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塔の魔法使いと女性とはかように逞しい

柔らかい頬をこれでもかと膨らませ、不機嫌を隠そうとしないファーファに、やや呆れた様子のマオ。


「しょうがないだろ?来いって言われたんだ。一度依頼を受けたからには行かなきゃ信頼値が下がる。」


ここでいう信頼値とは、ギルドの依頼をこなした際に得られる数値で、昇級にはこの値が深く関係している。


実力が高くとも、信頼値の低いものは昇級することができない。


冒険者としての身分をギルドが保証しているということは、失態における不利益も、一部ギルドが背負うこととなるからだ。


故にランクが高い仕事であればあるほどこの信頼値、つまるところ、本人のランクが重要になってくる。


例えるならば、爆発的な繁殖力を持つことで有名な魔物のゴブリンが、ある村の近くで巣を作ったとしよう。


夜行性であるゴブリンに対し、夜には就寝する人は常に警戒する必要が生まれ、場合によっては農作物、家畜の被害にとどまらず、村の存続にも影響を及ぼす可能性も出てくる。


これを信頼値のない者を派遣されれば村の者達はどう思うか。実績のないぶん信頼するに能わず、不満を抱く。


さらには、失敗してしまえば余計な軋轢を産み出しかねない。


よって、ギルドはこの信頼値というものをもうけているのだ。


例外として指名依頼というのがあるが、唯一この依頼に限り信頼値は関係しない。


勿論フリーの討伐依頼もだ。


依頼の難易度によって信頼値を付与していき、失態の内容によって信頼値を引いていく。


現在マオが得ている信頼値は、殆んどが町中の依頼によって構成されているため、さほど高くない。


これに加え、今回の依頼を蹴ってしまえば今までの苦労が水の泡になりかねないのだ。


貧乏性のマオにはそれが堪らなく嫌だった。


「いいもん…。ファーファがどんなに心配してもマオお兄ちゃんは気にしないって知ってるもん。」


「あのなあ…。全く…。心配してくれてるのは嬉しいが、しょうがないだろ。お前はまだ指輪の映像の件でしばらく掛かりそうだって言われてるんだから。」


ファーファがこんな風にむくれて、我が儘をマオに言うことは珍しい。


大抵のことはブツブツと不満を漏らしながらもマオの意見を受けるれるのだが、今回はいつもと状況が異なった。


つい先日、というより昨日。マオは命の危険に晒された家に、今日も一人で行こうというのだ。


ファーファとしては是が非でも同行したいのだが、マオからすれば、何をしでかすかわからない、例えるなら、いつ爆発するかわからない危険物を持ち歩きたくはない、というのが本音だった。


だが、心配してくれている分、その気持ちは素直に嬉しいのであって――


「いいもん…。別に待ってくれればいいなんてちっとも思ってないもん。マオお兄ちゃんなんてだーい…嫌いじゃないけど。」


尚もぶつくさと不満を呟くファーファにマオは思わず苦笑してしまう。


嫌い。


その一言が人に向かって言えないファーファが妙に可愛く思え、頭をガシガシと少し乱暴に撫でる。


「心配するな。貴様が思っているほど私は弱くない!それに、いざとなったら一目散に逃げてお前の助けを借りよう。そのときは勿論助けてくれるんだろう?」


少しわざとらしく胸を張り、仰々しく話すマオ。


よほど恥ずかしかったのか、その耳は恐ろしく赤く染まっている。


「……うん。うん!絶対!絶対だよ!!絶対助けるから!」


マオにとってもそうであるように、ファーファにとっても、大事な者から頼られるということは何ものにも代えがたいものだったのだろう。


いつまでも膨らませていた顔は、パアァァと喜色満面へと変わり、今となってはその場でスキップでもしだしそうな勢いだ。


機嫌を良くしたファーファに内心ホッとし、今度は頭を軽くポンポンと撫でる。


「うむ。約束だ。では行ってくる。」


妙に上機嫌なマオの背中を最後まで見送ると、ファーファは再びギルドのカウンターへと戻り、掌より少し長めの木の棒を取りだし、器用に指の間を転がし時間を潰していた。


体感としては二、三時間といったところだろうか。


幸せな気持ちに浸ってはいたものの、少々暇を持て余しているのには変わりなく、何か面白いことがないかと辺りを見渡したところで、ファーファからバキッと、何かをへし折るような音が響いた。


