表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

魔法使いと黒い狼

長くなった…(汗)


文が荒れてるんではないかと思いますが、急いで仕上げたので読みにくかったら申し訳ありません(汗)



それはまだ記憶に新しい、ほんの6日前の事だった。


麓の町ゴメラフは、近くに他の町はないので基本的に自給自足を旨とし、人々の生活の基準は太陽に沿って決まる。


だが、その日はいつもと違い、人々は太陽が上がる前に活動を始めていた。


「こっちには何も居ねえな。町の柵は派手に壊されてるから此処から入ったことは間違いないんだが。」


「おーい!こっち来てみろ!!牛が三頭殺られてる。食い方からして多分狼の魔物じゃねえかな?」


一人の男が松明を掲げ、町の柵の外側の清流付近で皆に呼び掛ける。


この日は、まだ夜が明けきる前に家畜達の悲鳴が方々で上がった為に、男達が町や家畜の被害を確認するべく動けるものは総出で動いていたのだった。


「狼の魔物って言っても、この付近にはそんな狂暴な魔物は生息してないんだがな。どれどれ?」


ゴメラフで狩りのリーダーを担当する男が死んだ家畜に近づき、その傷跡を確認すると途端に顔が内に青ざめていく。


「……不味いな。これは恐らく魔狼だな。しかもまだ子供だ。」


「へ?魔狼の子供ってんなら普通の大型犬程度の大きさなんだろ?何が不味いんだ?」


「子供だけならな…。」


男の持った疑問はその場に居た大半の者達が共通して抱いたものだった。


しかし、狩りを主だって担当する者達の面立ちは揃って険しいものだった。


何故なら、魔物といえども、狼は群れで行動をし、親となる個体の大きさは5メートルからなる上に、長命な魔物だと知っているからだ。


いったい何れ程の数がいるのか、その規模は群れの長の器量によって大きなばらつきがあり、現段階では想像も難い。


これがもし成体が行ったものであれば未だ群れから一人立ちしたばかりの個体がやったとも推測できるのだが、今回の傷跡からこれは幼体が行ったことには間違いなかった。


「早急に町の柵の修繕と補強。それと家畜を町から離れた場所に何頭か放すんだ!急げ!!手遅れになれば…こうなるぞ。」


男はそこまで言い切ると視線を食い荒らされ、見るも無惨な姿に変わった牛に移した。


状況を理解してからの男達の行動は実に早く、日が昇る頃には男達はそれぞれの割り振られていた準備をあっという間に終える。


その大半が木材調達や柵の修繕に当たったが、中には当然家畜を町から離れた清流の上側に当たる森の奥まで連れていく役目を負った男達もいた。


「それじゃあサラ、行ってくるよ。」


「……気を付けてね。クライム。」


「そんなに心配することじゃないよ。ほら、此処から先はもう駄目だよ。万が一この子に何かあったら大変だから。」


サラは赤子を抱え自身の夫を見送りに修繕中の柵付近まで来ていたが、其処から先クライムは頑としてサラを近づかせようとはしない。


自分がどれ程危険な任務に着くか。そして今現在あの場所がどれ程危険かをちゃんと理解しているからであった。


魔狼がこの町を餌場と認識していれば間違いなく同じ場所から侵入を試みようとする。例え人がそこに居たとしてもだ。


それが魔狼が魔物と認識されている所以でもある。


魔狼にとって人は大多数が自分達の驚異にはなりえないことを知っているのだ。


クライムはサラが見送るなか、既に他のメンバーが集まっている場所に急ぐ。


「遅いぞ!!何モタモタしてるんだ!現状は一秒でも惜しい状態なんだ!!さっさと出発するぞ!」


「はい。すいませんでした。」


家畜を清流の上流まで運ぶ任務に着いた男は総勢五人。その全てが狩りを担当している者達で構成されていた。


町にいる家畜の8分の1にあたる20頭を運ぶには少々心許ないが、柵に関しては一刻を争う為、人員をギリギリまで押さえていることを皆理解している。


町を出発してからは、男達は必要最低限の言葉しか交わさなかった。


何時魔狼に襲われるかわからない。そんな緊張が男達の余裕を奪っているのだ。


道中何匹か家畜が道を逸れていったが、男達はそれを敢えて良しとした。襲い易い的があればあるほど自分達の安全度が高まる。


それは出発前に事前に決められていた事柄だった。


数を少し減らしながらも男達は無事に上流に辿り着き、ほっと安堵を吐いた束の間に、牛達が急に暴れ始る。


「な、なんだ!?何が起こっ―」


「ひっ!?」


隊列の関係上、クライムの前に立っている男が喚きたてていた中、黒い何かが横切り男の声が途絶えた。


周りの男達には何が起きたのか理解できなかったが、クライムにはその黒い何かに赤い瞳があったのが見えていたのだ。


「魔狼だ…魔狼が…。うわぁぁぁぁ!!」


クライムは無我夢中で走る。


頭の中にあるのは唯ひたすら恐怖だけ。


息を切らしながらも必死に走り続けるクライム。


だが、たかが人が魔狼から逃げ切ることはできなかった。


非情にも、町がすぐ其処に見えるなか、クライムの目の前には魔狼が警戒しながら立ちはだかっていた。


恐怖で真っ白に染められたクライムの思考は、皮肉にも見慣れた町の風景で徐々に冷静になっていく。


「ヴウゥゥゥゥゥウウゥウゥ。」


牙を剥き出しにし、低く唸りながら魔狼はクライムににじり寄る。


迫り来る死の気配の中、クライムの頭の中には、サラとまだ産まれたばかりの赤子の姿のみが浮かんでは消えていく。


「…こいよ。」


魔狼はクライムの声に体を一瞬固まらせるが、姿勢を徐々に低くし始める。


「お前の相手は俺だ!!こっちにこい!!」


町にまで聞こえるほど腹の底から声をあげると、クライムは踵を返し町から逆へと走り出した。


(二人は…二人だけは殺させない!!)


