塔の魔法使いと一縷の希望
「あ、ごめん…。もう一度見せてくれる?」
マオの冷めた反応とは別に、ファーファは興奮冷めやらぬ様子で指輪に籠められた映像を再度映し出す。
『辛い思いをさせたわね…――――』
(いやいやいや!?序盤から既におかしいから!なんで誰も突っ込まないの?俺?俺がおかしいのか!?最初のファーファの喋り方。姿や声音こそファーファだけど、まんま姉さんじゃん!?そもそも聞いてた話とまるで違うじゃん!?なんでお前がそんなに目を輝かせて観てんの?おかしいよね?絶対変だよね?)
『本気で逃げれると思って―――』
「こんなことがこの街のすぐ近くで起きていたなんて…。」
大地を埋め尽くさんばかりの数のゴーレムに、ヘルガは眉間に皺を寄せる。
「これは流石に有り得んだろ…。」
マオの呟きはゴーレム達の稼働音に掻き消され、誰の耳にも入らない。
『―――魔王の尖兵、ハルマ!お前はここで俺が討つ!!―――』
「……。」
(え?何?俺の知らないところでなにこんな面白いことになっちゃってんの?……魔王の尖兵?嘘も大概にしろや!?明らかにあいつの方が俺より強いじゃねえか!?つかやっぱり巨大化してる!?はあああぁぁぁぁぁ?尖兵じゃなくて魔王の間違いだろ?もう間違いないよ!こんなのいたら間違いなく魔王だよ!?確実に平伏す自信あるわ!?)
「「はぁ………。」」
深い深い溜め息。
一人は突っ込みによる疲れ。もう一人は絶望によるもの。
種類は違えど、それは確実にシンクロした。
「「っ!?」」
((い、居た!俺以外に正常な思考の持ち主!!))
壁際で空気のような存在になっていたルークと、マオの視線は混じり合い、どちらからともなく近より熱い握手を交わす。
ここにきて二人の気持ちは完全にシンクロしたのだった。
マオはルークの表情から、何を望んでいるかを敏感に察し、ファーファを一人皆と少し離れた場所へと呼ぶ。
「どうしたのマオお兄ちゃん?」
「あれ。……何?」
「あれ?どれ?」
「あの映像に決まってんだろこのバカちん!明らかに貴様が昨日話していた内容と違うよな?全然違うよな!?」
「うーん…そうだったかなぁ。概ね合ってるような気がするんだけど。」
「アホか貴様は!?合ってんのは、あのルークって男と同行したのとタヤナって男が現れたのと山賊の首領がいたって所だけじゃねえか!?馬鹿にしてんのか!?あの映像にもお前の言葉にも心底吃驚したわ!」
「でもファーファあんまり山賊さんに会ってからの事よく覚えてないんだよ…。だからあんな感じだった気もしないでもないし…。それに―――」
ファーファは純真無垢な笑顔でにっこりと微笑むと「―――ルークお兄ちゃんかっこよかったよね!」と、映像の方を指差し振り返る。
(駄目だ…。ごめん。俺には荷が重かったみたいだ…。)
マオはがっくりと項垂れると、ルークに向けてアイコンタクトを送る。
(早い!?早すぎるよ諦めるの!?)
二人の会話は流石に聞こえてこないが、その様子だけで十分に事の成り行きを理解したルークはマオへ叱咤激励を送る。
(ほんとごめん…。俺にこれ(ファーファ)を御しきれると思ったこと自体が思い上がりでした。ほんと…ごめん。影なる者だっけ?…いいじゃん。かっこいいじゃん。)
(嘘だよね?絶対嘘だよね?欠片も思ってないよね?そんな憐れみの目で見られても説得力ゼロだよ!?……う…わああぁぁぁぁ!)
