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塔の魔法使いと赤子と天使

赤子を押し付けられてからというもの、男の生活は一変した。


赤子は事ある毎に泣きわめき、その鳴き声は耳に障る。


男には子育てというものの経験がなかったために、ストレスはたったの3日で限界まできていた。


「この糞餓鬼。事ある毎に泣き喚きやがって。殺すぞ。」


そう言いつつもせっせとオムツを代え、ミルクを与える姿は男の知り合いが見たら我が目を疑うことだろう。


其れ程までに男は赤子の鳴き声にストレスを感じ、泣き止ますために全力を尽くしていたのだ。


「なんで俺がこんな事をしなければならんのだ。糞が。」


今まで長い時間一人で塔の中で暮らしていた男にとって同居人というのはこの赤子が初めてだった。


もちろん子供の育て方なんて知らない男に子育てが出来る筈がないのだが、子供が来てから毎日暇さえあれば塔から程近い村に居る親子を遠視を使い子供の育て方を盗み見、もとい、参考にと観察していたのだ。


そこではちょうど母乳を与えた母親が子供にげっぷをさせる為抱っこをしながら背中を擦っているところだった。


「何て面倒な生き物なんだ。…セラフィ。」


「はい。マスター。」


男がセラフィと呼ぶと同時に、男の後ろに大きな魔方陣が床と空中に一対の形で浮かび上がり、そこから六枚の白い羽を生やした天使が現れる。


「お前子育ての経験は?」


「は?」


「子供の面倒は見たことがあるのかと聞いている!」


「はい!い、いえ。人間のといった意味でしたら御座いませんが。」


珍しく声を荒げる主人に、セラフィは思わず動揺してしまう。


「その言い方だと人間以外だとあるってことか。」


「はい。エンジェルの面倒を見たことが何回か…しかし」「じゃあこれを任せた。俺は寝る。」


主人の言いたいことを理解したセラフィは、とてもじゃないが責任を負えそうになかったため断ろうと試みるも、あっさりと男に赤子を押し付けられてしまった。


「俺が知っている知識をくれてやる。それで何とかしろ。」


男が手をめんどくさそうに振ると、今まで村の母親が我が子にしていた行動の一部始終がセラフィの頭に流れ込んでくる。


「…畏まりました。それで、この子の御名前を伺っても宜しいでしょうか?」


「………。」


「マスター…。まさか…。」


「うるせえ。殺すぞ。適当につけとけばいいだろうが。」


はあ、と小さく溜め息をつくセラフィに対して男はぎらつく視線で一瞥した後、赤子が入っていた籠の残留思念の解析を始めた。


そこにはとても裕福には見えないが、幸せそうな親子の思念が残っていた。


両親はどうやら駆け落ちの末結ばれたらしく、人里離れた場所で暮らしていた。


元々女性には親が決めた許嫁がいたらしいが、女性は自分で自身の伴侶を決めたようだった。


その許嫁は激怒し、その女性と、男に対して執拗に付け回した結果、あの日の出来事に至ったらしい。


「この糞虫のお陰で俺がこんなに苦労してるのか。ぶち殺す。おい、セラフィ。」


「はい。マスター。」


「その糞餓鬼の名前はファーファだとよ。それじゃあ後は任せたぞ。」


深々と頭を下げ、主がその場から居なくなったことを確認すると、セラフィは笑みを溢す。


「…面白くなってきた。」


その笑みは、天使にしては有り得ない程腹黒かったのだが、其れを見たものは赤子であるファーファしかいなかった。

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