思わず握ってしまった拳。


それにより、何気なく遊んでいた木の棒を折っていたのだが、ファーファはそれに気付くことなく、扉から入ってきたものへと一心に視線を送っていた。


頭の中が徐々に白くなっていく感覚が訪れたあと、沸々と腸が煮えかえる音のようなものが幻聴として聞こえる。


それにともない、視界が少しずつ色を失っていき、勢いよく飛びかかろうとしたところで、白髪で、燕尾服を纏った男はこちらに視線を寄越した。


心当たりのない殺気をふんだんに含んだ視線に、白い手袋をはめた手を顎にあて少し思案する。


「あぁ…。」


何か思い当たるかとがあったのか、ポツリとそう溢すと、興味をなくし一人の全身をフードで覆った男を伴いカウンターへと歩いていった。


さすがに時間も経っており、人は疎らになっていたことも幸いしカウンターには空きがいくつかある。


受付の職員とまるで隙だらけな様子でいくつか話をすると、職員がファーファの方を指差した。


少し眉をしかめ、男はフードの男と共にファーファに近付いてきた。


すぐさま杖を取りだし、殺意を隠そうともせずに身構えたファーファに、男は優しく微笑む。


「ここでなにか問題を起こせば、あなたのお兄様の風聞にも影響が出ますが、よろしいので?」


その言葉に、ファーファは朝の時と同じく頬を膨らます。


不満はあるようだが、事を荒げることで、マオの沽券に関わると言われれば矛を納める他なかったのだ。


後ろにいたフードの男が深々と被っていたフードをとる。


両手を縛られており、男へと注いでいた視線が思わずそちらへと流れる。


「良かった、無事だったんだね、ファーファちゃん。」


「なん…で。」


そこには、昨日丘に置いてきてしまったはずの男。ルークがいたのだった。





「ほんとによかったよ。ファーファちゃんが無事で。」


「ファーファもお兄ちゃんが無事で安心したよ。」


ルークが意識を取り戻したのは昨夜遅く。


目覚めた時には、男が率いる騎士団にとり囲まれ、売られるはずだった女性達もそこにいたことでやっと事態を飲み込んだのだった。


男は女性たちの証言を既に集めており、ルークやハルマだったもの等を1つの荷馬車に押し込め、精神的に追い詰め一つ一つ確認していった。


そして改めて聞くところがなくなったところでギルドに引き渡しに来たのだった。


これはギルドが依頼を騎士団に出していたからであり、その過程がなければルークの首は既に繋がっていなかった。


生きる。ということに関しては、並外れた運の持ち主であるルークならではと言える。


「でも…お兄ちゃんをそんな犯罪者みたいに縛るだなんて…。」


ファーファはゆっくりと男へと冷ややかな視線を送りつける。


「罪人を罪人として扱ったまでの事。お嬢さんが何者かは知りませんが、異を挙げられる筋合いはないかと。」


涼やかな笑みを浮かべ、あくまでも穏和な口調でありながら、刀剣のような鋭さでファーファの異議を切って捨てる。


「罪人じゃないもん…。お兄ちゃんは罪人じゃない!」


「フッ…っと、失礼。こちらとしては証人が幾等か居られるのですが、それに勝る証拠をお持ちと言われるのですね?」


わざとらしく鼻で笑われたことで、ファーファは悔しさのあまり地団駄を踏む。


「あるもん!今すぐ縄をほどいて!!」


勿論ない。あまりの悔しさに認めることが敗けみたいで思わず閑散としてきているギルド内に響き渡る程大きな声で叫びをあげるファーファ。


その声に、いや、言葉にギルドの職員一同は顔を青くして項垂れた。


「まるで子供の癇癪ですね。私も暇ではないので――」


「ケイオス様。証拠…でございましたら……此方のファーファ様が持ってこられたギルド印章に残っております。」


挙動不審な職員は『いいの?本当に話してもいいの?』と、ファーファにアイコンタクトを送るのだが、ファーファは男を睨むことで必死で、職員のそんな懸命なアピールには気付かない。