「来いよ!!こっちだ!!」


クライムは町からできるだけ離れるつもりで全力で走ったが、背中を見せたクライムは魔狼にすぐに捕まる。


「うああぁぁぁぁ!!」


クライムは鋭い爪が肩にくい込み、縄が切れるような音をたてて自分の肉が引き裂かれていくのがわかった。


「くらえよ!!」


クライムは握っていた光玉を思いっきり地面に叩きつけると、視界を奪う光が辺りを埋め尽くす。


光に怯んだ魔狼から、地面に組み敷かれていたクライムは身体を捻り抜け出した。


痛む身体を無視して走り去ろうとした時、後ろから最愛の女性の声が響き渡った。


「クライム!!」


「サ……ラ。何で、ここに?何をしてるんだ!?早く逃げろ!!」


「いや!!クライムが死ぬなら私も…。私も!!」


「サラ…。」


それまで緊張が張り詰めていた為気付かなかった身体の痛み。


クライムはサラの言葉を聞いて緊張の糸が切れてしまい、意識が急激に遠退き始めた。


本来であれば強く突き放すべき所なのだが、心身共にボロボロのクライムにはサラの言葉には抗う事のできない。


ゆっくりと崩れ落ちていくクライムにサラは駆け寄り支える。


二人が町へと急ぐ中、魔狼は視界を取り戻し再び獲物を追い出す。


クライムの肩からは血が留まることなく流れており、次第に身体は冷たくなっていく。


「大丈夫よ。後もう少しで町だから。町に着いたら治療をしてもらいましょ。」


「………ああ。」


後ろから迫る足音は凄まじい勢いで距離を縮めていく。


サラはその音を十分理解しながらもいざという時は自身が囮にと考えていた。


クライムを支えながら必死で町へと急いだサラだったが、無情にも魔狼との距離は縮まっていき、魔狼が牙を届けんと口を大きく開いた。


「ギャン!!」


しかし、その牙は二人に届くことなく魔狼は鈍い音をたててその場に崩れ落ちた。


「痛えな。いきなり何しやがる。」


魔狼の牙が確かにサラに届こうとした時、一匹と二人の間に一人の男が急に現れ、魔狼は男にぶつかった事で脛椎がへし折れてしまったのだ。


魔狼が脛椎を折ったのに比べ、急に現れた男は僅かに後ずさっただけで特に外傷は負っていない。


来るであろう痛みが何時までも来ず、後ろから人の声が聞こえたことでサラは町に走りながらも後ろを振り返ると、そこには黒い法衣に身を包んだ銀髪の男が佇んでいた。


「おい女。それ以上そっちに行くんじゃねえ。」


男の声は不思議と頭に響き、サラは思わず足を止めると直ぐ目の前で黒い塊が降り注いだ。


それは十数匹にわたる魔狼達だった。


「ひっ!」


「「「「「ヴゥゥゥヴゥヴゥゥゥゥヴゥゥ!!」」」」」


『人間、よくも。殺したな。許さない。』


サラは足がすくみ、クライムを支えきれずにその場に座りこむ。


「邪魔だ女。下がってろ。」


