塔の魔法使いと針千本
自分の小説をお気に入りにしてくれている方はシリアス期待されてないだろうからサクサク進めました!!
しかし、なんか書いててよくわからなくなってきた…(汗)
なんか無理矢理感があったり繋ぎが変だとかあったら教えてください!!
あと感想なんかあったら馬車馬のように働く(執筆が進む)と思うのでお願いします(笑)
木々は薙ぎ倒され、周囲は未だ砂煙が舞う中、中心とも言える場所から強い魔力が迸る。
その魔力の余波により砂埃は徐々に晴れていき、ソフィアとセラフィはそれを起こした人物へと目を見張った。
先程まで何処か弱々しい印象であった少年の顔は精悍な青年のものへと変わっており、短く、ツンツンと針のような紅い髪は、とても滑らかな光沢を放ち、頚を隠すほどまで伸びていたのだ。
一瞬二人は見知らぬ青年に警戒したが、左の腹部に刺さったソフィアの針で、その青年があの魔王であると即座に理解した。
青年は辺りに軽く目を配り、そして自分の両手を交互に見つめる。
「これが…俺、か。」
自身の成長した身体に戸惑いを隠せず、両の手を握り締める。そうすることで以前とは比べ物にならない程に肢体に力がみなぎっていることに気づいた。
「……隙だらけだけど、殺されたいの?」
ソフィアの声音は極めて優しいものだったが、身体から発せられる身を刺すような鋭い殺気は、不機嫌さを物語っている。ソフィアは魔王が自分の事を眼にも止めていないことにかなり頭にきているようだった。
「そうだったな…。十分が経つ前に行動に移らなければ私が殺されるだろうからな。」
「その物言いだと…今なら私を殺れるって聞こえるわよ。」
「分からなかったのか?……そう言ったのだ。」
「上等!!殺れるもんなら――っ!?」
ソフィアが重心を僅かに下にずらした瞬間、魔王は黒い球体をソフィアの周りに出現させる。
その球体はソーマが使うものとよく酷似していたが、放たれる威圧感は遥かに劣るものであり、何処までも黒く、夜の闇を彷彿とさせるソーマのそれと比べ、目の前の物は鈍い光を持っていた。
「ちょっとヤバイかな…。」
遥かに劣るといっても、現在ソフィアの身体は著しく身体能力を落としている状態であるため、十分脅威に値する。
ソフィアは誰にも聞こえない程度にぼやくと、身体中を脱力させ、瞳を閉じた。
「潔し。せめて苦しまぬようにしてやる。」
それを諦めと取った青年が左手を前方に掲げ、開いていた掌を握り締めると、球体は一斉にソフィアに向かい牙を剥く。
ソフィアはつい先程針に囲まれていた少年の姿を思い出し、思わず口許を緩める。
「…っ!?」
魔王は自身の目を疑った。どう足掻こうと不可避な死を造り上げた筈が、目の前の女性は魔力を駆使しながら優雅に舞いを踊るように避けていく。
時に仰け反り、時に沈みこみ、そして時に宙を舞い、舞台の上で縦横無尽に舞いを披露する。
避けきることの出来ないものは、掌サイズの障壁を纏った手で撫でるようにしながら軌道を変え、ソフィアは尚も空を飛ぶ。
その光景が終わるまでに、時間にしては三十秒と経っていなかったが、そのあまりに洗練された動きに完全に目を奪われ、呼吸すらも忘れ見詰めていた。
魔王には、僅かに肩を上下させる程度の疲労を見せる目の前の女性は、まるで一枚の完成された絵画のように美しく見えた。
「これ程美しいものは曾て見たことがない。楽しい余興であった。」
そういう魔王の手には自身の身の丈を越えるほどの大剣が握られている。柄は銀の龍を、黒い刀身には碧の玉をくわえた金色の龍が巻き付くような形に姿を変えていた。
「頭も良くなったのね。魔法では分が悪いということで接近戦に持ち込もうってとこ?でも、貴方もう負けてるのよねー。そろそろ十分経つし、合格にしてあげても良いけど?」
