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緑の扉 <ダーク七都Ⅰ>  作者: 絵理依
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第5章 魔法使いの館 5

「いい加減、下がってくれないかな」


 横たわったナイジェルは、呟いた。

 台の傍らには、ゼフィーアが相変わらず控えて座っている。

 広間には、彼女が焚いた香の芳しい煙が、薄く紫色に漂っていた。


「わたくしは、ここにいたいのです」


 ゼフィーアが言う。


「ぼくは、いてほしくないな」

「まあ、回りくどくなく、率直におっしゃられるのですね、シルヴェリスさま。少なからず傷つきますわ」

「魔法を使わずに石を拾ってくれたことは感謝するよ。何度でもお礼は言おう。ご苦労だった。ありがとう。お疲れさま」

「あれほどのことで、感謝のお言葉など、いただきたくはありません。わたくしがいただきたいものは……」

「ぼくは、きみが望んでいるものをあげるつもりはない。だから、きみがここにいる意味もない」

「でも、わたくしは、あなたが必要なものを差し上げることが出来るのです。ですから、ここで待たせていただきます」

「待つ? いつまで?」

「あなたがわたくしを受け入れてくださる、そのときまで」

「気の長いことだ」

「おそれながら、今のあなたさまのその状態では、そんなに時間がかかるとは思われません」

「けれど、そうなる前に魔神族がもうひとり、ここに帰ってくる。その魔神族がきみに何をしようと、ぼくは止められないし、止めるつもりもない。だからきみは、ここにいてはとても危険だと思うけどね」

「それは下級魔神族ですか? ま、こわいこと。でも、わたくしは恐れませんよ。アヌヴィムの魔女の中では、魔法は使えるほうですし」


 ゼフィーアは、愛くるしく首をかしげた。


「きみは魔法で若作りしてるけど、本当は、歳は幾つなのかな」


 ナイジェルが目を閉じたまま、呟く。


「歳のことはお互いさまですわ。言いっこなしですよ、魔王さま」


 ゼフィーアは微笑んだが、その微笑は明らかに無理をして作ったものだった。


「とにかく、ここにいさせていただきます。わたくしは、ずっと待っていたのです。いつか、ここに魔王さまが来てくださるのではないかと……。この日を夢見ておりました」

「それは、七人の魔王のうちの誰でもよかったってこと? 水の魔王は地味だから、闇の魔王とか、火の魔王のほうがよかったとか」

「お、おたわむれを……」

「きみが下がらないなら、ぼくはこのまま、また眠る。まだ太陽は高いからね。でも、決してぼくに触れてはならないよ。これは警告だ」


 ゼフィーアは黙り込んで、頭を下げた。

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