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。勇者ラクト-2-








ウルキがシャーロットを先生と呼ぶのには理由があった。






ウルキはラクトのいた村と共謀し、ある儀式を行っていた。それは――――五年に一度『勇者』という名のイケニエを『魔人』であるウルキの元に差し出すというもの。この儀式は数十年も前から行われてきた。



『魔人』は魔力という特殊な力を生まれつき持って生まれた人間のこと。そして長寿であり、長い長い時間を生きれる不思議な存在。しかし、それは普通の人間にとって恐怖であり、異端であった。



その為、彼女は孤独の中にいた――――。



儀式の秘密、それは『勇者』として選ばれた人間を側に置くことで寂しさを埋めるウルキ、それと引き換えにウルキが村に魔力を送り、その魔力を売ることで村の利益にするというものだった。この儀式は元を辿れば、昔の村の偉い役人たちが私腹を肥やすために、ウルキも何も知らない村人をも利用するためのものだったのだ。



本当はあってはならない儀式だと分かっていても…孤独に勝てず、彼女は間違いを繰り返し続けていた。



しかし、転機が訪れる。



『勇者』に選ばれたラクトと、偶然出会った女剣士シャーロットがウルキの前に現れることが運命を変えた。何も知らずに育ったラクトがシャーロットに聞かされた魔人の存在。ラクトはいつしか村の儀式をやめさせることを望み、そしてウルキ自身の本当の幸せを願うようになる。遂に出会ったラクトとウルキは、お互いの想いをぶつけ合い、ウルキは自分のしてきた行為を改めて受け止めることで、ようやく終止符を打つことを決意した。



そしてラクトは無知な己を恥じたことで世界を知ることを望み、ウルキは自分の弱さを克服することを望んだ。彼らの望みを受け入れ、シャーロットは二人を鍛えることになったのだった。








―――――そして、現在に至る。





ザアアアア…と、雨が振り出した。


「ふぅ。ちょうどいい洞穴があってよかったな。」


雲行きが危うくなってきたため、三人は夜を過ごすための場所を探し、雨よけにもなる洞穴を見つけた。奥行きも高さも三人が過ごすには十分な広さだ。荷物を奥に置いてようやく一息ついた時に、ちょうどよく雨が振り出したのだった。


「さて、火でも起こすか。」


シャーロットは自分の荷物から円い円盤状の板を取り出し地面の上に置いた。そして横にあるスイッチを入れると、円の中心から淡い緑色の光がポツポツと出てきた。かと思うと、そこから今度は赤い炎が一瞬であがり、メラメラユラユラと辺りを暖かい光で照らした。


すでに外は暗くなり始めていた。雨はだんだんと強さを増し、静かな穴の中で響き、反響している。シャーロットが入り口から外の様子を伺っていたが、危険性が少ないことを確認すると火の近くに移動した。静かな空間の中で三人はしばらく火を囲むように座って、ただ燃え続ける火を見つめていた。



「…もう三日も経つんだね。」


そう呟いたのはウルキだった。暖かい火に照らされうとうとしていたラクトは、ハッとすると寝ぼけた表情でウルキの方に顔を向けた。


「長い間閉じこもってたけど、この森はずっと変わらずにあるのね…ちょっと懐かしくて嬉しいような、不思議な気分だわ。」


「…お前は元々あの村で生まれたわけじゃないんだったな。」


ウルキの言葉に反応したのはシャーロットだ。


「そう。私…―――――昔過ぎて生まれた場所は忘れてしまったけど、あの洞窟に住む前に、この森を通って来たの。それも…とうの昔のことになるんだけど、ね。」


ウルキは答えながらずっと揺れる炎を見つめていた。だが、ここじゃない何処かを見ているような、そんな眼差しをしている。


「昔と変わらないって…昔から魔物ってこの森にいたの?」


ラクトは眠たくなった目を擦りながら、横にいるウルキに質問した。ウルキはラクトの方に視線を移し、ゆっくり微笑み頷く。


「もちろん、いたわ。虫のような魔物も、獣のような魔物も。この三日間出会った魔物より少し小さかったとは思うけれど、それでも人が簡単に通れる道ではなかったわね。」


「…やっぱりいるものなんだね、魔物って…。」


予想していた答えだったとはいえ、なんとなくラクトの気分は下がっていった。そんなあからさまな反応にウルキはクスクス笑っている。



ぐぐぐーぎゅるるるるるぅ―――――…。


「!?」


突然穴のなかに響き渡った音に驚き、ラクトとウルキは一斉にシャーロットの方を見た。するとシャーロットは自分のお腹を見つめて、口をへの字曲げている。シーンとする沈黙を破ったのはウルキだった。


「…そろそろ夕飯の準備をした方がよさそうね。」


「あ、手伝うよ。」


ウルキとラクトは立ち上がり、荷物から色々調理道具を取りだし始める。今日の食事当番はウルキだ。ざっと食材を見回して調理を開始する。


「…一人でいたとき、シャーロットさんって何を食べてたのかな。」


缶詰の蓋を開けながらラクトはシャーロットに聞こえないように小声でウルキに呟いた。


「一人だからこそ気にしなかったんじゃないかしら?シャーロットって好き嫌いなさそうだし。」


手を止めることなくウルキは答える。


「うーん…でもあれは…。逆にウルキさんは手際いいですよね。」


「ほんと?良かった。…私、君の村に行く前…ずっと昔、少し人間に教わっていた時期があって、洞窟にいるときも何もすることがないとよく作ってたのよ。今の人間の味覚に合うか不安だったんだけど、ね。」


最後の皿に盛り付け終わって、二人はシャーロットの方に出来た料理を運んだ。


(人間…に、か。)


ウルキの言葉の意味を考えながら、ラクトはちょっとだけ目を伏せた。


「いただきます。」


その言葉と同時に三人は夕飯を食べ始めた。今日の夕飯のメニューは薬草のスープにきのこと木の実の炒めもの、甘く熟れた果物の三品だ。


「なんだ、今日倒した魔物は結局食わないのか?」


スープを一気に飲み干しおかわりしながらシャーロットは言った。


「食べようかと思ったけどラクトに止められちゃった。」


「だって食べられるかわからないでしょ!?というか嫌です!」


キッパリと言い放つラクト。シャーロットはガツガツと食べながらふてくされたように言った。


「普通の肉と変わらねーよ!スタミナつかないぞ?あ゛ー肉食いてー!」


「嫌なものは嫌なんです!」


二人の言い合いを見ていたウルキはクスクス笑っている。こんなことをしている間に、あっという間に三人は料理をきれいに平らげた。



ラクトとウルキが後片付けをしている間、酒を飲んでいたシャーロットは、二人が片付け終わるころに入り口の方で吐いていた。



「シャーロットさん…お酒身体に合わないんじゃないですか?やめた方がいいですよ。」


毎晩繰り返すこの行動が、ラクトには意味がわからなかった。彼女はいつも夕飯後に酒を呑み、そして吐いているのである。


「っるさい…こいつは俺にとっての薬!っぷ、なくちゃならないんだゲロロロロッ―――――!…とりあえずお前ら寝ろっ。ゲェエ…。」


「…。わかりました。」


薬だと言い張るシャーロットだが、ラクトにはやっぱり理解が出来ない。心配しているのになかなか受け入れてくれないことに、ラクトは苦い顔をするしかなかった。





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