第3章 魔神狩り 4
遺跡の丘を下りる途中で、ユードは動けなくなった。
足を取られ、そのまま、丘の斜面を覆うように茂っている柔らかい草の中に倒れこむ。
ユードは、草の向こうに広がる光に満ちた遠い空を仰いだ。
血が流れて行く。背中から、そして、腕から――。
奇妙なことだが、気持ちがいいくらいに、潔く流れ落ちる。
ナイジェルは急所をはずしたと言ったが、このまま血が流れ続けると助からないかもしれない。
(私は、ここで死ぬのか……?)
いや、まだ死ぬわけにはいかぬ。やらねばならぬことがあるのだ。
会わねばならぬ人物もいる。
だが、人々が往来する道には、まだ遠い。
ここでこうして草の中にうずもれていても、誰にも発見はされるまい。もう少し丘を下らねば……。
ユードは、胸元に手を入れた。
その手には、緑色を果てしなく黒に近づけた不思議な色の髪が、絡まるように握られている。
七都の髪だった。
ユードは、それを太陽にかざした。
七都の髪は、太陽の光を受けて、明るい色味を帯びる。
やはり、太陽に溶けもしない。
魔神族の髪は、太陽にかざせば、瞬時に蒸発してしまう。
それは、魔神狩人たちにとっては常識だった。
手ごわい相手が現れたものだ……。
ああいう魔神族は、もっといるのか?
それよりこの先……。私は今のこの状況を抜け出して、あの娘に再び相まみえることがあるのか?
ユードは自嘲気味に、ふっと笑った。
甘いな。魔神狩人ともあろうものが、あの二人の魔神に油断した。
美しい少年少女の姿をした魔神たち……。
ナナト――。
あの娘にある人の面影を垣間見て、隙が出来た。
あれは、いったい何者だ?
なぜ、ああも似ている?
そして、ナイジェル――。
彼の体を陽だまりに投げ出すことも出来たのに、そうすることを確かに避けた。
躊躇したのは事実だ。情が移ったのか。
そして、今まであまり気にもとめなかったが、ナイジェルがしていた耳飾り……。
あれは、まさか……。
血が流れる。
自分の命も少しずつ血に変化して、流れ果てて行くような気がする。
ユードの次第に曇っていく視界に、一人の少女が映った。
長い真紅の髪。風になびく白い衣。
目は、ユードの周囲でさらさらと揺れている、柔らかい草によく似た緑色。
少女はユードを見下ろして、微笑んだ。