表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/88

。勇者ラクト-3-





「本人がそれでいいって言っているならいいんじゃない?」


炎を出している円盤から少し離れた洞穴の奥で、ウルキとラクトは寝床の準備をしていた。


「そう言うもんかなぁ…。」


「ふふ、優しいね、ラクトは。ごめんなさい、寝袋取っちゃって。」


この数日、ウルキはラクトの持っていた寝袋を借りて、ラクトは毛布にくるまる形で寝ていた。


「いいんだよ、それは。俺一応男なんだから!そりゃシャーロットさん比べれば断然弱いけど…ね。」


恥ずかしいような照れたような微妙な顔を赤くするラクトに、微笑みながらウルキは言った。


「…大丈夫、シャーロットもきっとわかってるわ。」


「―――…うん。ありがとう。」


ウルキの言葉はラクトの心を穏やかにさせた。二人は縦に並び、頭の方が向かい合わせになるように寝た。




しばらく静かな時間が流れた。シャーロットはすでに吐き気が止まったらしい。入口近くで外の様子を窺いながら見張りをしている。洞穴の中は暖かい炎の光で包まれ、雨音だけが聞こえていた。




「…――――――ラクト、寝ちゃった?」


ウルキは仰向けに天井を見つめながら、ラクトに呼び掛けた。目を瞑ってはいたが、意識があったラクトはもぞもぞと動いて上を向いた。


「…ん―――――どうしたの?ウルキさん…。」


「少し眠れなくて…ちょっとだけ、話を聞いてくれないかな?」


「うん…いいよ。」


答えている途中であくびをしてしまったが、ラクトはウルキの話に耳を傾けた。


「…すぐ終わるから、ごめんなさい。―――――…あのね、ラクトにお願いがあるんだけど…、私のこと、さん付けしなくていいよ?」


「え?いやぁ、だって俺、この中で一番年下だし…。」


「いいの。そんな偉くなんてないし、それに…ほら、知らない人間が見たら、私の方が年下だと思うかもしれないでしょう?ね?お願い。」


「それは…そうかもだけど…えと…。」


ラクトの言葉がモゴモゴ濁る。ウルキの唐突なお願いに顔はすでに赤くなっていた。


「…――――ウル、キ。…っうう…。」


「…―――――プッ。そんな、私まで恥ずかしくなるように言わないで?ふふっ、変なラクト。」


「っだ、だって…う、ウルキが突然そんなこと言うから――――…。」


クスクス笑うウルキ、その反対にラクトは毛布に顔をうずめてしまった。


「フフフ…ありがとうラクト。私、嬉しいのよ。…名前呼んでもらうことも久しぶりだから、せっかくならちゃんと呼んでもらいたかったの。」


「………ウルキ…。」


うずめていた顔を上げて、ラクトはウルキの方へ頭を動かした。


「…明日、町に着くってシャーロット言ってたわね…それでね、なんとなく眠れなくて…。駄目ね、年長者なのに、私が一番弱いわ…。」


天井を見つめながら、ウルキは独り言のように呟く。


五十年以上、ウルキはラクトの村に魔力を送っていた。だがその前から、ウルキはずっと孤独だった。魔力を持って生まれた人間、『魔人』は、ずっと差別される生活を強いられ続ける。生まれてすぐに殺されたり、実験台として身体をいじられたり、膨大な魔力を狙われたり。普通の人間としての幸せや、日常さえも望めない、そんな存在なのだ。


それでもウルキはラクトたちと旅をすることを決めた。そんな差別を受けるかもしれない、しかし、自分を一人の人間として受け入れてくれた二人が一緒ということ、そしてウルキ自身が差別されても孤独になったとしても、一人で生きていける強さを求めたからだ。


だが、明日は一つ目の試練と戦わなければならない。ラクトたち以外の人間が大勢いる、自分を虐げる存在がいるであろう場所に、自らの足で向かわなければならないからだ。


できることなら、町になど行かないで、ずっと三人だけで過ごせたら…という思いが、ウルキの中で次第に大きくなっていた。


「弱いなあ…もう―――――。」


ウルキは今にも泣き出しそうな顔で、目にはじんわりと涙が滲んでいる。すると、黙って聞いていたラクトもポツリと呟いた。


「…恐い、よね。――――俺もだ。」


「―――――…ラクト?」


「ウルキに比べたら…恐さも、不安も、全部ちっぽけなものだと思う。――――でも、やっぱり臆病風が吹くんだよね。笑っちゃうけど、初めて村を出て、シャーロットさんに怒鳴られて、魔物と闘って、儀式のこととか村の秘密を知って…魔人のこととか、何にも知らなかった。そんな俺がこうやって旅をして、初めて村以外の人たちが暮らす場所に行くんだなって思うとさ…なんかもう逃げたい気持ちになっちゃうんだ。」


「ラクト…。でも、ラクトなら大丈夫よ。あなたは普通の人間なんだから…。」


そう呟いたウルキの方へ、ラクトは素早く起き上がり彼女を見つめて言った。


「ウルキも同じじゃないか!!」


いきなり大きな声で怒鳴るラクトに驚いて、ウルキは目を見開き固まってしまった。


「―――俺、無知だし、空気読めないかもだけど…でも、ウルキが他の人間と違うなんて思ってないよ!?普通の女の子だ!俺とおんなじように悩んで、でも進もうとしてる、強い人間だ!違うなんて、絶対思ってないからね!!」


早口でしゃべったラクトは息が乱れていた。ウルキはずっと固まったまま動かず、反応がない。息を整え落ち着いてきたラクトは、自分の発言が急に恥ずかしく感じたのか、顔を真っ赤にさせながらまた毛布の中に潜り丸まってしまった。



「――――――…ラクト…。」


ポツリとウルキが呼び掛けると、ラクトは丸まったまま言った。


「―――――俺っ、ウルキと会えて良かったって思ってるからっ!…後悔とか絶対しないからね!――――――おやすみ!」


ラクトはさらに丸まって、そのまま動かなくなってしまった。



「――――…私も。」


黙ったまま聞いていたウルキだったが、ゆっくり目を閉じて語りかける。


「…後悔なんて、絶対しない―――――――ありがとう…ラクト。」


閉じた目の端から、一筋だけ涙がこぼれた。







二人が寝静まる頃には雨は上がり、シャーロットは寝ている二人を起こさないよう火を消して、入口に自分の寝袋を持っていき静かに眠りについた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