。運命の出会い-4-
「ウルキ―――――――!っはあ…はあ…!どこいっちゃったんだろ――――。」
「ラクト?なんだ、ウルキはどうした?」
服屋から消えたウルキを探し回っていたラクトの背後から聞きなれた声がしたので振り返ると、そこには買い物をし終えたシャーロットが立っていた。
「っシャーロットさん…!」
ラクトはそれまでの経緯を説明した。シャーロットは苦い顔をしてラクトを睨んだ。
「お前ら…まともに買い物も出来ないのかよ?まったく…ウルキの方が迷子になるとはな。」
「すみません…!ど、どうしましょう!?」
「どうしましょうったって、探すしかないだろ?宿だって教えてないんだ。とりあえずもうすぐ約束の二時間が経つ。ひとまず噴水まで戻って、来なかった場合は一人そこに待機、もう一人が探しに行く。いいな?」
「――――――はいっ!」
慌てふためくラクトに喝をいれるように大声で話したあと、シャーロットは噴水の方へ歩みを進めた。ラクトも続いて後ろを歩く。空は少しずつ赤くなりはじめ、もうすぐ日が暮れる時間だ。
「…いないな。」
シャーロットたちは噴水までやって来たが、そこにウルキの姿は見えない。ラクトは明らかに泣きそうな顔で辺りを見回している。
「迷子かあ?厄介だな…まさか方向音痴じゃないだろうな?いや、ずっと洞窟にいたんじゃ感覚も狂うのか…?」
シャーロットが一人言をぶつぶつ呟いていると、少し離れた場所で子供を叱る大人の声が聞こえてきた。
「こらっ!こんな時間までどこ行ってたのさ!?あんたお使いはどうしたの!?」
「それが、わかんないだよー!お使いやったんだよ!?ほんとだよ!?」
「やったなら財布とパンはどうしたの!?どっかで買い食いでもしてきたんだろう!?正直におっしゃい!」
「っわああーん!わかんないだょおお!ちゃんと買ったのに、なくなったんだよおぉ!ニトリも一緒だったんだよお!?でもわかんないだよおー!本当なんだよおお―――――!」
「何わけのわからないこと言ってるんだい!?今日は夕飯抜きだからね!!まったく…!」
「ぅ゛ああんっ!母ちゃ――――――ん!!」
そんなやりとりをしたあと、親子は家の中に入って行った。
「…なんだったんだ?」
子供の言葉がなんとなく気になってつい聞き入ってしまったが、どうやらただの言い訳だったらしい。ふとラクトの方へ目をやると、キョロキョロ鬱陶しいほどに落ち着きがない。
「…こっちはこっちで…!」
ラクトはシャーロットが苛立ったのにも気づかないほどに、ウルキの姿を探していた。
「俺…俺がもっとはやく買い物済ませていたら…!」
「ウザイ!」
ゴンッとシャーロットはラクトの頭にチョップをくらわせた。突然の不意討ちに、ラクトはわけもわからず目が点になる。
「―――――っう!?」
「あのな、お前はウルキのなんだ?恋人か?兄妹か?なんにしてもこの状況は変わらないし、お前が泣いたり焦ったって無意味なんだよ!あいつはお前よりずっと色んな経験もしているし、本人だってわかってる。あいつは変わるために旅に出たんだ。そんなやつに何かしてあげるとか考えるな!お前のその無責任な気持ちが裏目にでて、変わるチャンスを潰したらどうする!?自分のことは自分でやれ、他人のことは他人がやる!あいつを信じもしないで、勝手に不安になって大事にするなんてもってのほかだ!わかったか!?」
シャーロットの言葉一つ一つがラクトの心にザクザクと傷をつける。そこから滲み出るように、ラクトの目からは涙が出てきた。確かにラクトはウルキと出会ったばかりの赤の他人、何かをしてあげる権利も義務もない。それなのにラクト一人で勝手な 想像をし、ウルキが心細いのでは、恐がっているのではと思い込んでしまっていた。そして、もう戻ってこないのでは、と。
「―――――っ…信じて…る、つもりで…俺―――――最低だ…っ!」
いきなりラクトが涙を流したので、噴水の周りにいた人々はひそひそ話をしながら二人を見ている。シャーロットは一度だけ大きく息を吐き出して、人差し指でラクトの額をデコピンした。
「った!?…?」
「泣いたって変わらないって言っただろ?…ま、聞き分けがいいのは認める。すべてを素直に聞き入れるのも困りものだけどな。しょうがない、お前が探しに行ってこい。他人のことは他人がやる、が、その他人が手を伸ばしたらその手を引き上げる…そのくらいがちょうどいいんじゃないか?」
おでこに左手を当てて、ラクトは反対の手でごしごし涙を拭いた。顔と目を真っ赤にして、強い視線でシャーロットを見つめた。
「――――――っはい!」
(まったく…ここまで素直だとなんかやりにくいな。)
シャーロットは噴水の縁に腰掛け、ウルキを探しに行こうとするラクトの後ろ姿を見ていた。すると、シャーロットの耳に、また別の人たちの会話が聞こえてきた。
「…ちっ。どこにいきやがったあのバカ。とっくに帰ってきてもいいころだ!日が暮れちまうじゃねえか!」
「ここにいてもラチがあかない。とにかく探すしかないだろう?」
どうやらシャーロットたち と同じ状況のようだ。チラッと視線だけ声のする方へ向けると、二十代前半くらいの若い男二人が会話している。
「いつになったら言うこときくようになるんだ!?ったく何十年言っても変わらねぇ…!」
「…おい。」
「何?いちいち俺たちの会話なんて気にするやつもいねーよ。いけすかねえ人間なんてな…結局は自分のことしか考えてないんだよ。」
シャーロットは目を大きく見開き、今から走りだそうとするラクトの方に顔を向けていた。男二人の会話を頭の中で反芻させながら、自分の全神経を耳に集中させる。
「…とにかく、あいつが行きそうな場所に行こう。どこかあるか?」
「さてね、俺が聞きたい――――――…いや、あいつのことだ。またどっかのガキでもカモにして、うまいもんでも食ってるかもな。あとは居ても変に思われない公園とか…前にもそうだった気がする。」
「よし、とりあえず公園をまわって、いなかったら料理屋を見ていこう。いくぞ。」
「くっそ面倒くせぇー!」
そんな会話をした後に、二人は噴水から離れて行った。




