。ウルキの秘密-1-
「――――っばかやろう!勝手に動き回って私らに迷惑かけるんじゃない!あんたはなんのために出てきたんだ!?ただ好き勝手に生きたいんなら今すぐここから出ていきな!!」
シャーロットの怒鳴り声が部屋中に響き渡った。ウルキはシャーロットの前で頭を下げて立っている。ラクトはハラハラしながら近くの椅子に座っていた。
ウルキとラクトたちが合流し、シャーロットは予約していた宿屋に二人を連れていった。いつも以上に速足で、しかも無言で進んでいくので、シャーロットの機嫌が悪いことは二人にひしひしと伝わっていた。部屋に入り、周りの気配を確認したあと、シャーロットは怒涛のごとく怒りをウルキにぶつけたのだった。
「見ろ!もうこんな時間だ!外には街灯も少ない、暗闇の中でお前みたいな女の子が一人ふらふら歩いてたらな、変な奴に拐かされることも不思議じゃないんだよ!!ただでさえあんたは特別なんだ、捕まったあとどうなるかはよくわかってるだろう!?」
もっともな意見にウルキは返す言葉もない。もちろんラクトも間に入って止める理由もなかった。
「…ごめんなさい…。」
「すぐ謝るな!!謝る前に私の納得できる理由をいってみろ!!場合によっては問答無用で追い出すからな!!」
なんとも厳しいシャーロットにラクトはガタガタと怯えながら彼女を直視できないでいた。
(まっ…魔物より恐い―――――かも!?)
一方ウルキはずっと下を向いていたが、少しだけ顔を上げてシャーロットの目を見る。鋭い眼孔が自分に向いている、その目には怒りが映っているが、それ以外にも違う何かを感じた。しかし、シャーロットが怒っていることに違いはない。ウルキは意を決して少年や彼の仲間のことを正直に話した。もちろん、ラクトに何も告げずに飛び出したことや、追いかけることに必死で帰り道を見失ってしまったことを詫びながら。
シャーロットは鋭い眼差しを向けながら、黙ってウルキの話を聞いていた。そしてウルキが話し終えて、最後にもう一度頭を下げると、大きなため息を吐き出した。
「はあああぁ~…。ケンカ、ねぇ?ガキのケンカにわざわざ首を突っ込んで終いには迷子?ん?」
腕を組んでウルキに因縁をつけるようなその様は、まるでガラの悪いヤクザや海賊そのものだ、とラクトは冷や汗をかいて思った。
「…本当に馬鹿だった。私…――――――それでも…。」
ウルキはシャーロットの目を見ながら、強く拳を握っていた。ウルキの言葉にシャーロットは何も言わず黙って彼女を見下ろしている。ラクトは静かに様子を見守った。
「私の勝手で二人に迷惑をかけたわ。本当にごめんなさい…。シャーロットの言ったとおり、私、何にもわかってないわね…知ってるのに…力がバレればどうなるか…嫌って程に―――――っ…。」
ずっと堪えていた涙をぼろぼろ流しながら、ウルキは絞り出すように声を出した。
「っでも…私…もう、黙って見ていられなかった…。手を伸ばせるから―――――…水晶越しじゃなくて、私自身で何かできないかって!?…勝手に判断して…何にもできないくせに…本当に馬鹿。………悔しいょ…。」
「…。」
「――――…なん…てね、もう何にも言い返せないわ。…私のわがまま…。だけど、…こんな、私だけど――――――――まだ二人と…シャーロットとラクトと、一緒に旅をしたいの…!」
ウルキは顔を上げ、まっすぐシャーロットの瞳を見つめた。
「…二人に出会って、まだ間もないけど…私、は…まだまだあなたたちと一緒に居たいの。お願い――――――私を、一緒に旅をさせてください!!」
ウルキはシャーロットに向かって頭を下げて懇願した。シャーロットは相変わらず黙ったまま立っていて、ラクトは内心、間に入っていきたい気持ちでいっぱいだったがグッと堪えて座っていた。
「…謝ればすむと思っているのか?」
「思ってないわ…でも、なんでもするから―――――…一緒にいさせて…!」
頭を下げたままウルキが問いに答えると、シャーロットはウルキの後ろ頭にチョップをくらわせた。
「ふっ―――!?…たぁ…!」
チョップされた箇所を押さえ、ウルキはそのまま膝を曲げて座り込んだ。
「何もできないってわかってるやつがなんでもするって言うのはおかしくないか?命令されればなんでもするのか?悔しいって泣いてるやつが、んなこと口に出すんじゃない!」
シャーロットはウルキを見下ろしたまま大声を上げた。ウルキはまた何も言えず頭を押さえて涙を浮かべている。すると、シャーロットは右手をウルキに近づけてきたので、もう一度チョップされると思いウルキは覚悟して目を瞑った。
「なんでお前ら二人は変なとこ似てるんだよ?」
シャーロットの手はチョップ、ではなく、ぺしっと軽く頭を手のひらで叩くだけだった。
「―――――…シャーロット…?」
「他人のためとか、まずは自分のことができてから考えろっつーの!自分の身も守れず考えれずってやつが何やろーとしたって上手くいかないのは当たり前なんだよ。周りを見る余裕もないくせに、がむしゃらに走ったところで目的を見失って終わりだ。なんのために出てきた?自分を変えるためだろう?だったらはやく自分がどうするべきか、どう変わりたいのかを明確にするんだ。そうすりゃやり方なんていくつも見えてくる。それを諦めず達成できたなら、少しずつ自分に出来ることも増えていくんじゃないか?」
「―――――…うん。」
「"うん"じゃない!」
「はい!!」
シャーロットは右手を伸ばして座り込んだウルキの手を掴んで引き上げる。ウルキは立ち上がって涙を拭いた。
「とにかく、今後勝手に行動するな。おちおち酒も飲めないからな!」
「…ふっ…ふふ。わかりました。」
どうやらシャーロットの怒りはおさまったらしい。というよりも、怒ることが目的ではなく、ウルキの意思の確認をしたかったのではないかと、ラクトは思った。
「ごめんね、ラクト。迷惑…かけちゃったね?」
ウルキはラクトの方に振り向いて謝罪した。ラクトは両手を前に出して左右に振る。
「迷惑だなんて思ってないよ!でもすごく心配したから、今度は一言いってね。俺も悪かったとこあるし…それでシャーロットさんに叱られたし。」
ラクトは苦笑いしながらシャーロットを見た。
「私は今日は怒り疲れたよ。さあ飯食いにいくぞ!もう背中とくっつくくらい腹減ったからな!」
そういってシャーロットはずんずんドアに向かって歩いていく。ラクトとウルキはお互い顔を見たあと、少し笑って後に続いた。




