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.はぐれリコ-1-







「カードの提示をお願い致します。」



太陽は高いところからラキたちを見下ろしていた。三人は目的地に向かう途中にあるミデムという町に辿り着き、町に入るための手続きをしていた。


「毎回思うけど手続きってかったりぃよなあー。」


大きなあくびをしながらロンはポキポキと肩を回している。


「しょうがないでしょ?悪い人が入ってこないように確認してるんだからっ。」


プンッと怒ったようにリコが兄を見つめた。ラキは相変わらず無表情で門でもらった町の地図を見ている。


「偽造カードだって作られる時代だぜ?わかんねぇって。」


二度目のあくびをしながらロンは目を擦って空を見上げた。高い位置に鳥が円を描きながら気持ちよさそうに飛んでいる。


「またそんなこと言うー!ねぇラキさん!…ラキさん?」


リコが振り返るとそこにいたはずのラキがいなくなっていて、慌ててリコは辺りを見回した。するとラキは近くにある屋台で食べ物を買っていた。


「ら、ラキさーん?」


「んだよお前だけズリィぞ!」


「そうじゃないでしょ!?そんなにお腹減ってたんですか?」


リコとロンが近づくと、ラキは食べ物を口いっぱいに頬張りながら二人にも同じものを差し出した。


「お、何?食っていいのか?なんだよーお前やっぱいいやつだな!」


ラキが頷くより早くロンは食べ物を受け取って一口食べてみる。


「んっ、んめーっ!やべぇ、めちゃくちゃうめぇ!」


ロンもお腹が空いていたらしい。むしゃむしゃと食べ進め、ペロリと平らげてしまった。


「…お兄ちゃん…。」


兄の行動に呆れながら、リコもラキから食べ物を受け取った。大きな串に肉のようなものが刺さっていて、焼いて甘辛いたれをつけたものらしい。リコはパクッと一番先の塊を頬張った。


「んぐっ…お、美味しい…!」


今まで食べた肉の中でも上位に入る美味しさに、リコは満足そうだ。さっきまでの兄の行動なんて気にならないぐらいに、パクパクと一本平らげた。


「うめぇなあ、これ。おっちゃん何の肉?」


ロンは気に入ったようで自分でもう一本買っていた。ラキはすでに四本目に突入していた。


「なんだ?知らないのか。これはこの町の特産品、魔物ラググールの肉だよ。」


「はぁーラググール…――――――特産品が魔物!?食うのか!?ってかコレが!?」


危なくロンは持っていた串を落としそうになり、リコは横でゴホゴホとむせる。


「あれ?知らなかったんだ?最近じゃ魔物も食用に飼育されてるところがあるんだよ。ここはその道じゃ最先端だね。昔は猟師しか味わえなかったけど、これで気軽に美味しいものを食べれて、同時に地域の活性化に繋がるっていうこと。美味しい話だよね。」


「ほおー兄ちゃんよく知ってるんだな。」


店の主人が感心していると、ラキは無表情で言った。


「情報は旅人にとって大切ですから。美味しかったです、ごちそうさまでした。」


そしてすたすた歩き始めたラキのあとを、兄妹は口を開けたままついていくしかなかった。


ラキがまた男に間違われたことにも突っ込めず、ロンは食べ掛けの肉を意味深に見つめていた。


「食べないの、ロン?」


振り返ったラキが訊ねると、ロンはしぶしぶ肉にかじりついた。


「魔物を食べたことはありましたけど…まさかあんな屋台で売ってるとは思いませんでした。」


リコは複雑そうな表情でラキに言った。ラキより長く旅をしているはずだが、あまり魔物を食べる機会がなかったらしい。ラキは笑ってリコとロンを見て話した。


「許可無しで入れる町とか小さな国の町なんかはこういった技術がまだ発展途上だからなかなかないとは思うけど、ここは大国アザの領土だからね。意外に最新の技術が揃ってたりするんだ。実を言うと、僕ここに何度か立ち寄ったから色々知ってるんだけどね。」


