頑張った女の子へ、プレゼントを
Tm様発案企画、「星企画」に参加させていただきました。
知り合いから熟練度上げのために作った料理を安く分けてもらい、クルトはご機嫌だった。主に活動している星が違うため、作れる料理が違うのだ。クルトが開拓中の星の主な料理方法は『揚げる』である。何でもかんでも揚げる。
「なんか胃にダメージある気がするんだよな」
開拓村は油っこい臭いで、宿に入っても部屋から出れば油臭い。質の悪い宿だと部屋まで油臭いらしい。そのため、なかなかプレイヤーが居つかず、開拓が進んでいなかった。だからこそ、クルトたちは検証のためにこの星にいるのだが。
「物資の確保が進めば、料理系のクエストが出るはずなんだけど」
実際に他の星でも食材が豊かになり、もっと美味しいものや特産品をということで料理系クエストが発生している。順を追って発生するため、クルトたちの見立てではそろそろ料理系もしくは関連するクエストが発生するはずである。
「ま、いいや。早くみんなに持っていこっと」
クルトは開拓村の油の臭いから逃げ出すように狩場にしている花油の森へと走り出した。
クルトは仲間に料理を分けると、再び開拓村へと戻ってきた。ギルドへ向かう道中で子供の泣き声を聞いた。
「ん? クエかな?」
泣き声に釣られるようにして、道を外れた所にある小屋へと歩き出した。歩きながら仲間に報告しようか悩み、様子を見てからでいいと結論付ける。
小屋の扉は少しだけ開いていた。隙間から子供の泣き声が聞こえてくるので、ここにいることは間違いないだろう。
「んー、女の子だ。どうした? 良かったらお兄さんに教えてよ」
「ふぇえーん……」
驚いたように顔を上げるが、泣き止む様子はない。もう一度クルトは問いかけるが、泣いたままだ。
クエスト条件を満たしていないのかもしれない。クルトは聞き出すことを諦めて、仲間にメールを送り、女の子の隣に座りこんだ。
少しして仲間が集まったが、誰も聞き出すことが出来なかった。
「ダメだな。聞き込みしてくる、クルトはここヨロシク」
「子供を重点的に聞き込みした方がイイかな、親を探した方がイイかな?」
聞き込みエリアを決めると仲間は散っていく。女の子は小さくなって泣いたままだった。
何がキーワードになるか分からないので、返事はなくてもクルトはいろいろと話しかけていた。ついでに手元にあるアイテムを加工しながらである。女の子の気を引けそうな簡単な装飾品を作り、一つ作っては見せていた。
「お、イイ出来じゃん。見て、どお? 花の髪飾りだよ、さっきのネックレスより可愛くね?」
反応がないことを確認し仕舞うと、今日分けてもらったばかりの料理を取り出した。
「食べ物でも反応なしかぁ……。ま、いいや。食べよ」
手持ちの材料ではもう他の物が作れそうにない。ようやく来た仲間からの連絡は「手掛かりなし」だった。
「また来るよ」
クルトは女の子に声をかけると、仲間が集合しているであろう宿へと戻って行った。
話し合いの結果、次の休日に時間帯を変えてもう一度聞き込みをすることになり、それまでに各自で情報を集めることなった。
クルトは別の知り合いから料理とのアイテム交換の話を貰い、余っている油を買い込み出発した。臭みのない植物油は需要が多いが、コストがかかる。移動に掛かる分を買い込んだ油を売り払うことで出しているため、交換の内容によるが今のところ利益も損もない状態だ。
保存が効く料理を中心に交換し、クルトは満足しながら帰ってきた。重量制限に引っ掛かり、足取りが重くてもクルトは満足している。開拓村まで戻ってくると、移動が面倒だから、さっさと仲間にメールを送り、とりあえず今いるメンバーにアイテムを預けていく。
「見て見て、味気ないもんも多いけど大量だよ! しばらくクエストに掛かりきりでも大丈夫!!」
「え、干物って焼かなきゃダメじゃね? 料理なの?」
「きっとお酒のツマミに作ったのよ、あの人VRでも飲みたいウワバミだし」
ギリギリで重量制限が解除されたため、仲間と別れて、クルトは宿に戻ることにした。途中でクエストを頼まれても、出来そうにない。ログアウトして、ネットで何か手がかりを探すつもりだった。
ふと思いついギルドに立ち寄る。受注時間が短い依頼があったりするのだ。
「すみません! クルトさんたちにお願いあるんだけど、いいでしょうか?」
ギルド職員から話しかけられた。
話を聞いたところ、このギルド職員のお姉さんは別の開拓星へ移動することが決まったらしい。他の家族はこのまま残ることになったが、下の妹が駄々をこねているという。簡単に戻ってくることも出来なければ、手紙を送るのも難しい。どうにか納得してもらってから移動したいというのがお姉さんの気持ちだそうだ。
移動する日にちが決まっているし、クリア条件が曖昧であるため、かなり面倒かもしれない。いくつかの情報を仕入れ、仲間にメールした。
お願いを聞いていた時から思っていたことだったが、ギルド職員の妹は例の泣いていた女の子だった。聞いていた名前を呼び掛けると、ようやく泣き止み話をすることが出来た。
結果から言うと、差し出された条件は難しいものではなかった。姉と仲直りし、笑顔で送り出したいが、一度は泣き喚いて嫌がったため、恥ずかしい。きっかけとして、ここに来たばかりの頃、よく作っていた人形をお揃いで作って贈りたいということだった。
必要ない材料を集め、人形作りを手伝った。ただ彼女は不器用で失敗し、何度か材料を集めるところからやり直しになった。
姉の出発ギリギリに完成し、なんとかクリアした。
「ありがとうございます、なんか妹が無理言ったみたいで申し訳ないです。今渡せるもの、これくらいしかなくて、本当にすみません」
「あ、これ、あたしからのお礼!」
姉からは移動先の新しい開拓星への許可証を、妹からは手書きの地図を報酬として貰った。どちらもなかなかレアなアイテムのようだ。妹は姉の姿が見えなくなって、ぐずぐず泣き出していた。
「ぐず……。お兄ちゃんたち、ありがと」
「あ、待って。これ、あげるよ」
クルトは一つのアイテムを取り出し、渡す。
「甘くて美味しいよ」
瞳は潤んだままだったが、嬉しそうに貰ったアイテムを見て、手を振って去って行った。
「なに渡したんだ?」
「金平糖だよ。保存効くからって大量に貰ったやつ」
貰ったアイテム確認しようと呼びかけると宿へと戻って行った。
本来はもっと金平糖を前面に出す予定でした。星のお菓子って金平糖だよねって、押し売りの如く前面に出すはずだったのに。
最後にほんのりになってしまいました。