まるで挑発でもするように言葉尻や表情に皮肉を混ぜる。いや、事実として挑発していたのだろう。目の前の男の闘志が剥き出しにされたことで、ソフィアは再び獰猛な笑みを浮かべる。
「ほざけ女!!」
魔王は持ちうる全ての力をスピードに用い、全身全霊の袈裟斬りを正面から浴びせる。
笑みを湛えたまま、迫り来る剣をほんの僅かの狂いもなくギリギリで避け、掌底を浴びせる。
強い衝撃が肺から空気を追いやり、くぐもった声が漏れるが、すぐさま体制を立て直し、再び正面から上段の一撃を振り下ろす。
代わり映えのしない攻撃に眉を顰め、不機嫌さを隠そうともせずに、今度は全力の手刀を打ち込もうとしたところでソフィアの後ろから身を焼くような感覚が走り、本能に従うまま横に飛び退いた。
「…成る程。随分馬鹿正直に突っ込んできた上に、懲りもせず全く同じ行動をとってくるから殺されたいのかと思ってたら…。布石だったとはね。」
ソフィアが上段からの攻撃を避けている際に予期せぬ背後からの攻撃。これは魔王が纏っている闇夜の衣と同じような効果を剣が持っていたということに他ならない。
「部分転移ね。流石に魔剣と称するだけのことはあるって訳か。」
振り下ろされていた剣は、刀身が消え、その刀身のみが突然予期せぬ位置からの一撃を加える。相手がソフィアではなかったとしたら、間違いなくそこで戦いの幕は閉じられていたであろう。
最も、初めの一撃をソフィアが掌底ではなく、手刀にしていたのであればそこで戦いが終わっていたのだが、ソフィアの敵を敢えて弱らせていくような戦い方から一撃目で殺されることは絶対にないと魔王が踏んでいたからこその布石だった。
「………。」
「どうしたの?急に黙りこんで。ああ、さっきのは服の上からだったし、肌に直接触ってないからノーカンにしといてあげる。まだ戦えるんなら来てもいいのよ?まだ……戦えるんならね。」
ゆっくりとソフィアは歩を進め、二人の距離は少しずつ埋まっていくが、魔王は依然として動こうとしない。いや、動けないでいた。
「な、にを…した。ぎざま…。」
「やだ!?吐血してるじゃない?大丈夫?どうしたの?私でよかったら力になるわよ。」
「しら…じら、しい………事を。グッ……ァア。」
「ふふ。無理に喋らない方がいいわよ。息するのもやっとなんでしょ?」
「貴様ァァァァァァァアアアアァァ!!」
「馬鹿ね…。親切で言ってあげてるのに。」
痛む身体もそのままに、魔王は距離を取ったまま剣を振りかざす。狙うは剣先を転移させてのソフィアの心臓。渾身の力を込めて、悪夢のような痛みの中で尚も腕を振り下ろし、そして鮮血が辺りに散った。
「ガアァァァアアァアァァ!」
「ほーら、言わんこっちゃない。」
魔王の腕からは、まるで無数の針が群生しているかのような状態で、その夥しいまでの針一つ一つは全て血に濡れ赤く染まっている。
「魔力なんか使っちゃ駄目じゃない。その子達今貴方の身体の魔力を糧にしてるんだから。さて、十分まで後二十秒位ね。間に合うかなーっと。」
左手を頬に添え、困った様な素振りを見せながら一歩、また一歩と距離を詰める。
身体中にギチギチと金属が擦れ合う音が響き、所狭しと増殖していく針は徐々に身体から突き出てき、顔以外の全てから針が姿を覗かせる。
最早痛くない場所を探す方が困難な状態で、意識は多量の出血のせいで朦朧としだした。
「来るな……。止、めろ。来るなぁぁぁぁぁ!!」
「残念ね…。」
残る魔力を右手のみに集め、その魔力を刃状に変え、青年の首筋にそっと添える。
「触っちゃった。…………さようなら。」