「ほう…。面白いですね。こちらは証人がいるというのに、それに勝る証拠ものがあると?」


ケイオスのそのわざとらしい言葉は、暗にその証拠を見せろと言っているのだが、ファーファにはそれを察する能力はなかった。


「ファーファ様に差し支えがなければ…御見せするのもやぶさかではないのですが……。」


見せることはできない。職員は湾曲した形でケイオスにそう伝える。


それはつまるところ、如何な身分の持ち主でも、例え一国の主であったとしてもギルドの意思では開示ができない。


海千山千で生きるケイオスにとって、職員の言葉はハッキリとそう告げていた。


そう、告げていたのだが「え?ファーファはお兄ちゃんが罪人じゃないっていうんなら別に構わないんだけど……。指輪の記録見せるだけなんでしょ?」


ファーファはまるで二人の会話についていけていなかった。


「「っ!?」」「ほう…。」


興味深げに笑みを深めるケイオスと、その発言にギョッと目を見開くルークとギルドの職員。


職員としては、記録の内容があまりにも責任に負えない内容だったため、然して長くもなかった記録に対して今の今まで結論を出すことができずに、ファーファを待たせていたというのに、事も無げに許可を卸すファーファに愕然としてのことだった。


ルークとしては、昨日の事を改めて見せたところで、事情を知っているものからすればルークの罪が更に重くなるのは自明の理故に、驚きを隠せないでいた。


「ほ、本当によろしいのですか?」


「へ?う……うん。」


あまりに鬼気迫る職員の表情に、やや気圧されるファーファだが、なんとか後ずさることもなく再度許可をする。


ギルドとしては渡りに船。責任が一切合切目の前の少女に移せるものならすぐにでも。と言わんばかりに「ささ!ではこちらに!お早く!」と迅速に行動に移るのだった。


本来はギルドのマスターに確認を取って然りなのだが、その行為について支部長からお叱りを受けることはなく、寧ろ後程ボーナスを貰えたそうだ。







「それでは皆さんこれを。」


職員は皆を別室に案内した後、指輪を水晶玉のようなものに設置すると、ファーファの指輪によく似たものを皆に配っていった。


「これの機能については詳しいことを説明すること禁じられているので端的に説明させていただきます。」


職員は普段依頼をギルドの印章を通して得られた情報によって、依頼の正否について決めている。


だが、勿論普通に映像を流している訳ではない。


ただ流すだけでは無駄に時間を食ってしまうということで開発されたのがこの水晶玉。


これにより、半径三メートル以内の者の高速思考を可能にし、なおかつ、個人個人に映像端末の基となる印章に似せた魔道具を渡すことで複数人が同時に、極めて短い時間で印章に刻まれた記録を覗くことができるのだ。


確認に置いて、複数人で臨むのは不正を防ぐためだ。


『辛い想いをさせたわね……。それも今日で終わる。いいえ。終わらせるわ。だから……。』


始まりは、そんな言葉を悲壮な面持ちで告げるファーファの声からだった。


『いいんです…。森でソフィアさんに救われた命……このような形で返せるなら本望ですから。』


儚く笑う青年、ルークの瞳には決意の灯火が淡く揺れる。


『……ありがとう。』


(え?ファーファちゃんなんか口調が…って言うかソフィアって誰?森で救われた?誰に?誰が?)


