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.はぐれリコ-3-





「あ…―――――捻って…しまって、転がったとき…。」


リコが悲しげに答えると、女の人はスッとリコの前でしゃがんだ。


「?」


「…手を…。」


そう言って彼女はリコの右手首を優しく前に持ってきた。そして、自分の右手をかざしておまじないを唱える。


「痛いの、痛いの…なくなれ――――――…。」


すると不思議なことに、淡い光がリコの手首を暖かく包んだと思うと、スウッと吸収されるように消えていく。同時に手首から感じていた痛みは、みるみるうちに消えてしまった。


「―――――…痛くない。」


リコは右手を握ったり、振ってみたりしたが、まったく痛みはなくなった。


「…良かった。」


女の人はポツリと呟いて立ち上がる。


「…今の…。」


リコが女性を見上げると、彼女はフードをさらに深く被って顔を隠した。


「…怖い…ね。ごめんなさい、…それじゃあ…。」


そう言って女性が立ち去ろうとしたとき、リコは彼女の右手をギュッと握った。彼女は驚いてリコを見下ろした。リコはまっすぐな目で彼女を見ている。


「怖くないですっ…ありがとう!」


「っ――――――…。」


彼女は目を見開き固まってしまった。しかし、リコに掴まれた手はふるふると震え、その振動はリコにまで伝わってきた。


「…ありがとうございました、お姉さん。」


リコはゆっくり手を放してもう一度お礼を言った。女性は放れた手を反対の手で握ったが、それ以上動かない。


「私、お姉さんに会えなかったらお財布盗まれてるとこでした。手も…どうして私に…善くしてくれたんですか?」


「――――…。」


リコが尋ねても彼女は黙ったまま動かない。深く被ったフードの影で女性の表情ははっきりとは読み取れない。が、何かを怖れているように見える。リコは静かな声でこう言った。


「リコが…私も、同じだからですか?」



瞬間、女性の身体が震えた気がしたが、しばらくの沈黙のあと彼女は何も言わずその場を立ち去ってしまった。残されたリコは彼女の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を何か言いたげな目で見つめていた。









人通りがある道に戻ると、ちょうどよくそこにラキとロンがリコを探しに来ていた。


「!お兄ちゃん、ラキさん!」


「リコ!」


「ッ…リィーコオォ―――――――――!」


ロンはリコの元に走っていきいきなり抱き抱えて泣き出した。


「どぉこい゛ってたんだリ゛コ――――――!」


「ちょっ、お兄ちゃん!恥ずかしい!!」


リコはバタバタと暴れたがロンの力の方が強いので逃げられずにいた。


「良かった見つかって。心配したんだよ、見ての通り特にロンが。」


ラキはやれやれという顔でロンを見た。どうやらリコ探しにずっと振り回されていたらしい。リコは顔を真っ赤にして、ロンの腕の中から謝った。


「ご、ごめんなさい…。」


ラキはクスッと笑ってロンの肩を軽く叩いた。


「ほらロン、そろそろ放してあげなよ。早く宿にいかないと今日も野宿だよ?」


ロンはぐしぐしと腕で顔を拭いてリコを下ろした。相当心配したのだろう、ロンの腕はぶるぶる振動している。リコはその腕にギュウッと掴まってもう一度謝った。


「―――心配かけてごめんなさい…!ありがとう、お兄ちゃん。私、元気だから…大丈夫だよ。」


リコが優しく笑うと、ようやく安心したのか腕の震えは徐々に弱まった。


「―――…怖いこと…なかったか?」


ロンが尋ねるとリコは笑顔で答える。


「うんっ、あのね、すごくいい人に会えたんだよ!お兄ちゃんたちに紹介したいくらい!」


「…そっか、良かったな。」


ロンは優しくリコの頭を撫でてやった。



「………―――――で、それは男か?女か?」


「え゛?」


突然思い付いたように、若干怒った口調でロンは質問した。


「お、女の人…だけど?」


「ホントだな!?絶対男じゃないんだな!?」


「っな、何で怒ってるの?」


「男だったらタダじゃおかねぇって言ってんだよ!紹介なんてされても俺は認めねぇからな!!」


まさかの怒り様にリコは呆れてしまった。まるで娘を嫁に出さんとする頑固親父のようだ。


「おっ、お兄ちゃんのバカ―――――――!!」


そんな兄妹喧嘩を遠巻きで見ながらラキはボソッと呟いた。


「陽…暮れちゃうよ?」










ギャーギャー騒ぐリコたちを遠くから隠れて見ている人影があった。その人物はガタガタと震えだし、急いでその場から逃げるように走り出した。息をきらし、汗が流れるのも気にせず、必死に風を切って走る。そして人気のない路地裏に入り、行き止まりの壁に手をついて止まった。



「――――――ッハア―――――ハアッ、ア、ゲホッ…ゴホッ、カハッ――――…。」



咳が止まり、呼吸を整えると、右手を胸に押し付け、その上を左手で押さえた。ぶるぶると全身が震え、目には涙が浮かんでいた。全力で走っていたので、途中でフードが後ろに下がってしまった。紫色の髪が、汗ばむ頬に貼りついている。


「――――――っ…なんで…あの人が…!?…うっ…うう゛―――――…っ。」


溢れる涙は頬を伝って、汗とともに地面に落ちていった。




空は次第に暗くなり、もうすぐ夜がやってくる…。








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