塔の魔法使いと遠い記憶
全部書くと恐ろしく長くなりそうだったので導入部分だけ載せさせていただきます。
楽しみにされてた方には申し訳ない…(汗)
その日は滅多にない寒冷で、塔の森ではあまり見ることのない雪がちらついていた。
タバコを自室で吸っていた男は、窓からそれを眺めると小さく舌打ちをする。
「……雪か。」
煙をゆっくりと吐き出すと、煙は形を変えながら僅かな時間その場を漂うと次第に消えていく。
「…そういやあ、あの日も確かこんな感じだったな。」
男はそう呟くと、もう何百年か昔になるある日の事を思い返していた。
外は急な冷え込みにより、この地域にしては珍しく雪が深々と降り、森一面にうっすらと積もることで辺りは白銀の世界に変わっていた。
「先生!!この術式を見てください!新しい魔術を考案したんです!!」
「ほう…どれ。見せてごらん。」
銀髪の、未だ若さが抜けきれぬ青年が、少し歳を感じさせる黒髪の中年の男性に駆け寄っていく。
腰まで伸ばした艶のある黒い髪は、黒い瞳と合間ってどこか神秘的な儚さを感じさせる。
男性は優しい微笑みを携えて、青年が考案した術の式を覗きこむと少し
「なんでこの魔法を考えたか教えてくれるかい?」
男性の寂しげな笑みに、青年は自分の魔法に欠陥があるのだろうと考え、明るい表情だった先程までとは異なり、暗い翳りを宿す。
「…はい。えっと。千年肥沃の恵みを大地にもたらす事ができれば人々の生活も楽になる……と思ったのですが…。」
「そうだね。確かにこの術式であれば、千年と云わずもっと先まで肥沃な大地にできるだろうね…。」
「……。」
青年はますます表情に翳りをみせ、叱られる子供のように視線を下に落とし、ただ黙って男の次の言葉を待つ。
「結論を出す前にちょっと別の話をしよう。一般的に言う魔法使いと、私のような契約者、つまり魔導司とはどんな違いがあるのかわかるかい?」
男は顔の笑い皺を更に深くさせ、青年の頭を優しく撫でながらそう声を掛ける。
「魔導司は魔を導き司る者。一方的に与えることも与えられることもあってはならない存在…です。」
「そうだね。厳密に言うと、この星のバランスを保つための存在と言うのが正解だ。星が創った古代の遺跡と言われる物を通して星との契約をした者。それが魔導司だ。この塔もその遺跡の一つだね。」
男は青年から離れると側にある机の席に着き、袖口からキセルを取り出すと煙を燻らせ話を続けた。
「さて、それでは初めの話しに戻ろうか。私は魔導司だ。だからこそ、その魔法を容認できない。何故なら―――」
「―――さん。―うさん。お父さん!!」
ファーファの声が不意に頭に入ってくることで、男は思いの外昔の記憶に耽っていた事に気付く。
男はとっくの昔に火が消えていたタバコを灰皿に押し付ける。
そんな中、ファーファは扉の向こうでノックをしながら昼飯時になったことを何度も叫んでいた。
「うぜえぞ。一回言えばわかる。先に降りてろ。直ぐ行く。」
扉の向こうで元気な声が響くと、走り去っていく子供の足音が廊下に響き渡る。
男は珍しく小さな溜め息を吐くと、机に開かれっぱなしになっていた本を閉じ、セラフィとファーファの待つ食堂へと足を進めた。