皆が皆映像が流れていく中驚愕の表情を浮かべているが、一人のみ、別の意味で驚きを隠せないでいた。


『まさか守護者の回し者だったとはな…。お前にはここで死んでもらう!!』


『タヤナ!?クソ!ファーファちゃん、逃げるんだ!!』


『で、でも…。』


『早く!』


『本気で逃げれると思っているんだったら……俺も甘く見られたものだな!!』


突如として生まれ出でる、視界を埋め尽くさんばかりのゴーレム達に歯噛みするルーク。


(いやいやいやいや!?なにこれ?本当になんなの!?そもそも盗賊団でこんな上級魔法を)


透き通った水色の長剣を手に、鬼気迫る勢いでゴーレムを土に返していくルーク。


水の力を秘めているであろうその剣は、一閃、また一閃と切りつける度にちびていく。


ルークが一人立ち回る中、ファーファの詠唱が完成する。


『―――汝はその身を持たぬ力。その力を以て目の前の敵にその存在を刻め!!《栄枯盛衰・風化》』


一陣の風がゴーレム達を土塊へと返す中、ルークただ一人が動きを止めていなかった。


『終わりだ…タヤナ。』


もはや短剣ほどの長さしかなくなっていた水の魔剣でタヤナの喉を抉る。


それと同時に、剣は甲高い音を響かせ粉々に砕け散った。


『すまない…お前の事は、嫌いじゃなかった。』


悲痛な面持ちで、ゆっくりと崩れ落ちるタヤナに背を向けるルーク。


『お兄ちゃん、まだ!』


『えっ?』


ファーファの声に振り返ると、そこには白く光る石を握り、今尚力強い光を瞳に宿すタヤナが居た。


『バ、バカな…。』


一瞬の油断。


それがルークの命運を分けたかに見えた。


だが、銀色に光る一筋の光がルークに迫る凶刃を弾き、更にはタヤナの胸を貫いた。


『戦場で気を抜けば死ぬ。それを一番分かっているのは御主であろう。ルークよ』


『銀龍さん!』


更に映像は続いていく。が、ルークは一人オロオロとしていた。


当然だろう。全く身に覚えがないのだから。


訳もがわからずファーファに時折視線をやるが、ファーファは食い入るように映像を見ており、ルークの視線には気付かない。


『ガアアアァァァァァァアアァアアア!!誰だ!!出てきやがれ!!』


ファーファの魔法により先制攻撃で全ての山賊が没したかに見えたその時、突如として上がる土柱。


その中心には頭領たるハルマが、怒り狂った形相でこちらに向かって叫び声をあげている。


一瞬で姿が掻き消え、次の瞬間には二人の背後で既に三メートルにも及ぶ大剣を振り上げていた。


『っ!?』


『ファーファちゃん!?』


僅かに反応が遅れたファーファに、ルークは庇うように飛び掛かり直撃を避ける。


その一撃がもたらした衝撃波によりルークは等々意識を失う。


『お兄ちゃん!!』


『クソ共がぁ!覚悟はできてんだろうな!』


『……許さない。』


飛び交う数々のファーファの魔法がハルマを襲う。


だが、その全ては剣一つで薙ぎ払われる。


『温いわ!』


『クッ…ゥゥ。』


強い魔法を放とうにも、その隙を作らないハルマに対しては悪手。


そう踏んだファーファはスタイルを近接戦闘へと転じる。


時折魔法を混ぜることで、ハルマを徐々に弱らせていく。


だが、当然ファーファも無傷ではいられない。


『これで……終わらせる!』


『ぬかせ!小娘ごときにやられる俺ではないわ!?』


拮抗する力が大地を削り、辺りは大きなクレーターと化すが、二人は鍔迫り合いのまま互いに魔力を限界まで高め、被害は徐々に拡大していく。


『ウゥ…グゥゥゥ!』


『中々やるじゃねえか…。でもいいのか?このままじゃあ捕らえてある女共の小屋まで吹き飛ぶぜ。』


事実、被害は既に小屋の近くまで及んでいる。


『クッ…。キャァァァァァ!…ア……ゥッ。』