「なんだぁ、そうだったんですか。」


ラキの話に納得して、リコはようやく笑顔になった。

「んだよ、来たことあんなら先に言えよな!つーかコレも!」


ロンは食べ終わった串を振って見せた。


「あはは、ごめん。でも美味しかったでしょ?」


「まあな。…ただコレがラググールだとは…想像つかねえな。最初に食おうと思ったやつスゲェ。」


ラググールは見た目は熊のようだが三つの目に鋭い爪、口から炎を吐き出す巨大で危険な魔物だ。それを飼育し量産した技術は、世界に誇れるものだということは間違いない。


「でも、何度か来たことあるなら地図はいらないんじゃないですか?」


地図を開いて放さないラキを見て、リコは不思議に思った。


「うーん、普通はそうなんだけどね。この町の特徴はもう一つあって…ほら。なんか変だと思わない?」


そう言ってラキは町の中心部を指さした。


「…――――――なっ!?」


「―――ええー………?」


ラキの指差す方向を見て、二人は思わず声を上げた。そこにあったのは、三階建ての白い建物。なのだが、一つではなく、至るところに同じような建物がポコポコ建っている。ザッと見ても十五棟くらいはありそうだ。町の外からは白っぽい町だとは思えたが、これだけ似たような建物が建ち並んでいるとは想像できなかった。


「ね?迷子になりそうでしょう?」


ラキは余分に持ってきた地図を二人に手渡した。


「一応中に入れば内装が違うから大丈夫なんだけど、問題は入るまでの見分け方なんだ。目印とかあればいいんだけど、どうしても似たような場所ばっかりで自分のいる場所すらわからなくなるときがあるから。そういうときは地元の人間に聞くのが手っ取り早いんだけど、悪い人間がいないわけでもないんだよね。」


「?どういうことだ?」


必死に地図にかじりつくロンが顔を上げてラキを見た。


「つまりさ、厄介な人に捕まるとどこに逃げられたかわからなくなっちゃうんだ。たまに聞くんだよね、人拐い。」


「人拐い―――――!?」


ロンは眉間のシワを深くして、ラキを睨み付けた。


「なんだそれ、聞いてねぇぞ!?そんな危ない町なのかよ!?」


リコは怒った兄と無表情のラキを交互に見ながらおろおろしている。


「いや、例え人拐いにあってもよっぽどうまくやらない限り町から逃げることなんて出来ないよ。そのためにあんなに厳重な警備体制をとってるんだから。」


確かにいつもより時間も検査もめんどくさいくらい念入りで、警備の数も多かった。門は機械操作だが鉄の扉で、町の周りはグルッと円を描き高い岩壁で囲まれていて、簡単には乗り越えられないだろう。むしろ連れ去った人間を抱えてなど、できそうにない。


「…にしてもよぉ…。」


ロンはまだ納得出来ない様子で苛立っている。ラキはニコッと笑みを見せ、こう言った。


「それに、頼りになるお兄さんがついているし、一応僕もいる。もしリコに何かありそうだったとしても、それは誘拐犯の最大の失敗ってことじゃないかな?」


「――――――!…言うねぇ、お前も。」


ラキの言葉を聞いてロンは不敵な笑みをこぼした。どうやらロンもようやく機嫌がなおったらしい。黒々した笑顔で笑う兄を見て、リコは余計心配になったがなんとか言葉を喉までで止めた。ロンの異常なまでのリコを護る行動は気にかかるものがある。が、ラキはあえて深く話を聞きはしない。


「すみません…ラキさん。」


リコはすぐに兄の行動を謝ったが、ラキはすでにロンの感情の変化のパターンがわかりつつあった。


「大丈夫だよ。心配しないで、僕もついてるから。」


「――――…はい!」


そう言って伸ばした手をリコは嬉しそうに取って、三人は進み出した。



ラキの言う通り、町の中心部に行くと同じような景色ばかりで、気を抜くとすぐ迷ってしまいそうだ。


「建物自体には番号がふってあるんだけど、近づいて見ないとわからないとこにあるんだ。あ、ほら入り口の横に小さな看板があるでしょ?」


ラキが指さしたさきの看板は縦二十センチ、横四十センチほどのもので、確かに番号と店の名前が書いてあるが、本当に近くに来なければわからないような看板だった。


「…なんだってこんな判りづらいものばっかなんだよ。」


地図を見るのをラキに任せ、ロンは苦い顔で看板を睨み付けた。


「んー、聞いた話では最新技術の研究所が他の国に盗まれるのを恐れて、研究所と同じ建物をいっぱい建てることで撹乱させようとしたのが始まりだったとか。今じゃ観光名所みたいになっちゃって、研究所も移して、こういう地図まで配ってるんだってさ。」


「…聞けば聞くほど面倒臭い町だってことはよくわかった…。」


さらに苦い顔でガンを飛ばすロンを見てラキはあははと笑った。






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