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。変化-4-






「「!」」


「――――えっ!?」


「ラクト君っ…!?」


そこに現れたのは、全速力で駆けつけ汗だくになったラクトの姿だった。


「あなた!」


「あのときの!?」


男たちはラクトを見て、動きを止めて目をまんまるくしている。


「―――…き、昨日は…ハアッ…どうも、ハアッ。」


ラクトは男二人を見つめて強い視線を送っていた。


「え…知り合い!?」


セインたちは三人の微妙な雰囲気に戸惑っていた。


「ハアッ…――――はい、昨日、ザックルナの宿で…。」


そう、セインたちと闘っていたのは前日泊まった宿で、脱水症状を起こしてしまったラクトを介抱してくれた、あの筋肉ムキムキのスキンヘッドで顔がそっくりな二人組だったのだ。


「あらあ、また会うなんてね?もう大丈夫?」


「昨日は驚いたわぁ?もう無理しちゃだめよ?」


そう言って二人はクスクス笑いながらラクトを見ている。このしゃべり方も相変わらず女のようだが、見た目はやっぱりごっつい。


「お、お二人のおかげで昨日は助かりました。ありがとうございます。」


「いいのよー!困ったときはお互い様でしょ?」


「そうそう。それにあなたカワイイしね!ふふ!」


ラクトは苦笑いしたあと、一番聞きたかったことを訊ねた。


「…お二人は…何をしにここへ?」


ラクトの真剣な瞳に、笑っていた男たちもだんだん笑みが消えていった。


「…仕事よ、仕事。ここのお花を欲しがってる人に雇われたの。」


「どうしてその人はこの花を欲しがってるんですか?」


「あら知らないの?この花はこの地方でしか育たない花でね、搾ると良質な油が採れるのよ。私たちの雇い主はそれを別の場所に高く売りさばきたいらしいの。」


男たちが話していると、セレンが弟の後ろから大声を上げる。


「っ冗談じゃない!これはあたしたちが汗水流して育てた花たちだ!そんなことさせるかよ!!」


するとセレンはセインの手から棒を取り上げ、男たちの方に向かって構えた。


「姉ちゃん!?」


「セレンさん!?」


すると、近くにいた方の男が素早く移動し、セレンの持っていた手から棒を叩き落とした。


「っな!?」


「姉ちゃん!」


すぐさま姉の元へ駆け寄ろうとしたが、男はセレンの腕を掴み自分の方に引き寄せた。そして自分の腕をセレンの首に巻き付けるように、身動きがとれないよう拘束する。


「動かないで。意味、わかるでしょ?」


「……っ!」


セインは踏み出した足を止めてグッと堪えた。


「セレンさん!?やめてください!なんでそんなひどいことが出来るんですか!?」


「言ったでしょう?仕事だからよ。」


「これでも私たちにはプライドってものがあるの。引き受けた仕事は何としてもやり遂げるっていうプライドがね。」


ラクトが必死で問うと男たちは無表情で答えるが、ラクトは満足などできなかった。


「…プライドっていうのは、人の幸せを奪ってまで守ることですか?どんなことをしてもって、他人を傷つけるってことですか?――――例え、自分たちの方が間違っているとしても…!?」


ラクトのなかで熱い感情がふつふつと沸き上がってくる。そんなラクトの気の乱れを感じるものの、二人はフウとため息をついた。


「…若いわね、わかってないわ。どんなことをしても、そう、例え誰かが犠牲になっても、生きていくためには仕方のないこともあるのよ?私たちはそんな仕事をずっとこなしてきたの。この仕事もそう。」


「あなたがこの姉弟の知り合いであったとしても関係ないわ。任務を遂行する、その障害になるならあなただって同じ。…そうね、間違っているのは私たちかもしれないけど、残念――――諦めてちょうだい!!」


そう言ってセレンを拘束していない男がラクトに向かって突進してきた。大きな体だがスピードがある。


「安心して!昨日の好で気絶させるだけにしてあげる!」


そのときやっと追い付いたウルキが叫んだ。


「―――――ラクト!!」







「…そうですか。」


ラクトはボソッと呟いて下を向いた。


そして顔をあげると――――――――まるで男を人だと思っていないような、深く、冷たい瞳をしていた。



「!?」


明らかにおかしいラクトの雰囲気に、男は一瞬飲み込まれそうになった。と同時にスピードが若干落ちて、手を伸ばすタイミングが遅れてしまう。ラクトは自分に向けられた手を軽々と避けて後ろに回り込んだ。男は振り返りながら右肘をラクトの顔面目掛けて突き出すが、避けられてしまう。それどころか避けられた肘を手で押され、男は勢いを止められずにグルンッと回転してバランスを崩してしまった。そしてラクトはすかさずその足をすくい投げるように蹴り上げる。