男がそう言うと、サラとクライムの身体が淡く光り、いつの間にか男の後ろに移動していた。


『人間、人間、人間!!』


魔狼達が一斉に男に襲い掛かるが男はその場からピクリとも動かない。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」「ギャン!!」「キャン!!」「キャイン!」


サラは目の前で起こる惨劇を想像し、叫び声をあげ目を伏せる。


だが、それと同時に魔狼達の悲鳴が響き渡った。


男は深く溜め息をつくと気怠そうに身体の埃を払う。


「力の差がわからないほど脳がない訳じゃないだろうが。てめえらが何匹突っ込んできたところで掠り傷1つ付きゃしねえよ。」


よろよろと一際大きな個体が起き上がると魔狼達が一斉に魔力を放出し始める。


「そうだ。てめえ等は唯全力で来ればいいんだよ。俺と敵対した時点でてめえ等には俺を殺すか殺されるしか残ってねえんだからな。」


放出した魔力は共鳴を起こし、膨大に膨れ上がりながら長と思わしき個体に集っていく。


あまりに巨大な魔力だったためか、それとも傷ついたためか、身体に魔力を留めきれずに魔狼は僅かに呻き声をあげる。


その漏れ出た魔力には一際強い感情が付着しており、男には断片的ながらも鮮明な映像が流れてきた。


元々魔狼はこの近辺には縄張りを持っていない。


それがこの近辺に何故来たのか。いや、何故縄張りを移さなければならなかったのか。それが一枚一枚写真のように目まぐるしく流れ行く。


貴族のような男が複数の供を連れて見覚えのある森を歩いている姿。それは魔狼達の縄張りであり、塔から程近い場所。


魔狼達は本来その程度の者達であれば問題なく対処できたのだが、如何せん時期が悪かった。


魔狼達はちょうど子供を産んだばかりだったので、子供のためにその場を離れざるを得なかったのだ。


その時少なくない仲間が子供達を庇って傷を負い、死んでいった。


そんな強い強い憎しみが男の頭に流れる。


子供達のため傷を負いながら逃走をしていくなか、魔狼は一人の女性を見つけた。


その女性は金の髪に緑の瞳。それに男がよく知っている籠を持っていた。


その女性からは縄張りを急に侵入してきた男の匂いが仄かに漂っており、気付いたら魔狼は考えるより先に身体が動きその女性に襲いかかっていた。


女性に深手を負わせるも、魔狼は女性の魔法による思わぬ反撃に苦々しくも逃走を選ぶ。


映像はそこで途絶え、気付けば男の目の前には魔狼が放った空気の塊が迫っていた。


「……ふん。胸くそわりい殺しをさせやがって。」


膨大な魔力を纏った圧縮された空気は、男から発せられた更に強大な魔力により刹那の内に霧散していく。


「…安心しろ。俺の庭で勝手をしやがった男ならもう死んだも同然だ。星に異物と認識されちまったからには、死んだ方がましだって目に遭って尚生かされた後殺されるだろうよ。」