ハルマの一言で拮抗が崩れ、激しく吹き飛ばされるファーファ。


あわや小屋に激突かというところで、杖を地面に突き刺し、留まる。


だが、身体に負ったダメージは限界に近く、視界が定まらない。


『甘いな…。犠牲なく勝とうなんて考えるからこんなことになるんだよ。来世ではもっと賢く生きるんだな。じゃあな!!』


ギィィィィィィィン


迫り繰る死は、一人の男によって防がれる。


『少し寝てたみたいだ。ごめんね。ファーファちゃん。』


『ルーク…てめえ。なんだその力は!?』


金色に光る魔力に包まれたルークが、いつの間にかハルマの前に立ち塞がっていたのだ。


神々しく立ち昇る魔力はハルマの剣を完全に防ぎ、ルークには傷一つついていない。


『守護者によって授けられたこの力の名は《エンドレス》。使用者の記憶や力を犠牲にすることで一時的に勇者をも越える力をその身に宿すことができる。覚悟しろ…魔王の尖兵、ハルマ!お前は此処で俺が討つ!!』


一時的に奇跡のような力を手に入れたルークによってハルマは倒された。


途中ハルマが巨大化したり、剣の塊のような化け物に変わったりと色々あったが、まだ記憶が残っている内に。と、曾ての仲間だった彼等と、少しでも一緒に居たいと言うルークを残して、ファーファは一人街への帰路へと向かう。


というところで映像が終わっていた。


始めの頃は不自然にならないように随分と細かく映像を流用していたのだが、途中からめんどうになったのだろう。


最後のほうはかなり雑な設定且つ、勢いで纏めた内容になっており、ルークはどんどん顔色を悪くし、最後の方にはあんまりな内容に必死に指輪を外そうとしていたが、映像を停めるか、終わるまでは外せないらしく、全ての映像が終わる頃には、一人椅子に座って真っ白に燃え尽きていた。


こんな映像を以てして、抜かりはないと豪語したソフィアにはいろんな意味で〔凄い〕の一言に尽きる。


「フゥ……。信じられませんね。こんな身近に、こんな恐ろしいことが起こっていたとは…。申し訳ありませんでしたルークさん、いえ、ルーク様。知らなかったこととはいえ、とんだ無礼を…。」


ケイオスは恐縮しながらルークに近付くと、両手を縛っていた縄を急いでほどき、目の前で膝をついて謝った。


「へ?はぁ?いや、えぇぇぇぇええぇ…。」


最早なんと言っていいのか分からないルークは絶賛混乱中だ。


「凄い!!グルメポークの時もそうだったけど、やっぱり強いんだね!!」


(いやいや!?なに言ってんのこの子!?て言うかファーファちゃんは今の映像明らかに嘘っぱちだって知ってるじゃん!?)


愕然とした表情でファーファを見やるが、興奮に鼻息を荒くさせ、肌を紅色させたファーファはひたすらルークを褒めそやす。


「ギルドとしましても、ファーファ様が塔の守護者と懇意であることは既に周知しておりますし、そのファーファ様から提供頂いた記録に関してどうしたものかと悩んでいたのですが…公開の許可が出て助かりました。そうでなければこれほどの敵を倒し囚われた人を、いえ、街を救っていただいた英雄を謂われなき罪で罰しなければならないところでしたから。」


「確かに…守護者が一枚噛んでいたとなれば軽率な行動はとれませんからな。」


「そうなんですよぉぉぉ。もうこの記録が持ち込まれたときは心底この街のギルドに就職したことを後悔しました。」


職員の目は瞬く間に赤く染まり、瞳からポロポロと涙をこぼす。


「い、いや…待ってください!!これは、この映像にあったことは事実ではありません!」


ケイオスと職員が報酬は、称号は、等と話している時、ルークはやっと椅子から立ち上がり、力強く宣言した。


「罪のない女性を唆し、奴隷にしようとしました。それに、それ以前にも小さな村を山賊達と共に襲ったこともあります。僕は裁かれこそすれ、褒められるようなことは何一つやっていません!!」


