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。運命の出会い-2-





それから三人は平原を道なりに進んで行った。すると二十分程歩いた先に、いくつもの建物が見えてくる。借宿の町、ザックルナだ。ラクトの村にはなかったカラフルな屋根や壁の色の大きな建物が軒を列ねている。


そこにはシャーロットの言ったように様々な格好をした人々がいた。知らない装飾品を身に付け、聞いたことのない言葉で会話をしている人もいる。店もたくさんあり、見たことのない野菜や果物、不気味な壺までありとあらゆるものが置いてある。店の人間は外に出て呼び込みをしていて道は賑やかだ。ラクトもウルキもキョロキョロ周りを見回して、シャーロットの後ろで挙動不審になっていた。


「こら、あんまりキョロキョロするんじゃない。旅に不慣れだとわかられて足元すくわれるぞ?それに観光客に間違われて変な品物売り付けられたらどうするんだ?」


「いやぁ、だって村以外の町や人を見るの初めてなんで…なんかちょっと感動というか、すごくて…!それに…多分、ですけど…観光客には見られないんじゃないですか?他の人たちに比べたら。」


ラクトの言葉にシャーロットは眉をひそめて顔を向けた。


「は?なんでだよ?」


するとラクトも困ったように笑いながら背中の荷物を揺らして言った。


「…こんな大荷物背負って歩いてる人、他にいないじゃないですか。旅人か商人には見られるかもですけど…逆に目立ってる気がして。」


そう、ラクトは背中に自身と同じくらいの量の荷物を担いでいた。カバンを三つに分けてはいるが、これほど荷物を持って歩いている人間はなかなかいないだろう。しかも中身は倒してきた魔物の魔力が詰まった部位を切り取ってきたものだ。袋に個別に入れてはあるが、さすがにちょっと臭う。


「確かに…私達が見られているっていうより、荷物が注目されてるって言った方が合ってるわね。」


ウルキも町の人々の視線を感じていたらしい。ラクトの荷物を見ながら苦笑いしている。


「…それもそうだな。私一人だと別に気にしないんだが…今はお前たちがいるからな。目立つのは厄介か。オーケー、最初はそいつを金に替えてしまおう。」


シャーロットの許可がおりて一番ホッとしたのはラクトだった。いくら金のためとはいえ、魔物の一部を背中に背負っているのはなんとも心地が悪かったからだ。


三人は町の八百屋の店主に道を尋ねて換金所に向かった。辿り着いた建物の外観は普通なのだが、表に貼り紙があった。金銀、宝石、魔力まで。あらゆるものを取り扱う店らしく、店の中に入ると色んな物でごった返している。足元に注意しながら店の奥に進むとカウンターがあり、髭をはやした中年の男性が煙草をふかしていた。


「…いらっしゃい。」


三人に気づいた店主は一応挨拶するも、素っ気ない態度だ。見た目は女と子供二人、金づるではないと思ったのだろう。横目で三人を見たあと、吸っていた煙草を灰皿に押し付ける。


「何をお求めだい?生憎ここにはぬいぐるみも玩具も置いてないよ。」


ククッと嫌みな笑みを浮かべながら、男はラクトたちを見た。


「それは結構。というかそれが客に対する態度かよ?」


店主の態度に文句をつけながらシャーロットはカウンター越しに睨みをきかせる。


「おっと、気に障っちまいやしたか?これは失礼。…おや、こりゃあ…随分べっぴんさんだねぇー。」


そういう店主の視線はシャーロットの胸元に向けられていた。確かにシャーロットの胸は巨乳といえるほど大きい。彼女自身それを隠すでも気にするでもないため、ラクトもウルキもその話に触れてこなかった。しかし、店主のあからさまな反応に二人は顔を見合せ苦い表情をしている。


