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。運命の出会い-1-







昨日の雨はどこへやら、空は青々と澄み渡り、気持ちの良い天気になった。


「んあ――――――っ!…ふぁ。」


シャーロットは身体を伸ばしたあと、欠伸をして目を擦っている。


「寝不足ですか?」


重たい荷物を背負いながらラクトはシャーロットの方に目をやった。


「はぁ?夜中騒いでた誰かさんのせいだな。あー、誰だっけなぁ?」


わざとらしくラクトをチラチラ見ながらシャーロットはニヤリと口元を上げている。ラクトは顔を赤らめつつ、眉間にシワをよせて苦笑いした。


「…は、はは。」


その反対にウルキは何か吹っ切れた様子で、何事もなかったようにニコニコと出発の準備を進めていた。


「準備出来たわ。さ、行きましょうか!」


そう言って一人先に進み始めたウルキの姿に、シャーロットもラクトもぽかんと口を開けている。するとシャーロットはポソリとラクトに呟いた。


「相手は手強そうだぞ、ラクト?」


「んなっ、んの…ことですか!?」


明らかに動揺するラクトを置いて、シャーロットはけらけら笑いながらウルキのあとに続いて歩いて行く。


(――――…面白がられてる…!)


なんとなく泣きたい気持ちを堪えて、仕方なくラクトも歩みを進める。背中の荷物が一割増になった気がした。




青い空にうろこ雲が走っている。三人は二時間ほど山を下ったところで、人が通る山道を見つけた。そこからさらに下るように進むと、ようやく森を抜けることができた。


「ふー、やっと広い場所に出られたな。」


腕を上げて大きな背伸びをすると、シャーロットは辺りを見回し手元の地図と見比べ、クルッと二人の方に振り向いた。ラクトは初めてみる広い平地に驚いたように目をまん丸にして周りを見回している。村以外は木が生い茂った場所ばかり見てきたために、彼にとってはそれだけで新鮮だった。


「…広いですねー。草と土ばっかり。あと花…。見たことない。」


「それにほら、空も広いよ。」


ラクトの横でウルキが言った。ウルキの言葉を聞いて空を見上げたラクトは、ただただ感嘆のため息を吐く。何にも阻まれることなく広がる青い空間、空がこんなにも広く遠く果てしないものだったとは、ラクトは改めて思い知らされた。


「…きれいだね。」


ポソリとラクトが呟いた。ウルキは微笑みながらゆっくり頷く。



「ほいっ、二人の世界に浸るのもいいがそこまでだ!」


パンッと手を叩いてシャーロットは二人に言った。ラクトはハッとなってあわあわとうろたえている。


「そろそろ行くのね?」


ウルキはシャーロットを見つめて首を斜めにして言った。するとシャーロットは口をへの字に曲げて頭を左右に振る。


「いいや。町に向かうより、先にお前たちに言っておかなければならないことがある。」


「?」


ラクトとウルキは同時に顔を見合わせて、またシャーロットの方に視線を移した。


「ぅおっほんっ。…今から向かうのはザックルナという町だ。『借宿の町』とも言われていて、まあ名前の通り、宿屋が多く並んでいるんだが、そのぶん旅人や観光客が多いからスリやぼったくりなんかも多い。治安はそこまでよくはないから、そこんとこはよく注意すること。特にラクト、ホイホイ誰だかわからないやつに連れていかれないように!」


「ええ!?俺ですか?」


「当たり前だろ?お前が一番危ない。ここはお前がいた村じゃないんだ。見知った顔なんていない、いわば別世界。おまけに無知で世間知らず。な?格好の的だろ?」


(…………………ヒドイ。)


ラクトは一気に顔をしかめて落胆した。シャーロットの言葉はずかずかとラクトの心を蹴りつけているかのようだ。しかし何も言い返せない自分に、ラクトはさらに気を落とす。


「ま、それはいいとして。本題はそこじゃない。」


「そんな!?よくないですよ!」


泣きそうな目で訴えるラクトには目もくれず、シャーロットは何事もないかのように話を続けた。


「ここは数少ない許可無しで入れる町でもある。」


「許可無し…?」


ラクトもウルキもぽかんとした顔でシャーロットを見つめた。シャーロットは一つため息を吐くと、荷物の中から一枚のカードを取り出した。


「これが許可証。"カード"って省略されることが多いんだが、これにはいろんな情報が入ってるんだ。例えば名前、出生地、性別、経歴等々。特別な機械で情報を読み取り、そいつがどこの誰なのかを判断することができる。町や他の国に行くときには必ず必要なものなんだ。」


「へえぇー。すごいわね、そんなものが出来たの?」


「これも魔力なんですか?」


二人はカードに興味津々だ。五ミリ程の厚さで手のひらくらいの大きさ、白地に薄い黄緑のラインが引いてある。こんなものに情報が詰まっているなんて、二人は半信半疑だ。


(…そういえばシャーロットさんってどこの人なんだろ?)


そんなことをうっすら考えていると、シャーロットはまた一つため息をついた。


「…お前ら、わかってないな?」


「?何がですか?」


シャーロットの言葉の意味がわからないラクトは聞き返した。


「こ、れ、は。一人一枚持ってなきゃいけないんだよ。…お前ら持ってないだろ?」


「あ。」


そう、二人はカードを持っていない。それどころかカードの存在自体今知ったのだ。


「え?それじゃ他の町には私たち入れないってこと?」


「そうだよ、許可無しの町以外は入る前に通してもくれない。」


「ええ――――!?それってダメじゃないですか!?ど、どこで作ればいいんですか、カードって!?」


やっと事態を飲み込めた二人はワタワタと慌て始めた。シャーロットはカードをしまって改めて二人の方に視線を向ける。


「それが面倒なんだよな。これって発行する場所が限られてるし、何よりカードが来るまでって、申し込んでから最低半月はかかるんだよ。しかも経歴を調べるために確認の紙を出生地で発行してもらわなきゃならない。ラクトの村にはもう帰れないし、なによりウルキがいるからな。下手に情報を流すわけにはいかない。」


それを聞いてウルキが少しうつ向いたのをラクトは見逃さなかった。確かに魔人であるウルキの情報を流して村に知られるわけにはいかない。ウルキの魔力を狙って、また誰かが利用しようと近づいてくるかもしれない。だがそれは"普通ではない"ということを言っているようで、ラクトはウルキが悲しくなったのではと心配していた。


すると、ウルキは空を見上げて言った。


「…私…どこで生まれたっけ?」


「…へ?」


どうやらウルキが気にしていたのは違うことだったらしい。ラクトはちょっと呆気にとられてしまった。


「こまったなぁ…いつどこで生まれたかも覚えてないのよね…。といったより、私の見た目と比較したら明らかにおかしいし、わかったところで正確には言えないわね。うーん。」


「…ウルキ、お前自覚あるよな?」


シャーロットが眉を曲げて言うとウルキはきょとんとしている。


「魔人ってこと?してるわよ?」


「わかってるならペラペラ口に出すんじゃない。変なやつに勘ぐられたらどうするんだ!?」


シャーロットが怒るように言うと、少し反省したらしい。そのやりとりを見ていたラクトに苦笑いしてみせた。


「怒られちゃった。」


シャーロットはコホンッと咳払いをして話を進める。


「とにかく、だ。お前たちが今からカードを作るには時間も不安要素も多々あることから、最終手段を使う。」


「最終手段?」


「そ。まあ後で説明するが、その前に行くとするか。いいか、どんな人間がいるかわからないんだ。疑うことも大切だということを覚えとけよ。」


「はい。」


「ええ。」







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