「っ――――んなっ!?」


男はそのままバタンッと地面に打ち付けられ、後頭部を強打してしまった。


「ングフゥッ!?」


「アーニー――――――――!?」


セレンを押さえている男は驚愕し、大声を上げた。


「なっ、嘘でしょ!?」


セレンを突き放し、男は倒れた男の方に駆け寄った。セレンは尻餅をついてしまったが、すかさずセインが引き上げる。


「姉ちゃん!大丈夫!?」


「ったた…う、うん。なんとかね。…でも…なんか…?」


「おい!セイン、セレン。」


突然自分たちの名前を呼ぶ声が聞こえて後ろを振り返ると、そこには花畑の中から様子を伺うシャーロットがいた。


「悪いな、畑の中を通らせてもらった。お前たちもこい、ウルキの方に戻らないといけないからな。」


「へ!?あ、でも…ラクト君…は?」


男たちにバレないようにこっそり後ろに下がりながら、セレンはラクトに視線を向けた。ラクトは男たち二人を静かに見つめていた。いや…見下していた。あれほど不気味なくらい静かに、冷たく相手を見つめる瞳をセレンもセインも見たことがなかった。それも、あれだけ優しく笑っていた少年の姿だったことを知っていただけに、ショックが大きい。


シャーロットは横目でラクトを見たが、すぐに姉弟の方に視線を戻した。


「あいつは放っといて大丈夫だ。いくぞ、ゆっくり、静かにな。…。」


二人を連れて、シャーロットは花畑の中を遠回りに移動した。


落ち着いて行動しているシャーロットだったが、本当は内心は穏やかではない。ラクトのことはこの数日の間で、ほとんどはわかった気になっていた、だが。


(あんな雑魚、私がとっとと片付けてもいいんだが……ラクトめ。――――――一体、あんな目をどこで覚えたんだ…!?)


見たことがないラクトの表情に動揺していたのはシャーロットだけではない。ウルキもまた、ラクトの変わり様に声も出せずにいた。あんなラクトを知らない、あれは本当にラクトなのか…ウルキの頭の中はぐるぐると答えようのない不安が回っていた。



「なっ――――なんなのあなた…それが本性なの!?」


「…。」


アーニーを起こして男はラクトを睨み付けた。しかし、ラクトは黙ったまま男を見続けている。


「………うぅ…ホロン…。」


「っ…いいわ。今度は私が相手になってあげる。アーニーにしたことを倍で返してあげるわ!」


アーニーを道の端に移動させて、ホロンはラクトと対決する構えをした。


「来なさい!甘いことを言えないようにして――――――!」


ホロンが話続けていると、ラクトはすたすたとホロンに歩み寄り、突如としてスピードを上げて突っ込んでくる。


「っ聞きなさいよ!!」


ホロンはラクトに向かって拳を放った。一発目を避け、二発目を避けて着実にホロンに近づくラクトは、いきなりしゃがみ込みホロンの視界から消えた。


「チィッ!!」


ホロンの視線がラクトを追いかけ下を向いた瞬間、股の間に入ったラクトはホロンの片膝に肘を打ち付けた。すると体勢を崩されたホロンは踏ん張ろうと足に力を込めるが、同時にラクトは立ち上がって手をホロンの腹に置いて強い力で押し倒した。


「はっ…!?」


ホロンの大きな体は瞬間宙に浮いて、地面を揺らしながら尻餅をつく。痛みがホロンを襲っている間、ラクトは一向にあの視線を向けたままだ。


するとラクトの後ろから、もう一人の男、アーニーがラクトを押さえつけようとした…はずなのに瞬間、アーニーは片腕を掴まれたと思うと視界が回っていて、いつの間にか空を見ていた。


「ちょ、ちょっと―――――!?」


投げ飛ばされたアーニーは、見事にホロンの真上に落下する。


「「ゴッフゥッ!?」」











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