二人は念話などを用いることなく、的確に相手の言葉を読み取りあう。
そして、最後にルークに言及されたことで、マオはなんとか笑顔を取り繕ってはみたものの、その笑顔は親が子供の失敗を見守るような生暖かいものだったため、ルークは心の内で絶叫しながら絶望に膝を折った。
「ルーク様!?どうなされました?」
ヘルガの様付けに、ルークは更なるダメージを負うものの、ここで下手なことを言っては、「早く医者の手配を!」とか、ギルド内での二の舞になるのは目に見えていたので、敢えて気丈に微笑んで見せる。
「いえ…大丈夫です。ちょっと未来の事を考えて、軽い目眩と激しい動機と震えが止まらないだけですから。」
「やはりあの凄まじい力の後遺症が…。」
「お言葉ですがヘルガ様。肉体だけでなく、記憶にも大小の影響が出ているようで、ルーク様は此度の事は何も覚えられていないご様子です。もしかすると他にも記憶に影響が出ている可能性が…。」
「あれほどの力です。そう考えて然り…ね。」
ヘルガとケイオスは今後の支援の在り方について顔を顰めていたが、ルークは別の意味で顔を歪ませていた。
「と、取り敢えずさ、支援云々は置いといて、ここの草取り手伝ってくれない?そうすればその間に話をしながら記憶についても何か分かるかもだし、力が映像とどう違うのかも身体を動かすことでわかるんじゃないかなーなんて…。」
マオは先程の事もあり、若干罪悪感を覚えていたためやや低姿勢に、敢えてルークに向けて言葉を掛ける。
「そ、そうだね!支援云々は横に置いといて、まずは映像とどう違うのかを見てもらおうかな!」
マオが発した言葉。力が映像とどう違うか。
これは遠回しに映像に出てたものは偽物だと告げていたのにルークは気付き、誰かが口を挟む前に積極的に賛成を述べた。
((これは最後のチャンスだ…。これを逃せばもう言い逃れはできない!)からな!頑張れよ!!)
マオから差しのべられた僅かな望み。
ルークはマオにのみ分かるように小さく頷いたのだった。
「…聞いてない!……聞いてないよ!!ただの草取りって話だったよね!?ちょ、ま…うわぁぁぁあ!」
ルークは背水の陣とばかりに、やたらと士気の高い草達に追いに追われ、愚痴を溢したときに生じた隙を狙われ草に絡め取られる。
「ルークお兄ちゃん!待ってて!今ファーファぎゃ!……いったーい。何すんのマオお兄ちゃん。」
「アホか貴様は!?今何をしようとした!何を!?」
「ルークお兄ちゃんに草が襲いかかったから魔法で助けようとしただけだもん。」
マオの突然の暴挙に、ファーファは頬を膨らませて抗議する。
「ほーう…。そしてあのルークお兄ちゃんとやらを一緒に焼き払うと…。展開が読めるわ!?このワンパターン娘!」
「違うもん!ちゃんと火傷しないよう氷の魔法使おうと思ったもん!!」
「なるほど、それで氷漬けにするつもりだったと。」
「あ、後で溶かすもん!!」
「で、水蒸気爆発が起きて木っ端微塵と…。なるほど。……新しいな。」
「あの……二人がとっても仲が良いってことは良くわかったので、とりあえずその話は置いといて…助けてほしいんですけど。」
「「…あ。忘れてた。」」
結局この後ケイオスの手によって救出され、その後の草取りの指揮は全てケイオスが執ることとなった。
「二人とも、まだ若いのに強いんだなぁ…。腕っぷしだとそこそこの自信はあったんだけど、自信なくしそうだよ。」
ルークは苦笑いを浮かべながら、襲い来る草を避けながら、ファーファの元へと誘導していく。
「えい!うーん…。ファーファはともかく、マオお兄ちゃんはとっても強いんだよ!そこの嫌なおじさんよりもずっと。」
可愛い掛け声とは裏腹に、地面がやや陥没するほどの魔力を目の前の草達にぶつけ、そのまま押さえる形で魔力を放出し続けるファーファ。
先程から、口を開けば言葉の端々にケイオスに対する嫌みが被せられていることに既に気づいていたマオとルークはなんとも言えない表情を浮かべる。
恐らくファーファの中で、まだ昨日の事が引き摺られているのであろうと分かっていたので、マオも強く止めることができないでいた。
「そ、そうなんだ。でも、ファーファちゃんも十分すごいと思うけど…。」
もう何十回目になるかわからない程同じ行程を重ねてきたのだが、ファーファにはまるで疲れを感じさせる様子はない。
ルークが草の注意を引き付け、ファーファが動きを止め、マオとケイオスが捕らえられた草達の核を一つ一つ壊していく。
これが思いの外うまくはまったらしく、明日には終わりそうな勢いだ。
もっとも、そこで何も処置をせずに止めてしまっては午前中の二の舞なので、最後には軽い結界を草達に掛けることで完全に動きを止めてから今日のところは各自解散ということになった。
ちょっと一週間という期間に限界を感じてきた今日この頃…このぐらいの長さなら一週間で書けなくもないんですが、内容も短いし薄い。
ということでもうちょっと期間空けて更新してもいいで御座いましょうか?(汗)




