アーニーの顔面に重い蹴りをお見舞いした。


「グッフ――――――!?」


「アーニー!?」


ラクトはホロンの隙をついて、右手の拳を左手の平に当てて力を加えた左肘を、みぞおち目掛けて打ち付けた。


「―――――ガッ!?」


ホロンは膝をついて腹を抱えて倒れこむ。倒れた二人を、ラクトは再び静かに見下ろした。


そして――――――腰に差している剣に手を掛ようとした。






パシャンッ…。


そのとき…水の落ちる音が、ラクトの頭に響いた。






「…止めよラクト…。」


優しい声と温かい感触がする。



ラクトの右腕を押さえるように、ウルキがラクトのそばに寄り添っていた。ラクトが動かないのを期にアーニーとホロンが立ち上がろうとするも、今度はウルキが静かに怒っていた。


「もう動かないで。…もう、闘わないで!」


「…――――冗談でしょっ…!?まだまだ…。」


「そうよ…誰よあんた…すっこんでなさい!!」




―――――――ザクッ。



一瞬のうちに、ラクトはウルキの手を振りほどいて剣を抜いていた。剣はヒュンッと冷たく空を切り、ホロンの鼻の先ギリギリの地面を突き刺す。


「…―――――ヒッ…!?」


ホロンが状況を理解するまでに少々の時間がかかったが、解った瞬間顔は青ざめ、ガタガタと巨体を震えさせた。


「―――――ラクト!?」


「ホロンっ―――――!!」


アーニーはホロンを抱え込むようにしてラクトから遠ざける。同時にウルキはラクトの体に抱きついて、動かないようギュッと力を入れた。


「ラクト…ラクト!もういいから!ね、止めて!!」


「…。」


ウルキの呼び掛けにラクトは応えない。


「セレンさんもセインさんも無事だよ?シャーロットだって来てくれてる…だから、もうラクトが闘う必要はないの。」


ウルキからはラクトの顔が見えないが、ラクトからは呼吸する音しか聞こえない。


「っだから…剣を仕舞って…お願いだから――――!」


ウルキはさらに力を込めてラクトにしがみついた。その手は不安と恐怖でふるふると震えている。


「ウルキ…。」


シャーロットも、その他の人たちも、二人を見守る体制になっていた。



「ラクト…!!」






「――――――…ウルキ。」


ラクトがようやく言葉を発したので、ウルキは顔を上げてラクトの表情を見ようとした。


ラクトは、いつものラクトだろうか?それとも、先ほど男たちに向けていた冷たい視線をウルキにも向けるのだろうか?


(…私は…あの視線を向けられたら………立ち直ることができるだろうか―――――…。)


ラクトがゆっくりウルキの方に顔を向ける。ウルキはギュッと目を瞑り、恐る恐る目を開けた。すると、ラクトの顔は途中で止まり、反対に身体がふるふると震え始めた。


「――――…ラクト?」


様子のおかしいラクトが更におかしくなったのではないかと、ウルキは心配して抱きついたままラクトの顔を覗いた。



すると…ラクトは、顔を真っ赤にさせて汗をかいている。ウルキは目をぱちくりさせて問いかけた。


「…ラクト?」


耳元で囁かれラクトはビクッと肩を上げて反応した。


「――――う、ウルキ…!ちか…近い、から――――!!」


ラクトが恥ずかしいそうに俯くので、ウルキはそっと手を離す。


「…………ラクト、だよね?」


「へぇ!?―――え、何が?あれ剣?」


ラクトは握りしめていた剣を地面から抜いて鞘にしまった。


「あ、危ない…俺、いつ抜いたっけ…?」



「え?」


ラクトがきょとんとした顔で辺りを見回すと、皆が一様に驚いた顔で自分を見ているのに気づいた。


「あれ、セレンさんたちいつの間にそっちに?あ、シャーロットさんが来てくれたんですか!………にしても、お二人ともどうしたんですか?」


ラクトが男二人に近づくと、二人ともブルッと震えて悲鳴を上げた。


「ヒィッ!?」


「こ、来ないで!?負けた、負けたから!」


その反応に逆にラクトは驚いて首を傾げる。


「…ウルキ、何かあった?」


どうやら記憶が抜けてしまっているらしい。ラクトは真剣に悩んだ顔をしていた。しかし、いつものラクトに戻っていることに、ウルキはただ嬉しかった。ラクトの手を握って笑顔を見せる。


「よかった。」


ラクトは顔を赤らめ不思議そうな表情をしていた。







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