塔の魔法使いと…
親睦の意味を籠めてと翌日腕によりをかけて手料理をご馳走するとヘルガが皆に告げ、マオはケイオスと例の庭に来ていた。
今までは人目に付く場所では魔王としての力を使用することはなるべく避けていたが、今は誰憚ることなく使えるのだ。
二度ほど深呼吸をすると、もっとも親和性の高い闇の力を限界まで練り上げると、右手を握りこむ。
が、待てども待てどもいつもの剣は姿を表さなかった。
不思議に思い首をかしげるが、ケイオスが見ているということもあり、早急に右手を握りこんだことで何か他の意味ある行動を示さねばならないと焦った。
(何で出ないの!?て言うかこのままでは恥ずかしすぎる!意味ありげに右手を握りこんでそのままなにもしなかったら完全に残念な子になり下がってしまう…こうなったら。)
右手を勢いよく開くき振りかざすと、身体に纏わり付いていた深い闇の属性の魔力が幾重もの枝に分かれ、その手を振り下ろすと同時に地面に突き刺さっていく。
それらが地面の中でさらに枝分かれを起こし地中に埋まっていた核を一つ、また一つと貫き、庭にはあっという間に枯れ草の山が出来上がった。
これでなんとか体裁は保てたはず。ナイス俺。と、内心ガッツポーズを取りながらケイオスへと振り返ると、ケイオスは険しい面持ちでこちらを眺めていた。
「…えーっと?」
「マオ様…。先程のは一体?」
「ああ、あいつら力が微弱で核の位置がよみにくいだろ?だから一体にのみ集中して核を探して、その後はそれと似たものに対してそれぞれを自動で追尾するようにしたんだ。核だけを正確に貫くのは難しいとしても、俺の力は近くを通っただけでも効果があるからな。相性がよかったんだ。」
「なる…ほど。」
威力事態は高くなかった。
だが、追加で付与されている力があまりにも驚異だった。
本来であれば障壁ひとつで何事もなかったように防げるはずのものが、破壊、もしくは吸収だろうか?その力によってなんなく突破されてしまうだろう。
それを防ぐにはそれを上回るほどの高火力にて相殺するしかない事実。
少ない消耗で相手を削っていくことを可能とする力に改めて恐怖したが、逆に嬉しくもあった。
あれほどの力であれば運命を変えれるかもしれない…と。
「今日はお疲れさまでした。明日の食事会のときに合わせて報酬をお支払いたします。本日はごゆっくり御体をおやすめ下さいませ。」
「う、うむ。」
今まで大なり小なり常に殺意をぶつけられていた相手から、穏やかな表情でそういわれ僅かに動揺するが、悪い変化ではないのでよしとした。
ファーファの体調も大分良くなっていたことから、二人は帰路についたが、宿に着くなり大きな違和感を感じた。
「焦げた臭い…。」
「マオお兄ちゃん…銀が居ないよ。」
「銀龍さんが?うーん、あの人に限って何かあったとも思えないし、それよりこの焦げた臭いはなんだ?」
「焦げた臭い?…しないよ?」
「はぁ?そんなわけないだろ?こんなにはっきりとしてるのに。」
「ごめんなさい…でも、本当にわからないの。」
マオの言葉にやや沈んだ表情を見せるファーファ。
「お前がわからないなんて…な。鼻は俺より利くのに。まあ良いや、とりあえず明日は御呼ばれしてるんだしさっさと休め。」
マオとしても今日は色々あって疲れがたまったのだろう。
マオにわかってファーファにわからないなど、可能性として導き出される物は極僅かだというのに、それについて追求することなく、自分の部屋に戻ると焦げた臭いの事も忘れて直ぐに眠りに着いたのだった。
翌朝になっても銀龍が戻ってくることはなく、ファーファは昨日の影響のせいか、体がだるく眠いと主張した。
幸い熱はなく、特に問題はなさそうだったので、食事は食堂の人間に頼んで部屋に持って行ってもらうことにし、自身は昨日の約束のためにヘルガの元へと出掛けた。
「おうマー坊!今日も仕事か?精が出るなぁ。頑張れよ!」
「マーちゃん今日も偉いねえ。うちの子にも見習わせたいくらいだよ。そうだ、聞いておくれよ。昨日うちの旦那ったら―――」
外に出ると、街の人達がマオを見かけては声を掛けてきた。
「言われるまでもない。貴様はせいぜい日銭でもせこせこと稼いでいるがいい!誰がマーちゃんか!?それは貴様が悪い。男というものは体面を気にするものだ。普段から少しでも旦那を立ててやらんからそうなる!」
次から次へと声を掛けられ、その度にしっかり返事をする辺り、マオの性格がわかるというものだ。
「マオ君。」
気さくに返事を返しながらも気づかれないように懐中時計で時間を確認し、徐々に焦れ始めたマオに柔らかい声音が掛かる。
「だーもう!今度はなんだ!?私は忙しい……ってなんだ、貴様か。ちょうど今から向かおうと思っていたのだが。」
「フフ、そうね。マオ君ならちゃんと時間に来てくれるとは思ってたけど、待ちきれなくて。」
マオが振り返った先には、ヘルガがどこか寂しげに微笑みを湛え、小さく右手を振っていた。
街の人達に人気があるマオに少し嫉妬したのもある。
自分が笑わないせいで、遠ざけてきたせいで街の人間達はいつもヘルガの機嫌を伺うように話し掛けてきていた。
それが嫌で更に、と、悪循環に嵌まっていたのが今なら理解出来る。
だから嫉妬したとしてもわずかなものだ。
重要なのはそこではなく、マオを盗られたかのようなそんな感覚がヘルガの心に少しすきま風を起こしてしまったのだ。
(これじゃあまるで恋する乙女みたいね…フフッ。駄目ね、こんな狭量じゃあ貴族失格だわ。フフフ。)
「そうかそうか。そんなに私が必要か。うむうむ。では行くか。」
マオはその言葉に気分を良くしたのか、鼻唄混じりに女性の隣を歩き、二人してそこから消えていく。