プツッ。と、小さな音をたて首筋の薄皮が破れ、生暖かな血が一筋流れおちた。ソフィアは悲しげな表情を一瞬見せ、段々と女神のような笑みへと変えていく。しかし、魔王からすればその笑みは死神そのもののように感じたのだった。
恐怖に呑まれた身体からは急速に魔力が失われていき、青年の姿であった魔王の身体は萎んでいくように少年の姿へと戻っていく。それに伴い、魔力を糧にしていた針達も、餌がなくなったことにより急速に消失していった。
「このままでは…終わらないぞ。すぐに、第二、第三の魔王が…貴様を………って痛い痛い痛い!!食い込んでる!!さっきより食い込んできてるから!!」
「……。何よ。まだ結構余裕あるじゃない。」
「嘘です!!嘘!!お茶目なジョークです!て言うかこんないたいけな少年の頚を切り落とすとか、そんな美人がやっていいようなことじゃありませんから!!」
「やだもう!美人でセクシーで胸が大きいなんて」「いや、セクシーは百歩譲ったとしても、胸はあります!!聳え立つ山も霞むような谷間で誰もが見上げるその頂を男という男は目指すほどに豊満です!!」
息も絶え絶えと言った身体の傷も省みず、息継ぎすることなく一息で力強く少年は言い切る。
「もー。だから誉めすぎだってば。でもね、私は美人で、セクシーで、胸が大きいだけじゃなくて、約束ごとは絶対に守る義理堅いところもチャームポイントなの。」
少年はソフィアの言わんとすることを即座に理解し、唯でさえ血の不足による青白い顔を更に青くし、その顔色は最早紫に変わりつつあった。
「……ソフィア様」
セラフィはその茶番を近くで見守りつつも、あまりにくだらないやり取りのため口も挟めないでいたが、流石に自身の与えられた役目を果たさないとと思い至り、嫌々ながらも少年に助け船を出さんと動きを見せる。
「駄目よセラっち。普段でも私より弱いのに、今じゃ《希望の灯火》の効果で私の足元にも及ばないでしょ。義理堅い私は約束ごとは守るの。ふふ。」
「まあそういう設定はさて置き「設定じゃないもん!!見てて!今にこの首を撥ね飛ばして――」昨今の男性は守られるより守りたいと思わせるような、か弱い女性が好きな傾向にあるらしいですよ。」
「っっっっ!?きゃあ!」
ソフィアの右手に纏っていた魔力はいきなり拡散し、弱々しくその場に倒れ伏す。
「もう駄目みたい…。後ちょっとで魔王を倒せたんだけど、やっぱり私じゃ無理。」
異様に棒読みのソフィアに一同怪訝な視線を向けるのだが、ある意味必死のソフィアにはそれに気付くはずもなかった。
「だって…………………女の子だもん。」
「「………………。そう、ですか。」」
「じゃねえだろうが!?気色悪い!どの口が言うんだどの口が!?」
今の今まで気配すら感じる事の出来なかったソーマは見るに堪えない茶番に痺れを切らしてついぞ舞台に上がる。
「私もう駄目みたい…抱いて。最後にもう一度恋人のように。」
「てめえは一辺死んでこい!!《聖龍陣・蒼雷》」
青い稲妻が龍を象り、ソフィアを中心に凄まじい熱量を発しながら喰らい付く。
少年は龍が出現したと同時に、文字通り最後の力を振り絞って転移を行い、余波の回避は不可能と悟ったセラフィは死力を振り絞ってその場から離脱した後魔障壁を展開した。
あまりの威力に少年とセラフィはその場で力を使い果たし、セラフィは身体を保つことが出来ずに消え、少年は未だ止まらぬ出血を気にしながらもゆっくりと意識を手放していく。
(あ、駄目だこれ。俺、死んだ。)
ソフィアの居た場所は底が見えないほどの深い穴が出来上がっていたが、そこは遺跡の守護者の一人。身体を痺れさせ、身動きこそできないが、未だ存命していた。
「は………激しすぎるわ。」
最後にそれだけ言い残すとソフィアも意識を手放した。