塔の魔法使いと臨死体験
誤字脱字、感想などありましたら御願いします!!
こういった場面等が見てみたいってのがあれば本編ないし、後書き辺りで使わせていただこうかと思うのでそちらも良かったら御願いします!!
精神がユラユラと波間をさ迷い、帰る場所が分からず、何かを無くした哀しさに声なき声を上げていると、何かに優しく包まれた。
「・・・俺の許可なく勝手に死んだつもりになってんじゃねえよ。」
頭に直接響く声が何事か囁くと、揺らめく空間が重力をもち、狭く小さな何かに押し込められていく。
(痛い!嫌だ!!)
自身を圧してくる圧力が、糸が切れるような音と共に消えていき、逃げようと身体を捩れば、先程まで風船の如く軽かった身体は鉛のように重く、ギシギシと軋んだ。
「起きろ。」
全身に走る鈍い痛みは暖かな風と共に嘘の様に消えていき、安らぎに身を任せ、眠りに落ちる前に少年の声が耳に届いた。
あまりに眠たい状況で睡眠をとる事は、性交にも似た快楽であるが故に、酷く不快な気分のまま顔を顰め、相手に聞こえる程度には大きく舌打ちをすると、声がした方から反対方向に寝返りをうち、流れる電流に体が勝手に踊り出す。
「アバババババババァバババ!!…………何をする!?」
「何をする、じゃねえ!殺すぞ。俺が起きろと言ったら一度で起きろ。分かったか。」
「殺すぞじゃねぇぇぇ!!危うく昇天するところだったわ!?……って、あれ?………………生きてる?生きてるよ俺!!うっは!凄え生き………。」
ようやく現状を把握した少年は、その場から勢いよく飛び起き辺りを走り回っていたが、ソーマの手に見覚えのある青い電流が迸っているのを目に入れ、急速に大人しくなっていった。
タバコを燻らせながら軽く突き出した人差し指で二度地面を指差すと、少年はスライディングしながら正座でソーマの目の前に座る。
「怪我は?」
「は?」
あまりに予想に反した質問の内容に、思わず思考が停止する少年。
「身体の傷はどうだって聞いてんだ。殺すぞ。」
「はい!って、あれ?ない。傷がない!!」
「つうことはもう痛くねえんだな。手間かけさせやがって。」
「え、えっと。もしかして治して」「勘違いするんじゃねえぞ。背負うのが面倒だからてめえの足で歩かせようと思っただけだ。」
「はぁ。ありがとうございます?」
お礼を言ってもいいものかどうか判断がつかなかったため疑問系になってしまったが、そんな少年に目もくれることなく、ソーマは二人の側に横たわっていた一人の女性の元へと歩み寄っていく。
「おい。いつまで寝てるつもりだ。さっさと起きろ。」
寝たと言うよりは確実に気絶させられたのだが、今はそれに突っ込みを入れれる勇者は周囲に居ない。
ソーマが視界を阻み、誰に話しかけているのかが分からない位置に座っていた少年は、少し身体を右に傾けたところで身体を固まらせる。
「そっ………そのおん、いや、御方は。」
つい先程の凄惨な過去が頭を過り、次ぐ言葉ですぐに言い直す。
段々と頭もハッキリとしてきた少年は、思わず距離を取り、反射的に臨戦態勢を取ってしまった。それ程までに、ソフィアという女性の存在が心の奥深くまで刻み込まれてしまったのはある意味当然といえる。
星より授けられた力は少年に過分な自信を与えていた。しかし、その自信は何も間違っていたわけではない。魔王となってからというもの、これまで自身の驚異とも言える魔物達がどれだけ束になってもまるで自分に歯が立たなかったのだ。
それほど強大な力を一瞬にして手にしていたのだ。内向的な少年が、僅かな期間で性格がどこぞの惑星戦闘民族並みに変わってしまってもしょうがないことだった。
そしてその僅かな期間で培われたプライドは、より僅かな時間の中、ソフィアという凶悪な力により打ち砕かれたのだ。
謂わば、現在最も畏怖すべき相手として、少年の頭のてっぺんから爪先まで刷り込まれていた。
「殺すぞ。さっさと起きろって言ってるのが聞こえねえのか。」
「うーん…。真実の愛のキッスがなければ、起きれない呪いが。さすが魔王だわ。むにゃむにゃ~。」
「そうか…残念だ。」
