表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/53

塔の魔法使いと幼子

お気に入りに登録してくださっている方には大変申し訳ないのですが……


ちと軽い頭痛がするので明日は更新がないかもです(汗)

男が赤子を押し付けられてから、早いもので四年の月日が経っていた。


塔に来たばかりの時はハイハイすら儘ならないようだったのに、今ではファーファはそこら中を駆け回る元気な女の子に成長を遂げていた。


「セラフィ!!セラフィ!!見て!赤い葉っぱ!!」


「ファーファ様。御元気なのは大変よろしゅうございますが、あまりお召し物を汚されてはまたマスターに怒られますよ。」


「むぅー。ごめんねセラフィ。ファーファ反省。」


まるで太陽のように笑う少女は、セラフィの片足に手をやり反省のポーズをとる。


「はいはい。それでは泥を落としたら家に戻りましょうか?」


「うん!」


セラフィがファーファの服の泥に手をやると、服はまるで新品のような輝きを取り戻した。


「何時まで遊んでるつもりだ。外はもう寒いんだ。風邪でも引いて面倒かけやがったら殺すぞ。」


「はーい。行こ。セラフィ!!」


ファーファはセラフィの手をとると、トテトテと走りながら塔の中へと向かう。


中に入ると、セラフィは手早く夕食の支度を済ませ、あっという間に食卓に料理を並べていった。


「いただきます!!」


「ふん。精々溢さないように気を付けるんだな。後、スープはまだ熱い。火傷なんかしやがったら殺すぞ。」


「はーい。」


「舐めた返事をしてんじゃねえぞ。返事は『はい』だ。」


「はい!マスター。」


「ファーファ様。お父さんと呼んであげればマスターは喜ばれますよ。」


「てめえ…この四年間でどんどん性格が歪んできてんじゃねえか。それで天使とかぬかしてんじゃねえぞ。」


「そんな、マスター。本来であれば召喚されし者は長くても一日程度しかこの地に滞在しないのにも関わらず、この四年間私はほとんど休む暇もなくこの地に縛られてるんですから…多少は歪んでもしょうがないかと。」


「嘘つけ!?ぶっ殺すぞ!てめえのそれは素が出てきただけだろうが!大体てめえは天使の癖に――」


「お父…さん?」


ファーファは少し気恥ずかしげに、首を傾げながら男の様子を窺うように見やると、男の顔は異常なほど赤く染まっていた。


セラフィはその一部始終をしっかりと目に納めると「良かったですねマスター」と言わんばかりに男に天使の如く(如くと言うか天使なのだが)後光が射さんばかりの微笑みを浮かべる。


「セラフィ…てめえ、ぶち殺す!!」


白い発光体が幾つも部屋の中に突如として生まれ、セラフィに向かって飛来していく。


「それじゃあ私も食事をしてますのでまた何かございましたらお声をかけてください。」


一呼吸もつくことなく早口にそう言い放つと、セラフィはさっさとその場から文字通り消えた。


契約を結んでいるセラフィにとっては男からの魔力供給が食事のようなものなので勿論食事の必要はない。


「……チッ。」


白く光る球体達は目標を失い所在無さげに辺りを漂っていると、男が鳴らす指の音と共にその場から掻き消える。


「お父さん。御飯中は遊んじゃ駄目なんだよ。」


「…早く食え。」


男は早々に食事を終えるが、まだまだ幼いファーファは食事には時間がかかり、男はファーファが食べ終わるまで側で本を読むなどして時間を潰していた。


「ごちそうさまでした!!」


ファーファは男が食事を終えてから、悠に三十分近く時間をかけてやっと食事を終える。


「……んしょ。」


子供用の椅子からゆっくりと降り、自分の食器を手探りで掴み流しに持って行こうとしたところでファーファは男に呼び止められた。


「ちょっと待て糞餓鬼。口の周りが汚ねえ。」


男はそう言うとゆっくりと本を閉じ、ファーファの前でしゃがみこみ白いハンカチで口元を拭ってやる。


「全く。手を焼かせてんじゃねえぞ。」


そう言いつつ、男は然り気無くファーファの手から食器を奪い、自分のと一緒に流しに持っていく。


「………お父…さん。」


「チッ。……何だ?」


「えへへぇ。ありがとう。」


《お父さん》と呼んで男が返事をしたことでファーファは思わず頬を緩める。


それを見た男は、少し顔を赤くした後普段は絶対にやらない食器を洗うという奇行を行いながら口を開いた。


「気色悪い声を出してんじゃねえ。殺すぞ。」


「うん。……えへへぇ。」


男は小さく舌打ちをしながら着ている服で手を軽く拭き、颯爽と自室に戻ろうとしたがふと足を止める。


何故なら、男の近くでファーファが何か言いたげにもじもじと手遊びをしながら俯いていたのが目に入ったからだ。


「おい糞餓鬼…まだなんか用事でもあるのか?」


「えっとね…。うんとね…。」


ファーファはゆっくりと俯かせていた顔をあげ、男に視線を合わせると、意を決したように言葉を発した。


「お父さん、眼鏡掛けてると凄くかっこいいね!」


「…………。セラフィがそう言ったら俺が喜ぶと言ったのか?」


「うん!」


「そうか…。」


男は不馴れな手つきでファーファの頭へと手を伸ばす。


その時、男の緋色の瞳は瞳孔が縦長に変化し、この上なく凶悪な笑みを浮かべていたのだが、頭をくしゃりと撫でられているファーファがその顔を見ることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