「べっぴんさんねぇ…そりゃどうも。ラクト、荷物。」


シャーロットはラクトから荷物を三つ受けとると、カウンターいっぱいにドンッとまとめて置いた。鼻すれすれのところに置かれたので、店主は驚き仰け反った。


「用件はコイツだ。ただし、あんたの態度次第では他をあたる。よく見てくださいな?」


シャーロットはにっこり笑みを浮かべている、が、声は冷たい。店主はしぶしぶ荷物の中を覗いてみる。すると中身を見て目が点になった。それは大型の魔物の一部で、かなりの魔力が詰まった上物だ。それも大量に。女と子供二人だけの荷物とは思えない中身に、店主は思わず唾を飲み込む。


「―――…こりゃあ、上物ですねぇ?ぜひウチで買わせていただきますよ。しかし…これは誰からの頼まれもんですか?」


どうやら店主はシャーロットたちが魔物を倒したとは思ってないらしい。その言葉を聞いて、シャーロットは荷物に手を突っ込み、むんずと黄色い大きな目玉を取り出した。そしてそれを店主の目の前に突きつけてこう言った。


「私らが殺ってきたんだよ。文句あるのか?あ゛?」


生々しい目玉を前に、店主はシャーロットに脅されたようにどんどん小さくなっていくのをラクトは感じた。


(…やっぱり強い…。)


それから店主とシャーロットの値段の駆け引きが数分行われていたが、結果はシャーロットの圧勝のように見えた。帰り際、店主はシャーロットにペコペコ頭を下げているのを、ラクトもウルキも呆然と見ているしかなかった。


「まぁまぁの値で売れたな。どうだ?今度はお前たちがやってみるか?」


シャーロットは機嫌が良さそうに二人に話しかけた。だがどちらも苦笑いしながら首を横に振る。どう考えても先ほどのシャーロットのやり方は出来ないと、ラクトもウルキも強く思ったからだ。



「えと、これからどうしますか?」


軽くなった背に安堵しながらラクトが尋ねると、シャーロットは腕を組んで二人を見つめた。


「そうだな…身軽になったし、まだ陽も高い。いっそ町を見てみるのもいいかもな。金も手に入ったし、それぞれ使う分を持たせるから着替えでも買ってこい。明日にはここを発つからな、そのつもりで!」


「え?明日もうどこかに行くんですか?」


ラクトは意外そうに驚いていた。


「ああ、ここはいわば休憩のために立ち寄ったんだ。食料その他諸々のためにな。だから用は今日のうちに済ませとけよ。そうだな…二時間くらい経ったらこの噴水前に集合な。私は今日の宿を探してくるから、二人とも迷子になったりするんじゃないぞ。」


そう言って二人に小遣いを渡したあと、シャーロットはスタスタと町の入り口の方へ戻っていった。残された二人はその後ろ姿を見つめたあと、お互い顔を見合せる。


「…ど、どうしようか。」


急に二人きりになったため、なんとなくラクトは緊張したように小さな声でウルキに問いかけた。


「…そうねえ。せっかくだから、二人で町を見て回りましょうか?実はちょっとだけ不安なの。お金遣うの久しぶりだし、お店に入るのも…、ね?」


ウルキは困ったような顔で笑ってみせた。ラクトは少し顔を赤らめながらも、柔らかい笑顔を返した。



「それにしても、シャーロットさん本当に宿を探しに行ったのかな?」


町をぶらぶら探索しながら、二人は服屋を探し歩いていた。


「?どういうこと?」


「いや、気のせいじゃなければなんだけど…。町の入り口のすぐ近くに、確か酒屋があった気がするんだよね…。まさかとは思うけど。」


「ああ…そうだったかしら?ふふ、確かにそっちに行った確率は高いかもしれないわね。シャーロットお酒大好きですもの。」


「ね。あんなに弱いのに、よく呑むなあって思っちゃうよ。体に合ってないんじゃないかなぁ…なんだか心配になってきた。」


「優しいわね、ラクト。でも大丈夫よ、シャーロットですもの。ふふふ。」



そんな会話をしているうちに、服屋を見つけたので二人は中に入ることにした。


ちなみにシャーロットはその頃、ぶえっくしょーんっとクシャミをしていたのを彼らは知る由もない。




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