むにゃむにゃと、口を動かしながらなんとか声を紡いだ次の瞬間、背後の魔力が身の危険なレベルまで上がり、急いでソフィアは身を起こす。
「起きた!起きたわ。やだもー。ちょっとしたエルフジョークじゃない。本気にしちゃいやん。」
「チッ。さっさと帰るぞ。予定より随分遅れた。嫌な予感がする。何してやがる!?てめえもだ!!付いてこい。」
「はい!兄貴!!」
「……。なんだてめえ。頭の中に未だ針でも残ってんのか?」
「一生付いて行きます!!」
「「……。」」
二人には少年の弱さが理解できない。それ故に現在の少年の思いというものが全くといって解読できないでいた。
自身の中で最凶とも言える存在であるソフィア。客観的に見てそれを付き従えているかのようなソーマに少年が強い憧憬を抱くのは至極当然の事だったのだが、二人には理解することが叶わない。
故に、導かれた誤答が―同性への目覚め―であった。
「なんか……色々とごめんね。私が悪かったわ。」
「え?どうしたんですか、姉さん。」
「ま、まあいい。取り敢えず、帰るぞ。」
もしかしたら自分のせいで女性という存在に幻滅し、同性に走ってしまったのではと思い、やたらと親身に少年を慰めるソフィア。珍しく動揺を露にしながらも、取り敢えずベストな回答が導き出せなかったソーマは問題を先送りして帰路に着くことにした。
二人が少年のペースに合わせてゆっくりと走りながら塔に着いた頃には既に日は傾き、辺りは薄暗くなり始めていた。
「着いたぞ。」
「や…やっと……ですか。まじで、死ぬ。」
唯でさえ、全速力に近い速度を魔法で誤魔化しながら進んできた上、道中の魔物は全て一人で相対させられたことも合間って、少年はゲッソリと頬を痩けさせるほどに疲労しきった表情を浮かべていた。
滝のように汗を流しながら膝を着き、頭を垂れている姿はさながら土下座でもしているかのようだ。
ソーマは少年に一瞥くれると、直ぐ様視線を塔に戻し扉へと近づいていく。すると、まるでソーマがいつ戻ってくるのかが分かっていたかのようなタイミングで一人の女性が三人を出迎えた。
「おかえりなさいませマスター。」
「……てめえ。道中呼んでも出てこねえと思ったら、こんなとこで何してやがる!?セラフィ!」
「出てくる際に座標を間違えてしまって…。それならいっそ此処で待っていた方が早いかと思い待たせていただいていました。」
「セラっちってさらっと嘘つくわよね。そういうとこ好きよ。」
「そんな、ソフィア様。天使は嘘はつけないんですよ。」
「既にそれが嘘じゃねえか!?ぶっ殺すぞ!!」
「誤解です!?天使は嘘はつけないけど、冗談は言えるんですよ。」
にっこりと後光の射すような笑みを湛えるセラフィに、怒ることすら馬鹿馬鹿しくなったソーマは小さく舌打ちを打つと、タバコを袖から取り出す。
「まあいい。そんなことより、糞餓鬼はどうしてる。」
「ファーファ様なら皆様のために腕を奮ってパンを焼かれてます。」
「ひっ!?」
セラフィの、穏やかな笑みからの一言に、ソフィアは思わず小さな悲鳴をあげる。恐らく出掛ける前に口にした物の味でも思い出しているのだろう。
それはソーマも同様らしく、いつもより更に眉間に皺を深く寄せていた。
「あっ!お父さん!!お帰りなさい!!」
セラフィの様子を見に来たファーファは、ソーマが帰っていることに気付き一目散に抱きつく。
「もー、遅いよ。待ちくたびれちゃった。」
「チッ。うぜえよ。……銀龍はどうした?」
ファーファの頭を不器用に撫でながら、一瞬だがソーマは表情を柔らかくさせた。だが、銀龍の姿が見えないことに気が付き、直ぐ様顔を厳めしいものに変える。何となくではあるが既にソーマの中では結論が出来ていたのだが、違っていて欲しいという思いからファーファに尋ねた。
「銀?そーだ、銀ったらひどいんだよ。私が作ったクッキー味見する前にどっか行っちゃ「術式《堅硬房間》」うんだもん。食べてみてくれるって約束したのに……?ってどうしたのお父さん?」
ソフィアは、銀龍の逃亡と聞いた瞬間全力で逃走を図るが、詠唱を省略して、尚、堅牢な檻を出現させたソーマに敢えなく捕まる。
いや!お願い!未だ死にたくないの!!