『星……。まさか、古代遺跡の守護者……。』


「ああ、だから…安心して死ね。」


『クハハハハ!そうか…。』


小さな黒い球体が男から何個も生まれ、それは急速に増殖し数を増やしていく。


『嫌な思いをさせる。すまないな…若き守護者よ。』


「うぜえ気を使ってんじゃねえよ。……じゃあな、消えろ。」


辺りを埋め尽くすほどにまで増えた球体は、一斉に魔狼達に群がっていき、魔狼達はまるでその場に居なかったかの様に掻き消えた。


「終わった…の?助かった。助かったのよクライム!クラ…イム?」


サラは目の前で起こったことをうまく理解できなかったが、目の前の男が自分達を救ってくれたことだけは理解できた為、声を掛けるがクライムからは声は帰ってこなかった。


「いや…いや、いやあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!クライム、クライムクライム!!」


サラは叫び、喚き、咽び泣く。


しかし、クライムだったものはピクリとも動かない。


「やめろ…もう死んでる。」


「やめて!?いや、聞きたくない。クライム、クライム、クライム、クライム…貴方がいないなら…わたしはどうすればいいの?私は……………私も連れていってよ…私も―――――」


パンッ。と乾いた音が辺りに響き渡る。


何瞬か後にサラは頬を男に叩かれたのだと気付いた。


「なん…で。」


「てめえが今やってることがそこの男を糞以下の存在に下げてるってことがわからねえのか!?その男はてめえの為に命張ったんじゃねえのか!?」


「でも…私には、クライムがいなければ…。」


「うぜえよ!そんならてめえも一緒に死ねばいいだろうが。その男も無駄死にでいい迷惑だ。てめえがさっさと死んでりゃあよかったんだよ。こんな女を守るためにわざわざ死ねるなんてこの男もとんだ間抜けだな。守りきったって。幸せそうな面して死んで、その後その女が後追おうとしてんだからとんだ笑い話だ。そら死ねよ。直ぐ死ね。なんなら俺が殺して―」


パンッ。とまた再び乾いた音が辺りに響くが、今度は男の頬が少し赤くなっていた。


「クライムを…クライムをバカにするのだけは…私は許さない!!」


サラは先ほどまでと異なり、力強い瞳で男を睨み付ける。


「…ふん。それだけ虚勢が張れれば十分だな。今度はてめえが守る番だ。死んだ奴ばっかり見てねえで、今お前が、いや、お前にしかできないことがあるだろうが。それをその男も望んでたからこそ命を懸けたんだろうが。くだらねえ感情に浸ってる暇があれば、その分てめえの糞餓鬼に注いでやれ。」


男はサラからクライムを奪い取ると、クライムは白い炎に包まれた。


サラは驚きで固まったままその行為を凝視していた。


クライムはあっという間に燃え上がり、最後の一欠片まで燃え尽きると、其処に小さな光が生まれる。


その光は一瞬大きく光るとその場には薄く透けたクライムが佇んでいた。


『サ…ラ。』


「クライム!!クライム!?私…。頑張るから。頑張るから!!だから……安心してね。」


クライムはサラの頬を流れる涙をそっと拭うと、優しく微笑み、耳元でそっと何か囁き消えていった。



――――――


「―――と言うことがあったんです。」


サラは瞳を赤く濡らし、優しく微笑みながらファーファの背中を擦る。


話しをしている内にファーファは母乳を飲み終えていたのでげっぷをさせるためだ。


セラフィは男がサラの頬を叩いた辺りからずっと額に手を置いたまま微動だに動かない。


その様はまさに「あちゃー」とでもアテレコすればしっくりくる。そんな姿だった。


「……なんか、ほんとにすいません。」


暫く時間がたった後、セラフィは気恥ずかしそうにそれだけ呟くと【今日は帰ります】と書き置きを残し、男を置いてその場から消えた。

次回からちょっと時間をある程度進めようかなと思ってるんですが、良かったら御意見を下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