突然叫んだルークに驚いたのだろう。目の前に居たファーファは目を白黒させていた。が、職員数名とケイオスは「なるほど…辛い想いをさせた。と言うのはこういうことだったんですな。いくら潜入するためとはいえ……何て過酷な。」


「いや…そもそもこれも最後にあった《エンドレス》とか言う魔法の影響かもしれませんよ記憶を代償にすればただの廃人になりかねないので別の記憶を植え付けるとか…。」


「その程度の制約ではあれほどの力は手に入れれますまい。」


「いえいえ。その記憶が自身にとって耐えがたいものにすり替えられたとしたら…どうでしょう?」


「なるほど…本来してもいないことを、トラウマとなるような事柄と記憶をすり替える…代償…げに恐ろしい。」


ルークを置いて向こうは話が纏まってきたらしい。


「だから違うんですって!?ファーファちゃん!ファーファちゃんは昨日の事覚えてるよね?あの映像は明らかにおかしいよね?」


ルークの意図としては、映像が偽造されている。と訴えたかった。事実、他の者は皆そのように受け取った。


「ううん。凄かったよ。かっこよかった!」


だが、ファーファは「おかしい」を変だとか、かっこ悪かった、等と受け取ったため会話にならない。


「やはり記憶が―――」


「同行したファーファ様がああ言っているのですから―――」


「取り敢えず此処までの功績を成し得た者に称号を―――」


「ち、違うんです!信じてください!!」


「ええ。信じてますよ。あなたはこの街の英雄です。」


「だから違うんだってぇぇぇぇぇ!!」


ルークの悲痛の叫びは虚しく、彼には【影なる者】の二つ名が与えられたのだった。




余談だが、ルークに浚われた女性達はと言うと、あの後「―――と、映像を見てわかるように、貴女方を身を以て守ったわけです。記憶と力を失う恐ろしい力をも用いて。」ギルドから直々に釈明があり―――




「第一新聞の者ですが。あなたはルークさんに浚われ、あわや奴隷となりかけたって話ですが、真実のほうはどうなんですか?」




「奴隷に?フフッ。バカみたい。きっと彼に嫉妬したくだらない人たちが吹聴して回ってるのね。ほんとお疲れさま。彼はそう…とても優しかったわ。あの日も…夜も、ね。ウフフフ。」



「実は彼…あ、ここだけの話よ?他の誰にも言ってないんだから。実は、私は事前に彼が特別な任務に着いてるって知らされてたの。命にも代えて護るからって………。キャァァァァァ!もおおぉぉぉぉ、言わせないでよ恥ずかしいじゃない!」



そんなこんなで、ないことないこと記者に告げた女性達は、あるものは英雄が見初めた踊り子として、舞台での報酬が三十倍に跳ね上がり、あるものは守護者との伝を持つものと親しいとの噂から平民でありながら貴族の正妻に。


と、それぞれ逞しく生きたのだった。


ルークはその後、自分がどんなに罪深いかを如何様に説明しても生暖かい眼でしか見られなかった。


二つ名を得たことで毎年国からの 援助金が入るようになったことで 、罪悪感はふくれあがる。


あの様な形で手に入れたお金を自分の為に使うなど、到底ルークには考えることができず、孤児院の経営、 補助。貧しい農村の為に使う事にしたのだった。


本人の思いとは逆に、名声は更にたかまっていく。


終生、自分の事には頑ななまでにお金をかけず、死ぬその時まで「私は取り返しのつかないことをしてきた…。いつか…いつかその精算をする日が来る。君達は、自分に顔向けできないようなことをしてはいけないよ。」と子供達に言い聞かせたとか。


皆はその度に生暖かい視線を送ったのだが、それはまた別のお話し。

タヤナとは誰ぞ!?と思われたあなた…あなたは正しい(笑)


何を隠そう、作者の自分も彼の名前は忘れていました(*´ー`*)


タヤナが誰か詳しく知りたい方は【塔の魔法使いと生きること】を御参考下さいませm(__)m

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