ふざけんな!!てめえがちょっとやそっとで死ぬ訳ねえだろうが!それともなにか?俺が直々に今すぐ殺してやろうか!?
※二人はアイコンタクトだけで会話はしていません
「そうだ!!クッキーはどうしても硬過ぎて食べれなくなっちゃうから、パンを焼いてみたんだけど……良かったら食べてみてくれる?」
ちょっと待って!?硬すぎて食べれないって、その時点でクッキーではあり得ないって教えなさいよ!?
何でてめえに一々指図されなきゃなんねえんだ!!ぶっ殺すぞ!!
※しつこいようですが、二人はアイコンタクトだけで会話はしていません
「あれ?このお兄ちゃんは誰?」
二人はファーファのその言葉を聞いた途端、殆んど同時に頷きながら完璧に意思一つに合わせた。
「今代の魔王だ。訳あって暫くうちで暮らすことになった。」
「ファーファちゃん。良かったらお近づきの印にその子にそのパンをあげたら?今スッゴク運動した後だからお腹凄く減ってるみたいなの。」
「え?でも……アルコールが入ってるから子供は食べちゃ駄目って…お父さんが。」
「安心しろ。見た目は13位だが、歳は既に五十を越えてる。魔族だからな。」
曾てないチームワークを発揮することで着実に生け贄を一人に絞るソーマとソフィア。
そんな事とは露とも知らない少年は、二人に促されるままにファーファの差し出すパンを受け取った。
「い、いいんですか?俺なんかが先に食べても。」
「一杯動いて疲れたでしょ?子供は一杯食べて一杯休むのが仕事みたいなものなんだから遠慮なんかしないの。」
「兄貴…姉さん。ありがとうございます!!人間よ。本来であれば人である貴様の施しは受けるに値しないが、この塔の住人ということで多目に見てやろうではないか。感謝するがいい。」
「えっと、うん。ありがとうお兄ちゃん!」
へりくだった態度から、いきなり尊大な態度に変わったことにやや驚きはしたものの、根が素直なファーファは、言われるがままに謝辞を述べる。
「お兄ちゃん?私は歴代のまお「さっさとしろ!殺すぞ!!」はい!失礼しました!!」
「マオお兄ちゃん?っていうの?宜しくね。私ファーファっていうの!」
「な、違「いいから早くしなさい。殺すわよ」いただきます!!」
異様な雰囲気を感じながらも、このままでは本気で殺されそうな気がした少年は勢いに任せ思いっきりパンに齧りつく。
妙に弾力の在るパンを急いで咀嚼し、口の中で未だ原型を留めていたにもかかわらず、空腹に負けて勢いよく嚥下する。
「どうマオお兄ちゃん?美味しい?」
「いや、香りは良いのだが味は特にしな――。」
味は特にしない。そう言いかけた少年は、胃の中から急激に膨張することで込み上げてくる純度百パーセントのアルコールで喉を焼きながら、某国のライオンの彫刻よろしく口から大量に水ならぬアルコールを垂れ流す。
その日、ファーファによりマオと命名された魔王は、本日二度目の生死の境をさ迷う旅に出掛けたた。




